新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

日本経済再起動に向けて ~護りから攻めのフェーズへ~

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一ヶ月ぶりのブログ更新です。

今年令和3年4月13日に菅総理経済財政諮問会議を開催し、人材への投資(ヒューマン・ニューディール)、デジタル化の加速について話し合いました。

令和3年4月13日 経済財政諮問会議 | 令和3年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

菅総理が打ち出した「ヒューマン・ニューディール」はもともと2009年に社民党(当時)の辻元清美衆議院議員が国会で提案していたものでしたが、それをちゃっかりキャッチアップしております。それはともかくとしてすでにコロナ禍から立ち上がり業績回復を遂げている業界や事業者への労働力移動や失職者への就労支援策を積極的に打ち出していることを私は高く評価したいです。私が非常に素晴らしいと思っているのは月10万円の給付付き就労支援制度です。国民民主党玉木雄一郎代表が就労訓練つきのベーシックインカムを提案していたのですが、実質それに相応するものが給付付き就労支援制度です。かなり利用者が多く、追加で受講者数を増やしたようです。ネット上で「定額給付金を一律支給せよ」という声をあげている人たちが多くいますが、本来コロナ経済対策というものはもともとコロナ禍がなければ立派に経済的自立をしていた個人や事業者が職を失ったり、事業継続ができなくなることを防ぐことを目的としています。そういう主旨からいきますと、いつまでも公助にしがみつくのではなく、自助で再自立ができるように促していく必要があるでしょう。コロナ禍は不確実性が高く「一寸先は闇」ですが、それでもワクチン接種が進んでいきますと、感染収束が視野に入ってきます。公助から自助のフェーズに転じていると思うべきでしょう。あるいは「護りから攻めのフェーズへ」といっていいかも知れません。

 

これは昨年書いた記事でも引用したものですが、感染症拡大防止策と経済対策の基本的な考え方は下のIMF国際通貨基金)のウェブサイトに書かれています。爆発的な感染拡大が起きているオーバーシュート状態の対策(フェーズ1)と完全ではないけれども感染拡大の抑え込みができて、経済活動の段階的回復が見込める沈静期(フェーズ2)にわけて考える必要があるのです。

 昨年の今の時季は感染拡大予防を最優先とし、経済活動を全面的に自粛する緊急事態宣言を発令していました。営業休止や操業停止をせざるえなくなった事業者が倒産・廃業に追い込まれ、さらにはそこで働く従業員が解雇されないように政府が持続化給付金や休業補償、雇用調整助成金を支給したり、国民全員に一律10万円の定額給付金を支給しています。護りのフェーズであり、私は心臓外科手術のときに心肺を停止させて人工心肺で術中の生命維持をはかるのと同じだと形容していました。

しかしいつまでも人工心肺をつけたままにしておくわけにはいきません。なるべく早く自発鼓動や呼吸に戻し、術後の機能回復訓練を行っていく必要があります。長く経済活動を停めていると事業者がどんどん倒産・廃業に追い込まれて事業再開ができなくなります。失職者たちは勤労意欲を消失し職能を腐食させていくことになります。これを私はサプライサイドの壊死と呼んでいます。

感染収束が見えかけている現在においてとるべき対策は民間事業者の再興や失職者の社会復帰を促すものへと転じさせなければなりません。対面サービス業の打撃がかなり深刻なままでそこへの財政支援は継続しないといけませんが、既に回復傾向にある業界や事業者については積極的な事業拡大や事業投資を行っていただき、失職者の再雇用を促していく必要があります。また失職や著しい所得減少に見舞われてしまった方についても成長産業や企業への転職やそのための就労訓練制度を利用していただき、経済的再自立を目指していただく段階になっています。

これまで政府が行ってきた事業者向けの持続化給付金や補償金は事業をとりあえず継続できるようにするという護りの政策でした。金融政策もそうです。収入激減の中での固定費の支払いや銀行による貸し渋りなどで資金づまりが起きて倒産したりすることがないようにするという意味合いが強かったです。あと金利を抑え込んで事業者が抱え込んだ債務負担を軽減する役目もありました。しかし感染収束期に転じてきたならば財政政策や金融政策の意義や目的が変わってきます。新たな事業への挑戦を促すためのものとなっていきます。

昨年秋に自民党内の勉強会である経世済民政策勉強会の提言について紹介しました。この提言書についてはマスコミやネットで提言のひとつである定額給付金再支給要請のことばかりが注目されてしまったのですが、それよりも金融緩和政策の強化や医療機関と対面サービス業への集中支援、GoToトラベル延長、防災インフラ整備事業に力点がおかれていたものです。

給付金の追加だけではない経世済民政策研究会の提言 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

 下は昨年10月の提言書です。

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 しかしこの勉強会は今年3月にも開催され、新たな政策提言書も作成されました。

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前回のときと同じく金融緩和政策のコミットメント強化や金融機関による貸しはがし防止と積極融資促進が提言されていますが、任期中の増税を行わないことのコミットメントや成長指向的な経済対策を打つことも盛り込まれています。定額給付金や持続化給付金については一律ではなく低所得者層や中小企業など的を絞ったものとなっていました。コロナ禍は特定の業種に偏って被害が集中してしまう特殊性を考慮したものとなっています。

ネット上の経済政策についての発言を読んでいて感じることですが、上で述べたような状況や段階に応じて政策対応にしていかねばならないということを理解している人が少ないです。昨年春に行われた緊急事態宣言Ⅰと今年初頭に行われた緊急事態宣言Ⅱはやり方や考え方が異なっており、前者は全般に、後者は局所的に実施されています。未だに「定額給付金を一律支給せよ」と言っている人たちはナンセンスです。先に述べたように打撃を受けた業界が局所的に集中してしまっているのが、今回の危機の特徴です。逆に感染拡大期のときにも関わらず「消費税を減税もしくは廃止せよ」とか「もっと規制緩和をしろー」と主張する人たちも的外れです。今後新コロナウィルス感染が抑制され、経済活動が本格的に再開できる状況に転じたときには給付金などよりも減税や規制緩和といった政策が活きてきます。

私はこれまで金融政策を重視する姿勢ととってきましたが、新コロナ感染拡大期においては財政政策の方に力点をおいています。感染収束期が見えてきたならば再び金融政策主導へと態度を切り替えていくつもりです。

財政政策についても、個人や事業者を庇護するかたちのものから、成長指向型へと切り替えていかねばなりません。今回の危機で政府は巨額の財政出動を行ったために、財政危機やら物価や金利高騰を危ぶむ人たちが多いですが、これについて私はあまり心配はしていません。むしろ今後もしばらく積極財政を進めるべきだと考えています。しかしながらその内容は企業や個人の経済的自立を促すものでなくてはなりません。サプライサイドの壊死を防止するだけではなく、強化を目指していかねばならないでしょう。財政支出が多少増えて金利上昇や物価上昇があっても、それを上回る成長があれば、わたしたちの生活に大きな支障を与えることはないでしょう。今後の民間事業の成長と発展と噛み合うかたちの財政支出となっているかどうかが大事であると私は思います。

 

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定額給付金よりも給付付き税額控除制度導入を目指した方がよいのでは

前回「個人向けの給付金ではなく事業者向けが多い日本のコロナ経済対策 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)」という記事を書きました。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

アメリカでは3回目の定額給付金支給が実施されていますが、日本の場合、全国民一律給付で行われたのは昨年2020年春の1回限りです。その後も給付金の支給が実施されていますが、困窮状態であるひとり親世帯に限定されており、額もかなり低めです。2021年3月現在政府与党がやはり給付金の支給を検討しているといわれますが、ひとり親だけではなくふたり親世帯に拡大されただけで、かなりしょぼくれた内容のものにとどまっています。

個人向けの定額給付金出し渋りは財務官僚の抵抗がかなり強いこともありますが、日本の場合は個人向けの給付金支給よりも、就労者を雇用する民間事業者を支援するかたちで倒産や廃業、従業員解雇を防ぐことを優先した財政出動を行っています。日本の財政出動の規模自体はGDP比でみたとき世界トップレベルです。

「企業ばかりではなく個人の生活支援を優先しろ!」と言いたくなるかも知れませんが、私はいまの事業者優先型の財政支援を採った方が今回得策ではないかと考えています。本来潰れるはずのなかった企業をどんどん潰してしまったはいいが、それに代わる新しい産業や企業がすぐに育つのか疑問です。さらに労働者が解雇された場合、別業種への転職とかを余儀なくされるかも知れません。そうなると職業訓練の時間やコストが生じてきます。私は残せる既存の企業や産業、そして雇用を温存するやり方の方が、コロナ禍収束後の経済活動回復が早く進むと思います。結果的に「はやい・やすい・うまい」となるのではないでしょうか。

そういう意味で私は定額給付金固執することは決して望ましいことではないと思います。コロナ禍で大きく所得を減少させてしまい、経済的に困窮している人が多いことは私も承知していますが、仮に定額給付金を再度支給したところで、彼ら・彼女らを支え続けることができるでしょうか?数万円、10万円はあっという間に消えてしまうと思います。全国民に一律10万円を支給した場合の予算は13兆円です。私は財政規律よりも経済重視の立場ですが、どんどん財政を膨張させてもかまわないという考え方はもっていません。なるべく高い経済波及効果が望める財政支出をすべきだと考えます。経済政策の基本的な考え方は雇用の維持です。

それともうひとつ、昨年の緊急事態宣言のときと今回のときとでは状況が大きく異なっている点を忘れてはなりません。昨年の場合は新型コロナウィルスの感染経路や予防方法がはっきりわかっておらず、すべての産業の経済活動を最小限に抑えていました。経済的打撃は全産業・全国民に及び、一律で現金を支給する必要性がありました。今回の場合は自粛範囲を飲食に絞っており、経済打撃を受けた業界についても対面サービス業に集中しています。経済支援策もそこに集中投入した方が効果的です。

もうひとつ昨年全国民一律支給にした背景は、経済困窮状態に置かれている人を行政機関がどう選別するのかという問題があったからです。また支給の緊急性も求められていました。支援を受ける側はコロナ禍で所得が急減したことをどうやって証明するのかという問題がありました。しかしながら現在の場合、確定申告等によって所得状況が把握しやすくなっています。これに基づいて著しく所得が落ち込んでいる人に集中的に財政支援を行うことができるでしょう。

長々と書きましたが、定額給付金という手法が必ずしも最善の選択であるとはいえない状況にシフトしています。私はこれまでどおり事業者支援型の財政政策を継続すると同時に給付付き税額控除制度導入の議論へと軸足を移していった方がいいと考えます。この制度は既に様々な国で導入されています。

 とはいえどやはり家計が相当切羽詰まった状況に置かれている人がかなりの数に上るでしょう。政府は緊急小口資金制度を用意していますが、既に100万件以上もの貸付が行われています。実際にはこの10倍以上生計に困った人たちが存在するでしょう。

「緊急小口資金」100万件超 コロナ打撃、生計維持困難 | 共同通信 (kiji.is)

this.kiji.is

緊急小口資金制度は一応融資という形になっており、返済が厳しい場合は償還免除もあるようですが、借金は借金です。できればあまり使いたくないという気持ちが働いてしまいますし、申請手続きは申請者と受け付ける行政機関側双方に事務負担が重く圧し掛かってきます。そういう意味で定額給付金のように手軽に申請しやすい制度で支援してほしいという声が高まるのは当然のことでしょう。

 そこで着目すべき制度案が給付付き税額控除制度です。確定申告をされた方は承知のことですが、税には基礎控除が設けられております。いまの日本の所得税制ですと著しく所得が低い人は非課税にはなりますが、基礎控除以下の所得だからといってお金が支払われるような仕組みにはなっていません。給付付き税額控除制度の場合は控除分以下の所得ですとお金が入ってくる仕組みです。

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 いまのコロナ禍や災害、深刻な経済ショックで所得が激減した人に対し、きちんと税申告すれば控除額に満たない分の所得が補填される仕組みです。確定申告だけではなくマイナンバー制度を活用することで、公正な税徴収と税配分を実現できます。菅内閣が推進しているデジタル庁との親和性が高いでしょう。もちろんコロナ禍のように急激に所得が落ち込んでしまうような場合ですと、給付までのタイムラグが発生するので緊急小口資金制度や定額給付金のような制度と併用する必要が出てきますが、生活に困窮しているにも関わらず、公助がまったく受けられないという状況を少なくすることが期待できます。

それともうひとつ私が給付付き税額控除制度を推す理由は厚生労働省地方自治体の官僚たちの業務負担軽減というのもあります。コロナ禍が起きる前より霞が関の官僚たちは信じられないほどの超過勤務を強いられてきました。元厚生労働官僚の千正康裕さんが「ブラック霞が関」という本を著され大きな反響を呼んでいます。

給付付き税額控除とマイナンバー制度、デジタル庁を組み合わせることで、全国民の正確な所得データを捕捉し、それに基づいて給付が行えるシステムをつくることで、効率的な給付が可能となり、各行政機関の職員の事務負担が軽くなるのではないでしょうか。さらにいえばこのシステムが平時において整備されており、所得が低い人に限定して給付できるようになっていれば13兆円ではなく4兆円の政府支出で済むはずでした。

参考

なぜ特別定額給付金に13兆円かかったのか?|千正 康裕|note

 所得が低い人たちに手厚い支援を継続していくためにも、定額給付金の再支給よりも給付付き税額控除制度の実現を目指していくべきだと私は考えます。長い目でみればこの制度は「はやい・やすい・うまい」でしょう。

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個人向けの給付金ではなく事業者向けが多い日本のコロナ経済対策

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ここ最近個人向けの定額給付金の再支給を求める声が高まっています。これまで菅政権は一貫して定額給付金や持続化給付金の再支給を行わない考えを示してきました。いつも自分が視ている高橋洋一chでも「日本の経済対策は十分?給付金もう一回はないんですか?」という質問がきて、高橋氏は日本とアメリカで雇用や経済対策の考え方が異なるという解説をされています。

www.youtube.com

動画の質問のようにアメリカは個人向けの給付金を3回以上に支給しているのに、日本は2回目の給付金がない。それ以外にたいしてもらっていないし、経済対策が不足しているようにみえると思う人が結構いるかと思われます。しかし実際には日本国政府の経済対策の規模はGDP比でみた場合、世界で1位か2位という水準です。自分個人にまわっていくるお金がたいしてないから「日本は財政を出し渋っている」と思いがちですが、日本政府はかなり大盤振る舞いをしています。

ただし日本の場合はアメリカやヨーロッパなどのように個人に対し現金を直接給付するのではなく、事業者にお金を回すスタイルになっています。労働者を雇う事業者が倒産・廃業したり、解雇に踏み切らないようにし、失業増大を防止するという考えです。高橋洋一氏が述べているように経済政策で最も重要なことは雇用を守ることです。会社がどんどん潰れて人を雇えなくなってしまうことを回避することが基本です。

アメリカなどの場合は「どんどん会社を潰してしまっても構わない。失業した人の所得は政府が補償すればいい」と割り切った考えで個人向けの給付金を何回も支給しているのです。

ここは私の見解となりますが、今回の場合は企業の倒産・廃業を防止することを重視する日本式?のやり方がいいと思っています。潰れないはずの会社を潰さない。失業しないはずの人を失業させないという考え方を採るべきです。会社がどんどん潰れても新興産業や企業が次々と芽生えてきて、新しい雇用を生み出す状況ならばアメリカ式でもいいのですが、日本の場合だと一度会社が潰れたら潰れっぱなし、失業したら失業しっぱなしの状況に陥りかねないと私は想像します。仮に新しい産業や企業が興されるとしても順調に収益を伸ばせるまで長い時間がかかるでしょう。技術継承の問題もあります。その間生産活動や雇用回復までかなりのタイムラグが発生することを想定しないといけません。あと解雇された労働者たちが別の産業や企業へ移って活躍できるようにするには就労訓練などの時間やコストがかかります。それは大きな時間のムダでしょう。本来であれば存続可能な既存企業を温存し、雇用契約を継続させておく方が「はやい・やすい・うまい」経済回復になると思います。

コロナ経済対策として考えた場合、個人向けの定額給付金が最優先とすべきものなのかというとそうではないのです。もうひとつ生活困窮者への支援策として考えても、やはり定額給付金は最善解ではありません。昨年2020年春に行われた定額給付金については行政側で支給対象者を選別している余裕がまったくなく、それをすること自体が感染拡大を招く恐れがあったために択ばざるえない方法でした。緊急の一時金といった性格のものです。そして昨年と今では状況がかなり異なることに注意が必要です。今年1月からはじまった2回目の緊急事態宣言ですが、これは営業自粛対象を飲食店に絞り込むなどピンポイント型になっています。経済的損失を被る業界も対面サービス業に偏っています。いちばん損失が大きな業界や事業者に財政を振り分けていくやり方の方が必要なところへ手厚く支給する方が望ましいでしょう。

何度か紹介してきましたように、既に政府は事業者向けだけに限らず個人向けについてもさまざまな支援策を用意しています。

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しかしながら個人向けの支援策については政府側がかなり積極的に広報しても制度の周知が広まらなかったり、制度対象から外れて利用できなかったなどの理由でいまいち利用が進んでいなかったりします。かなりたくさんのメニューが用意されているのですが、正直細かい制度が濫立しすぎていて縦割りの印象を与えます。

一律支給の定額給付金の再支給を求める人たちは縦割り型の支援制度から漏れてしまう生活困窮者が多く出てしまうことを指摘しますが、その点は一理あると私も思います。

今月3月に入って政府与党側から新型コロナウイルス禍で困窮する子育て世帯に臨時の給付金を再支給する検討するという報道が流れました。過去2回の支給は低所得のひとり親世帯が対象だったのですが、新たに2人親の世帯も加えるとし、金額は従来と同じく第1子5万円とする案を軸に調整するようです。支給対象をかなり限定してしまい、おまけに支給額もかなり低いので、かなり不満が出てくるでしょう。

news.ameba.jp

財務省定額給付金・持続化給付金への抵抗がかなり強いようです。

www.nikkei.com

引用1

 新型コロナウイルスとの闘いで非常時の財政運営が続いている。1人10万円の特別定額給付金や中小企業向け持続化給付金の再実施を求める声がくすぶる。財務省はこうした現金給付に反対し、その脱却が財政正常化に向けた一歩だと位置づける。

引用2

財務省は使途を限定せず幅広い対象に配る給付金は一時的な需要の穴埋めにすぎないとみる。給付金の繰り返しが定着すると、財政再建の道筋を描けないと懸念する。持続化給付金を終了するため、代わりに業態転換に取り組む中小企業に最大1億円の補助金を導入したのは「給付金よりも目的がある補助金」という財務省の考えがにじむ。

 引用3

政府内でも3月中旬にまとめる緊急支援策に困窮世帯向けの給付金を盛り込む意見が出る。矢野氏は「必要だというエビデンス(証拠)を示すべきだ」と訴える。財政再建に向けた「譲れない一線」を守ろうとする財務省の攻防は続く。

財務省の役人たちは政権与党側が用意した制度にあれこれ細かい条件をつけて、制度を利用させないように仕向けているのではないかと思えてなりません。これですと困窮しているにも関わらず制度の対象から外れて救済されないという事態を生んでしまいます。

定額給付金にこだわる人たちはこの漏給を嫌がっているのでしょうが、その問題を克服し、さらに必要な人に割と手厚く継続的に現金支給ができる制度があります。給付付き税額控除制度です。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

最近ベーシックインカム導入を推す声も強まっていますが、これですと既存社会保障制度の再編や様々な誤解と偏見によって実現性がかなり低いです。しかし給付付き税額控除はすでに数多くの国が導入しています。

この制度を使えば税申告で所得が著しく低い人を捕捉し、公正に現金給付を行うことができます。

定額給付金を再支給してもらえるにしても、せいぜいあと1回か2回です。これに執着するよりも、必要な人に継続支給できる給付付き税控除の実現を訴えた方が得策だと自分は考えます。この制度は厚生労働官僚や地方自治体職員らの業務負担軽減にもつながり、財政負担の面でもさほど重くない制度です。(約数兆円程度)日本においてこの制度が無かったために全国民10万円一律給付で12兆円をかけて定額給付金を支給せざるえませんでした。給付付き税額控除の場合ですとそこまでの財源を必要としません。給付付き税額控除の方が結局安上りではないでしょうか。

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緊急事態宣言再延長がもたらすサプライサイドの壊死の進行

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今年1月から新型コロナ感染数増加によって政府から再発令された緊急事態宣言ですが、先月1ヶ月間今日3月7日まで延長されることになっていました。 もうすぐそれが解除され、休業や営業時間の短縮などで営業活動を自粛し続けてきた事業者が、その再開に向けて奮起しようとしていたことでしょう。その矢先に、東京都がコロナ病床数を過少報告していたために都内の病床使用率が100%前後と満床状態が続いているという誤情報が流れてきまいました。結局政府側は信憑性の高いデータがない中で緊急事態宣言解除の判断をしなくてはならなくなり、もう2週間延期という決断を下さざる得なくなったのです。それから都が国基準のコロナ病床数を大幅に上方修正し、病床使用率が86%から33%に急減しました。

小池都知事はどうも政府に緊急事態宣言を延長してもらいたがっているようで、そのための下らない小細工に見えます。かなりあざといです。このようなことは今回だけではなく昨年の緊急事態宣言中もやっていたことで、入院患者を過大に発表する一方、確保病床を過少に報告していました。延長が決まった直後に大幅な修正を行い、100%超と報じられていた病床使用率が、実は5割未満だったのです。

news.yahoo.co.jp

小池都知事の身勝手な行動によってゴールポストが動かされ、それに政府も振り回された格好になります。政策判断がおかしなかたちで歪められてしまいました。これによって大きな損害を被るのは民間事業者や国民個人です。これまで2か月ほどの辛抱だと思って耐えてきた人たちに失望感を与え、厭戦気分を広めてしまいます。これ以上の自粛期間延長によって事業継続を断念して廃業を選択する事業者が出てくる可能性もあるでしょう。多くの国民の間にも「もうコロナ感染の収束はないのではないか」というあきらめの気持ちがひろがってしまい、このままずっと陰鬱な状態で過ごすしかないという思い込みを深めます。延々と何時間も重い荷物を背負って歩かされてきて、もうすぐ終点だと思っていたところで「まだ終点ではなかったです。もう~km歩いてください」などと言われたら一気に疲れが襲ってくることでしょう。完全に心が折れて挫けてしまいます。それと同じです。

今回のコロナ禍は不確実性がものすごく高く、先の状況がまったく見えないところに始末の悪さがあります。いまの鬱屈した不安定な状況が永久に続くのではないかという不安と絶望感が人々を襲います。コロナ禍がはじまってから人と人の接触機会が減ってしまい、孤立感や疎外感を覚える人が少なくないでしょう。女性しかも若い方の自殺が増えているといわれます。今回の緊急事態宣言の再延長がもたらす禍根は解除後にも大きく深く遺される危険性が高いと私は思います。

 

私はこことは別の経済ブログである基礎知識編の中で「サプライサイドの壊死」をテーマに3本の記事を書きました。「サプライサイドの壊死」とはモノやサービスといった実物財を生産したり供給する活動が萎縮し、産業が衰退していくことです。雇用の不安定化やデフレによる賃金低下などによる労働者の就業意欲の衰弱や職能の腐食も進みます。これは経済活動の死、資本主義経済・自由主義経済の死に結び付くものです。

民間企業がどんどん弱っていき、優れたモノやサービスの生産活動ができなくなっていくことはやがてかつての社会主義国家と同じようにモノやサービス不足状態に陥り、最終的には悪性インフレを招くような状況を生みだしかねません。

日本に限らずアメリカやヨーロッパなどではコロナ禍で民間産業が死滅することを回避すべく、政府や中央銀行空前絶後財政出動や金融緩和政策を実行し、事業者や国民個人を護ってきました。この緊急措置は心臓外科手術に例えると一時的に心肺を停止させて、人工心肺で術中の患者の生命を維持してきたようなものです。ただしこのようなことを2年、3年も続けるわけにはいきません。国家財政規律の問題よりも、長い期間人々が生産活動から遠ざかることでサプライサイドの壊死が進むことの方が深刻です。先の見通しが立たないことで事業継続を断念して廃業したり、失業を機に就労意欲を失って生産活動に人々が戻らなくなることが本当の危機です。

日本の政府は世界的にみてもかなりの規模の財政出動を行って、民間事業者を必死に支え温存させることに力を尽くしました。しかし自粛期間があまりに長期化してしまうと民間事業者の生産基盤や労働者の職能がどんどん壊死していきます。そうなるとお金で解決ができない問題になってきます。一度潰した会社や店はコロナ危機が収束しても元に戻りません。凍傷で壊死した指や鼻先、あるいは心筋梗塞で壊死した心筋と同じことになります。小池百合子という人間はそのことをわかっていないのです。

国会で新年度予算案の審議が進みましたが、今回の緊急事態宣言再延長で有効需要不足がさらに拡大し、失業増加の危険性が高まっています。当然それを埋めるための新たな財政負担が求められるでしょうが、やむを得ないことです。腹立たしいことですが、打つべき手を着実に売っていくしかありません。

 

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そもそもバブルって何?

 
最近経済評論家やマスコミとかがやっている「いまの株高はバブルだー」という奇妙な煽りについての批判の第3回目です。今回は「バブル」って何?ということの定義をはっきりさせておきましょう。あいまいなイメージだけで「バブルだー」とか「実体経済から乖離した株価高騰」などというのは頓珍漢な話です。

 

3度目になりますが、株価というのは現在(いま)の経済状況を映しているものではありません。将来の予想や期待を反映させたものです

バブルとは何かについての話に入る前に、株価ってどう決まるのかを知っておいた方がいいでしょう。自分のツイッターのフォロワーさんのツイートでいいものを見つけました。琉球大学の経済学教室が作成した動画です。

 

バブル とは何か(No53) 安易に使われがちな経済用語「バブル」の意味を正しく理解しよう - YouTube

 

 

この動画によればバブルというのは「投資財の価格がファンダメンタル価格を上回る価格で取引されている状態」となります。投資財とは株式とか不動産に限りません。石油、小麦やサトイキビといった食糧品、過去にはチューリップの球根などもそれにあてはまりました。

 

ファンダメンタル価格とは何かというと、投資財に関して、将来に渡って得られるリターン(見返り)となる収益を現在の価値に割り引いて計算することで求めた理論的適正価格です。

 

このファンダメンタル価格を算出する数式がこれです。

 

竹中平蔵氏の説明についても紹介しておきましょう。

竹中平蔵【金利と株価】金利が上がれば株価はどうなる?基本を考えればすぐ分かる! - YouTube

 

株価というものはその株を買った人が将来に渡って得られる配当金の総額を、金利とかリスク要因から成り立つ割引率で割り出したものだというのが竹中氏の説明です。

 

3つめの説明です。村宮克彦 大阪大学大学院経済学研究科 准教授が作成したものです。

Watneyオンライン講義 - 第9回 — 価値評価の考え方 — エンタープライズDCF法・残余事業利益モデル (osaka-u.ac.jp)

 

投資先の企業が正当な商工業活動によって収益を伸ばし、それによって出資者の期待通りに配当金が配れ続けていったならば何の問題もありません。それによって株価が上がっていくことはバブルでもなんでもないのです。

 

バブルという状態は投資財に将来実際に殖える実益や見返り(リターン)をはるかに超える価格がついてしまう状況です。

 

現在予想や期待したものが、そのとおりになるのかは将来になってみないとわかりません。過去に行った予想や期待によって値付けされた投資財が適正な価格だったのかどうかは事後的にしか判断できないのです。実体経済と株価の乖離」などといっている人たちは現在しかみていません。いまの状況だけをみて「バブル」だとか言うのはそもそもおかしいですし不可能なことです。そんなことができるのは超能力者です。

 

とはいえど投資家たちがふわとした予想や期待だけで、企業や事業に対し出資するようなことはしないでしょう。投資先の企業の健全性や将来計画、事業が成功する見込みなどを調べて資金を投ずるはずです。ビジネスの世界には良くも悪くも、確率論だけで予測できない「まさか」という不確実性が存在しますが、それでも企業が進める事業が成功するのかしないのか、収益を伸ばせるのかどうかなどといったおおまかな予測ができるでしょう。

 

しかしバブル状態になってしまうと、そうした冷徹な投資先の企業の経営分析や事業成功の確率、便益対費用分析(B/C)が行われず、銀行の場合ですと融資の際の与信審査が極めて杜撰になります。日本では1980年代においてひどい放漫経営をしている企業の株でも高値で取引されてしまったり、銀行による濫脈融資が平然と行われていました。まともに考えたらとても成功しないようなトンデモ事業をイケイケで進めてしまい、大火傷を負うような企業が続出します。冒頭の数式によれば本来得られるd(=見返り・収益)がさほど大きくなく、X(=ファンダメンタル価格)が大きくない企業の株や事業であるにも関わらず、「この株は絶対値上がりする」といって投資家たちが飛びついてしまったのです。

 

琉大の動画に戻りますが、バブルの弊害とは何かについても述べています。

それはたくさんの投資家たちが本来ファンダメンタル価格が高くない、ひどい会社の株を高値掴みして破産してしまうことではありません。動画の説明ではほんとうのバブルの弊害とは金融システムの不効率化で本来優れたアイデアをもった企業に資金が供給されるのではなく、かなり乱暴で杜撰な経営をしているような会社や事業に資金が過剰供給されてしまうことにあるとしています。

本来投資家というのは自分が資金を提供する企業や事業が、正当な商工業活動によって多くの人々に高い便益や福祉の向上につながるようなモノづくりやサービスづくりを志し、またそれを実現する能力があるのかどうかを目利きする社会的責務があります。銀行もそうです。(半沢直樹みたいなサムライバンカーが理想だが) バブル期は投資家や銀行などがそれを怠り、杜撰な投融資を行ったことで、恐ろしく収益性が悪い事業に資金が流れ込んで、カネをドブに捨てたような結果になりました。琉大の動画でが「金融システムの効率が損なわれる」と述べていますが、社会全体、日本経済全体の生産性を著しく下げることになったのです。

 

バブル期に無駄な事業に注ぎ込まれ、空費したのは資金(カネ)だけではありません。労働者の労働力、時間、資源も消耗させらました。バブル期のときから既に長時間労働やそれによる過労死が問題視されており、JR東海が「日本を休もう」というCMを流していた時期がありましたが、琉大の動画を視て「原因はこれか!」と頷かされました。バブル期から日本の産業の不効率化がはじまっていたのです。

 

さらに金融システムの効率が損なわれるという問題はバブル期だけで終わりませんでした。その後の「失われた~年」といわれる1990年代以降の慢性的デフレ不況期もそれを引きずります。バブル崩壊後は株式が逆にファンダメンタル価格を下回る価格で取引されるようになりました。投資家たちは投資を積極的に行わなくなり、優れたアイデアを持った企業に潤沢な資金が供給されなくなります。お金はモノやサービスの生産のための資金として活かされず死蔵されてしまいました。流動性の罠です。

 

通常の金融緩和が効かなくなる流動性の罠 その1 IS-LMモデルについて | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

お金が貯蓄として死蔵されてしまう流動性の罠 その2 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

バブルとその後の「失われた~年」がもたらした弊害は言い方を換えると莫大な機会損失であったといえます。株式の取引が正当なファンダメンタル価格に沿って行われていれば、まっとうな企業に資金が行き渡り、優れたモノづくりやサービスの生産が進んでいたはずなのに、半世紀以上にも及ぶ歪んだ株取引でそうならなくなってしまいました。資金が企業に潤沢に行き渡らなくなり、次世代技術や製品開発のための投資がままならなくなり、日本の産業競争力がみるみると劣化していきます。

 

バブル期のように株式がファンダメンタル価格より高く取引される状態でも、その逆の「失われた=年」のときのように不当に低い価格で取引されてしまう状態でも、金融システムやモノならびにサービスの生産効率を下げてしまい、サプライサイドの壊死を進ませることになります。

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いま金融緩和政策をやめるのは愚策

今月2021年2月中旬に日経平均の株価が1990年8月以来、30年6カ月ぶりに3万円台まで上昇したため「バブルが発生した」と言い出す人たちが出てきました。前回の記事で村上尚己さんの動画や記事で使われていた日米の株価のグラフを引用させていただきながら、バブル発生だというのはあまりに大袈裟だという話をしました。

いまはバブルなの? | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

アメリカで「ひどいインフレが起きる」は本当か | インフレが日本を救う | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

 

日本の株価は3年前の2018年1月までぐんぐん伸びていたのですが、そこで頭打ちとなり以後コロナ禍をはさんだ今日まで足踏み状態だったのです。また最近やっとそのときの水準まで回復できたというに過ぎません。むしろ日本の株価の動きはアメリカに比べて遅れていたぐらいです。

高橋洋一さんのコラムで使われたグラフをみるとさらにわかりやすいです。

日本の株価は2009年以降から回復がはじまったアメリカから数年遅れ、2012年ごろから伸びます。それ以後は日米ともに足並みをそろえるように株価が上昇しています。

 

そもそも株価というものは経済活動の発展とともに上昇し続けるのが当たり前のことで、日本のように鍋底みたいなかたちで株価のグラフが推移するのは異常なことです。

 

それと株価というのはいまの企業の業績とか経済状況ではなく、将来の予想や期待によって動くものです。多くの人はコロナ禍で多くの企業が打撃を受けている現在の状況をみて「株価だけが高くなっていて実体経済と乖離している」などと勘違いした発言をしますが、株式投資家の目線は先を見ているのです。新型コロナワクチンの接種が進み、アメリカのバイデン新政権が大型の金融財政政策を打ち出す姿勢をみせていることを好感して買いに走っているのです。

 

もちろん中央銀行ETF(上場信託投資)やリスクの高い債券を積極的に買い入れすることで株価が高く維持されています。しかしこのオペの目的は株式投資家の利益を守ることよりも、企業が保有する株式などの資産価値が縮小してバランスシート(貸借対照表)の右側である資産側の方だけが縮小、負債側だけが高いままになって財務状況が悪化することを防止します。1990年代に民間企業のバランスシートが崩れて、債務超過になって経営破綻したり、原材料費や関連企業への支払い、研究開発、そして雇用といった投資を大幅に抑制せざるえない状況に陥っています。

バランスシート不況

 

おまけに日銀が株式を購入を増やしたといっても、昨年3月にETF購入枠を6兆円から12兆円へと拡大しただけです。購入枠は6兆円の増加です。株式市場全体の時価総額は700兆円もあり、その1%にも満たない額にすぎません。「大河の一滴」です。

 

私は「実体経済と乖離した株価の上昇」とかいっている人ほど、実はいまの企業が置かれている状況をわかっていないのではないかと思えてなりません。

 

コロナ禍という極めて理不尽な理由で巨額の負債を抱えなくてはならなくなった民間事業者・個人の債務負担を少しでも軽くするためには金融緩和政策が不可欠です。金利負担を軽くし、資金繰り悪化を防止しないといけないからです。

 

そんな中でおかしなコラム記事を目にしました。

原油高などによる思わぬ物価上昇に注意(久保田博幸) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

 

奇妙な記述を抜き書きしておきます。

 今回も同様の事態になる可能性もある。これでやっと日銀にとって念願の物価目標が一時的に達成するかもしれない。しかし、これによって日銀が出口に向かうかといえば慎重姿勢を示すことが予想される。一時的と考えれば当然ではあるが。

 

 しかし、1990年台のバブル崩壊時のように1980年台の日銀の長すぎた緩和策がバブルを引き起こしたのではとの批判も出ていた。今回はいろいろとバブルが起きつつあるように思われる。それにブレーキが掛けられる体制作りが必要なのではないか。そのための日銀の3月の点検でもあってほしいのだが。

どうも久保田氏ですが、いまの状況を「バブルだ」と言っているだけではなく、原油価格の上昇による物価上昇で「日銀にとって念願の物価目標」が達成などと短絡的にとらえているようです。この方はリフレーション政策におけるインフレターゲットの意味が全然理解できていません。

 

2013年以降の日銀による異次元金融緩和において物価上昇率2%のインフレターゲットを導入した理由は単純に物価を上げることが目的ではありません。このことは元日銀副総裁であった岩田規久男氏らが以前よりしつこく説明し続けていることです。「2%の物価上昇が達成できなかったからリフレーション政策は失敗」などというのは半可通です。

 

なぜリフレーション政策で中央銀行が物価目標をコミットメントするのかというと、その目標達成まで金融緩和の手を緩めないという強い意志を銀行などから資金を借り入れる民間の経営者たちに示すことで、安心して大型投資や事業拡大を計ってもらうことが狙いです。マネタリーベースをじゃぶじゃぶにしておけば金利が上がりにくくなります。そういう状況を中央銀行が自らつくっておいて身を切る覚悟を市中に示します。

 

そしてやがて物価が上がるという予想は資金を投ずる企業経営者からみて実質金利を下げることになるという説明もしました。フィッシャー方程式です。

実質金利名目金利-期待インフレ率

 

インフレターゲットの意味は実質金利を下げて民間企業にお金を積極的に遣わせることが目的です。資金調達や借入れコストの負担が軽くなった企業が事業を積極的に拡大すれば雇用も改善し、就労者への所得分配が加速します。所得が増えた就労者は積極的にモノやサービスを買い求めて消費活動が積極的になるでしょう。となってくると最終的に需要増加で物価も上がってくるというのがリフレーション政策の筋書きです。物価上昇といっても企業の投資・事業拡大や雇用回復、消費増大を伴わないものならばリフレーション政策の成功だとはいえません。原油価格上昇だとか不作などによる生鮮食料品などの価格上昇による物価上昇で、金融引き締めなどありえません。

 

FRB議長のベン・バーナンキらは「体系的な金融政策と石油ショックの影響について」という論文にて「石油ショックは国内の消費者の購買力が産油国に移転することに他ならないから、景気を維持するためには、失われた購買力を何らかの手段で補填する必要があり、このような局面でさらに購買力を削減する金融引締めは逆効果」と述べていたようです。

バーナンキは短絡的に物価上昇が起きたら金融引き締めではなく、消費者の購買力の方を注視して判断すべきだということを言いたいのでしょうね。

 

もうひとつ変な記事です。

株価3万円でも景気に慎重 政策修正控える日銀の真意: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

 

こちらは株価の動きだけをみて金融政策の動向を騙ってしまっていますね。

 

金融政策の判断は民間企業がどれだけ積極的にお金を遣って事業を活発に進めているのか、そして雇用や就労者への所得分配と彼らの消費意欲が高まっているのかをみてすべきです。原油価格高騰による物価上昇とか株価だけをみて金融政策を引き締めるのか緩和するのかを判断するのは愚の骨頂にもほどがあります。

 

ほんとうに情けない日本の経済評論家とマスコミです。

 

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いまはバブルなの?

 

「サプライサイドの壊死」をテーマに何本も記事を書き続けていて、まだその途中ですが、気になった記事とか発言をいくつか目にしたので注意書きを記すことにしました。それはここ最近の株価上昇の動きをみて「バブルだ」と騒ぐ人たちが多いことです。

 

今月2021年2月中旬に日経平均株価が約30年半ぶりに3万円台を回復しました。日本がバブル景気に沸いていた時代であった1990年8月以来のことですが、その時代の株価になったからということで「バブル再来だ」となっているのでしょうか。

 

それと他にも出てきているのが「株価と実体経済の乖離」という発言です。新型コロナウィルス感染拡大によって経済活動が大きく抑制され、企業の業績が伸びていないはずなのに、株価がこれだけ上がってしまうのは不自然だということでしょうか。あとこちらのブログでも説明してきましたように量的金融緩和政策で中央銀行が積み上げた準備預金ですが、その一部が株式市場などに流れて株高になるという現象があります。あと中央銀行ETF(上場投資信託)を買い入れして株価の維持を計ってきました。つまりは政府や中央銀行の金融緩和政策によってもたらされた官製相場で、いびつなものだと思っているのでしょう。

しかし日銀のETF買いといっても昨年3月にETF購入枠を6兆円から12兆円へと拡大しただけです。購入枠は6兆円増加ですが、株式市場全体の時価総額は700兆円もあります。6兆円はその1%にも満たない額であり、風呂桶にバケツ一杯分の水を足した程度の話でしかありません。「大河の一滴」です。

 

いまの株価はそこまで極端なものでしょうか?村上尚己さんが出演されているネット番組「村上尚己のマーケットニュース」でつかわれていた日米の株価推移のグラフをみますと、1980年代のようなバブル状態からほど遠いことに気がつきます。

 

同じく村上さんが書かれた東洋経済の記事も読んでいただきたいのですが、株高になったといっても3年前の2018年1月の株価水準を取り戻しただけという動きでしかありません。

 

アメリカで「ひどいインフレが起きる」は本当か | インフレが日本を救う | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

 

 

そもそも正常かつ持続的な経済成長を続けていたならば株価もそれに伴って上昇していって当然です。上のアメリカの株式市場のグラフをみるとリーマンショックのときなどで深い谷がいくつか発生していますが、それでもおおまかに見れば右肩あがりで株価が上昇し続けています。日本の場合は1990年代から鍋底みたいな値動きをしていました。これこそが異常です。

 

ここで先に述べた「株価と実体経済の乖離」という違和感について述べておきますと、それを抱く人は現在の経済状況をみてズレていると思っているのです。ここで注意すべきは株価というものは現在(いま)の状況で決まるのではなく、将来の予想と期待で動くものだということが理解できていないのです。コロナ禍によって多くの民間企業が痛めつけられてきましたが、既に新型コロナワクチンの接種が世界各国ではじまっています。アメリカの場合ですと、ジョー・バイデン新大統領が大型の金融財政政策「アメリカンレスキュープラン」を打ち出したことで、経済復興がかなり進むことが予想されます。(かなり進むどころか景気が過熱し過ぎるのではないかということでジャネット・イエレン財務長官とローレンス・サマーズが論争をはじめているぐらいですが)

 

日本においても先日発表された四半期GDP1次速報でも昨年2020年の10-12月期実質成長率が前期比+3.0%(年率+12.7%)と2期連続のプラス成長、消費は前期比+2.2%、設備投資は半導体製造装置、ロボットなど底入れの動きで同+4.5%、輸出も自動車、中国向け電子部品等が好調で同+11.1%でした。次は緊急事態宣言再発令が敷かれますので恐らく数値が悪化するでしょうが、思っているほど悪くはありません。今回のコロナ禍は観光業や飲食業などの対面サービス業がかなり深刻な打撃を受けていますが、それについて政府側の財政支援で需要減を補償されております。さらに企業の休廃業・解散が記録的な低水準で二年ぶりの減少となっています。政府の財政政策がサプライサイドの壊死を最低限に抑え込んだといえましょう。

 

企業の休廃業・解散、全国5万6千件 2年ぶり減少、抑制傾向で推移|TDBのプレスリリース (prtimes.jp)

 

 

モノやサービスの生産を担い、雇用を創出する民間事業者の倒産・廃業を防げば、コロナ感染収束後の経済復興もいち早く進みます。今回の場合は通常の不況とことなり、感染症拡大防止のために経済活動を抑制したり需要が一時的に急減している状態です。感染収束が進めばそうしたネックが解消され、需要の盛り返しが期待されます。

 

株式投資家たちはそこまで先を悲観視していないということになるでしょう。

 

それと昨年書いたことですが、株価というものは実体経済や雇用にも大きな影響を与えます。1990年代にバブルで高騰していた株価や不動産の価格が急落するのですが、そこで企業の財務バランスシートの資産側に含まれる株式や不動産等の資産価値が収縮してしまいます。負債側が大きいのに資産側が一気に萎むことで債務超過に陥ったり、そこまでいかずとも事業のために使う投資がままならなくなり、設備投資や雇用拡大ができなくなってしまいます。結果的にその企業の就労者や関連企業にしわ寄せがいったのです。

 

株価下落とバランスシート不況発生、雇用悪化との関係 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

株価の維持は株式投資を行う資産家だけのためではないのです。雇用を守る上でも重要です。

 

景気過熱の心配なし、資産バブル「見当たらず」=NY連銀総裁 | Reuters

 

引用

一部の専門家は、市場のフロス(細かなバブル)やリスクテークの存続を容認すれば金融システムが危険にさらされると警告しているが、ウィリアムズ氏は、非常に好調な資産価格の背景に「米経済や世界経済が今後力強く回復し拡大するとの投資家の楽観的な見方があり、将来にわたって低金利が続くとの期待も織り込まれている」と分析。資産価格が「暴走」していることを示す「証拠は見当たらない」とした。

そもそも「バブルだ」という人はバブル経済をどう定義づけているのでしょうか?私の目から見たらそれがはっきりとわかりません。

 

私的にいえば資産バブルというのは(実物)財・貨幣・資産(株式や不動産など)市場の超過需要の総和は0(ゼロ)であるというワルラスの法則的にみたとき、資産市場の超過需要が異常に高くなっている、あるいはそれがどんどん進んでいくという予想や期待が暴走した状態だと捉えています。

ついでに言いますとデフレ状態というのは貨幣市場の超過需要がどんどん膨らみ続ける状態で、「お金のバブル」という言い方がされます。モノやサービスといった実物財よりもお金の価値がどんどん重くなっていく状況がデフレです。ハイパーインフレが起きるときは実物財の超過需要が極端に高くなってしまいます。

日本のバブル期においては今ですと信じがたい話ですが、「株式や不動産などの資産価値が下落することはない」などということがいわれていました。つまり「永久に株価や不動産価格が上昇し続ける」という予想や期待が極端に強すぎたのです。アメリカのサブプライム住宅モーゲージも同様でした。

 

現状を見る限り、そうした極端な予想や期待がぶくぶく膨張していくような動きが起きているように私は思えません。

 

「バブルだ」という人々は中央銀行の大規模な(量的)金融緩和政策を有害視する場合が多いのですが、こうした人たちが不安を煽って各国中央銀行が行っている(量的)金融緩和政策の拙速な解除をさせてしまうことの方が大きな経済・金融システムの混乱を招く危険性があります。私はリフレーション政策についても人々の予想や期待が重要であると申し上げてきましたが、予想や期待というものは経済を動かしている人々の心理です。現代の金融財政政策は人々の心理や行動を読み取りながら進める繊細なオペレーションであります。

 

私がこのブログ上で常々申し上げていることは、民間事業者によるモノやサービスの生産活動をしっかり支え、それによる雇用の拡大・維持こそを最優先すべきだというものです。いま政府と中央銀行が担うべきミッションは民間事業者が自立的な経済活動意欲を取り戻すまで、責任をもって金融政策と財政政策によるアシストを行うことであり、その責任を果たすコミットメント(誓約)が必要なのです。

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