新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

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変節したアベノミクスと再びまわり始める日本経済の終末時計の針

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2012年末の政権発足以来、私は第2次以降の安倍政権が目玉政策として採り入れてきた異次元の金融緩和政策を軸とする経済再生政策アベノミクスをこれまで支持し続けてきました。

このブログの「デフレと失われた20年 」カテゴリーに書かせていただいたとおり、1990年代からずっと日本は金融政策を軽視し続け、その結果資本主義経済の原動力というべき民間企業の経営活動や雇用を萎縮させる一方でした。当然多くの勤労者たちの所得や生活は不安定になり、漸減しつづけます。

「バブル退治の鬼平」といわれた三重野康総裁以来、日銀やその背後にいる財務省および銀行をはじめとする金融関係者は金融緩和を渋り続け、1990年代末期にゼロ金利導入やこれまで前例のなかった量的緩和政策といった手を打ったとしても、景気が十分回復しないうちに緩和解除を行って、不景気を慢性化させてしまうという愚策を続けます。

これが白川日銀総裁時代まで続いたのですが、安倍晋三氏は政権奪還前より金融政策と財政政策を組み合わせたリフレーション政策に強い関心を持ち、総理就任後にその導入を計ります。この結果企業の投資(研究開発費や設備など)と雇用が劇的にV字回復を遂げます。(雇用はその前から回復しはじめたなどと屁理屈をこねる人がかなり多いが、投資の動きや新卒学生の求人倍率に大きな変化が起きたのはアベノミクス以降)

2014年に消費税を8%に増税したときなどで、もたついた時期があったものの、安倍政権下で企業の設備投資と雇用は右肩あがりに上昇してきたといえます。

ところが昨年末から今年はじめにかけて、景気回復の動きに陰りが目立ちはじめます。アベノミクスで企業の投資と雇用の方は改善したものの、それが一般家計の消費拡大までつながったとはいえないままです。さらにアメリカと中国との貿易戦争やUKのEU離脱問題などといった世界経済の不透明感が増してきて、外需の方も怪しくなってきています。

 

にも関わらず安倍政権は思い切った景気対策を打ち出すどころか、消費のさらなる冷え込みが予想される消費税10%増税を10月に実施することをそのまま黙認してしまいました。今年4月~5月までは衆議院を解散させ、衆参ダブル選挙に持ち込み、安倍総理が消費税増税凍結の英断を下すのではないかという期待を持たれていましたが、そのあては外れました。

金融政策側についても、日銀・黒田東彦総裁はすっかり財務省の役人の地金が出てきて、ナマクラな態度をとっています。よくて「消費税10%増税を認めたのだから、追加緩和してやるか」と儀礼的に追加緩和、悪ければ何もしないといったところでしょう。

 

ここのブログで小泉純一郎政権の末期である2006年に、日銀の 福井俊彦 総裁らが、経済財政担当大臣であった与謝野馨らに押される形で、これまで続けてきた量的緩和政策を「ゼロ成長から脱した」ということで緩和解除してしまったことを書きました。

拙速な量的金融緩和の解除と景気・雇用の再悪化

 

その結果、再び中小企業を中心に倒産・廃業が出始め、少し改善傾向にあった雇用も、本格的な賃上げの動きが出ないまま鈍りはじめます。(このことが「実感なき景気回復」だとか「格差拡大」などという批判を生む原因となった)

 

安倍政権もやはり小泉政権と同じような批判を後々まで受け続けることになりかねません。

 

安倍政権の行く末自体は個人的にどうなってもかまわないのですが、問題は現時点の日本の政界で骨太な経済政策を打ち出すことができる政治家や政党がほとんどいないということです。金融政策についてしっかりとした理解ができている政治家は安倍総理菅義偉官房長官山本幸三議員、和田政宗議員、渡辺喜美議員、馬淵澄夫議員とわずか数名しかいません。

 

残念ながらアベノミクスで一時とまっていた日本という国の終末時計の針が再び動き始めたといっていいでしょう。日本の民間企業の活動が萎縮し、雇用もまた鈍って、国民の生活が不安定化していく危険性が出てきています。

 

現在失業率が2.2%にまで下がるほど、未だに雇用が堅調な状態が続いていますが、この状態がさらに長く続かないと、多くの就労者=消費者たちは「自分たちの所得は安定的に伸び続ける」という予想や期待を持たないでしょう。いつまで経ってもデフレから抜け出せないままです。

 

本当はアベノミクスで国民に「政府と日銀は雇用を維持し守ることができる」という信頼感を与え、人々の生活に安心感を生み出すことができたはずでした。しかし中途半端なところでせっかく成果が出ていた金融緩和や財政政策を撃ち止めにしてしまうことで、国民に「どうせ自分たちの生活はよくならない」という負の暗示を植え付けさせることになりかねません。人々の勤労意欲をどんどん失わせ、やがて日本は底辺国へと成り下がっていく可能性があります。それこそ「日本の経済力を弱めることに加担したのはあなたではないか! 」で取り上げた野口悠紀雄氏が書いたコラム記事みたいなことが現実化するかも知れません。

 

終末時計の針を止めるには国民ひとりひとりが、正しいマクロ経済政策の知識を持ち、政治家を動かしていくしかありません。とくに日本人は金融政策に対する理解があまりにプアです。このことがかつては世界中を席捲した日本の民間企業の存在感を失わせる元凶になったことを覚えておいてください。

 

 

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