新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

消費税の増税で国家財政と社会保障問題の解決ができるのか?

今回も消費税と社会保障社会保険を中心に)の話で、「消費税の増税を受け入れれば社会保険料負担が軽くなる」ということや財政再建は期待できないということを述べていきます。

前回の記事「消費税増税で社会保険料負担が減ったりしない。」とひと月前の記事「消費税増税で社会保険料負担軽減などという嘘に騙されるな! 」と関連する話です。

 

「消費税の負担よりも公的年金や公的医療保険などの社会保険料の国民負担がどんどん増してしまっていることをなぜ黙っているのか?」と声高に叫び、社会保険料(税)の引き上げ抑制を訴える人が増えています。社会保険料社会保障財源を賄うよりも消費税で負担をした方が「広く薄く公平」で痛税感が減るのではないかと期待しているのです。

私はそれは極めて甘い見方だと注意しました。

そうした主張をしている人はどうも消費税率を数%程度あるいは税率20%上げれば済む程度だと思っているようですが、私はそういかないと見ています。

このことは改めて書きたいところですが、まず社会保険財政や政府の一般会計の財政悪化がどういう流れでそうなったのか確認する必要があります。

「国家財政破綻の危機を避けるためには消費税などの増税が必要だ」と主張する人たちは社会保障費の歳出が急増していることを理由にあげます。それに対し社会保険料収入が伸び悩んでいるため、政府一般会計からの公費負担で赤字分を補填しており、一般会計の社会保障費の歳出額と割合が膨れがってきています。令和元年度の一般会計が負担する社会保障費は平成2年度の3倍になっています。 

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引用 膨張する社会保障費 「団塊」高齢化で財政悪化一段と - 産経ニュース

そのため消費税の増税によって社会保障費の財源を確保しないといけないという主張を財務省をはじめ、政治家・政党・財政学者・経済学者らが消費税率引き上げを訴えているというわけです。

しかしこの話は筋がおかしいでしょう。なぜなら公的年金や公的医療保険は保険であり、一般会計から独立した特別会計です。本来保険というものは民間の生命保険や自動車保険もそうですが、集めた保険料の総額=事故等で支払われる保険金の総額であるのが原則です。保険料収入が足りなければそれを増やし、給付支出が多すぎたならば減らすという形でアジャストすべきもので、公費負担に依存して運営することは異常なのです。公的年金や公的医療保険を保険方式にしている理由は「徴収した保険料は高齢者ならびに障がい者への年金や医療費以外に使わない」というかたちにすることで、公正な税徴収と給付を行うためです。「集めた社会保険料を土建公共事業とか防衛費、あるいは財テク投機なんかに流用するなー」と加入者(国民)と主張することができます。

逆に国側からいえば国民に対し「給付に対してこれだけ保険料収入が足りないから、保険料の値上げさせてくれ」ということも正々堂々と言えますし、保険加入者も納得せざるえません。

財政規律重視の方たちに聞きたいですが、一般会計のどんぶり勘定と社会保険財政だけ独立させた明瞭な特別会計とどちらが財政規律を守りやすいと思いますか?私は保険方式の方が財政規律を守りやすいと思いますけどね。

 私は国民にとっての社会保障費負担の重さを推しはかる指標は社会保障費対GDP比です。さらにいえば国民医療費+国民介護費+老後の生活費とGDPの比率です。国全体の給与や所得というべきGDPの中に占める医療費や介護費の割合を減らすことが、国民負担軽減となります

「保険方式がいいか、消費税負担の方がいいかなどという議論をしていても、わたしたちの医療費や介護費の負担自体は全然減りませんよ。時間の無駄です。」と私は言いたいです。本当は経済のパイを大きくして、負担の割合を減らすといったことを考えるべきなのに「オレは負担したくない」「お前が負担しろ」と言い合っているだけのことです。

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さらにここで日本の社会保険財政の収支が悪化し、赤字分を公費負担で補填しなければならなくなった原因を突き止めなければなりません。出血している傷口や破れた血管を縫合しないと、いくら輸血しても血が流れっぱなしになるだけです。

社会保険財源の保険料収入と給付がワニの口みたいに開いていった時期がどこなのか見ていくと1990年代後半からで、それは日本が「失われた20年」といわれる超長期不況に突入してしまったときです。前回書いたように私は当時の若年層の就職難やリストラによる失業者の増大、賃下げや非正規雇用の拡大が、社会保険料収入の伸び悩みにつながり、社会保障財源の収支悪化を招いたとみています。

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ちなみに社会保険料収入が頭打ちになってしまった始点は1997年(平成9年)であり、皮肉にも橋本龍太郎内閣が消費税の税率を5%に上げた年でした。「社会保険財政を悪化させたのは消費税を5%に引き上げたからダー」と考えるのは短絡的ですが、消費税率を上げても「焼石に水」だということがわかります。

 

社会保障問題と国家財政問題を解決するための第一手は雇用政策と民間企業の活性化であると私は主張します。雇用や民間企業の業績が不安定なままでは社会保険料や税の支払いが滞るのは当然のことです。社会保障財源と国家財政を支えるのは民間の個人と企業だということを日銀や財務省(大蔵省)、厚生労働省はわかっていないのです。

雇用と民間企業の投資拡大で非常に重要なのは金融政策なのですが、日銀と財務省はこれに冷淡でした。

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日本の社会保障制度と国家財政を悪化させた諸悪の根源 三重野康日銀総裁橋本龍太郎 

とにかく社会保険加入者である国民ひとりひとりと保険料を折半で負担する民間企業にどんどん稼いでもらって、少しでも多くの保険料を支払ってもらえるようにすることが大事なのです。好景気であれば高齢者も就業機会が増えますので、年金に生活費を依存する人も減ります。

上で述べた国民の社会保障負担の重さを示す社会保障費対GDP比ですが、現在その値は30%程度になっています。いま一般の就労者が給与から天引きされる社会保険料もやはり3割程度ですので、GDP比を重視する見方は間違っていないと自負します。その社会保障費対GDP比はどう変化してきたでしょうか?

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バブル景気のときの社会保障費対GDP比は値が減る傾向にありました。年金や医療費の給付額は増加の一途でしたが、好景気によってGDPがそれ以上に伸びていたからです。

ところがバブル崩壊によってGDPが伸び悩みます。ここから社会保障費対GDP比が上昇していきます。橋本龍太郎政権時代の緊縮財政で社会保障費の抑制と消費税増税を計りましたが、この動きを止めることはできませんでした。

小泉政権時代に少し社会保障費対GDP比上昇の勢いを弱めましたが、彼の退陣後にリーマンショックが襲い掛かり、社会保障費対GDP比が30%近くにまで迫ります。私たちの所得の3分の1です。

しかし第2次安倍政権が発足してアベノミクスがはじまってから、社会保障費対GDP比が僅かながら減少しました。景気回復と雇用改善が私たちの社会保障費負担軽減につながるのです。

 まともなマクロ経済政策をやらずに、景気や雇用悪化を放置しておいたままでは、民間の個人や企業が保険料や税を支払うことができず、税収が伸び悩みになったままです。社会保険財政の穴埋めのために消費税収を注ぎ込んでも穴の開いたバケツではどんどん水が漏れるだけです。非常に姑息な対応です。

 あと社会保障問題の話をすると人口構成を持ち出してくる人が多いですが、これについても今から慌てて子どもの数を殖やそうとしてもダメです。高齢化率はこれから30年先まで進行し続けることになり、現役世代にとってもっとも大変な時期となりますが、この間に20年近くも非労働人口である幼児・児童の扶養も担ってねということになります。ある人が自分に「労働者1人が老人ほぼ1人分の生活費を天引きされながら子供1人を育てる」くらいになりますというツイートを返してきたことがありますが、そんな状態です。

結局稼げる人にもっとしっかり稼いでもらい、できることであれば長くそうしてもらえるようにお願いするしかないのです。

 とにかく社会保障財源を消費税でという話はただのパイの奪い合いをしているに過ぎません。大事なことはGDPというパイをもっと大きくしていくことです。「負担は消費税か保険料か」という議論は時間のムダです。

 

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