新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

なぜ各国はコロナショックで財政出動と金融緩和を全開にするのか?

今回の記事は「新・暮らしの経済手帖 時評編」・「新・暮らしの経済手帖 基礎知識編」同時掲載です。

 

 

コロナウィルスの感染が世界全体に拡大しており、感染源の中国周辺の国だけではなく、アメリカやヨーロッパ、イラクにまでその被害が及んでいます。とくにひどいのがイタリアやイラクでしょう。アメリカでも非常事態宣言が出されています。

 

感染拡大を防ぐために各国は海外渡航の制限や入国者の外出禁止、学校の休校や大人数が集まるイベントの自粛、企業の自宅勤務(テレワーク)導入などに留まらず、国民全員に不要の外出をやめさせたり、生活必需品を扱う商店以外の店をすべて休業させるといった措置を行う国も出てきています。

これらの措置は経済活動を著しく制限するもので、生産活動や商取引行為が著しく減衰します。この状態は恐慌が発生したときと同じもので経済マヒです。やむを得ないことだとはいえ政府の号令で民間の経済活動を停止させているわけですので、休業や著しい売り上げ減少、資金繰り悪化に陥った民間事業者や休業や失業に追い込まれた勤労者に対し、政府は休業補償やつなぎ融資、現金給付による所得保障(補償)を行う義務が発生します。当然のことでしょう。

 

アメリカをはじめとする国々は驚くほど大規模な財政出動や金融緩和政策を矢継ぎ早に打ち出しています。かなりの緊縮財政を敷いていたドイツやフランスでさえも、財政赤字の増大覚悟で緊急の財政出動を行っています。国民ひとりあたり10万円以上の現金給付も惜しまずやる国もあります。

 

ここまでくるとさすがに日頃財政規律のことばかり言っている日本の経済学者ですら財政出動を認め出したりします。自由主義・小さな政府主義の代表格というべきアメリカやUK,オルド(規律)経済学に染まったドイツでさえも財政・金融全開ですので格好がつかなくなったといったところでしょうか。彼らは「ドイツとかが財政出動を大盤振る舞いできるのは財政規律を守っていたために余力があったからだ。」「日本は放漫財政を尽くしたために財政出動ができない」などと言い出したりします。あと「いまは人命第一で財政出動をしないといけないが、国民はあとでそのツケを払う覚悟をもたないといけない」などと言っている人がいます。

 

しかし私はこうした見方は妥当でないと推察しています。いまアメリカやヨーロッパなどが大規模な財政出動や金融緩和政策を容認しているのは、何の経済的支援策もせず自国の民間企業や個人の経済力を潰してしまうと、いま行っている財政出動の額以上の巨大損失が発生すると見ているからでしょう。逆をいえばアメリカ・ヨーロッパが予想しているコロナの被害規模は空前絶後のもので、戦争であるという言い方が大袈裟でないということです。

 

こうした大胆な財政出動は国家財政が痛むというリスクに目をつぶっても、社会・経済的なカタストロフィー(破局)を回避するという益=hervestを勝ち取るという大胆なギャンブル(もともとは損失が起きることを覚悟の上で、大きな収穫を狙い獲るという意味)であるといえます。あるいはコロナウィルス感染収束後の民間経済再生や維持のための投資=investであるという見方もできます。

「ドイツのように財政規律を厳しく遵守してきた国は貯金があるから財政出動ができる」というよりも、スペンディングファースト(先払い)の投資でコロナ対策の財政出動を行っているという見方をすべきなのです。

 

もし仮に政府がまったく財政出動や金融緩和の手当をせずに、コロナショックによる打撃を被った民間事業者や勤労者個人を放置したらどういうことになるでしょうか?倒産や廃業が続出して失業者が急増するような事態になりかねません。そのあとに民間の経済活動が勝手に再生していくのでしょうか?

会社を一度潰してしまうとその会社が長年積み重ねてきた技術や知識のノウハウも同時に消えて無くなります。そこに勤めていた従業員もそうです。これを職能の腐食といいます。

一部にコロナショックを乗り越えられないような企業は淘汰させておけばいいという清算主義的な見方をする人がいますが、かなり事態を軽く見過ぎていると私は思えてなりません。著しい供給側(サプライサイド)の腐食と需要萎縮が同時に起きてしまう恐れがあります。(オリビエ・ブランシャール教授は”ディスオーガニゼーション”と呼んでいる。)それこそペンペン草すら生えないような状態となり、世界中が長い経済活動の低迷に喘ぐことにもなりかねないのです。

 

こうしたリスクは私だけではなく、いま世界各国の首脳が嗅ぎとっているのではないでしょうか?でなければあれだけの財政出動や金融緩和政策を行ったりしないでしょう。一時の財政出動や金融緩和を惜しんで民間経済を潰してしまえばもっと大きな経済的損失を発生させることになると見ているでしょうし、その結果国家財政が本当に危機的状況になりかねないという事態も憂慮しているかと思われます。国家財政は民間の経済力という担ぎ手に支えられた神輿にすぎないのです。

 

あと株式評論家の早見雄二郎氏がツイッターで面白い発言をしておられました。f:id:metamorphoseofcapitalism:20200401003620j:plain

自分の家が火事になって、急いで水をどんどんかけて消さなきゃいけないのに、水道代を気にするやつがいるか。今の日本政府を見ていると火事を消すより水道代を気にしてためらっている。愚か極まる。

— 早見雄二郎(株式評論家) (@hayamiy) 2020年3月20日

 

 斎藤淳さんも同じことを仰っています。

f:id:metamorphoseofcapitalism:20200401004709j:plain

斉藤 淳 on Twitter: "デフレのこの時代にハイパーインフレ心配するのって、まさしく火事が起こっているのに水道代気にして、計量カップで計測しているような愚行・愚考ですね。"

 

 竹中平蔵氏が言っていたように記憶しますが、政策は優先順位を誤るとろくな結果を生みません。いま政府が最も最優先すべきことは自国民の生命と財産・所得そして生産手段を護ることです。今回のコロナショックの場合は東日本大震災のように工場などの生産設備が破壊されているわけではありません。企業の資金調達の問題や休業などで所得が急減している人たちの問題さえ解決できれば民間の経済活動再開が十分可能なはずです。

 

もう一度繰り返し言いますが、一時の財政・金融政策の手当を惜しんで本来何もなければ普通に営業活動ができていた事業者や就労を続けられた真面目な人たちを潰してしまうようなことがあれば、今後何年もの間著しい経済低迷に陥ることになりかねません。それは愚か極まりないことです。

 

いまは思い切った再生への投資を惜しむべきではありません。

  

お知らせ

 

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

 
イメージ 1