新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

やる気のなさを見抜かれてしまった日銀と信用の毀損

一昨日3月16日に日銀政策決定会合が行われました。コロナウィルスショックによる経済活動への打撃を考慮して前倒しで行われています。同日にアメリカの中央銀行FRBのパウエル議長がゼロ金利政策と中銀が債券等を買い取る大胆な量的緩和政策の再開を打ち出しました。パウエル議長はどちらかといえば金利を引き上げたがる傾向にあり、トランプ大統領から度々非難されたり解任をちらつかされたりしていましたが、今回ばかりは相当思い切ったようです。

 

FRB議長「試練乗り切るまでゼロ金利維持」 会見要旨 日経新聞

 

FRB長期金利や住宅ローン金利を引き下げるべく米国債で5000億ドル買い入れ、住宅ローン担保証券MBS)は同じく2000億ドル購入などと日本円に換算すると75兆円規模の量的緩和を実施します。

 

EUのECBなど他の世界各国も金利引き下げなどの緊急金融緩和政策や財政出動を打ち出していきます。

 

ところが日銀はといいますと・・・・・

ETF(株価連動型上場信託投資)の買い入れ6兆円増加

REIT不動産投資信託の買い入れ900億円増加

CP=コマーシャルペーパー社債の買い入れ=2兆円増加

 

それぞれ買入額を倍増しましたよ~ということなんですが、規模がショボすぎます。日銀のやる気のなさに失望したのか、政策発表当日の株式市場関係者は売りに走ってしまいました。まあアメリカの方もパウエル議長が思い切った金融緩和策を打ち出したにも関わらずNY株市場の値崩れが進んでしまってはいますが、それを差し引いても相当の失望感を与えたのだなと思われます。

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どうも世間では金融政策は庶民から遠いものだという認識が強いのですが、それはいま突然の資金繰り悪化によって融資の返済や固定費の支払いに苦慮している中小企業や自営業者を支援する上でも必要不可欠です。日銀が豊富に民間銀行が融資に回す準備預金(MB)をしっかり積むことで、貸し剥がし貸し渋りを防ぎ、さらに借り手の金利負担を抑え込みます。

また経済学をやっていると常識的なことになりますが、株価は先の雇用情勢を占う上でも重要な指標です。

別のブログである基礎知識編にもそのことを書いておきましたのでご覧ください。

新・暮らしの経済手帖 基礎知識編

株価下落とバランスシート不況発生、雇用悪化との関係

 

金融政策を担う日銀ではなく、財政政策側の担い手である政府側の方ですが、こちらもまたキャッシュレスのポイント還元やらプレミアム商品券、消費税の還付、中小企業向け減税・税納付延期といったせこい景気対策に留まっています。(3/18の時点において)

 

とにかく必死になってコロナショックやこれが収束した後も続くかも知れない景気低迷の動きを食い止めようと意思が日銀や政府からあまり伝わってこないのです。 

 

あと今春からの日銀審議委員の人事ですが、6月30日に任期満了となるトヨタ出身の布野幸利審議委員の後任が日立製作所元副社長で同社取締役の中村豊明氏であるというニュースが入ってきました。こちらのブログ記事安達誠司さんが原田泰さんの後任になると聞いて喜んだのもつかの間、経済学とくに金融政策の素人を審議委員につけてしまうセンスのなさに拍子抜けしました。どうも日銀総裁・副総裁・審議委員の人事は奇妙な慣例で行われていて、学者枠とか産業界枠、女性枠みたいなのがあるようです。以前の総裁人事は大蔵省(財務省)OBと日銀生え抜きが交互に入れ替わるたすき掛け人事みたいなのがありましたが、こんな旧態依然なことを未だに続けているのです。いかに日本が金融政策を軽く見ているのかがわかります。

 

いまの黒田東彦日銀総裁は就任当初こそ「黒田バズーカ」といわれるような大規模な量的金融緩和を実行して金融ハト派のイメージを持たれていましたが、氏も元々は財務省の人間です。財務官僚の天下り先になる銀行など金融機関の思惑に引きずられがちで、国債取引がメシの種になっている彼らの利益に反する量的金融緩和政策を嫌う傾向にあります。(量的金融緩和をやるとハイパーインフレになるとか国債が暴落をすると脅しをかけるエコノミストの多くは金融機関のシンクタンクに属しています。)

 

いまのような非常時において政府や中央銀行が民間経済を守っていくための政策態度をしっかり示すかどうかによって、今後の国民の信頼や安心感が変わってきます。1990年代は三重野日銀総裁の急激な金利引き締めや阪神淡路大震災のときの対処、橋本龍太郎政権時代の緊縮財政によって棄民政治を印象づけられました。自分はこれが異常な慢性的デフレ不況や流動性の罠が発生してしまった原因だと思っています。国民の政府・中銀に対する信頼の毀損です。

 

かなり前から安倍政権や黒田日銀の経済政策・金融政策の綻びを感じかけていましたが、今回の政策行動でよりいっそうそれが印象づけられました。恐るべきことに野党が的を得た批判をする能力がなく、安倍政権以上に経済・金融政策音痴ぶりをさらけ出している始末です。

 

今回のコロナショックによる供給・需要双方の落ち込みで中小企業や自営業者をはじめとする民間事業者やその従業員らが著し所得減少に見舞われ、事業を畳むことを考えはじめていたりします。新卒学生が就職内定を取り消されるという動きも出ていたりします。

もし仮に今回のコロナショックみたいなことが起きたとしても、経済情勢が上向き基調であったならば、民間事業者は数ヵ月間辛抱してくれるかも知れませんが、今回の場合景気減速期にこれが発生しています。つまりコロナショック収束後も経済の先行きが不透明で雇用拡大や設備投資などを積極的に再開しにくいということです。下手をすれば長期不況(大袈裟な言い方になりますが恐慌も)へとフェードインしてしまう危険が出てきています。

 

日銀・政府の体たらくぶりに呆れと憤りを感じざるえません。

このままですとアベノミクスがはじまって以降築き上げた「日本の経済は再生する」という予想や期待、信用が崩れ、「日本の経済は今後再び沈みゆく一方で、自分たちの雇用や所得が不安定になっていく」という負の暗示を多くの国民が抱いてしまうことでしょう。

 

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