新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

消費税10%増税が強めるデフレ再発の恐れ

今回は安達誠司さんによる消費税10%後の経済状況についての予測を紹介します。

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「チャンネルくらら」で放映されている「安達誠司のマーケットニュース」で安達さんはそのことについて話されていますが、ほとんど自分の予想と同じです。

www.youtube.com

 ここのブログで「消費税増税と”税抜きデフレ現象”の発生 」という記事を書きましたが、安達さんも店で売っている商品の価格は消費税増税分の上乗せをせず、税込み価格の上昇をなるべく抑え込むような動きがみられると指摘しています。つまりは消費税の負担をモノやサービスを生産したり売ったりする企業が被っている格好です。私はこういう現象を先のブログ記事で「税抜きデフレ現象」、そして今は「本体価格デフレ現象」と名付けています。

前回の消費税8%増税のとき、多くの業者は税率3%上昇分を商品価格に上乗せするような対応をしていました。今回の場合は商品の本体価格を抑制し、税込み価格上昇による客離れを防ぐような対応をしています。つまり企業は消費者の購買意欲や能力が相当弱いと読んでいるということです。

企業がかなり無理をして利益を削り、価格上昇を抑え込むわけですが、当然のことながら社員の賃金や原材料等の仕入れ価格などの抑制といったかたちでのしわ寄せがいきます。2012年からはじまったアベノミクスで雇用回復の動きがいっそう顕著になり、賃金だけではなく高待遇を前面に打ち出したり、非正規から正規雇用へのシフトも進みかけていましたが、再びデフレ状態に戻りはじめ、企業収益の低下や薄利化が進むと、厳しいコスト削減を計らないといけなくなります。

安達さんは

”人材派遣業を通じて派遣されてきた非正規社員は、企業にとっては、派遣社員への給与支払いは人材派遣業者への支払いを通じて行われるため、「仕入れコスト」と同じ扱いになる。従って、同じ人件費負担であっても、派遣社員はより節税効果が大きいということになるためだ。”

ということも別のネット記事やラジオ番組などで話されています。

さらに安達さんは週刊現代での記事で、企業経営者らの予想インフレ率が低下してきていることを指摘しています。安達さんの場合、日銀短観の販売価格判断DIから予想インフレ率を算出しています。

gendai.ismedia.jp

 ここでリフレーション政策のロジックがどういうものか思い出していただきたいと思います。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

流動性の罠に陥ってゼロ金利をさまよっており、これ以上名目金利を下げようがない状態でも、企業経営者が持つ予想インフレ率を高めてやれば実質金利が低くできるという説明をしております。

フィッシャー方程式

実質金利名目金利ー予想インフレ率

のことです。

安達さんが示したデータが正しいとすると、予想インフレ率の下落は実質金利の上昇となり、企業の資金借り入れ負担が重くなって研究開発や設備投資、そして多くの勤労者の生計に直結する雇用といった投資意欲の減衰につながります。

 私は前に安倍政権がアベノミクスというかたちで採り入れたリフレーション政策が効力を発揮していることを証明するために

・企業の設備投資

・新卒学生求人倍率

のグラフを使っていることを説明したことがあります。 

参考 

リフレーション政策と雇用回復 ~投資が増加したかが重要~ 

2018年1月に書いた上の記事で自分は設備投資や大卒求人倍率のグラフを見せてリフレーション政策は効果を発揮していると力説したのですが、今回の安達さんの記事に添えられたデータを拝見すると、それが綻んでいるのです。「アベノミクス頓挫」といっていい状況になりかけています。

 

安倍総理が目玉公約として高々と打ち出したアベノミクスを、総理自らが葬ってしまおうとしているのです

 

安倍政権発足当時は異次元の金融緩和政策だけではなく、積極財政も進めて、デフレレジームからリフレレジームへの転換を目指そうとしていました。三重野康日銀総裁から白川方明総裁時代まで続いた金融引き締め・緊縮財政というレジームから金融緩和・積極財政というレジームにかわりかけていました。ところが知らずのうちに再び金融・財政タカ派路線に逆戻りしているのです。

民間企業からしてみると「このまま消費者の財布の紐がどんどん締まって物価上昇が望めず、自分の会社の利益がますます薄くなる」という予想が強まります。一般国民側からみたら「雇用悪化で自分たちの所得が減り続ける上に、増税社会保険料の支払い負担がどんどん重くなっていく」という悲観的な予想を抱き、消費をますます手控えることでしょう。消費の低迷は企業の再投資意欲を削ぎ、ますます関連企業や従業員への所得分配が進まなくなっていきます。

 

安達さんは今回の消費税増税は消費者側よりも、モノやサービスの生産や販売を担う供給側を痛めつける恐れが高いことを警告します。この予想や見解も私と共通しています。

 

安達さんは最後の方で今後しばらく増税は控えるという明確なコミットメントが必要だと提言していますが、民間企業や個人に「収益や所得がどんどん落ち込むのに、税の負担ばかりが重くなっていく」といった負の暗示(パラノイア)をこれ以上深めないことが大事だと私は考えます。

  

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