新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

近藤誠の”がんもどき理論”に匹敵するカルトな旧日銀理論

医師や看護師などの医療関係者や医療に関心が深い方であるならば近藤誠医師の名前を聞いたことがあるという人は多いことでしょう。彼は癌治療専門の医師であり、日本で乳癌の温存療法をいち早く提唱してきました。しかしながら『患者よ、 がんと闘うな』や『がん放置療法のすすめ 患者150の証言』『医師に殺されない47の心得』といった著書を出し、癌の手術・放射線抗がん剤治療だけではなく、がん検診まで否定し出します。

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近藤氏は「”がんもどき”は悪化しないので放置しても良く、治らないがんは発症時に生命予後が決まっているため放置して静かに死を迎えるべきだ」という”がんもどき理論”を唱えます。癌に見えるけどほんものの癌ではない”がんもどき”は本来手術や放射線治療抗がん剤治療を行わなくても治ってしまうもので、ほんものの癌は逆に手術や放射線抗がん剤治療などといった痛く苦しい治療をやっても治ることはない。そうした無駄な治療はせず、静かに死を受け入れ迎える心構えをした方がいいという主張を広めました。これに対し多くの医師たちが「治るはずの癌患者を死に追い込んでしまっている」と猛反発し、近藤誠批判をしています。

 

これは普段このブログで取り上げない医学や医療に関する話なのですが、日本の経済学の世界においても近藤誠医師の”がんもどき”理論と匹敵するカルト理論(←世界的にみて)が大手を振っています。旧日銀理論というものです。

 

この旧日銀理論は

銀行貸出が伸びない限り金融政策には効果がない。」

金利がゼロになり、流動性の罠に陥ったら金融政策は何もできない。」

物価は金融政策では決まらない。」

日本銀行のバランスシートの拡大は通貨の信認を揺るがす。一度インフレになったら止めることはできない

政府や日銀は金融政策や財政政策で民間の経済活動に介入や統治をすることができないし、すべきではない

金融緩和政策や積極財政政策なんかやっても景気や雇用には何の影響も与えられないのだ

といったものです。

 

上で列挙したことを読んでわかるように、政府や日銀自身が「オレたち何にもできないんダー」「やらないんダー」という屁理屈の塊が日銀理論です。日銀の仕事は金融政策によって景気や雇用、物価、為替の安定を計ることです。日銀理論というのは日銀自らが自分の存在意義を否定してしまっているもので、医者が「オレは患者の病気を治せない」と言っているも同然です。近藤誠の”がんもどき理論”と同じように「癌になったら絶対治せないんだ。治療をあきらめ、ホスピスに入って静かに死を待つ方がいい」という理屈です。

 

こういうことをいう経済学者や評論家たちが日本において”主流派経済学派”といわれており、三重野康から白川方明に至るまでの日銀総裁が行ってきた金融政策は中央銀行無能論に則ったものでした。恐るべきことにこの旧日銀理論が日本における”主流派経済理論”であったりするのです。

 

日本の経済は1990年代初頭のバブル景気崩壊からずっと「失われた20年」とか「30年」などといわれるほどの長期経済停滞と雇用の不安定化を招きました。それはこのブログの「デフレと失われた20年」編で延々書き綴ってきたとおりです。1989年末に「バブル退治の平成の鬼平」ともてはやされた三重野康日銀総裁がいきなり公定歩合政策金利)を引き上げ、これまでイケイケだった民間企業の投資に急ブレーキがかかり、設備投資や研究開発・雇用拡大を抑制します。バブル時代には企業などに積極融資していていた銀行は態度を一変させ、融資の貸し渋り貸し剥がしを始めます。このことで銀行は「晴れの日に傘を出し、雨の日に取り上げる」と揶揄されたものです。

 

このように民間企業の事業活動や消費者の消費行動を一気に冷やしこんでしまい、僅かな金利引き下げ(金融緩和)や一時的な財政支出拡大では景気や雇用が改善しなくなってしまいました。やがて金利をゼロに下げたり、大型の財政出動をやっても金融緩和や財政政策の効果が出なくなり、流動性の罠に陥ったのです。

通常の金融緩和が効かなくなる流動性の罠 その1 IS-LMモデルについて

お金が貯蓄として死蔵されてしまう流動性の罠 その2

連続的な物価と賃金下落が招いた流動性の罠 その3

 

日銀総裁をはじめとする関係者や金融機関系エコノミストらはそうした自らの無能や怠慢を反省しないばかりか、「日本は流動性の罠に嵌ったから金融緩和政策なんかやっても無駄だ」とか言い出し始めます。逆に安倍政権発足後にはじまった異次元緩和以後の企業投資の増加や雇用改善の動きについても「団塊世代が定年退職を迎えたために新規雇用が増えただけだ」とか「景気や雇用の回復は民主党政権時代からはじまっていて、たまたま景気回復期に安倍政権の発足時期があたっただけだ」などと、まぐれ理論を展開します。

  しかしながら民間企業の設備投資のグラフ(NIPPONの数字様 民間設備投資)を見ると安倍政権細く直後から伸び始めているのが一目瞭然でわかりますね。雇用の回復はその前からはじまっているという人がいますが、雇用=ヒトへの投資とみたとき、安倍政権発足がはずみをつけたと言っていいでしょう。

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リクルート社が集計した大卒求人倍率のグラフ(~2017まで)を観ますと、2014年から企業側の求人増加が増えていることがわかります。パートやアルバイトではなく、長期雇用が前提である新卒の学生求人が回復したという点が重要です。リーマンショック後から民主党政権下野までの間、新卒学生の求人が低迷していました。

  

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これでもインタゲコミットメントつき量的緩和政策の効果が無かったなどと言えるのでしょうか?

 

日銀理論信者らはとにかく何もかもが運頼みで、景気が悪化しても悪化させっぱなし、景気が過熱していたら過熱させっぱなしという放置プレイを是とします。自分たちの失敗は運が悪かったせい、他人の成功もたまたま運がよかっただけなどという無能者の言い訳みたいなことしか言いません。

 

本来きちんとした治療を行っていれば治るはずの病気を放置して、死に至らしめることは殺人行為です。そんな医者は追放すべきです。経済学についても同じです。必要な金融政策や財政政策を行っていれば失業や企業倒産を防げていたにも関わらず、それを放置して貧困やそれに伴う自殺を増加させていたならばアンネシュ・ベーリング・ブレイビクや植松聖を上回る大量殺人鬼とかテロリストと言っても過言ではないのです。

 

ポール・クルーグマン教授が日銀理論にどっぷり浸かった白川方明(元)日銀総裁に対し「銃殺刑にせよ!」とDisったことがありました。かなり過激な発言に見えますが、決して大袈裟ではないと私は思います。

  クルーグマン教授

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白川方明日銀総裁

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金融政策を司る日銀総裁は人々や企業に対する生殺与奪の権利を握っています。無能な中央銀行総裁は万死に値します。
 

 

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