新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

相反するコロナ感染拡大防止策と経済活動維持

3月末に急速なコロナウィルス感染拡大が進み、令和2年4月7日に政府が緊急事態宣言を発令しました。未だワクチンの開発が進んでいない現在において感染症の拡大を防ぎ、医療崩壊を避けるためには人と人の接触を減らすしかありません。ところが経済活動というものは基本的に人の動きや人と人の交流が非常に活発でないと成り立ちません。その経済的営みの一つで「働く」ということも字を見てわかるように「人が動く」という意味です。困ったことに感染拡大を防止するということは経済活動を抑制しないと不可能で両立でトレードオフの関係です。どちらかを優先すればどちらかが犠牲になります。

 

下の図は高橋洋一さんが感染症数理モデルと対策についての解説で遣ったモデル図です。

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両極端な話ですが、経済活動の維持や活性化を優先して外出制限や渡航制限などの感染拡大防止対策である接触率削減を一切行わない方策を採る道(ここでは”プランA”とします)と厳しい外出制限や休業命令などによって他人との接触率を100%削減し早期の感染拡大収束を狙う道(ここでは”プランB”とします)という選択があります。言うまでもなくどちらも非現実的な策であり、どこの国でもプランAとBの折衷という形の対策を行います。ただ国によってプランA寄りかプランB寄りかの違いがあります。感染拡大が深刻で致死率が非常に高くなっているアメリカやイタリア、スペインなどではもはや経済活動どころではなく、かなりプランBに近い方式を択んでいます。

 

もし仮に日本でまったく感染拡大予防対策を打たないAプランの場合、国民の相当数がコロナウィルスに感染し、数十万人から100万人の死者を出してしまうことが想定されます。

北海道大学大学院の西浦博教授が4月15日、国内で何の対策もとられなかった場合、重篤患者は15~64歳で約20万人、65歳以上で65万人にのぼり、40万人以上が死亡すると発表して、かなりの物議を醸しだしましたが、決して大袈裟な数字ではありません。

ただしプランAの場合は政府側が強制的に民間事業者の経済活動や国民の就労や消費行動を制限させるようなことはしないため、休業補償や現金給付などといった財政出動はしなくて済みます。

 

一方プランBのように民間の経済活動をほぼ停止寸前の状態にしてしまうような方策を政府が択んだ場合、休業補償、休業協力金、現金給付などで民間事業者の経営存続や一般個人の所得補償を政府が行う必要が出てきます。その費用は100兆円を見込む必要があります。自分がよく使う例えですが、心臓外科手術で心臓の動きを停めて仮死状態にし、人工心肺で循環を代替するのと一緒です。

 

現在日本では欧米に比べると比較的コロナ感染拡大がひどくなく、致死率も高くはありません。なぜそうなっているのかさまざまな仮説が飛び出していますが、現在のところはっきりとした理由は判明していないところです。

一部で「日本人はすでに集団免疫を獲得できているから感染がこれ以上拡がらない」とか「BCG予防接種を行っている国ではコロナ感染がひどくない」といった理由で緊急事態宣言解除をしてもいいだろうといった主張を見かけます。確かに私の目からみてもBCG予防接種を行っている国とそうでない国で感染拡大や致死率の高さに大きな差が出ており、因果関係がありそうだと思えそうですが、まだ確実な検証結果が得られたわけではありません。

あとコロナ感染拡大防止策で初期対応による封じ込みに成功し、優等生と評されたシンガポールですが、つい最近になって外国人出稼ぎ労働者を中心に感染拡大が一挙に進んでしまいました。

優等生シンガポールの感染者数が「東南アジア最悪」に転じた理由 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

一見感染拡大が収束に向かったかに見えても、少し油断しただけでパンデミックに陥ってしまう危険性が日本においてもないとは断言しきれません。

 

コロナ感染拡大防止を優先し、政府が民間の諸活動に大きな制限をかけることは上で述べたように休業補償や助成金、現金給付などで数十兆円~100兆円というかなり大規模な財政出動を行う必要がありますが、このブログで何度も説明してきたとおり、政府が発行した国債を日銀が買い取って現金化させる方法を遣えば財政を傷めずに済みます。金利上昇も回避できます。

このような手を遣えば国債暴落だのハイパーインフレが起きるなどと言っている人が未だにいますが、サブプライムローンショック後の金融危機で量的金融緩和を行ったアメリカやヨーロッパでそれが起きたかというと起きていません。

 

私はむしろ休業補償やモラトリアムなどの対策なしで民間事業者をたくさん潰し、破産者や失業者を大量に発生させてしまうことの方が財政危機を招く危険性が高いと予想します。国家財政危機は国全体の経済成長率や金利が大きく関わります。

 

参考1「財政危機とはいったいどういう状況を意味するのか

参考2「財務官僚が煽る国家財政危機の嘘 その2 GDPとプライマリーバランス・債務残高

 

現在コロナショックによる経済や国家財政への悪影響で最も憂慮すべきことは”サプライサイドの壊死”です。これは私が名付けた言葉で、モノやサービスの生産活動を担う民間事業者が数多く廃業・倒産することや高い職能を持つ勤労者が失職することで供給側が壊死するという現象です。もし仮にハイパーというレベルではなくても高いインフレやスタグフレーションが発生するならばモノやサービスの供給不足によって発生するという道筋になるのではないかというのが私の推測です。

経済学者のオリヴィエ・ブランチャード教授は供給側の不足と同時に需要側も低下し、デフレ不況に陥るというディスオーガニゼーションを懸念されています。

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 田中秀臣教授がオリヴィエ・ブランチャード教授の発言を解説するために作成したAD-AS分析図

 

感染拡大防止のために長期の経済活動抑制を続けると、多くの民間事業者が経営存続を断念せざるえない状況になるために、なるべく早くコロナ感染拡大の収束させ、緊急事態宣言を解除させたいところですが、まだそれができる状況だとはいえません。感染拡大防止対策を進めつつもサプライサイドの壊死を防止するためには政府が休業補償や現金給付などを民間に惜しまず支払ってしのぐのが最善の手になります。

 

「なすに任せよ」的にプランA型対策ですと一見民間経済損失や財政負担がゼロであるかのように見えますが、ほんとうにそうなるでしょうか?私はそうだと思えません。ひどい感染拡大は結局経済活動をひどく低下させることになり、結果的に100兆円の財政支出を超える巨額の経済損失を生み出しかねません。何より人の命はお金に換えられないものです。コロナウィルスに感染し死に至ってしまう人は抵抗力が低い高齢者が多いのですが、若い人たちも例外ではありません。

 

コロナウィルスのワクチンが生み出されない限り、ある程度経済を犠牲にしても人と人の接触率を下げて感染拡大を防止する方法しかないのです。

 

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