新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

円安で日本が貧しくなっただと?

ここ最近また奇妙な経済記事を見かけるようになりました。それは円安状態が続く日本は貧しくなったとか、日本で生産された物やサービスが世界中の人々から安く買い叩かれているみたいな記事です。いまコロナウィルスショックで急減してしまいましたが、諸外国から日本へ訪れるインバウンド観光客が近年増加していたことについても、日本の観光資源を安売りしているかのように言う人がいたりします。

 

自国通貨高は国際競争力や対外信用が高い証であることに違いはないのですが、実力以上についてしまった通貨高は自動車や電機業界などの輸出産業にとって大きな収益減となり、そのしわ寄せがサプライヤーや雇用にまで及びます。円高は食料品や工業製品など輸入産業にとっては逆にコストダウンとなってメリットが大きいのですが、あまりに他国生産に頼りすぎてしまうと自国の生産活動やその能力を縮小させてしまうことになり、これもまた自国の生産供給力や雇用を喪失するようなことにつながります。

 

アベノミクスがはじまる前の白川方明総裁時代の日銀は金融緩和に消極的で、サブプライムローンショック後にアメリカをはじめとする多くの国が貨幣量を増やしている中で日本だけが出遅れ、過剰な円高を招きました。他国に比べカネの量が少ない状態だったからです。よくネットオークションでレアグッズが出品されたりすると高値がついてしまうことがあり、最近ですとコロナウィルスの流行で品薄気味のマスクやトイレットペーパーが高額転売されるような事態が起きたりしていますが、当時の円もそれと同じでしょう。f:id:metamorphoseofcapitalism:20200306224940j:plain

 あと物価安が続くデフレ状態というのも、貨幣価値がどんどん強くなりすぎてしまう状態です。デフレはお金のバブルだとも言われます。買い手側が売り手に対し札びらで頬を叩きながらモノやサービスを安値で買い叩く社会がデフレです。

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 円高やデフレがいいと言う主張は、量的金融緩和政策をやめさせたかっている銀行など金融機関系エコノミストから多く出ているのですが、彼らはモノやサービスを生産し売って生計を立てる側の立場をまったくと言っていいほど考えていません。自分たちは生産的活動に携わらず、他人や他国が生産したモノやサービスを安値で買い叩けばいいと思っている節が感じられます。

 

海外の人たちが日本で生産されたモノやサービスをたくさん買い求め、それによって円の需要が高まって通貨高になるということであるならばそれでいいのですが、金融引き締めでカネの量自体を減らして通貨価値を吊り上げるような考え方は高額転売ヤーと変わらないのじゃないかと思えてなりません。非生産的な人々が利ザヤだけで泡銭を稼いでいるような図式に見えてしまいます。

 

ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと言われた時代に日本人が海外旅行で豪遊したり、海外ブランド品を買い漁っていた時代がありました。当時日本より物価安だった東南アジアなどの国々へ日本人が観光客として出掛け、モノやサービスの提供を受けることに優位感を得ていた人たちは少なくありません。しかしながらいま日本の立場が逆転して海外からの観光客を受け入れ、モノやサービスを提供してもてなす側でいます。こういう人は王様からサーバント(召使い)に転じてしまったと思っているのでしょうか?

 

経済というのは互いに尽くし尽くされの関係です。いつまでも永久に王様のままでいられることはありません。ある人(もしくは国)から奉仕を受けたいのであれば、自分も誰かに同じように奉仕していかねばならないのです。日本が強い自国通貨にものをいわせて海外のモノやサービスを買い漁ることができたのは過去の先人が遺した多くの資産があったからです。1990年代に入ってから日本はずるずると経済活動を萎縮させ続け、上の白川日銀時代には日本が長年死守してきたGDP世界第2位の座を中国に明け渡すことになります。先人の財産を食い潰し続けてきたような状態です。

 

「日本が貧しくなった」論を言っている人たちは日本の生産性が世界でも低く、経済競争力が低下していることを指摘してはいますが、その元凶となった三重野康総裁以降の日銀による金融政策の失敗やデフレ問題については不思議と触れようとしません。このブログで金融政策はモノやサービスを生産して日本に多くの富や財を与え続けた民間企業にその軍資金を融通する上で非常に大事なものだと説明し続けています。三重野以降の日銀はバブル再発を恐れすぎて金融政策を締めたがる傾向にあり、民間企業は兵站を絶たれたようなかたちになっています。兵站を怠って多くの兵士を野垂れ死にに追い込んだノモンハン作戦の参謀(惨謀とか無謀といっていい)・辻正信やインパール作戦牟田口廉也みたいなことをやってきたのが日銀です。

 

30年近くに渡り、日本の民間企業の活力を削ぎ続けてきた日銀理論にしがみつき、金融緩和政策を妨害している金融機関系エコノミストらが「日本の産業構造ガー」「日本企業の生産効率ガー」などと言っているのを読むと白々しく感じます。

 

日本の産業競争力を回復させるには当然のことながら新しいモノやサービスの開発に必要な技術投資が不可欠です。その技術投資を妨害してきたのは消極的な日銀の金融政策態度やデフレの進行です。デフレの進行は民間企業が将来得ると期待される収益を下げることになり、実質金利が上がって投資や事業拡大意欲を阻むことになるという説明も何度かしています。

 

今後再びデフレや長期景気低迷が再発すると消費需要の落ち込みだけではなく日本の民間企業の生産・供給力も同時に萎縮することにつながりかねません。リフレーション政策を牽引してきた安倍政権が終焉するときが近づいています。そのあとの政権が日本の民間企業の活力を再生させていくことができるかというとできないでしょう。

 

もし仮にこのまま日本の民間企業の活力がどんどん萎縮し続けると、所得税法人税収、社会保険料収入の減少で財政悪化が進行します。そして日本の国際競争力低下を招き、悪しき通貨安や供給力不足によるスタグフレーション、悪性インフレ発生のリスクが高まってきます。

 

「日本は円安だから貧しいのだ(逆に日本は貧しくなったから円安だ)」「海外旅行を楽しめなくなった」「円安で輸入資源や食料品が高くなるー」などと嘆く前に、自国産業の建て直しを考えるべきでしょう。円安基調が続いている間に日本の技術競争力強化や産業再生を進め、最終的に強い通貨の維持を目指すという考え方を持つべきです。

 

政策の順序を間違えると結局目指していることとは逆の結果になってしまうことになります。

 

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