新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

ついに葬られたアベノミクスと緊縮レジームへの転換

2024年3月28日、日銀政策決定会合においてついにマイナス金利やYCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)、ETF(上場投資信託)の買い入れなどを撤廃し、安倍政権=黒田日銀体制の下で2013年から始まった異次元金融緩和政策が完全に打ち切られることになりました。いつの間にかインフレ目標2%達成後もしっかりとした経済成長が確認できるまで金融緩和を継続するというオーバーシュート型コミットメントについても消失しています。金利を一時的にではなく、継続的に下げ続けるという予想を人々に与え、多くの民間企業が積極的に新しいモノやサービスの生産を行うための事業投資をしたり、消費者がローンを組んで個人の住宅ないしは自動車等の購入を促すといったこれまでの日銀の金融政策がひっくり返されてしまいました。

元々三重野康総裁時代以降の日銀は景気がひどく悪くなったときにゼロ金利政策や量的金融緩和政策を一応やるのですが、ようやく景気が持ち直してきたぐらいの段階で急ぐようにあわてて金融緩和政策の解除をやってしまい、1~2年後に再び不況に陥ってしまうという失政を繰り返しています。植田和男氏が日銀総裁になってからその悪癖が再び現れてしまいました。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

今回の決定について異次元金融緩和政策を支持してきた人の中でも、一応は植田日銀総裁が金融緩和継続の意志を示していることや、いまの賃上げムードや物価の状況、為替レートをみて妥当的な判断であると見なしている方がおられますが、筆者は甘い見方だと思っています。今回の日銀の政策決定は彰かに民間の経済活動活性化や雇用の維持よりも銀行等金融機関の収益を優先する旧い日銀体質への回帰であるとみるべきでしょう。岸田政権は一応減税策を打ち出していますが、その一方で財政健全化推進本部の活発化や目立たないところでのステルス増税を企てています。

異次元金融緩和と積極的財政政策、民間の投資機会を増やす規制改革は「アベノミクス三本の矢」と位置づけられ、それは3つの政策方向性を揃えた「リフレレジーム」というべきものでしたが、この日を境に金融引き締めと増税ならびに政府支出抑制という「緊縮レジーム」への転じたのです

3月までにおいて日本の民間企業、とくに輸出関連の製造業や宿泊・飲食産業・観光業界を中心に業績が順調よく回復し、雇用も堅調です。昨年に続き賃上げムードが高まっており、今年の春闘でも満額回答が期待されています。そういう状況下で日銀はマイナス金利を解除したり、YCCの撤廃を行ったとしても影響が軽微であると判断したのでしょう。筆者は少し楽観的すぎる見通し判断ではないかと思っていますが、ここまでしっかり回復してきた景気がこのまま日銀が考えているシナリオどおりに伸び続けることを祈っています。

経済学者のポール・クルーグマン教授は過去20数年以上続けてきたデフレ不況体質から脱しようとする日本経済を地上からの重力に押し戻されないようエンジンを全力で噴射し続けるロケットに例えてきましたが、現在の状況はようやくロケットが大気圏外へ脱出しようとしている段階だと見なせます。

そういう意味で日本はいま千載一隅のチャンスを迎えており、日本経済というロケットはブラックホールのような強力な重力から解き放されてはるか宇宙に向かって飛び立てる可能性があるのです。

しかしながら筆者はそのロケットのエンジンの出力は決して高くないのではないかと危惧しています。アベノミクスにおいても企業の投資意欲や雇用を伸ばすことは十分成功したのですが、消費の方は相変わらず消極的なままです。悲観的すぎる予想かも知れませんが、日本経済というロケットがブラックホールのようなデフレ不況体質という重力に負けて失速し、落下することが考えられなくもありません。

コロナウィルスのパンデミックが収束した後にアメリカやヨーロッパの方では消費が活発化し、賃金もどんどん上昇しましたが、日本はインフレ気味になったといえどそこまでのレベルにはなっていません。景気は悪くないのですが欧米に比べると過熱気味だとはとてもいえないと思います。そうした状況の中で日銀が異次元金融緩和の手仕舞いをしてしまったのは時期早々であると筆者は判断しています。欧米や近年勢いよく経済成長を遂げてきた中進国と日本との間のインフレ・成長格差を縮めるべく、金融緩和政策や積極的財政政策をもうしばらく続けていった方がいいのではないかと考えているぐらいです。(高圧経済論というべきものです)

岸田政権は「賃金と物価の好循環の実現」を掲げており、その考え方は非常に正しいものです。しかしながら実際の政策行動はそれを阻害しかねないものとなっており、ただの”お経”で終わってしまうのではないかという予想は筆者に限らず多くの国民が抱いていることでしょう。”消費UP”を実現したいのであれば消費税の減税がいちばんの有効策であるのですが、既にレームダック化しているといわれる岸田政権にそれをやるだけの政治的胆力があるように思えません。

自民党政府の財政政策や日銀の金融政策が緊縮方向に向かったとしても、アベノミクスの遺産で何とか逃げ切れられたら幸いですが、仮に再び日本経済が失速し雇用が悪化した場合において安倍政権や黒田日銀体制が行ったような積極的金融緩和政策や積極的財政政策を施したとしても効果を大きく削がれてしまう恐れがあります。今回の日銀の決定や自民党内の財政健全化推進本部の動きは人々の間で「いま金利を下げたり財政政策を奮発していても、すぐに金利を引き上げたり増税をするつもりだろう」という予想を植えつけます。そうなると今以上に民間企業の投資・雇用意欲や人々の消費意欲を回復させることが困難になります。何度も嘘をついたり裏切り行為を続けたオオカミ少年と同じなのが日本政府とその背後にいる財務官僚や日銀です。筆者としてはこれらの組織が日本国民や企業に対し、これ以上の背信行為を積み重ね続けることをやめてほしいです。

 


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2023年を振り返って

今年2023年もあと残りわずかです。われわれはパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻後から供給力不足を原因とするエネルギー資源や食糧などをはじめとするモノ(財)価格の高騰に悩まされ続けています。

今年を振り返る意味で年頭に書いた記事を読み返してみました。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

黒田東彦氏に続く日銀総裁雨宮正佳氏や中曾宏氏ではなく、植田和男氏になった点や、欧米の景気過熱・インフレの勢いが想像以上に根強く長期化してしまった点、日本における雇用や企業投資が今の時点ではまだ堅調であることなどは筆者の予想どおりではありませんでした。これは幸運なことです。しかしながら欧米の高いインフレにブレーキがかかりはじめ、来年以降にアメリFRBEUのECBなどの中央銀行が利上げを撃ち止めにしていく可能性が囁かれています。

日本についても植田日銀総裁がYCC(イールドカーブコントロール)を形骸化させたり、マイナス金利解除をほのめかすなど、金融タカ派の態度を見せ始めており、

企業の投資意欲や雇用、個人の住宅投資などに水を差す可能性が十分にあります。

また岸田現政権が現在どんどん弱体化しており、いつ倒閣してもおかしくない状況です。岸田文雄総理自身も財務官僚色が強く、「増税メガネ」と揶揄されたように緊縮財政に転じそうだと云われ続けてきましたが、もしこの政権が倒閣したらさらに財務省色・緊縮色が強い政権になる可能性が高いです。

幸いに人手不足状況がまだ続いていて、今年の春闘では使用者側も積極的な賃上げを行う回答が見受けられました。賃金が上昇することで人々が積極的に消費をし、それが財やサービスの価格上昇を可能とする状況を生む「賃金と物価上昇の好循環」が日本においても30年ぶりかに復活するかしないかのところまで現在の日本経済は達していますが、日銀や今後の政権がそれをへし折ってしまうようなことになってしまうことを筆者は警戒しています。そういう意味で今年年頭のブログ記事内容を撤回するつもりはありません。とにかく民間経済再生の速度が岸田政権発足後から進行し始めた異次元金融緩和の骨抜きや財務省寄りの緊縮財政路線への転向の動きから逃げ切ることを祈るばかりです。

新聞やテレビ等では相変わらず「物価を下げるために金融緩和をやめて円高に誘導すべきだ」などという論調が目立ちますが、これは為替相場だけしか見ない、あるいは買い手である消費者としての立場でしかみない偏った観点から生まれたものです。多くの国民はただモノやサービスを買って消費するだけではなく、就労や自営を行って生産活動をする側面も持っています。仮に物価が下落しても、それ以上に所得が落ち込めば生活が苦しく不安定なものになります。

パンデミック収束を境にデフレからインフレ基調の経済に転換しはじめていますが、これは働く人たちにとって大きなチャンスです。しっかり働いてもっと所得を伸ばそうという考え方を持つべきです。

現在世界的に進んでしまったインフレはパンデミック後の人手不足やウクライナ戦争などによるモノやサービスの不足から生じているものです。金利引き上げなどの金融政策引き締めや緊縮財政によって需要を抑え込むことでインフレを鎮静化すべきだという主張が目立ちますが、そうしたことでわれわれは欲しいモノやサービスが入手しやすくなるのでしょうか?いくら金融引き締めや緊縮財政をやってもモノやサービスの量自体が不足していれば多くの人々に行き渡らせることはできません。それでウナギやサンマの漁獲量や卵とか野菜の量が増えるわけではないからです。

今年・来年に限った話ではないですが、モノやサービスの安定した生産や供給を護る経済安全保障が極めて重要になってきます。それを一番阻害しているのがロシアのプーチン政権や中国の習近平政権といった軍事独裁政権と社会主義体制であるのですが、自由主義国家はそれに対峙していかねばなりません。


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悪しき日銀体質の復活

先日7月28日に行われた日銀政策決定会合において、黒田総裁時代に導入された金融緩和政策の一手法であるイールドカーブコントロール(長短金利操作)を実質形骸化させてしまうような決定が行われてしまいました。金融政策についてあまり関心を持っていない人から見たらどういうことなのかよくわからないかも知れませんが、簡単にいえばこれまで短期の金利だけではなく、中長期の金利も低く抑え込むようにしてきたものを、中長期については金利上昇を認めるような決定をしたということです。

 

イールドカーブコントロール(YCC)について以下の図式で簡単に説明しておきます。

 長期金利はこれまで上限を0.5%に設定してきましたが、今回の会合でそれを一定程度超えることを容認するとしたのです。この決定を受けて新発10年物国債の流通利回りが一時0.575%まで上昇してしまいます。

 

植田総裁については彼の就任が決まった当時に批判記事を2つ書きました。

新日銀総裁に指名される植田和男氏ってどんな人 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)

 

 

不確実性を高めてしまった岸田政権の新日銀総裁・副総裁人事 ~コミットメントの棄損~ | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

彼が日銀総裁に就任してから、これまでの間は黒田前総裁が続けてこられた異次元金融緩和政策を継続するという意思表明を続けてきたのですが、ついに本性を現し始めたようです。黒田総裁時代に日銀審議委員であった原田泰氏が書かれた回顧録「デフレと闘う 日銀審議委員、苦闘と試行錯誤の5年間」でも、植田氏が原田氏に対し「長期金利0%の金利のペッグ(YCC)がハイパーインフレを引き起こす。金融機関経営が厳しくなり、金融仲介機能を壊して経済を悪化させる」などというおかしな質問をしていたことが記されています。

上 原田泰「デフレと闘う 日銀審議委員、苦闘と試行錯誤の5年間」より転載

 

植田総裁がなぜYCCを撤廃したがっていたのかという理由ですが、それは銀行などの金融機関の収益がYCCによって抑えられてしまっていると考えているからでしょう。銀行などは低い金利でかき集めた預金を、高い利子がつく中長期の貸し出しで運用させることで、その金利差から収益を得ます。製造業者が原材料費を安く仕入れて、高く商品を売ることで利益を出すのと一緒です。しかしYCCの導入で中長期金利まで低く抑えられたことで、銀行の儲けが薄くなってしまいます。銀行などの金融機関関係者の多くが安倍政権・黒田日銀体制が行ってきた異次元金融緩和政策に反発してきた理由はそのためです。マスコミの多くも金融機関の利益優先の報道をし、アベノミクス潰しを行ってきました。

 

しかしこれは貸し手の都合しか考えていないもので、資金を借りてモノ創りやサービスの提供といった事業を行う民間企業やローンで住宅とか自動車を購入する借り手の人たちの都合を無視したものです。リンクした自分のブログ記事でも既に書き述べましたが、金利の引き上げは民間企業の事業活動意欲や個人の住宅・自動車の購入や就学を阻害することになります。企業が高くなる金利を警戒して新しい事業を興すことを躊躇うようになれば、雇用も手控えるようになるでしょう。何度か申し上げてきましたが、とくに何年・何十年も継続した雇用形態となる正規社員は雇い主にとってかなり長期間給料を支払い続ける義務が生じます。一度雇ったら解雇も簡単ではありません。正規社員の雇用は企業が何十年間以上も高い収益を確保できる自信がないとできないことです。

 

かねてからここで申し上げてきたことですが、金融政策というのは民間の事業活動(モノやサービスの生産活動)や雇用の安定、そして物価の安定を計る重要なものです。ところが植田総裁の関心事は金融機関の利益に向いているようです。雇用や民間企業の経営は二の次でしょう。三重野康総裁から白川方明総裁時代までの旧きかつ悪しき日銀体質が復活してしまいました。今回のYCC見直しについては政策決定会合の前に一部マスコミからそれを行うリーク報道がなされました。事前に重要な決定事項が漏れてしまうなど中央銀行としてあってはならないことです。

 

今年の春闘で輸出系の大手企業やパンデミック収束によって業績が回復してきた飲食・ホテルなどのサービス産業を中心に賃上げの動きが活発になっていました。この調子でいけば日本は30年以上にも及んだ異常な長期経済低迷・慢性的デフレ体質から脱することを期待できていたところです。しかしながら岸田政権は財政政策面において増税や緊縮財政をほのめかすことを繰り返しており、さらに日銀側が金融緩和政策の縮小とはっきり受け止められる態度を見せてきました。

 

弱り切っていた経済活動がようやく立ち直りかけたところで、日銀が「もう金利を上げても大丈夫でしょ」といって金融緩和を解除してしまったり、政府側が増税や歳出削減などの緊縮政策をやってしまって、再び不況を招くといったことは一度や二度ではありません。バブル景気崩壊の痛手から民間企業が立ち直りかけた1997年に橋本龍太郎政権が消費税を3%から5%に増税し、景気に冷や水を浴びせます。本格的なデフレ不況に突入します。その後の不況に対処すべく日銀は1999年にコール市場金利を史上最低の0.15 %に下げ”ゼロ金利政策”と呼ばれるのですが、当時の速水優日銀総裁はそれを「異常」だとして早期の解除を明言していました。2000年にゼロ金利政策を解除したのですが、すぐにITバブル崩壊で翌年再実施。それだけでは効果が望めないので市中銀行が日銀に設けた当座預金口座に大量の資金を積み上げる量的金融緩和もはじめました。これで再び景気が上昇し、マイナス成長からようやく脱しかけたかなといったところで2006年にゼロ金利政策と量的金融緩和政策を解除してしまいます。しかしそれからしばらくして米国のサブプライムローン金融危機の影響を受けて景気が急失速し、再度のゼロ金利に戻さざるえなくなりました。

これまで日銀は前例がなかったゼロ金利政策や量的金融緩和を実施してきたのですが、少し景気が持ち直してきたところですぐ解除し、再び不況に陥って再緩和をするという繰り返しをやってきたのです。過去の日銀は一時的に金融緩和をやるけれども、早く手仕舞いさせたいという態度をみせてきたために、企業経営者たちは思い切った事業のための投資ができません。その結果として莫大な研究費がかかる次世代技術の開発が進まなくなったり、長期雇用で従業員を雇うことができなくなったのです。

 

今回の日銀が行った政策決定は過去の日銀への回帰を象徴するもので、日本経済の回復と正規雇用拡大の障害となっていた不確実性を増すことになるでしょう。安倍政権と黒田日銀総裁に導入した2%のインフレ目標というコミットメントが完全に棄損し、日銀が行う金融政策の効力や信頼性を大きく損ねることになりかねません。不況に陥ったらずっと不況に陥りっぱなし、あるいは逆に今の欧米のようにインフレになったらずっとインフレになりっぱなしといった感じで景気や雇用・物価の統治ができなくなる危険性を生んだといえましょう。厄介なことにならなければと思っております。

今回と関連する柿埜真吾さんのブログ記事です。

 

 

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賃上げ主導による経済成長とインフレ目標達成への道

ご無沙汰しておりました。今日から5月に入り、メーデーということで賃上げの話をしていきましょう。

第94回メーデー中央大会 ー令和5年4月29日 - Bing video

 

先月末になりますが、4月29日に岸田総理がメーデー中央大会に出席しました。現職総理がメーデーに参加するのは2014年に当時の安倍晋三総理が参加して以来9年ぶりとのことですが、この当時与党自民党保守系政治家が労働運動の場に現れたのは異例中の異例として受け止められました。

 

しかしながら安倍元総理や岸田現総理らが全国の労働者と共に、企業に対し賃上げを求める声をあげるのは、それが経済活動再活性化と持続的な成長経済の実現のために不可欠であったからです。安倍元総理が中央銀行の日銀と共に進めてきた異次元金融緩和政策をはじめとするリフレーション政策は企業の事業活動活発化と投資増大を始点に労働者への賃金分配を加速させ、それによって消費の拡大を促し、最終的に持続的かつ安定的な経済成長と物価上昇を目指すものでした。そういう意味で安倍元総理や岸田現総理がメーデーに参加することは不自然なことではありません。連合の芳野友子会長は立憲民主党共産党について労働者の厚生向上につながるような活動をやっていないと完全に見放しており、むしろ「実」のある成果を与えてきた自民党の方に近づいています。

昨年は円安(というより極端なドルの独歩高)が問題視されていましたが、その一方で輸出増加で製造業などの収益が大きく伸びております。一部の企業ですが、従業員にインフレ手当を支給するところまで現れました。(筆者が勤める会社でも特別支給がありました。)これは今回の春闘においても追い風となり、連合が4/13に公表した「2023春季生活闘争 第4回回答集計結果」によると2023年の平均賃上げ率は3.69%と30年ぶりの高さとなっています。

春闘賃上げ率は30年ぶりの高水準へ…今後の焦点は賃上げの持続性とサービス価格の上昇ペース - 記事詳細|Infoseekニュース

 

黒田東彦日銀総裁は先月4月17日にコロンビア大学で講演を行い、十分な賃上げなどが2024年度も続けば、「2%の物価安定目標が達成されるかもしれない」と話されたようです。

黒田前日銀総裁、物価目標達成に自信 コロンビア大講演 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

青太字で強調しておいたのですが、黒田氏の発言で重要なのは賃上げの動きは今年一回だけではなく、来年、再来年・・・・と持続的なものになるかがどうかです。それは人を雇い賃金を支払う企業だけに「もっと人を雇ってください」「賃金を上げてください」と政府側がお願いするだけではなく、適正な中央銀行による金融政策と政府の財政政策ならびに規制改革等による援護射撃をしていかねば実現できないでしょう。企業側にとって一年先が闇で、すぐ景気が悪くなってしまうかも知れないとか政府や中央銀行の経済政策態度が曖昧で、いつ利上げや緊縮財政路線に転ずるかわからないような状況ならば固定費である賃金の引き上げはできるわけがないでしょう。

 

そういう意味で表向き安倍政権・黒田総裁時代からの金融緩和路線を継続しているかのように見せつつ、本心では長期金利抑え込みをやめたがっている岸田政権や新しく日銀総裁に就任した植田和男氏の優柔不断かつ曖昧な態度や姿勢は来年以降の賃上げの足を引っ張っりかねません。

不確実性を高めてしまった岸田政権の新日銀総裁・副総裁人事 ~コミットメントの棄損~ | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

とはいえど首の皮一枚ながらも、リフレーション政策が完全に破棄されているわけではないので、岸田・植田氏は巧く逃げ切る可能性がないわけではないでしょうが、未だにかなり根深く日本社会に根付いてしまっているデフレ不況引力に負けないぐらいの金融緩和や積極財政によるロケットエンジンの噴射が必要でしょう。海外では景気や雇用が異常加熱しているといってもいいぐらいの状況になっていますが、日本はそうなっていません。アメリカや欧州は金利引き上げや緊縮財政によって景気過熱を抑えないといけませんが、日本はまだ金融緩和と積極財政を必要としています。最後のひと踏ん張りが必要です。

 

1980年代までの日本のように経済成長と毎年の昇給が当たり前の状況になっていくような状況にもっていきたいものです。

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新日銀総裁に指名される植田和男氏ってどんな人

先週末の2月10日に新しい日銀総裁として経済学者の植田和男氏を起用するという方針が伝えられました。これまで次期日銀総裁財務省出身と日銀プロパーが交互に入れ替わるたすき掛け人事の慣例からみて、日銀プロパーである雨宮正佳氏か中曾宏氏ではないかと予想されていただけに意表を突かれた格好です。

この植田氏とはいかなる方なのか?

自分は日銀副総裁を務められていた経済学者の岩田規久男さんと日銀官僚であった翁邦雄氏との間で激しい論争が繰り広げられていたときに仲介役としてしゃしゃり出てきた人物であったという記憶が遺っていました。(植田裁定)

植田氏は2000年のゼロ金利解除に反対票を投じたことや、日経新聞への寄稿で金利引き上げを急ぐことは、経済やインフレ率にマイナスの影響を及ぼし、中長期的に十分な幅の金利引き上げを実現するという目標の実現を阻害する」などと述べられていたことから、黒田現日銀総裁が進めてきた異次元金融緩和を継承してくれるのではないかという見方がありました。しかし経済学者の田中秀臣氏は植田氏に対しかなり懐疑的な見方をされており、さらに日銀審議委員であった原田泰氏が書かれた回顧録「デフレと闘う 日銀審議委員、苦闘と試行錯誤の5年間」でも、植田氏が原田氏に対し「長期金利の0%の金利のペッグ(YCC)がハイパーインフレを引き起こす。金融機関経営が厳しくなり、金融仲介機能を壊して経済を悪化させる」などというおかしな質問をしていました。

あと他にも植田氏の金融政策に関する過去の発言を読んでも、短期国債金利を抑えることを認めつつも、長期金利を低く抑え続けるのはよくないといった主旨のものが目立ちます。氏を単純に金融緩和容認派だと見なしてはいけないようです。

www.nikkei.com

上の記事より植田氏の発言引用

本来誘導対象は10年より短い金利にして、10年債利回りは自由に変動させるのが日銀の考え方には合うのではないか

黒田日銀体制のときに導入されたYCC(イールドカーブコントール・長短金利操作)ですが、これは短期だけではなく10年ものといった長期の金利も低く抑えることで、民間企業に投資回収まで時間がかかる超大型の事業や次世代技術の開発、雇用といった投資の拡大を促したり、個人の何十年にもかかる住宅ローン金利の負担軽減を狙ったものです。リフレーション政策は「将来の(実質金利や物価)予想を変えることで積極投資を促すもの」といわれていましたが、植田氏の金融政策観はそれと異なります。どちらかといえば金融機関の経営の方が大事という日銀守旧派にありがちな思考の持ち主だと想像されます。そもそも筆者には「YCCがハイパーインフレにつながる」という発想がどこから出てくるのかわかりません。

植田氏は「バランス感覚がある人」などと評されていますが、悪く言えば風見鶏でその時々の政権や日銀、財務省、金融機関の意向に左右されやすい人物だと思っておいた方がいいでしょう。

 

植田氏が新日銀総裁に就任した場合、予想されることは上で述べたように中~長期の金利引き上げの他に、インフレ目標2%の先送り・棚上げを行うといった形で黒田総裁時代から続けた金融政策の骨抜きです。株式などの市場関係者は今後企業の収益が再び停滞するだろうと予想して株を手放すような動きに出ています。やがて新卒求人倍率の低下などといった形で低成長経済への逆戻りになってしまうことにならないでしょうか。

岸田政権は多くの負の遺産を遺しそうです。

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かなり悲観的にならざるえない2023年以降の日本の経済

新年明けから1週間以上経ちましたが2023年初の投稿となります。本当は明るい話題にしたいところですが、悲観的でかなり重い話をしなければなりません。

昨年の年始記事で「2022年は日本という国にとって運命のわかれ道となる年である」と述べました。経済面でいえば日本の経済が再び衰退への道を辿っていくか、再興への道を目指すのかが決まってくると思ったからです。

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結論を述べると、この国は自ら滅びの道を択んでしまったと思わざるえません。安倍元総理がひとりの男によって殺害されたことによって、この国は死への道を決定づけられたのです。たった一人の男のためにこの国の経済衰退と国力低下、就職氷河期の再来とそれによる貧困と格差の増大、軍事独裁国家からの侵略リスクをぐんと高めてしまいました。犯人の母親がカルト教団として悪名高き統一教会の信者であって人生を滅茶苦茶にされたことへの恨みが犯行動機であるといわれていますが、彼の行動は今後多く発生するかも知れない就職難などによって彼以上の苦しみを抱える人を再生産することになり、新たな「無敵の人」を量産してしまうことになってもおかしくないと自分は感じました。 

ひたすら増税や歳出抑制を進めようとする財務省の役人や外交努力によって軍事独裁国家の暴走を抑え込むことに尽力してきた安倍元総理がいなくなったことで、官僚色が強く媚中派が多い宏池会出身の岸田総理はますますその色彩を強めています。

 

岸田政権は防衛強化の必要性を示したところまではいいとしても、その財源を国債発行ではなく、増税で賄おうとしています。これがまずいのは金額ありきになってしまうことで敵国が武力攻撃を躊躇わせるのに必要な防衛強化ができなくなってしまうことです。本当は日本政府が「税収で足りない分は国債で賄うかたちになっても必要な防衛強化はしっかりやる」という姿勢を敵国に見せるべきですが、財布の中身を気にするような素振りで弱みを見せてしまうようなことを岸田政権はやろうとしたのです。防衛強化の財源を増税にしてしまったことで「増税を受け入れて社会保障費を削ってでも防衛を強化しろ。」「いや防衛強化を言い訳にした増税社会保障費削減はやめろ。」と世論が分断してしまっています。非常に馬鹿げた話です。

もしこの国がいまのウクライナのようにミサイル攻撃を受けて多くの人命を失い、生産設備や経済基盤を破壊されてしまったら、事前にいくら財政規律を護っていてもハイパーインフレを引き起こすことになってしまいます。日本周辺で戦争が発生して物資の行き来ができないようなことになると、モノ不足や生産力低下でひどいインフレを招くでしょう。あと多くの人が指摘していますが、増税によって余計経済活動全体のパイが縮小し、ますます国家財政が悪化していくという「緊縮の罠」に嵌る恐れがあります。安倍政権や菅義偉政権と違って岸田政権はそれをわかっていないのです。

 

岸田政権の経済政策のひどさは財政政策面だけではありません。金融政策においても黒田現日銀総裁任期満了後の金利引き上げを狙うような兆候を見せてきました。岸田政権は他の日銀政策委員以上に徹底した金融緩和政策の強化を任期中主張してきた片岡剛士日銀政策委員(当時)に代わって高田創氏と田村直樹氏を新政策委員に任命しましたが、この二名は金融緩和政策に消極的で財務省色が強い人材です。現在次期日銀総裁の候補として名があがっているのは現副総裁の雨宮正佳氏と同じく元日銀プロパーである中曾宏氏です。

さらに次期日銀幹部候補として翁百合氏の名前も浮上しています。彼女は前副総裁で異次元金融緩和の導入を積極的にすすめてきた岩田規久男氏の論敵であった翁邦雄氏の妻です。もし彼女が次期日銀幹部に起用されるのであれば岸田政権は完全にアベノミクス否定をしたと判断すべきでしょう。

金融政策は多くの国民にとってあまり関心が向かないようですが、政策金利を引き上げ金融政策を引き締めに転じさせるか、その素振りを日銀幹部が示すことで株価が暴落したり、円高に振れたりします。昨年末に黒田現日銀総裁が歪になっていたYCC(イールドカーブコントロール・長短金利操作)の修整を計るために、長短金利の変動幅を従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大するという表明をしましたが、これが「金融緩和打ち止め」「実質的な金利引き上げ」と市場関係者に受け止められたために株価の急落や円の急上昇を招きました。

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この修整は10年債の金利高だけぽこっと下がっているイールドカーブをなだらかにするもので、他の年次の国債も日銀が積極的に買い入れしてイールドカーブ全体を押し下げていくので金融緩和の打ち切りではありません。マスコミや市場関係者の勘違いです。

しかしながらこの一件が、もし仮に次期日銀正・副総裁や他の委員たちが金融緩和政策を打ち切ろうとしたらどうなるかということを示したと思います。日銀が政策金利を引き上げてしまうと次のようなことが起きますし、既に一部で起きかけています。

  1. 国債金利の上昇によって、企業の社債等の金利コストも上昇する。よって企業は設備投資や雇用を縮小せざるえなくなり、賃金分配も低下する。
  2. 住宅や自動車、学費等のローン金利が上昇する。そのためにこれらの購入が減っていき、需要低下でそれらの建設や製造も縮小していく。
  3. 円安から円高に転じ、輸出企業を中心に業績が悪化していく。

中央銀行政策金利を上昇させることは国民や企業の経済活動を抑制することになり、景気も沈静化していきます。アメリカや欧州のように景気が過熱して賃金や物価がうなぎ上りになっているような状況であれば金利を引き上げて、投資や消費を抑えねばなりませんが、日本のようにまだ需給ギャップが20兆円も開いているような状態で金利を上げたら活発とはいえない経済活動に冷や水を浴びせることになります。エネルギー資源や食料品の価格が高騰したままの状態で、雇用や賃金分配が低下したらたまったものじゃありません。スタグフレーションです。

国外の方に目を向けますと、昨年から各国の中央銀行が断行した金融引き締めなどの効果があってか、物価高騰が沈静化していく兆候が見え始めました。しかしながらその金融引き締めが強すぎて、雇用や景気を悪化させるリスクが出てきています。相変らず中国やロシアといった共産圏の軍事独裁国家が不確実性を世界全体に与えてしまっており、それがまた大きな混乱と損失を生む危険性を孕んでいます。

今年中盤あたりから世界経済全体が不況に突入していった場合、各国中央銀行の金融政策態度は引き締めから再緩和に転ずる可能性が高まります。そのときに日銀が金融緩和の解除に舵をきってしまった場合、昭和恐慌の繰り返しみたいなことになっても不思議ではありません。岸田政権が第二の濱口雄幸内閣、次期日銀総裁が第二の井上準之助と云われるようなことになってしまうのではないでしょうか。

 

昨年末にタモリ氏が「徹子の部屋」にて「新しい戦前になるのじゃないですかね」と仰り、それが左派層を中心に大きく取り上げられましたが、筆者は左派層が想像していることとは異なるかたちで「新しい戦前」の道を日本は歩いているように感じています。安倍元総理の暗殺は2・26事件を想起させますし、いまの岸田政権は濱口雄幸政権と同じ過ちを犯しかけています。マスコミの報道もそうで昭和恐慌前に「不景気を徹底せよ」とか「下る下る物価、思わずほくそ笑むサラリーマン」と書き並べていたときと変わっていません。

筆者は身の回りの人に「就職や転職をしたい人は急ぎなさい」「マンションなどのローンを組んでいる人は利上げを覚悟しておいた方がいいです」といった防衛策を伝えていますが、本当にとんでもない時代に突入してしまったなと思っています。ダンテの「神曲・地獄篇」に出てきた「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」という銘文が浮かんできます。

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イタリア右派政党のベーシックインカムはやめた方がいい

本当はもう少し前に書かねばと思っていたことで、ベーシックインカムに関する話です。このブログが参加しているブログランキングサイトの紹介文を読んでいただいている方はご存じのとおり、筆者はベーシックインカムの導入に興味を持って研究をしていた時期があります。どちらかといえばベーシックインカム導入賛成派でした。しかしながらここ最近は導入に慎重な考えを持つようになっております。その理由はアメリカやヨーロッパなどで深刻化するインフレにあります。このインフレの原因はエネルギー資源や食糧品などの価格高騰やコロナウィルス感染拡大の影響などですが、各国の政府はロックダウン(都市封鎖)で経済活動に参加できず、所得が急減した国民や事業者に対して、空前の規模の財政出動を行いました。それは民衆の生命と生活を護るためにやらなければならない政策だったのですが、パンデミックが収束した後もその打ち止めが伸びて、結果的に過剰な財政支出となってしまったと筆者は診たてています。一度生産活動から離れてしまった労働者たちは手厚すぎた給付金や失業手当が支給されている間、復職しようとしません。感染収束後の消費意欲(ペントアップ需要)が膨張し、雇用者側が賃金を上積みしても労働者が戻らないような事態になりました。ある意味期間限定のベーシックインカム導入実験みたいなものです。

ベーシックインカム導入で考慮しなければならないのは、人々の労働意欲を失わないような制度設計ができるかなのですが、パンデミック後に起きた現実はその難しさを裏付けるような結果だったと思います。経済学者の宇沢弘文氏はベーシックインカムみたいな制度は高いインフレを招く恐れがあるので反対していたという話を聞いたことがありますが、さすがに氏が言ったことを肯定せざるえないです。


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しかしながら現在イタリアでこともあろうか、メローニ新政権の連立相手である中道右派政党「フォルツァ・イタリア」や「五つ星運動」が貧困層の票を目当てにベーシックインカム導入を掲げています。「フォルツァ・イタリア」は汚職で辞任したシルビオベルルスコーニ元首相が率いる政党です。下の記事を読みましたがイタリアでは貧困層の拡大が深刻化しており、その中で高インフレに悩まされています。

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しかしイタリア全体の産業活性化と生産供給不足を解消しないまま、ベーシックインカムを導入したら、さらにひどいインフレを招くことは必至です。超短期で爆死してしまったイギリスのトラス政権並みの下手打ちとなり、決定的なベーシックインカム導入失敗例となることでしょう。かつてベーシックインカム導入に賛成していた筆者でも絶対にやってはいけないと考えます。しかしながらECB(欧州中央銀行)総裁を務め、世界的に最も偉大なセントラルバンカーとして名が通ったマリオ・ドラギ前首相を失脚させ、かなり無謀というべきベーシックインカム導入を行おうとする政党が政権の座についてしまったイタリアの行く末が思いやられそうです。

先にも述べたようにベーシックインカムは人々が働くことへのインセンティブを失わないようにするにはどうしたらいいのかという問題を解決できない限り、導入をすべきではありません。亡くなられた安倍元総理が進められていた政策「働き方改革」のようにしっかりとしたマクロ経済政策で国全体の経済活動を安定的に活発化させ、多くの就労者がよい待遇で働ける労働環境をつくっていくことが第一歩です。

パンデミックや深刻な不況によって失業した人たちに給付金や失業手当を出すだけではなく、なるべく円滑に就労復帰できるよう支援する制度を拡充していくことも大事でしょう。自助型セーフティネットを整備していくべきです。それでもなかなか就労ができない状況に置かれている人たちを漏れなくフォローするために、給付付き税額控除を

導入するという案もあります。

先ほどの宇沢弘文氏は「同じような金額を得るにしても、仕事があることで、その人が社会参画している、社会から必要とされているという実感が得られ、社会、つまり人とのつながりも同時に構築されていく」という労働観をお持ちだったそうですが、正直筆者は実際すべての就労者が宇沢氏のような労働観を持っていないし、持つことができないだろうと考えています。しかしながら事業の経営者と労働者が共に社会に貢献し、明るい気持ちで豊かな人生を創造できる社会や会社づくりについて考え、実現する努力をしないといけないでしょう。それが供給不足型インフレの解決に必須であると筆者は考えます。

 

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