新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

大型財政出動の財源は大丈夫?→心配いりません!

 コロナショックで多くの国々が経済麻痺状態におかれています。イタリアでは感染拡大がひどく、市民の外出の制限や店舗などの休業、都市閉鎖まで行っていますが、多くの人々が仕事をすることができず、収入が途絶えてしまっています。僅かな貯金さえ食い潰しかけています。

 

イタリアの惨状

アメリカやヨーロッパなどの国々では日本以上にひどいコロナウィルスの蔓延で数多くの重症者や死者を出しています。感染を抑制するために市民が家の外へ出ることを制限したり、工場や店舗の操業や営業を停止させることはやむを得ない非常措置です。しかしながらそれは恐慌に匹敵するほどの経済活動の萎縮とトレードオフになっています。一方を守るためには一方を犠牲にしないといけません。いま世界中の国々で採られている標準的な判断は経済を犠牲にしてでも、感染拡大を優先するというものです。自由主義経済の原則に反し、一時的社会主義統制経済的であったとしても、閉鎖や操業停止などで売り上げが急減して資金繰りが悪化している民間事業者に政府がつなぎ融資や助成金、補償金を交付したり、国民個人に無条件で現金給付を行うといった政策(見方によっては一時的ベーシックインカム)を断行しています。

 

このような大規模の財政出動をやると財源を心配する人が出てきます。

特に日本では国家財政悪化や破綻を心配する人が多いです。

さらにいま現金給付などをしてくれても、後から増税というツケが回ってくるとか。。。。。

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また一部で

「ドイツとかだと普段財政規律を厳しく守ってきて、たっぷり”貯金”があるから、財政出動ができるのだ」「日本は放漫財政で財政を使い果たしているから財政出動なんかできないのだ」

などと嘯く人たちがいます。

 

今回はそうした疑問についてお答えすると共に、一部から出ている俗説にも反論しておきましょう。

1 国家財政の悪化がもっと進んでしまったり、後で増税ということにならないのか?

今回のコロナショックによって打撃を受けた民間事業者や国民個人への経済的支援・補償や東日本大震災などの大規模災害の復旧・復興費などは税収ではなく国債で財源を賄う方法がよいのです。

その理由は納税者の負担が一度に、しかも重く圧し掛かってしまい、それによって税負担をする国民や企業の経済力を弱めて、結果的に負債の返還能力を失うことになるからです。大岡越前五貫裁きと同じ考えで、負債を粉々に分割してしまいます。

いまコロナショックで打撃を受けている民間事業者を政府が救済しなければ、その事業者は泣く泣く廃業したり倒産という事態に陥ります。そうした事業者が膨大に出てきてしまうと、結果的にコロナショックの感染が収束しても、生産活動が再開できないことになるでしょう。当然膨大な失業者が生まれたり、生活保護に頼らないといけないような人々が一気に増えます。そうなると政府の税収は慢性的に落ち込んだままであるにも関わらず、生活保護などの財政支出が膨張したままで、それこそ本物の国家財政危機が訪れるリスクが高まります

大事なことはいまのコロナ自粛の間に、これまで立派に経済的自立を果たしていた人々が、自立できなくなってしまうことを防ぐべきなのです。自粛中の民の事業や生活を守ると共に、感染収束後のいち早い生産活動再開ができるよう方策を考えるべきときです。民間の経済的自立が損なわれなければ税収を回復させ、負債の償還もできるようになります。増税という手段でなくても経済活性化で税収を伸ばすことは可能です。

カネ貸しは借り手の返済能力を潰さないように貸したおカネを回収します。借り手はしっかり稼いでラクにお金を還す方法を考えることが得策です。

 

2 国債(あるいは通貨)をどんどん発行して大丈夫なの? 日銀の国債買受と財政ファイナンスはまずくないの? 

これについても過去のブログ記事で何度も説明してきたことですが、現時点の日本においてそれを心配する必要はあまりありません。

もともと私たちが日頃遣っているお金は信用貨幣といって、借金の証文や手形のようなものです。誰かが何かの借り(モノを譲り渡すとかサービスを行うといった約束)をつくることでお金が産まれます。MMT(現代貨幣理論)の支持者でなくても普通の経済学者らが肯定している話です。

下の図は国が国債を発行したことでお金が産まれる構造を説明したものです。政府が発行した国債中央銀行が直接引き受けて、貨幣である中央銀行券を発行する流れを国債引受と言います。

 

f:id:metamorphoseofcapitalism:20200409165043p:plain戦前の昭和恐慌のときに高橋是清国債日銀引受で決定的に不足したマネーを増やし、それを民間が遣う資金として積み上げて恐慌脱出を計りました。現在これは禁止されていますが、国債中銀買受は普通に行われています。アベノミクスがはじまる前の日本やアメリカなどでもやっていることです。

国債中銀買受は政府が発行して民間の金融機関が買った国債を、中央銀行が買い取って民間銀行の当座預金に準備預金(ベースマネー)を積み上げています。量的金融緩和はこれをものすごく高く積んで、民間銀行が貸し倒れリスクを恐れることなく融資ができるよう促すことです

 

政府が大量に発行した国債を日銀が日本銀行券を発行して買い取って、民間銀行の当座預金口座に準備預金をうなるほど積みあげるようなことをすると「ハイパーインフレになる」とか「国債価格が突然暴落する」とか「1980年代みたいに資産バブルが発生する」といった批判をする人たちが絶えません。しかし実際にそれが起きたことはアメリカやECBを含めてありません。なぜそうならなかったのでしょうか?

まず「ハイパーインフレになる」ということについてですが、国債中銀買受で生まれたマネーが直接市中へ流れ込むわけではなく、借り手となる民間企業や個人が積極投資や消費をしはじめ、資金不足なって銀行からお金を借りるようなり、はじめて市中へマネーが供給されることになるからです。マネタリーベースを一挙に増やしたから、それと同じ量のマネーサプライがそのまま市中へ流れるわけではありません。もし仮に物価の急上昇が起きたとしても金利を引き上げればすぐに過剰投資や信用膨張にブレーキがかかります。

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国債価格が暴落する」ということについては量的金融緩和がはじまってから、国債価格が下落するどころか高止まりしたままでした。なぜなら国債金利を抑えるために中央銀行国債をどんどん買い占めて品薄状態にしてしまったからです。ついでに言いますと日銀が政府のかわりに日本銀行券を渡して民間銀行から国債を買い取るということは、旦那がつくった借金を奥さんが立て替えて債権者に還したようなものです。

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今日2020年4月9日に日銀の黒田総裁があまりにコロナショックによる経済的打撃がひどければ追加緩和を躊躇なく行うという発言をした模様です。これについて「量的金融緩和なんか効果ないのに~」などと寝ぼけたことを言っている人がいますが、多くの民間事業者が資金づまりを起こしており、銀行は貸し倒れのリスクを恐れて、融資の引き上げや貸し渋りを始めかねない状況です。それが起きたときの保険金という意味でもしっかり準備預金(マネタリーベース)を積んでおかないといけないのです。

 

政府が国債を新規で発行して、日銀がそれを買い取って現金化し、それを民間銀行の準備預金として積み上げておくということをしないと、民間企業や個人、さらには銀行にとっても非常にまずい状況だということを理解すべきです。

 

量的金融緩和や国債と貨幣の関係を知らない人にとっては、キツネかタヌキに騙されているような感覚を覚えるかも知れませんが、日本に限らずアメリカやヨーロッパ圏でも現在断行されていることです。

 

 

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