新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

サプライサイドを破壊する社会主義と悪性インフレ

 

 

コロナ感染拡大と”サプライサイドの壊死”についての話を書き続けていますが、今回で3回目です。

国家財政破綻より恐れるべき危機 サプライサイドの壊死 その1 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

「サプライサイドの壊死」こそ本当の将来世代へのツケ その2 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

われわれの暮らしに不可欠なモノやサービスといった実物財の生産や供給を行う民間の産業や就労者の職能ならびに意欲が失われていく現象を私は”サプライサイドの壊死”と名付けています。日本においては1990年のバブル景気の崩壊とその当時の日銀総裁だった三重野康時代からはじまった日銀の金融政策の迷走から民間の事業投資(原材料費の購入や生産設備の増強、雇用、研究開発費など)意欲が大きく削がれ、かつては世界中を席捲した日本の産業競争力がみるみると低下していきました。新しい商品の開発や技術投資をしたくても、銀行などの融資態度が硬化して資金の借り入れがしにくくなったり、1997年ごろからはじまった本格的なデフレ(連続的な物価下落)と消費意欲の低迷から企業は高い利潤を望めなくなってしまうことで、それが難しくなりました。そうこうしているうちに日本の技術競争力や優位性が失われ、運悪く就職氷河期

に出くわし、長年非正規雇用や単純労働に甘んじざるえなかったロスジェネ世代を中心に就労者の職能や就労意欲も腐食していきます。リーマンショックを過ぎた2010年あたりからこれまで日本が守り続けたGDP世界第2位の座を中国に奪われ、いまやこの国のGDPは日本の3倍になっています。2012年末に自民党第2次安倍晋三政権発足によって異次元金融緩和を主軸とするリフレーション政策の考えを採り入れたアベノミクスによって民間の投資ならびに事業拡大とそれに伴う雇用の改善でサプライサイドの壊死の進行を食い止めることができましたが、昨年2020年1月からはじまった中国・武漢を感染源とする新型コロナウィルスの拡散によって、再び日本はサプライサイドの壊死の危険が高まっています。

 

前回の記事では日本の国家財政破綻を心配するよりも、日本の産業力の衰弱を憂うべきであると私は主張しました。モノやサービスの生産活動やその能力が壊死してしまうことこそ、最終的に悪性インフレを招いたり、自国通貨の信用下落やさらなる政府の国家財政悪化を招く恐れがあるからです。日本の主流派経済学者(世界的にみたらガラパゴス経済学)たちや財務省がらみの評論家、マスコミは国家財政悪化によるハイパーインフレ発生の不安を煽りますが、ひどいインフレが起きる原因は国家財政状況よりも、実物財の生産・供給能力の不足にある場合が多いです。日銀の審議委員を務められていた原田泰・名古屋商科大学ビジネススクール教授もそうした主旨の記事を書かれています。

敗戦直前の債務残高でもインフレが起きない理由  WEDGE Infinity(ウェッジ) (ismedia.jp)

 

 

私は経済をとらえる上で大事だと思っているのはお金のことよりも、モノやサービスといった実物財や人を中心に見ないとダメだということです。「国家財政ガー」「ハイパーインフレガー」とオオカミ少年のように不安を煽る人たちだけではなく、その真逆で「財源は税でないのダー」とか「(インフレになるまで)国債財政赤字をどんどん増やすべきダー」などといっているMMT(現代貨幣理論)の信奉者も実はモノやサービスの生産・供給という観念が薄いのです。(まったくないとは言いません)

物価というものは結局モノやサービスとお金の量のバランス、それを活用する頻度といった需給関係によって決まるととらえるのが基本です。

 

ここから今回の本題に入っていきますが、社会主義国家の多くはモノ不足状態に陥りやすく、ハイパーインフレを招いた国がたくさんあります。このブログで社会主義の欠陥とハイパーインフレ、貧困の発生について取り上げました。

 

 

 

社会主義国家ではないですが、1970年代に資本主義経済圏でも左派政権や山猫ストなどを起こし過激化した労働組合の暴走で民間企業の活動が阻害され、供給不足型不況を招いています。その結果不況で雇用が悪化しているにも関わらず物価が高騰するスタグフレーションという奇怪な状況となりました。

 

 

歴史上において社会主義国家・社会主義者が行ってきたことは「奪う・壊す・殺す」の3つしかありません。基本的にモノを創造し生産するということにことごとく失敗し続けてきました。社会主義国家の元首はソ連スターリンや中国の毛沢東のような独裁的支配者となり、共産党幹部は「赤い貴族」といわれる特権階級となっていきます。彼らは商工業活動を行っていた資本家・企業家だけではなく高い生産性を持っていた富農を「粛清」と称して収容所に押し込んだり、惨殺してきました。医者や学者といったインテリ層も粛清の対象となります。このことでモノやサービスの生産力や技術力がガタ落ちになります。モノやサービスづくりの現場を知らない官僚たちが国営企業や農場の管理者となるのですが、デタラメな指示や「ノルマ」と称する無茶苦茶な生産目標を現場に押し付け、労働者の生産や労働意欲を失わせていきます。官僚たちは実際には実現できていなかった生産量を中央政府に水増し報告するようなことまでします。このような腐敗によって社会主義国家はみるみるとモノ不足状態に陥っていきます。屑鉄ばかりを産み出し農村を疲弊させた毛沢東大躍進政策とその失敗を誤魔化すための文化大革命はその典型例です。

社会主義国家や社会主義者たちは私たちが必要とするモノやサービスを生産・供給する活動を担っているのが民間の企業や実業家であることを忘れ、彼らを攻撃したり富を収奪することしか考えていないのです。そうやってモノづくりやサービスづくりを潰してしまうことばかりやってきたので、その帰結としてひどいインフレや国家財政破綻、自国通貨の信用価値棄損を起こして当然です。

 

中国・武漢から感染拡大がはじまった新型コロナウィルスによる世界規模の混乱も、社会主義国家の邪悪性がもたらした災厄だといっていいでしょう。社会主義は人々の健康だけではなく人類文明社会を支える経済システムまで破壊しています。かつて安倍政権時代のときに内閣参謀関与を務められてきた本田悦朗氏はコロナ禍について旧ソ連時代に起きたチェルノブイリ原発事故と同じだと仰いました。コロナ危機は資本主義経済と自由主義社会に対する挑戦です。

 

世界各国の政府や中央銀行は前例のない大規模な財政出動や金融緩和政策を行って、この危機に防戦しています。政府が民間の事業者や個人を休業補償金や給付金の支給などによって事業存続や生計維持を計っており、一見すると社会主義的だと思えるかも知れません。しかしそれはごく短期間の緊急対応にすぎず、むしろ資本主義経済システムと自由主義を護るために必要な措置だと見なすべきでしょう。罪や過失なき民間事業者や個人を救済せず、その結果として彼らの経済的自立を失うことになればサプライサイドの壊死となります。

 

保守や自由主義を自称する者は政府が民間に財政支援をすることを「政治的介入」だの「社会主義的」だといったりします。しかしそれはお金のことしか見ていない浅薄な見方でしかありません。本来の自由主義的経済思想とは平時において政府が民間の事業者や個人の自由な経営活動や経済活動を邪魔しないようにすることであります。民間の事業者や個人を野球やサッカーなどのプレイヤーだとするならば、彼らが最高のプレイができるようにグランドを整備をするといったことが自由主義経済における政府の役割となります。

 

コロナ禍が収束した後に民間という経済活動のプレイヤーたちが存分に力を発揮できるように手助けすることが、いま世界各国の政府に望まれていることであります。

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「サプライサイドの壊死」こそ本当の将来世代へのツケ その2

 

今回の記事ですが2020年6月30日に公開した記事「「国の借金」について考えてみる その4 「将来世代ヘのツケ」って何? | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)」と主旨が同じものです。この記事で紹介した野口旭専修大学教授が日銀審議委員に就任することになりました。それを関連させたかたちで「ほんとうの将来世代への負担増加とは何か」という話をします。

 

野口旭教授の記事

財政負担問題はなぜ誤解され続けるのか | 野口旭 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp) 」

 

 

増税があらゆる世代の負担を拡大させる理由 | 野口旭 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp) ]

 

 

 

社会は新型コロナ対策の負担をどう分かち合うのか 」

 

 

 

まず「将来世代への負担」を考える前に経済学の社会的使命とわたしたちの豊かさとは何かについて再確認する必要があります。経済学の社会的使命はすべての国民が必要とし、また欲するモノやサービスといった実物財を広くまんべんなく供給・分配できる社会システムの構築を提言することにあると私は考えます。人々がほしいもの・必要なものを不自由なく好きなだけ買える社会こそが豊かさであると思います。病気になったときにお金の心配をすることなく良質な医療サービスを受けられることも「豊かさ」です。それができなくなっていった状況が貧しさであるでしょう。

今回私が「サプライサイドの壊死」という問題を取り上げているのは、この国が良質なモノとかサービスを創り出したり生産・供給できる力を失っていくことで、わたしたちが必要な食糧や衣服、住居の確保すらままならない経済状況に追い込まれることを危惧しているからです。今回中国武漢から拡がった新型コロナウィルスの感染は世界各国をサプライサイドの壊死を進める危機の種をばらまきました。このウィルスは心臓や血管など循環器系の器官や組織を痛めつけるのですが、同じように人間の体と似た経済システムも壊していきます。社会主義国家がもたらした災厄が、わたしたちの暮らしを支えてきた資本主義経済や自由主義経済を侵しているといってもいいでしょう。コロナ危機は第二の冷戦であり、ハルマゲドンです。

もし仮にいま政府が財政支援や金融緩和政策を怠って日本国内の民間事業者が次々と倒産・廃業に追い込まれたとしましょう。それを華系資本がどんどん買収して乗っ取っていったとします。そうなるとこの国は中国の経済的植民地と化すことでしょう。これこそ計り知れない「将来世代への負担」ではないでしょうか。

 

いやそうはいっても将来世代の納税負担が重くなってしまうとか、財政再建のための緊縮財政で社会保障給付とかが削減されることになるのではないかと心配する人が多いかも知れません。しかし産業衰退化や慢性的な雇用の不安定化が進むと結局私たちは税を支払うことができなくなりますし、実質負担が重くなります。稼ぐ力があれば税や社会保険料を支払うことが可能です。私はほんとうの将来世代の負担増加とは税を稼ぐ力の衰弱だと思っています。それが前回の記事「国家財政破綻より恐れるべき危機 サプライサイドの壊死 その1 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)」で述べたことです。

 

そもそも国家財政というのはわれわれ民間の経済活動によって支えられているものであり、担ぎ手である民間企業や個人が弱ってしまったら国家財政という神輿を担ぐことができなくなります。国家財政の再建は民間からの税収を増やさないと不可能です。私は債務の大きさよりも債務を償還する能力が衰えてしまうことの方を心配しないといけないと考えています。少子高齢化問題についても同じです。現役世代が高齢者を支える経済力を強くするという発想が大事です。

 

冒頭で述べたように「豊かな社会」とは良質なモノやサービスがすべての人々に不足なく供給・分配されていることです。日本という国が優れたモノやサービスを生産する力さえ失わなければ、円が暴落して紙くずになりハイパーインフレを起こすなどということを心配する必要はありません。お金というものは「あなたがほしいモノとかサービスを譲ります」という約束手形みたいなもので債券なのですが、わたしたちに必要なモノとかサービスが不足なく生産され供給されているならば、その約束が反故されることはないとみていいでしょう。ハイパーインフレとはその約束を果たしてくれる予想や期待が崩れることではじまります。 

シノドス 矢野浩一 「リフレ政策とは何か? ―― 合理的期待革命と政策レジームの変化 」

 

 

次の記事で書く予定ですが、ハイパーインフレや1970年代のアメリカ・ヨーロッパなどで起きた不況と過大インフレが同時に進んだスタグフレーション国債や貨幣の濫発だけではなく、モノやサービスなどの生産や供給力の低下が原因しています。どちらも社会主義化と大きな関わりがあるのですが、そうした国家は民間の産業を衰弱させてきています。

 

労働者の貧困を救えなかった社会主義国家 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

国家社会主義と官製統制経済の愚かさ | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

「将来世代の負担押し付け」問題を語る人たちですが、彼らの多くは経済主体の一部門に過ぎない政府部門の財政状況だけしか目を向けず、民間の産業や個人の家計についてはお構いなしで話をします。つまりかなり視野狭窄国家主義的であるということです。もし仮に国家財政破綻とか自国通貨の暴落といった事態が発生するならば国家財政破綻が先にきて、我々の生活が苦境に陥るというかたちではなく、先に民間の産業が没落して国民生活がどん底になる方が先でしょう。通貨価値の下落についても自国でモノやサービスの生産ができなくなって、輸出で外貨を稼ぐことができなくなり、円の価値が失われていくという流れです。

 

もうひとつ「将来世代への負担」論で誤解されがちなのは、いまを生きる現世代が将来世代が生産する財を前借りして食い潰しているわけではないということです。上の野口旭教授の記事でも経済学者ポール・サミュエルソン「経済学」を援用し、次のような説明をします。

野口旭教授「社会は新型コロナ対策の負担をどう分かち合うのか 」から引用。

 

サミュエルソンは、戦時費用のすべてが増税ではなく赤字国債の発行によって賄われるという極端なケースにおいてさえ、その負担は基本的に将来世代ではなく現世代が負うしかないことを指摘する。というのは、戦争のためには大砲や弾薬が必要であるが、それを将来世代に生産させてタイムマシーンで現在に持ってくることはできないからである。その大砲や弾薬を得るためには、現世代が消費を削減し、消費財の生産に用いられていた資源を大砲や弾薬の生産に転用する以外にはない。将来世代への負担転嫁が可能なのは、大砲や弾薬の生産が消費の削減によってではなく「資本ストックの食い潰し」によって可能な場合に限られるのである。

いま起きているコロナ禍によって観光業界や飲食業界などの民間産業が経営的打撃を被り、その補償は政府が発行した国債で財源が賄われています。そしてコロナ患者の治療を行う医療機関の医師や看護師らは不眠不休で勤務を続けています。休業補償や持続化給付金などは「将来世代から前借りして」と云われますが、実際に彼らを支えるのはいまを生きている別の国民です。コロナ患者の受け入れは医療者にとって大きな労働負担ですが、これについても将来世代の医師や看護師が手助けしてくれているかというとそうではありません。(看護学校の学生からの応援はあるようですが) 

 

いまを生きる私たちが考えるべきことは将来世代に優れたモノやサービス創りという資産を遺しておくことです。それができれば将来世代が困ることはありません。これまで多くの先人築き上げた技術的資産をつまらぬ緊縮財政や誤った金融政策で潰してしまい、多くの若者の職能を腐食させ、さらには出生率低下に滑車をかけるといったことこそ、真の将来世代の負担となるでしょう。

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国家財政破綻より恐れるべき危機 サプライサイドの壊死 その1

今年2021年1月より新型コロナウィルスの感染者数が再び増加し、患者を受け入れる医療機関が逼迫しているために緊急事態宣言が再発令されましたが、その期限が切れる2月7日以降も一か月ほど延長されることになりました。これについてはやむをえないことだと思います。かなり息苦しく窮屈な思いで我々は過ごさないといけないわけですが、今回営業自粛対象とされた飲食店をはじめ、それに関する食品卸業者などを含めた事業者にとって緊急事態宣言の延長は経営存続の危機にも直結します。こうした事業者に対する休業補償や持続化給付金の再支給の他に、その業界で就労する人たちを守るための雇用調整助成金支給といった手当が必要となることは言うまでもありません。個人向けには緊急小口資金融資制度や住宅確保給付金などの支援策がありますが、最終的には生活保護を利用していただくという事例もかなり増えることでしょう。となってきますとその費用を一部負担しないといけない地方自治体の財政を支えるための地方臨時創生交付金の支給も急がれます。

 

現在行われている政府の支援策

 

政府は昨年・今年とかなり大型の財政出動を行ってきており、それは必要なものでしたが、その一方で国家財政状況を気にする人たちがたくさんいるでしょう。今回の財政出動の財源は国債発行で調達されましたが、それを日銀が買い受けることで政府+日銀を統合政府として見なした場合の市中に対してつくった負債の額は実質小さくすることができるという説明をしてきています。

ちょっと不謹慎な例え話ですが、勝新太郎氏を政府、奥さんの中村玉緒さんを中央銀行だと見立てた場合、かつ勝新太郎氏自身が借金を還さなくても、奥さんの玉緒さんが夫の代わりに借金を還せば債権者は困りません。勝新太郎氏と玉緒さんは夫婦なので奥村家の家計として連結決算できます。

さらに一般の家計と国家財政で異なる点は政府と中央銀行には通貨発行益があってお金を刷って債務償還したり、債券の買い取りができるということです。もし仮に今回のコロナ禍で負債を多く抱えた企業がどうにも首が回らなくなったときには、その不良債権中央銀行が買い取る手もあります。まさに「最後の貸し手」といえましょう。

 

政府や中央銀行がどんどんお金を刷ってばらまいてしまうとひどいインフレを引き起こすのではないかと心配する人たちがいます。確かにそのリスクがゼロだということはありません。しかしながら今のように著しい需要ショックで、しかもその回復に時間がかかるならば、ひどいインフレを引き起こす可能性は低いです。物価というものは需要(デマンド)と供給(サプライ)のバランスで決まってきます。かなり基礎的な話ですが、フィッシャー交換方程式MV=PTで物価が決まってくると思っておいていいでしょう。今の現状はモノやサービスといった実物財の取引量(T)が潤沢であり、貨幣の流通速度(V)が相当低い状態であると想像されます。この状態であるならば貨幣供給量(M)を増やしても物価(P)を急騰させることには直結しないと考えられます。

とこれまでこのブログで説明してきたことを述べておきました。それでもなお「国家財政は大丈夫なのか」という不安は簡単に払拭できないかも知れませんが、私はそのようなことよりも”サプライサイドの壊死”を心配すべきだと思っています。それはモノやサービスを生産する民間事業者や産業が衰退し、そこに従事する就労者の雇用が萎縮して彼らの職能が腐食していくことであります。日本においては1990年代からこれがはじまりました。三重野康総裁以降の日銀による金融政策の迷走が民間企業の設備増強や研究開発、そして雇用といった投資意欲を萎えさせてしまい、かつては「Japan As No'1」とまでいわれていた日本の産業の国際競争力がみるみると失われていきました。リーマンショックを受けた2010年代以降に中国や韓国などアジア圏の中進国が経済的に躍進し、日本はGDP世界第2位の座を中国に奪われることになります。いま中国のGDPは日本の3倍にまで膨れ上がりました。

 

2013年から第2次安倍政権が黒田東彦氏を日銀総裁に据え、リフレ派の論客である岩田規久男学習院大学教授を副総裁に任命して、これまでのどうしようもない日銀の金融政策を刷新していきます。異次元金融緩和をはじめたことで民間事業者は積極的にお金を事業拡張や雇用に活用するようになったことも、このブログで強調し続けています。

俗にいうアベノミクスの効果は安倍総理が2020年9月に辞任する1~2年ほど前から陰りが見えかけていたのですが、それでもこの数年間サプライサイドの腐食や壊死の進行を食い止めた点を私は高く評価しています。

 

しかしその安倍政権の最末期において中国・武漢からはじまった新型コロナウィルスの感染拡大によって再び”サプライサイドの壊死”が急速に進み始めます。感染抑制のために緊急事態宣言を敷いて人々の接触や活動を大きく制限しているのですが、それは観光業界や飲食業界などといった対面サービス業を中心に民間事業者の営業活動を抑制し、その需要も激しく落ち込みます。まだそれが2~3か月の短期間で感染が完全収束すればよかったのですが、もう2年目になってもそれが達成されておりません。この間に民間事業者が耐え切れず倒産したり、事業存続を断念して廃業に踏み切っています。失業や就業時間の短縮に見舞われた就労者も大勢みえます。そうした民間事業者の中には何十年以上、場合によっては百年以上もの長い伝統と高度な技術を積み重ねてきたところや、コロナ危機がなければ健全経営で存続し続けられたはずの事業者も多く含まれていることでしょう。

 

森永康平さんのツイートです。

 

 

清算主義的な発想にとらわれた一部の経済学者や評論家などが、このコロナ禍は本来市場から淘汰されるべきゾンビ企業を篩い落とす絶好の機会だなどと考えているようですが、とんでもない誤認だと私は思います。ゾンビでない健全経営だった会社までもが倒産・廃業・休業に追い込まれてしまえば、コロナ感染が収束したとしても経済力が元どおり回復しないままになってしまう恐れがあります。元々高い技能を持った職人さんなどが職を離れ、そのまま年金生活に入ってしまうようなことになれば技術的資産を失ってしまうことにもなるでしょう。この国が優れたモノやサービスを生産できなくなり、雇用が失われてますます貧しくなっていくのです。
 
新興のビジネスが旧い伝統産業にかわって生産活動や雇用を進めればいいと考える人が多いかも知れませんが、新興ビジネスといえども従来産業が何十年・何百年に渡って積み重ねた技術を土台にしないと成立しない例がたくさんあります。例えば2003年に創立した電気自動車のTeslaなんかも次世代イノベーションの波にのった新興企業だというイメージがありますが、動力源が電気だとはいえど、クルマはボディやサスペンションがあってこそ成り立つ工業製品です。衝突安全性やシャーシ設計などのノウハウは一朝一夕で得られるものでないはずです。画期的な技術とか産業とみえるものも実はある一点の革新性が光っているものなのだと思わないといけないでしょう。

 

ちょっと話がズレましたが、コロナ禍における経済対策でいちばん重要なことは民間の産業や雇用を極力潰さないことです。一度潰した産業は簡単に回復させられません。例え政府が一時的に巨額の財政赤字や負債を増やすことになってでも、自国の民間産業の壊死だけはなんとしても避けないといけません。

 

「国家財政が破綻すると経済ガー」「国民生活が破綻する」などと思っている人たちは国家が経済を回していると思っているのでしょうか。この国は社会主義国家ではありません。民間事業者や個人が自由主義経済を動かしているのです。民間事業者や個人をどんどん破産に追い込み、経済活動ができない状況をつくってしまうことこそ本当の危機です。そもそもモノやサービスを生産して、それを売って稼ぐことができない人だらけの国なったら、政府は税収を得ることができませんし、一方で公的扶助の支出が膨張して財政赤字がもっと増えていくことでしょう。国家財政再建の前に民間経済の再生を優先すべきだと主張するのはそのためです。竹中平蔵氏も同様の主張をされています。

 

かなりディストピア的な想像ですが、今回のコロナ禍で経営破綻や廃業・休業に追い込まれた日本の民間事業者を中華系資本がどんどん買収してしまうということもありえます。先に述べたように既に中国のGDPは日本の3倍に迫ろうとしています。当然のことながら軍事費も比例して膨張します。日本が中国に侵略されてウイグルやモンゴルのような自治区にされてしまうという形で日本の国家財政問題が消滅するというブラックジョークみたいなことも想像できます。

 

今回多くの民間事業者や個人が背負わされた負債は中国から発生したコロナウィルス感染拡大という非常に理不尽なかたちで生じたものです。本来背負わなくてもいい負債でした。この莫大な理不尽極まりない負債に民間事業者や個人は押しつぶされそうになっています。これを肩代わりできるのは政府と中央銀行しかありません。

 

いつも自分が批判しているMMT(現代貨幣理論)っぽい見方になりますが、今回の理不尽なコロナ負債は民間事業者・個人家計・政府の3部門のうち、いずれかが背負わなければならないものであります。結局債務負担能力がいちばん高い政府部門が背負うしかないというのが現実的解答です。

 

元はというとこの理不尽な負債をつくったのは中国共産党という組織であり、債務者とすべきですが、それをやろうとすると第3次世界大戦でハルマゲドン(最終戦争)となりかねません。結局各国の政府部門が負債を背負い、最終的には中央銀行がそれを引き受けるという解決策を択ぶことになるのではないでしょうか。

この話は長くなりますので数回にわけて書いていきます。

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漏給が起きにくい所得保障制度を考えていくべきではないか

基礎知識編ブログの方でここ最近盛んになってきた臨時定額給付金の再支給を求める動きについて一筆記しました。

ameblo.jp

定額給付金の再支給はこちらもやってほしいですし、その財源も確保できますが、これよりも優先すべきなのが、医療機関への支援と緊急事態宣言の再発令で営業時間短縮や集客減で売り上げを落とした飲食店等への補償や支援です。持続化給付金や雇用調整助成金などの拡充が優先されます。そういう状況下で定額給付金のことばかりにこだわってしまう風潮を批判しています。とくに最近ですと左派系野党やマスコミが定額給付金再支給を政争の具にする動きが目立っています。

さらに今月27日の参議院予算委員会立憲民主党・社民の石橋通宏議員が菅義偉総理に対し、新型コロナウイルス感染拡大で生活苦に追い込まれている人たちに対し「政府の政策は届いているのか」「首相の責任で届けると約束してくれるか」などと質問しました。その後で菅総理が「いろんな対応策があるでしょうし、政府には最終的には生活保護という、そうした仕組みを最終的にですよ、そうしたことを含めセーフティネットをつくっていく」と答弁しています。このあとに石橋議員と同じく立憲民主党蓮舫議員が噛みつき騒ぎ立てるという一幕がありました。

【国会中継】参院予算委 3次補正予算案の総括質疑(2021年1月27日) - Bing video

私は上の録画の石橋議員の質疑と菅総理の答弁の部分を文字起こししようとしたのですが、石橋議員が「政府の政策は届いているのか」といっても、質疑する側の方が生活困窮しているであろう人々の状況を把握しているようには思えなかったのです。蓮舫議員の方はあれこれ事例らしきことを述べてはいましたが、ただ菅総理の答弁の仕方に感情がこもっていないなど精神論や感情論の話しかしていないのが不快でした。政府による支援が必要であるにも関わらず、支援が及ばない状況すなわち漏給が発生していると思うのであったら、質疑をかける側の方がそれを証明するデータを用意して追及した方が具体性のある議論となったでしょう。

こうした漏給が起きているとするならば

  1. 支援制度構造が困窮者の実情にあっていない。
  2. 支援制度が対象者に周知・理解されていない。
  3. 制度を利用したくても申請手続き等が煩雑で使いにくい。
  4. 補助金支給を判断する行政機関の審査が厳しく、制度利用希望者が申請しても受理されない。

などの理由が考えられますが、実際にそのようなことが発生しているならば、そのことを事例やデータを示して追及すべきでしょう。それがないまま質疑をかけても薄っぺらい議論で終わります。政府側が一生懸命財政支援制度をつくってもお金が役所で詰まって市中へ出ていかない状況があるならば、そこを突いて政権側に制度改善を求めればいいのです。

実際には全国民一律の臨時定額給付金の再支給こそ見送られたものの、政府は世間で思われている以上に多くの支援制度を用意していますし、申請の敷居を下げる努力もしています。

 自民の西村康稔経済再生担当大臣(新型コロナ対策担当大臣等も兼務)が自身のツイッターなどを通して、積極的に支援策の情報提供を行っています。

西村やすとし #不要不急の外出自粛を NISHIMURA Yasutoshiさん (@nishy03) / Twitter

公明党のいさ進一議員も支援情報の提供に熱心です。

いさ進一さん (@isashinichi) / Twitter

 

政府の支援策

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しかしながら立憲民主党議員のいうように実際には支援が行き届いていないとか、生活保護が非常に利用しづらいではないかという指摘が出てくるでしょう。このブログでも過去に生活保護行政についての批判を繰り返してきました。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

役所の裁量に左右されてしまう生活保護の受給資格 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

生活保護は利用する際に申請者に就業努力を促すとともに預貯金や持ち家、自家用車などありとあらゆる資産を処分しないといけないといわれています。緊急事態であるゆえに柔軟な保護開始決定を行うよう政府側は地方の福祉事務所に促しているといわれますが他の休業補償等の支出が膨れ上がって地方自治体の財政が逼迫し、生活保護開始を渋る動機が生まれてしまう可能性があるでしょう。それを防ぐには第3次補正予算で計上されている地方臨時創生交付金で保護費の一部を負担する自治体の財政を支援するという方法があるのですが、生活保護という制度はどうしても漏給の問題がつきまといます。

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政府の財政支援については2つの考え方があると思います。

ひとつ目はもっとも深刻な経済的打撃を受けている業界や個人に集中的に手厚く、給付や支援を行う考え方です。現在政府が行っている医療機関への支援や緊急事態宣言で休業を要請する飲食店業界等への補償の他に、持続化給付金や雇用調整助成金、今は休止中ですが観光業界や飲食業界向けのGoToキャンペーンなどのような政策がこれに該当するでしょう。生活保護もこれに入れていいかも知れません。

もうひとつが無差別・無選別で全国民に一律で給付を行うという考え方です。臨時定額給付金や最近再浮上しかけているベーシックインカムがそうです。

前者と後者は良い点と悪い点があります。前者の場合は必要な人や企業に手厚く給付や支援ができますが、受給資格者を支給者である行政機関どう選別するかという問題です。利用資格や条件を細かく設定することになりますが、そこで漏給が発生する可能性が出てきます。さらにいえば厚生労働省をはじめとする官僚や地方自治体職員の事務負担がかなり重くなることを無視できません。元厚生労働官僚だった千正康裕さんが「ブラック霞が関」という本を出されましたが、官僚が過労死ラインを超えるほどの激務に追われている実情が書き綴られています。

後者の方については全国民に一律給付なので漏給は起きにくいです。ただし「広く薄く」にならざるえません。昨年春~夏に支給された定額給付金は全国民一律10万円の支給でしたが、この予算は一回だけで国の財政支出は12兆円となり、やるとしてもあと1~2回でしょう。これでは倒産・廃業目前の状態に追い込まれている事業者さんや失業という状態に至った人たちにはまったく間に合わない額です。

昨年春の緊急事態宣言のときは新型コロナウィルスの正体がいまいちよくわかっておらず、とにかく人と人の接触率を下げることを考えるしかありませんでした。急な経済活動の抑制で現金収入が激減した人たちが広範にあらわれたために、漏給防止を優先して後者の全国民一律給付方式を安倍政権は択びました。

しかし今回の場合は経済的打撃を受けた業界と回復が早い業界が割とはっきり分かれているために前者の的を絞った給付方式を主体にしています。「必要な人たちに手厚く」という考え方です。

とにかく今の現状で完璧ではないけれども、最善な現実解は昨年からこれまで政府が用意してきた持続化給付金や雇用調整助成金、緊急小口資金融資制度、住宅確保給付金などといった制度をフル活用し、それでもダメだったときは菅総理の答弁どおり最終手段として生活保護制度でフォローするというものでしょう。冒頭で述べた西村大臣やいさ進一議員らのようにこうした制度を多くの人に周知させていくという行動をとった方がいいかと思います。

しかしながら支援制度の種類があまりに多すぎて、濫立しているようにも思えます。それが逆に利用を遠ざけている可能性があるのではないでしょうか。

これは今後の課題となるのですが、菅政権が推進しているマイナンバー制度の普及とデジタル庁創設の動きと連動し、給付付き税額控除制度のような制度に所得保障制度を統合していった方がいいのではないでしょうか。もうぼちぼち確定申告の時期が近づいてきていますが、このときに行政機関は個人や法人の所得状態を把握することが可能です。著しく所得が落ち込んだ個人や法人に対しては税徴収ではなく給付を行います。この制度のいいところは必要な人や事業者に絞り込んで給付ができる一方で漏給も防げるのです。

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定額給付金ですと継続的な支給はできません。2~3回が限界です。しかし給付付き税額控除方式ですと継続給付が可能になります。あとベーシックインカムとは違って大掛かりな税制改革や社会保障改革をしなくても実現できます。

おかしな話ですが、立憲民主党という党はこれまでマイナンバー制度の拡充やベーシックインカムはおろか給付付き税額控除の導入に積極的ではありませんでした。私はすでにこの政党は生活困難者に対する関心を持ってない、単なる活動家の集まりでしかないと見なしています。清算主義的な発想を持つ議員が多く、苦境に追いやられた民間企業をどんどん潰してしまえという態度すら示しています。社民党と共にこの政党は既に存在意味はないでしょう。


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コロナ感染拡大がひどくないはずの日本でなぜ医療崩壊の危機が叫ばれているのか

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コロナ感染拡大による2回目の緊急事態宣言発令から10日以上経ちました。息詰まるような状況が続きますが、今回は日本の医療体制がそれに対処しきれなくなる寸前の事態になぜ陥ったのかということについてです。

 

この話をする前にもう一度コロナ感染拡大防止対策と経済対策の考え方の基本を確認しないといけません。対策の第一優先は感染拡大抑制とそれによる重症者や死者の抑え込みです。日本をはじめとするアジア諸国では比較的コロナ感染拡大の抑制ができていますが、欧米のようにあまりに感染拡大と重症者・死者の数が膨張しますと経済活動どころではなくなります。政府の財政政策についても医療機関への支援が第一優先になります。

 

感染症拡大の抑制には接触率削減という対策が真っ先に出てきます。それは人と人が接触する機会をなるべく減らすということになりますが、経済活動というのは人と人の関わりや結びつき、交流そのものです。つまりは感染抑制のためには経済活動を抑制しないといけないという二律背反(アンチノミー)の状況に置かれます。経済活動は人が生きていく上で必要なモノやサービスを生産し、供給して消費をしていくものですから簡単に止めることはできません。人間の体でいえば心臓を停めることと一緒です。2~3か月の期間ならばまだしも、長期に経済活動を停止させ続けると社会システムや人々の生活が完全に崩壊してしまいます。

 

仮にロックダウン(都市封鎖)などものすごく厳しい国民や企業への行動制限によってコロナウィル感染による死者が抑制されたとしても、それを上回る自殺や生活窮乏による経済理由による死者が発生してしまっては話になりません

 

感染拡大による死者の抑制と経済理由による死者の抑制は先に申し上げたとおり二律背反なのですが、少しづつコロナウィルス感染拡大防止の急所というかツボらしきものが見えかけています。昨年初頭~春は世界各国でロックダウンのように全面的な行動制限を国民や企業に課しましたが、今回の場合日本の緊急事態宣言は飲食店を中心とした限定的な営業自粛要請に止めました。目指すのはコロナ感染による死者+経済理由による死者の最小化です。

 

これまで日本は欧米諸国に比較しますと人口10万人あたりの死亡者数がきわめて低いです。

(グラフにはのっていないが台湾などアジア圏は健闘)

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(出典 第二波真っ只中のスウェーデンから 現地日本人医師による実態証言 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

 

しかし2020年末から2021年初頭現在において日本では医療崩壊の危険性について叫ばれています。首都圏においては確保病床を上回る勢いでコロナ入院患者の増加が続き、専用病棟の稼働率が8割以上となって、新たな入院患者の受け入れができなくなる寸前のところまできています。コロナ患者以外の通常診療や救急診療までも支障をきたしかねません。

「医療崩壊」が現実味 少ない医師・看護師、現場逼迫 日本の医療課題がコロナで噴出 - 産経ニュース (sankei.com)

 

昨年12月日本医師会中川俊男会長が「医療緊急事態宣言」を言い出し、感染拡大がひどい首都圏の小池東京都知事などが政府に詰め寄って緊急事態宣言を再発令するように求めました。マスコミも「緊急事態宣言を発令して感染収束と医療崩壊回避を」という論調でした。

 

重症のコロナ患者を受け入れる医療機関とそのスタッフは自らがウィルスに感染するリスクに晒されながら不眠不休で疲労困憊で治療や看護にあたっておられます。この姿は10年前に発生した東日本大震災による津波で大事故を起こした福島第一原発の処理と解体を行う作業員の姿を想起させられます。現場の疲弊は言語を絶するものでしょう。そういう中で緊急事態宣言を敷いてでも新たな感染者を抑えなければならないという主張はもっともなものに思えますが、時間を遡ると昨年の夏の時点でも感染第2波、第3波の到来が予想されていました。そのために当時の安倍政権は医療機関支援のために莫大な予算を積み上げています。しかしながらコロナ専用病棟の増設やスタッフの確保が十分進んでいなかったのです。

 

その原因は政府側が用意した医療機関への支援制度が現場の状況にあっていなかったことや日本の医療体制が永年抱えていた構造問題でした。

まず前者についてですが、新型コロナの重症患者をICU=集中治療室で治療した場合、病院に支払われる診療報酬の特別加算は原則14日間までしか支払われませんが、その期間中に患者がICUを出られなかった場合、超過した分は病院側の負担となってしまいます。それが増えてしまうと医療機関はコロナ患者を積極的に受け入れられなくなるでしょう。

コロナ患者 ICU治療長期化 診療報酬 特別加算されない例相次ぐ | 新型コロナウイルス | NHKニュース

 

 

コロナ患者を受け入れる病院は院内感染のため病棟閉鎖をしなければならなくなったり、風評被害による患者減などで赤字を抱える可能性が高いです。ですので民間病院がコロナ患者受け入れに手をあげようにあげられないのです。

 

そして後者の日本の医療の構造問題ですが、他国に比べ民間病院の割合が非常に高く、さらには開業医の割合も大きいのです。国や地方自治体は民間医療機関に対し経営に口を挟み「コロナ感染患者の受け入れをせよ」といった命令を出すといった行政介入をすることができません。それができるのは公営の医療機関だけになります。当然のことながらコロナ感染患者の受け入れは公立病院に集中します。

そして感染患者を受け入れる医療機関に、医療従事者を公的に派遣する措置がありません。感染者を受け入れる病院では、内部で人員をやりくりせざるをえないのです。一部の医師や看護師がかなりの長期間コロナ患者につきっきりとなり消耗してしまうわけです。。

 

病床の多い日本でなぜ「医療崩壊」が起きるのか | 新型コロナ、長期戦の混沌 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

 

 

いま日本の各医療機関がもつ人的資源や設備をうまくシェアリングさせれば、ごく少数の公立病院などにコロナ患者の受け入れ負担が集中してしまうことなく、医療崩壊閾値が上がるはずであると考える医療関係者が多くいます。その一環として医療法の改正や特措法の改正を行い、非常時には国や地方自治体が強権発動で感染患者の受け入れを命令したり、医師や看護師の派遣をできるようにすべきだという声が上がっています。

 

さらに医療機関や医師・看護師たちにコロナ患者の受け入れや治療・看護に従事したいというインセンティブを与えることもすべきだという主張も出てきています。

 

先日1月13日に行われた菅総理が行った記者会見の場で神保哲生さんというフリーライターが「日本は人口あたりの病床数は世界一多い国で、感染者数はアメリカの100分の1くらいなのに、医療が逼迫している。医療法を改正して病床を確保しないのか」という質問を出しました。このときの菅総理の回答は「医療法についても今のままでいいのかどうか。国民皆保険、そして多くの皆さんが診察を受けられる今の仕組みを続けて行く中で、今回のコロナがあって、そうしたことも含めて、もう一度検証していく必要はあると思っています」というもので、医療法改正について否定しないけれどもはっきりとしたものではありませんでした。この後各マスコミが藁人形論法的に「菅総理国民皆保険の見直しに言及」などという的外れな報道をします。

「菅義偉首相が国民皆保険の見直しに言及」とSNSで話題に ⇒ 実際には何と言った? | ハフポスト (huffingtonpost.jp)

 

 

神保氏の質問自体はよかったのですが、問題は彼が質問の事前通告をしていたかです。彼のツイッターを確認すると菅政権は安倍政権以上に事前通告のない質問は答えないなどとツイートしているのでしていない可能性が高いと思います。もし仮に突然いきなり上のような質問を菅総理にぶつけたとしても、当たり障りのないぼやけた回答しか得られなかったと思います。

 

それからしばらくして、慈恵医大の大木隆生教授が菅総理に医療人材や病床確保の方法について進言されたというニュースが飛び込みます。

菅首相 医療人材や病床確保めぐり大学教授と意見交換 | 新型コロナウイルス | NHKニュース

 

 

 

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東京慈恵会医科大学 対コロナ院長特別補佐 大木隆生教授

 

ここで大木先生のツイートを転載しておきましょう。

以下が昨日の出来事です。総理と小一時間にわたりディスカッションしました。内容は、例えば、

1)新コロ対応している大学病院を含む多くの大病院では医師・看護師の給与が硬直化しているために不眠不休で新コロ対応してくれている感染症科や集中治療科などの医療従事者は受診抑制で余裕が生じた一部の他科医師と同額の待遇で働いている上に手当も月額数万円程度である(→政府の補助金が医療従事者個人に渡るシステム構築)

2)そしてこれら他科の医師を新コロ対応にリクルートしようにもインセンティブがつけられない、報いられない(→大阪市立十三病院の教訓)

3)新コロ重点医療機関の認定基準が厳しいため参入したくても出来ない民間病院が多数存在する(→平時の厳格な審査基準を改め有事対応する)

4)民間病院が新コロ対応して院内感染のため病棟閉鎖、風評被害で患者減などで赤字が出ても保障がないままでは二の足を踏む(→新コロ診療報酬5倍増、前年度売上の確約など)

5)新コロとの闘いは長丁場であることを念頭にサステイナブルな対応が必要(→非常事態宣はサステイナブルではない)

6)これらが実現できたら医療崩壊閾値は格段に上がり(欧米の病院ベッドの新コロ対応率30-40%に対して日本2-3%)、その暁には新規感染者数、過去最多、に一喜一憂することなく国民も安心して社会経済活動に勤しめる。総理は終止にこやかでうなずいてくれていました。山が動く予感がしています。

もう一点、大木先生がfacebookに書かれた記事を転載されているブログ記事があったので紹介しておきます。

慈恵医大の先生の文章をシェアさせて頂きます | 能楽師・山井綱雄の~日々去来の花~ (ameblo.jp)

 

 

これまでコロナ患者受け入れを行うと手をあげた医療機関の審査が通りやすくする行政的配慮や赤字補填、過酷な状況で働くコロナ病床の現場スタッフへの手厚い報酬などを提言されています。医療人材や設備のシェアリングが進めば医療崩壊閾値が上がってきます。コロナ対策と経済・社会活動の維持を高次元で両立させる道がみえてきます。菅総理が乗り気になったというのは当然でしょう。

 

神保氏よりも大木先生の方が一枚上手だと私は思いました。

 

今回のコロナ禍という非常事態において、日本の医療の構造問題が顕かにされたといえましょう。菅総理が着任早々「縦割り行政の解消」を政治目標を打ち出しましたが、医療崩壊リスクが表面化したのはまさに医療界の縦割り構造にあると私は感じました。

 

遅きに失したとはいえ、大木先生が仰るように一気に山が動いていくと私は予感します。

 
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緊急事態宣言再発令と経済的影響について

 

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2021年1月7日、政府は新型コロナウィルスの感染拡大の深刻化をうけて、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県を対象とした緊急事態宣言の発令に踏み切りました。期間は1月8日から2月7日までの一か月間を見込んでいます。今回の緊急事態宣言再発令は4月のときと異なり、対象地域を首都圏に止め、飲食店に対し20時までの時短営業を徹底 、テレワーク推進で出勤者数7割減を目標 、20時以降の不要不急の外出自粛、スポーツ観戦などのイベントは5000人までといった制限にしました。

自分は新聞やテレビを読んだり視たりしない方ですが、世間から聞こえてくるのは「菅内閣の決断が遅かった」とか「菅内閣は後手後手だ」、あるいは「小池百合子東京都知事らにせっつかれてやっと政府が重い腰をあげた」という感想の声です。

しかしながら今回の緊急事態宣言に至るまでの経緯を辿ると、それとはどうも違うようです。コロナウィルス感染の再拡大は11月下旬ごろから目立ちはじめ、東京都や大阪府、北海道などでは飲食店等の営業時間短縮を要請し、これに応じた店舗に協力金を各自治体が支払ってきました。その期限は当初12月中旬で切れる予定でそれを延長するかどうかがという話になったのですが、感染拡大が収束する気配がなかったために政府側は自治体に延長を求めていました。ところが東京都の小池百合子都知事は営業時間短縮期間延長を渋っています。政府側と小池都知事は揉めたようですが、結局小池都知事は渋々延長を受け入れる格好になったものの、その期限が1月中旬に切れることになり、それをどうするのかという問題が今回の緊急事態宣言へとつながったのです。

東京都をはじめとする地方自治体が民間の飲食店等に営業時間短縮を要請し続けるには当然のことながら営業損失補填のための協力金を支払い続けないといけませんが、その財源問題が発生します。東京都は地方自治体の中でもかなり裕福で財政基盤がしっかりしているわけですから、政府側は「協力金の財源は東京都の方で負担しなさい」と返されてしまうことが目に見えています。そこで小池都知事がお得意のペテンを利かせて、東京都単独ではなく、財政力が弱い千葉・神奈川・埼玉の3知事を巻き込み、緊急事態宣言をかけろと政府に詰め寄り、国のカネを引き出そうと動いたわけです。政府側は政府側で5兆円余っている予備費を使い切らないといけないという事情があるのですが、小池都知事らの動きや緊急事態宣言再発令は予算消化のよい口実であり、ちょうど都合がよかったといえましょう。ある意味(緑の)たぬきときつねの化かしあいみたいな茶番劇です。

そういった政治的裏事情の話はさておいて、今回の緊急事態宣言の再発令は望ましいものなのかというと決してそうではありません。冒頭で述べたように多くのマスコミが「菅政権は命よりも経済を重視して緊急事態宣言の再発令の決断を躊躇ってきた」という報道を繰り返していたようですが、それはコロナ禍対策の基本的な考え方を理解していないものです。

 

コロナ禍対策で重要なことは

コロナ感染による死者+経済理由死の最小化

を目指すことです。

 

コロナ感染による死者と重い後遺症を遺す重症者を極力抑制し、医療機関側のパンクと疲弊を防ぐことが対策の第一優先順位となることは言うまでもないことですが、それと同時に社会・経済活動の麻痺やそれによる生産活動の破壊と雇用崩壊を防止することも同時にやらないといけないのです。厳格な自粛や行動制限によってコロナ感染による死者や重症者を抑え込んでも、倒産・廃業・失業で生活困窮状態に陥って自殺に追い込まれる人たちがそれを上回ってしまったら話になりません。

 

もし仮に厳格な外出制限や休業命令みたいな形でコロナ感染拡大やそれによる死者数が大幅に抑制できる効果があったならば、春に行っていたときと同じように政府が補助金や休業補償を行って民間の経済的打撃を軽減しながらそれを進めるという考えはありですが、後日の検証結果をみるとこうした感染防止対策はさほど大きくないとされ、それ以上に経済活動の著しい沈滞や倒産・廃業・失業の増大というデメリットが得られた便益よりを上回っているという指摘がなされています。

スペインのコロナ対策・ロックダウンは効果があったのか?|英語ニュースを読もう! (maki3english.com)

 【ケント・ギルバート ニッポンの新常識】緊急事態宣言の効果は“未知数” 米国ではロックダウンした州としない州の感染増加率に大差なし (2/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

上の2記事だけで判断すべきではないかも知れませんが、今回緊急事態宣言を再発令したとしても感染抑止効果がどれだけ期待できるのか未知数です。しかし経済活動抑制による民間産業の壊死や人々の生活破壊が進むリスクが相当高いことを覚悟しないといけないでしょう。菅内閣が緊急事態宣言の再発令に慎重だったのはそのためです。

 しかしながら多くのマスコミは前回の緊急事態宣言や海外で行われたロックダウンの効果について十分検証することなく、昨年末まで雰囲気だけで「早く緊急事態宣言を発令しろ」「GoToキャンペーンを中止しろ」と大合唱していました。実際に緊急事態宣言が再発令されたらされたで、今度は「緊急事態宣言の再発令で飲食店等の経営が」などとちぐはぐな批判をします。

このようなマッチポンプ的なマスコミの場当たり的な政策批判は旅行業界や飲食業界の支援策として導入された「GoToキャンペーン」にも向けられました。竹中平蔵氏が今年年始からはじめられたネット動画配信番組「平ちゃんねる」にて根拠なきマスコミによるGoToキャンペーン叩きについての批判をされています。

www.youtube.com

 「GoToキャンペーン」については当方も竹中氏同様に決してポジティブな評価をしていなかったのですが、いざ実施してみると2000億円の財政支出に対し、消費がその25倍の5兆円も増えています。乗数効果が極めて高い大ヒット作でした。

このGoToキャンペーンによってコロナ感染が拡大したならばまずいことですが、竹中氏によるとこのキャンペーンでコロナ患者が急増したという統計的証拠はないとのことです。(その検証をしたのはこのブログでこっぴどく批判したことがある小林慶一郎氏ですが)

竹中氏ではないですが、GoToトラベルによる移動は全国民の移動の1%に達しないものですから感染拡大とはほとんど関係はないとみるべきでしょう。

結局マスコミがやっているのは政権批判そのものが目的化しており、政府側が打ちだしてきた対策を否定して潰し、彼らの言った通りに政府側が対処してもまた別のあら捜しを延々と続けることの繰り返しでしかないのです。

今回の緊急事態宣言によって営業時間短縮に応じる飲食店業者等への協力金はすでに積み増しの準備が進んでいます。持続化給付金の再給付や間もなく期限が切れる家賃支援給付金の延長、資金が枯渇している雇用調整助成金の補填などが必要となっていますが、先ほど述べたように予備費が5兆円ほどまだ余っており、第3次補正予算案でも地方自治体への財政支援策として地方創生臨時交付金が盛り込まれました。補償のためのお金の問題は解決しています。

 

とはいえど今回の緊急事態宣言再発令によって昨年来よりかなり傷んで弱っていた民間の経済活動の壊死がさらに進む恐れがあります。慢性的なデフレ不況再発がすでにはじまっていることを忘れてはなりません。今年度において政府がかなり思い切った財政政策及び金融緩和政策をフル稼働させないといけないのは確かです。今後このブログで回復期の経済対策についての話を展開していくことを考えています。

 
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コロナ危機後の経済政策を考える

 

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上のお姉さんは相変わらずノースリーブドレスのままですが、11月下旬となり冷え込みが増してきています。もう冬です。

寒さが増すと同時に気になるのはコロナウィルスの感染再拡大です。アメリカ・ヨーロッパでは既に感染拡大の第3波が訪れており、日本においても欧米ほどではないにしても感染者の増加が目立ちかけています。今月11月25日にも西村康稔経済再生担当相が今後3週間で感染増加を抑えられなければ「緊急事態宣言が視野に入ってくる」という発言をしたというニュースが飛び込んできたばかりです。

感染抑制できなければ緊急事態宣言も視野 | 共同通信 (kiji.is)

春の緊急事態宣言と自粛要請で人々の行動が抑制され、経済活動もそれに比例して停滞させられたのですが、既にご承知のとおり観光・宿泊・旅客輸送業・飲食・興業そして医療機関は大きな打撃を被りました。政府による持続化給付金や雇用調整助成金の支給を受けたり、劣後債という形で金融機関から資金投入をしてもらうかたちで辛うじて息をつなげている企業は少なくありません。再び緊急事態宣言や自粛となりますと耐えきれず事業を畳む企業が出てくるでしょう。そんな状況を無視するかのように政府の財政制度等審議会が持続化給付金や家賃支給給付金を来年2021年1月の申請期限をもって予定どおり終了させるべきだなどという提言書を提出するといった無神経な行動をとっています。

www.nhk.or.jp

 記事引用

国の財政制度等審議会は、来年度予算案の編成に向けた提言を取りまとめました。新型コロナウイルスへの対応で、財政状況が一段と悪化していることを踏まえ、非常時の給付金による支援から、生産性の向上に取り組む企業などへの支援に、軸足を移すべきだとしています。

財政制度等審議会は25日、国の来年度予算案の編成に向けた提言を財務省に提出しました。

新型コロナウイルスへの対応で、今年度の一般会計の歳出規模は、過去最大の160兆円余りに膨らみ、歳入の56.3%を国債に頼る過去最悪の状況です。

こうした状況を踏まえ、提言では「新型コロナなど事前には予測できなかった出来事が、数年に1度のペースで発生している。大きなリスクにも耐えうる回復力を兼ね備えた、財政を作っていくことが求められている」と指摘しています。

そして、非常時の支援を常態化することは、政府の支援への依存を招くと弊害を指摘したうえで「財政支出を増やせば持続的な経済成長が起きるといった単純な話ではない。単なる給付金といった支援からウィズコロナ・ポストコロナを見据えた経済の構造変化への対応や、生産性の向上に取り組む主体の支援へと軸足を移すべきだ」と提言しています。

具体的には、中小企業に対して最大200万円を支給する「持続化給付金」や、賃料の負担を軽減する「家賃支援給付金」を、来年1月の申請期限をもって予定どおり終了させ、業態転換などを行う企業を支援する必要があるなどとしています。

財務省は提言の内容を踏まえて、予算編成の詰めの作業を急ぐことにしています。

この財政制度審議会の提言書ですが「生産性の向上に取り組む企業」とか「単なる給付金といった支援からウィズコロナ・ポストコロナを見据えた経済の構造変化への対応や、生産性の向上に取り組む主体の支援へと軸足を移すべきだ」などという文言が気になります。政府の成長戦略会議メンバーに就任したデービット・アトキンソン氏らのような構造改革万能主義者や清算主義者が唱えている主張を連想させる文言が連なりますが、財務省の役人らがそれに便乗している感じがします。

構造改革万能主義と清算主義の問題について書いた記事です。

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財務省の役人らは企業を潰しまくっても、後から草が生えて伸びるがごとく勝手に新興企業や産業が興されると思っているのでしょうか。「国の財政は限られているのだからほんとうに必要なところだけ支給するべきだ」という役人たちの論理は一見正しそうに思えますが、それを役人たちが選別・判断できるのかということです。

まず忘れてはならないのはいまのコロナ禍は良い意味でも悪い意味でも不確実性が極めて高く、わずか数か月先のことでさえ先行きが読めません。いまだもって感染拡大状況や経済活動の動向がひどく流動的です。現在倒産や廃業目前の苦境に立たされている業界や企業ですが、それらは昨年まで何事もなく健全経営であったところが多く含まれています。逆にコロナ禍以前には彼らから日本において斜陽産業だとかいわれた製造業の方がコロナ禍からの業績回復が早かったりします。先日新型コロナウィルス用のワクチンが開発されたと報じられましたが、それによってウィルス封じ込みに成功すれば今苦境に置かれている業界がV字回復する可能性が見えてきます。役人らの勝手な判断で本来十分経営存続ができる民間企業まで見殺しにしてしまえば経済回復をしないままL字状態で推移してしまう恐れがあります。恐ろしいのは完全に弱った日本企業を中華系資本がどんどん買収して居抜きすることでしょう。スターリン砕氷船理論を想起させます。

コロナ感染が収束した後に日本のみならず世界全体で産業や経済構造の変化が訪れることは間違いないでしょう。リモートワークの普及などによりIT産業や宅配ビジネスなどが伸びることが予想されますし、その分野への労働移動が発生するはずです。とはいってもそれらが現在日本で30兆円~40兆円も失った有効需要の穴埋めができるほどの規模になるのかわかりません。有効需要が元通りに回復しなければ当然企業倒産や廃業、失業が大量に発生することでしょう。

感染拡大が完全に収束し人々が以前どおりの自由な行動ができるようになって、さらにこれまで倒産や廃業をした民間企業や衰退した業種に代わる新たな産業が育成されるまでの間、相当の時間が必要になることが予想されます。この間多くの人が失業者のままでいたり、無収入のままでいいはずがありません。これを放置すれば完全にデフレ不況の再発となり、国民生活・経済・国家財政全部がダメになることでしょう。日本国内の生産活動が萎縮したままの状態となる危険性があります。慢性的な需要減少は供給側の縮小へとつながります。倒産・廃業によって企業が持ち合わせていた技術の途絶や失業したままの労働者の職能腐食が進行していくことでしょう。「サプライサイドの壊死」を少しでも食い止める必要があります。

政府による財政支援を積極的に行ったとしても、企業倒産や廃業、失業増加を防ぎきれないかも知れませんが、その場合は継続的な定額給付金の支給などを行う必要が出てきます。以前から申し上げてきたように、かなりそれが長期化するならば臨時の定額給付金というかたちではなく、恒久的な給付付き税額控除制度に切り替えたほうがいいかも知れません。

新たな成長産業が勃興する状況を生みだすには、それを志す起業家への積極融資と消費者の購買欲を高めるための家計支援策の両方が必要です。前者は金融緩和で後者は給付金や減税などで支援します。

財務官僚や日銀職員は民間の苦境を知ろうとせず、お上の財政状況と自己の権益(天下りなど)のことしか関心を持たない人種です。彼らに民間が振り回され、ときには破産や自殺にまで追い込まれるようなことがあってはなりません。国家財政を再建するにも民間が税を支払うことができないと無理なのですから、まずは民間救済が先決です。

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「暮らしの経済手帖」プロモーショナルキャラクター・友坂えるの紹介です。

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