新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

緊縮レジーム復活と企業の投資・雇用意欲低下の兆候

昨年末から今年初めあたりから、これまで堅調だった景気の雲行きが怪しくなってきています。異次元金融緩和を中心としたアベノミクスによって民間企業が積極投資をするようになり、雇用がかなりよくなりましたが、それにも陰りが目立ちかけています。海外に目を移せば米中の対立やUKのブレグジット問題、中東情勢の不安定化などキナ臭い要素があちこちで散らばっています。そういう中であるにも関わらず安倍政権は今年10月に消費税率を10%に増税しました。元々弱いままだった消費がさらに弱まる可能性が高まり、企業側も”本体価格デフレ”で利益率をさらに削ってまで安売り路線を強化せざる得なくなるかも知れません。結局アベノミクスがはじまる前の状況に戻っていくことになるのです。

 

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2012年末に安倍自民政権が民主党から政権を再奪取し、リフレーション政策の考えを採り入れた経済再生政策を実行しはじめました。日銀総裁は金融ウルトラタカ派といわれていた白川方明から黒田東彦新総裁に交代し「2年を目途に2%のインフレを目指す」といったコミットメントを国会の場で行いました。それから黒田バズーカと呼ばれる大規模の量的金融緩和政策をはじめたのです。それから間もなく企業は設備投資などで積極的におカネを遣うようになりました。

NIPPONの数字 民間設備投資f:id:metamorphoseofcapitalism:20191105214610j:plain 

ヒトへの投資である雇用の動きも変わってきます。新卒求人倍率が2014年卒以降伸び始めました。


リクルート社が集計した大卒求人倍率のグラフ(~2017まで)f:id:metamorphoseofcapitalism:20191105213038j:plain

私はいつもリフレーション政策の効果を証明するために、このグラフを多用してきましたが、この2つが微妙なことになってきたように見えます。下は上と同じリクルート社集計の新卒求人倍率グラフで2020年度卒のデータも含まれますが、僅かに倍率が低下しています。

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2014年4月に消費税を税率5%から8%に増税したとき、私は今回と同じく景気の落ち込みを警戒していましたが、結果的には投資と雇用の増加傾向は2018年末まで続いたのです。私は異次元金融緩和政策の効果がかなり根強く発揮され続けたからだと考えてきましたが、雇用回復→所得増大による消費拡大という流れまでには至らず、金融緩和政策効果もついに息切れしてしまったのかと思われます。

就任当初は積極的に量的緩和政策を行っていたかに見えた黒田総裁はだんだんと元財務省の役人色が強く出始め、緩和を渋るような態度を見せ始めました。私は黒田総裁を「ダンガンロンパ」のモノクマだと評してきましたが、”クロクマ”から”シロクマ”になってきたようです。

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日銀は副総裁の若田部昌澄さん、審議委員の片岡剛士さんや原田泰さんを除き、金融緩和政策を早く解除したがっているような態度を表に出してきました。これがリフレ・レジームの毀損につながり、企業の投資態度や雇用に対する姿勢に悪い影響を与えてきたのではないでしょうか。

 

私がこれまで説明してきたようにリフレーション政策で重要なのは将来の予想や見通しであり、それを変えることで企業の投資や消費者の消費といった行動を変えていくというロジックであります。これまでの日銀の金融政策や財務省の財政に対する姿勢は緊縮基調でしたが、これを金融緩和・積極財政というレジームに転じさせることで、人々の投資や消費姿勢を活発な方向へ引っ張ろうとしたのがアベノミクスです。

ところが再び日銀は金融緩和を渋り、財務省増税社会保障費を中心とした歳出抑制をほのめかします。このことで民間企業や個人の将来の予想が悪い方向に転じて、投資や消費を萎縮させることにつながります。

 

1990年代からこれまでの日銀と財務省の態度を通してみると、あまりにひどい不景気で国民からの批判が強まったときだけ、金融緩和や積極財政をする素振りを見せるけれども、少し景気が良くなったら金融緩和解除や財政引き締めをしてしまうことの繰り返しでした。その結果景気や雇用が回復する時期があっても数年で、しかも僅かな改善に留まることとなり、「実感なき景気回復」などと不満を持つ人が多く出てくることになります。

 

企業目線でみたとき、金融緩和政策が散発的なものですと、投資のために借りた銀行借り入れや社債等の金利上昇を恐れ、巨額の大型投資や正社員雇用を積極的に進められなくなります。

一方一般個人については過去20年~30年に渡って不安定な景気や雇用、所得状況にさらされ、突然のリストラや所得急減に備えモノやサービスの消費にお金を注ぎこみにくくなります。社会保障費圧縮の動きが強まると自助努力で民間保険に加入するなり、貯蓄するなどといった防衛策を余儀なくされます。

 

緊縮レジーム復活で

企業の投資・雇用態度萎縮→所得分配減少→消費意欲減退→物価下落→収益減で企業の再投資が滞るといった動きが出るでしょう。慢性的なデフレ不況再発です。

 

私が非常に恐れていることは、多くの人々に「金融緩和や財政政策をやっても日本は景気がよくならない」「このまま日本人はどんどん貧しくなって、さらに重税が圧し掛かってくる。」「けれども国民が窮乏に陥っても国家が助けてくれない」といった不安や不信感を決定的にしてしまうことであります。「負の暗示(パラノイア)」の強化です。こうなってしまうとこの国は末期の社会主義国家みたいな状況に堕ちぶれてしまうことでしょう。
 

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