新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

国民に「負の暗示(パラノイア)」を与え続けた財務省と日銀

 前回は大前研一氏に対する批判を書きました。

この方は「日本は低欲望化社会になった」ために、モノやサービスを消費する意欲が低下し、そのために金融緩和とか財政拡大政策をやっても効果が出なくなってしまっているのだなどと言っています。そしてクルーグマン教授やスティグリッツ教授などといった既存の理論にしがみつく経済学者たちはそれを認めようとしないんだなどという放言をかまします。

大前氏の言っていることはケインズ様が予言していた「流動性の罠」という現象であり、その原因やそこからの打開策については経済学の世界でちゃんと議論されているのですが、大前氏は知らないのでしょうか?

大前氏は以前「心理経済学」などという言葉を持ち出していました。

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人々が持つ将来の予想を変えることによって、投資や消費の行動を変えさせる。こういう発想もやはり経済学の世界でちゃんと採り入れられています。トーマス・サージェント教授らが研究した合理的期待仮説がそれにあたりますし、大前氏がバカにしていますが、ポール・クルーグマン教授は日本が流動性の罠から脱するためには人々の予想を変えることが大事だと提言しています。中央銀行の総裁がインフレターゲットを示し、その目標を実現させるために徹底した金融緩和政策を続けるのだという強いコミットメントを発することで、企業経営者の投資行動や銀行の融資態度を変えさせるということです。第二次安倍政権が発足し、黒田東彦日銀総裁が着任した直後はそれを実行し、6年の間企業の投資と雇用を最大化させています。大前氏がいうようにケインズ理論が死んでいたということはありません。ちゃんと生きていました。

日本という国がバブル崩壊の1990年代からずっと四半世紀以上に渡って経済成長がおそろしく鈍化してしまい、雇用が不安定化しまうに至った原因について、自分も人々の予想が悲観的になりすぎていたからだと考えていますが、そうした負の暗示(パラノイア)を生みだしたのは財務省三重野康総裁以降の日銀です。

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 三重野康はかつて「平成の鬼平」という異名を持ち、日銀総裁就任後に株や不動産バブルを退治するためだと言って公定歩合政策金利)を3.75%からいきなり6%にまで上げて金融引き締めを計ります。

その結果株価や地価が下落し、過熱化していたそれらへの投機行動は沈静化したのですが、不動産担保の融資は担保割れし、銀行の不良債権が急増します。これが企業への資金貸し渋り貸し剥がしを招き、企業は研究開発や設備、雇用などへの投資を萎縮せざるえなくなります。

三重野康元日銀総裁が死去平成の鬼平バブル退治の功罪 | inside | ダイヤモンド・オンライン

その結果深刻な景気と雇用の悪化を招きましたが、日銀は金融の再緩和を躊躇しました。そうこうしているうちに民間企業の経営状態が悪化し、中小企業を中心に倒産や廃業へ追い込まれていきます。91年7月にやっと日銀は6%から5.5%へと再緩和をしたのですが、時すでに遅しで景気が回復しなくなりました。金融緩和政策の失効です。

それから日銀はゼロ金利政策や、小泉内閣時代にいまのアベノミクスでも採用された量的緩和政策を導入し、極端な低金利状態を続けています。現在マイナス金利にまで至っています。これを見て、ある経済アカウントが「1990年代以降の日銀は世界でも例がないほどの金融緩和を続けているじゃないカー」などと言っていますが、こうした事態を招いたのは日銀の金融政策姿勢がずっと緩和を渋り続け、中途半端なことばかりやってきたからです。日銀は世論からの批判をされると重い腰をあげて金融緩和をしはじめるのですが、少し景気が上向きかけたところですぐに緩和解除をしてしまいます。

 

中央銀行がちょこっと間だけ金融緩和をしてはすぐにやめての繰り返しをやってしまっていると、企業の経営者は近い将来の金利上昇を恐れて、研究開発や設備投資、雇用に巨額のお金を安心して投ずることができなくなってしまいます。その結果雇用も不安定化し、所得の増加や安定化が見込めない労働者個人は消費よりも貯蓄といった行動を採らざるえなくなります。

多くの人々に

「いま景気がよくても、せいぜい数年だけで、すぐに雇用が悪化する」

「自分たちの給料なんか増えやしない」

「いつ会社からクビを切られるかわからない」

などといった不安を与え続けてしまうことになります。f:id:metamorphoseofcapitalism:20191102103617p:plain

 中央銀行の総裁がいま異次元といわれるほどの金融緩和をやっていても、本心はやめたくってしょうがないという態度を示していると、人々はそれを見透かして投資や消費行動を萎縮させてしまうのです。

 

金融政策の方ばかりではなく財政政策の方についても、大蔵省→財務省は必要以上に財政危機を煽り、消費税をはじめとする増税社会保障費を中心とした歳出削減ばかりを推し進めようとします。多くの国民は「景気がどんどん悪くなるのに税金だけが上がっていってしまう」「社会保障給付が削られる一方だ」という将来の予想を抱くようになります。多くの国民は支出を切り詰め、貯金をしないといけないと身構えます。この結果としてモノやサービスの消費が低迷し、流動性の罠へはまっていく要因となるのは言うまでもありません。

 

財政危機や社会保障制度破綻の危機を必要以上に煽って増税を推し進めるのは財務省の役人たちの常套手段であることは何度もここで話してきました。

さらに日銀による金融シバキで民間企業は事業拡大の意欲を削ぎ、その結果として雇用が悪化していきます。民間の個人や企業はお金を稼ぐ自信や自立心を喪失してしまいます。そうした国民や企業はお上がばらまくお金にしがみつくようになります。

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これは同棲する異性から経済的自由を奪うドメスティックバイオレンスや子どもから自立心を奪って支配下においてしまう毒親と同じです。財務省という官庁はパワハラがお好きだと云われていますからね。

 

財務省や日銀は国民をパラノイアに堕とし込め、強権で縛り付けようとする国家社会主義的な組織だといっていいでしょう。

その悪辣さを見破り、同時に国民や企業が経済的自立心を身に着けるようにしないと、この国全体が衰弱し、死神に取り憑かれたようなことになっていくでしょう。

 

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