新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

有事で危機に陥った民間の経済活動を救え!

3月11日で東日本大震災発生から9年目を迎えます。あの痛ましさを忘れることはできません。あのときは津波福島第一原発事故などで生産設備そのものが破壊され供給が停まったり、計画停電や自粛ムード等で経済活動の混乱や麻痺が東日本だけではなく日本各地で発生しました。

 

いま新型肺炎コロナウィルスショックによって、中国からの部品や食糧などの生産供給が停まったり、日本へ大勢押しかけていたインバウンド観光客がパッタリ途絶えるなどして、製造業から観光産業、食品メーカー、宿泊業、飲食店、運送業など幅広い業種に大きな経営打撃を与えています。多くの人たちが集まるイベントやコンサートもどんどん中止となり、その関係者は収入や売り上げが途絶えてしまっています。東日本大震災のときと違って生産設備等の破壊はないのですが、それでも北海道で多くの観光バス会社が廃業を決めたり、運転手を解雇するといった動きまで出ています。コロナウィルスの蔓延が収束するまで数ヵ月程度ではないかと思われますが、この期間だけでも資金繰り悪化等で廃業に追い込まれる事業者が出てきてしまうでしょう。

 

参考

 

経済活動は人間の生命活動と同じです。心臓が5分、10分停まっただけでも蘇生が不可能になりますが、やはり経済活動においても供給ショックや需要ショックが長引いて、この間に企業廃業や失業がどんどん進んでしまうと、簡単に元のレベルに戻らなくなってしまいます。血流が停まって壊死した細胞と組織と同じです。

 

いますべきことは細胞や組織の壊死を最小限に食い止め、不可逆的な状態になってしまうことを防ぐことにあります。需要激減で売り上げが望めなくなっているにも関わらず、従業員の給与や各固定経費などの支払いをせねばならず、資金繰りが苦しくなっている事業者や休業に追い込まれ所得を失った従業員に対するつなぎ融資や休業補償がそれにあたります。それについては政府側からも少しづつではありますが、対処策を打ち出してきています。

 

それと金融面ですが、日銀がETF(上場投資信託)を買い取ってコロナショックで下落した株価の底支えをし、企業が保有する株資産の含み損増大を抑え込もうとしています。ただこれについてですが、ネット上で「株価下落で日銀が買い取った株の含み損が発生した」とか「日銀のバランスシートが」などという書き込みを見かけるようになり、国会で日銀出身の大塚耕平議員が黒田東彦日銀総裁に「日銀が保有するETF損益分岐点日経平均株価でいくらか?」という質問をし、黒田総裁が「1万9500円程度」と答弁する一幕がありました。日経平均株価が黒田総裁が答弁した額より下がってしまったために「含み損ガー」と噴きあがっているのです。

 

これについてはもともと日銀が通貨発行益をつかってETFの買い取りをしており、一時的に株価が下がってETFの資産価値が目減りしても問題はありません。高橋洋一さんがツイッター

 

チラシの裏に1億円と書いてそれで株1億円を買ったら、その株がパーになっても損しない。だから、紙代を無視すれば日銀の保有資産の損益分岐点は0円。こんな単純な話を日銀OBと日銀総裁は目眩している」

 

なんて仰られていましたが、そのとおりです。f:id:metamorphoseofcapitalism:20200311152518j:plain

 

田中秀臣さんも

 

そもそも日銀がインフレ目標2%を実現すれば、株の含み損がどうしたこうしたという議論も大塚耕平的視点(旧日銀史観?)に立っても問題ではないです。そもそも高橋洋一さんがすでに指摘してますが、通貨発行益からみたら議論するだけ時間の無駄ですね。ETFの買い入れ増を阻害しかねない野党の典型例

 

 という話をされました。

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本当はこの非常時において日銀のバランスシートや保有資産の価値よりも、民間企業のバランスシートや保有資産価値の方を心配すべきではないでしょうか。今回のコロナショックによる収益急減で資金繰りが苦しくなっている民間企業にとって自社の保有資産の価値が目減りしてBSを毀損させるということはかなりの追い打ちです。そういうことにならないように中央銀行が株価の安定を計っているのですが、大塚議員らはそれを妨害しようとしているのです。民が非常時のときは政府・中央銀行側が民のかわりにリスクを背負うぐらいのことをするのは当然の責務です。

 

何度か私は申し上げてきていますが、国家の財政を支えているのは民間の企業や国民個人が支払った税金です。国家財政規律は大事ですが、民間が先に倒れてしまったら結局税を支払うことができず、国家財政再建も難しくなってしまいます。

 

東日本大震災のときは津波によって三陸沿岸の地域の生産基盤や生活基盤が破壊され、その再建に多くの年月を要しました。復旧・復興の遅れはその地域の人口流出や地場産業の衰退を招きます。そうなってしまうと結果的に税収の落ち込みや震災を機に事業を畳んだ人たちの年金や生活保護等の支出を増大させることになります。被災者・被災企業のいち早い経済的自立の回復を目指さないといけません。

 

あと東日本大震災のときは民主党政権の不慣れにつけ込むかの如く、「10年に一度の大物(ワル)」と言われた勝栄二郎財務次官や自民党谷垣禎一総裁らが復興増税や消費税率10%増税を呑み込ませてしまいました。消極的な金融政策態度をとっていた白川方明日銀総裁によって空前の円高状態を招き、民間企業に三重苦、四重苦を与えていたのです。当然雇用も低迷したままです。

 

現在日本は2018年末以降からの景気減速と2019年10月の消費税増税によるさらなる消費冷え込みに、コロナショックも加わって民間の経済活動に大きな打撃を与えています。おそらく歳入減と歳出増が重なって財政面でも悪い数字が出る可能性が高いです。しかし民間経済の復活なくして財政再建はありません。いま最優先すべきことは民間経済の萎縮を食い止めることでしょう。

 

国家財政や日銀の財務についてはいま考えるべきではありません。経済問題が落ち着いてからやればいいことです。

 

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