新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

感染防止優先か、経済優先かの二分法ではいけないコロナ対策

前回書いた「相反するコロナ感染拡大防止策と経済活動維持 」という記事でコロナウィルス感染拡大防止策と経済活動活性化はトレードオフの関係で、相反しているということだけを先に伝えました。

ワクチンや確実な治療法が見つかっていない現時点において、感染拡大を食い止めるには人と人の接触を極力少なくするしかないのですが、それをやるとなると経済活動を抑制せざるえません。

f:id:metamorphoseofcapitalism:20200430235819p:plainf:id:metamorphoseofcapitalism:20200428215906j:plain

右図 高橋洋一氏が感染症の対策案について説明するために用いたモデル図。プランAが接触率削減0%にした場合の感染者数の変化で、プランBが接触率を100%削減した場合のモデル。

 

数十万人~100万人以上の重篤患者や死亡者が出てしまうことを甘受して、経済活動の維持を優先する案(プランA)と経済活動を犠牲にしてでも、ウィルス感染者および死亡者数を最小に抑えることを優先する案(プランB)はどちらも両極端で非現実的なものです。

現在ネット上などで「人命優先か、経済優先か」みたいなかたちでコロナ対策の議論が展開されていたりしますが、単純な二分法で片づけられるものではありません。プランAとプランBの折衷案でコロナ対策を進めていくしかないのです。

 

感染症拡大防止策と経済対策は下のIMF国際通貨基金)のウェブサイトに書かれたコラムで書いてあるように、爆発的な感染拡大が起きているオーバーシュート状態の対策(フェーズ1)と完全ではないけれども感染拡大の抑え込みができて、経済活動の段階的回復が見込める沈静期(フェーズ2)にわけて考える必要があります。

 緊急事態宣言が発令されていた2020年4月中において日本の新規感染者数の増加は頭打ちとなり、4月下旬には2ケタ台にまで抑え込みができています。とはいえ気を緩めた途端に再びオーバーシュート目前の状態に戻ってしまう危険性を否定できません。政府は5月も緊急事態宣言解除を見送る方針を示しました。これからも最低一ヶ月間はフェーズ1の対応を継続することになります。

 

フェーズ1の段階においては外出や集会・渡航・営業活動の制限がかかり、民間事業者は事業の休業や売り上げ不足、固定費支払いの負担を背負わされます。また多くの国民は所得減少に追い込まれます。ですので政府による休業補償や支払い猶予(モラトリアム)、さらなる現金給付が必要となるでしょう。日本の場合ようやく持続化給付金や国民個人への現金10万円一律給付の支給が始まろうとしていますが、緊急事態宣言が延長されたことを踏まえると、当然その追加をせねばなりません。

 

 フェーズ1についてはどちらかといえば感染拡大防止を優先したプランBに近いもので、政府が財政出動で失われた民間事業者や国民個人の所得を補償するかたちとなっていますが、この状態は心臓外科手術中に心臓の動きを停めて仮死状態にし、人工心肺で循環を代替しているようなものです。外出などの行動制限で民間の商工業活動が休業状態になったり、売り上げが大きく落ち込んでしまっていても、政府からの補償金・助成金でその事業者が経営存続できる状態にしておいたり、一般個人が仕事に行けなくても収入がちゃんと確保されるようにするわけです。一見社会主義的に見える政策手法ですが、民間主導の自由主義経済・資本主義経済を温存し、再鼓動させるための施策なのです。

 

ただしこの状態が長期化してしまうことは望ましくありません。何か月も民間事業者の経営活動を停めてしまうと、その蘇生が難しくなることは簡単に想起できます。いくら政府からの補償金や助成金が支払われ、家賃や税などの支払い猶予や免除があったとしても、売り上げ回復が当面見込めなかったりすると経営者が事業廃止を断念したり、従業員の解雇を始め出します。

 さらにいうと教育についてもそうです。学校の休校期間があまりに長すぎると児童生徒の学習機会が大きく損なわれしまいます。自粛解除後にかなりの早巻き・詰め込み教育をやらないといけないことになるでしょう。

 

となってくると民間の行動制限のやり方を考え直さないといけなくなってきます。ウィルス感染拡大を防ぐツボみたいなことがわかってくると、各国の政策担当者らは何を制限して何を制限緩和していいのかが掴めてくるかと思われます。感染拡大再発を防ぎながら経済活動の維持や再生を見込んだプランA寄りの政策=フェーズ2へ逐次移行していかねばなりません。そして中~長期の経済再生プランも考えていく必要があるでしょう。

 

現時点において コロナ感染封じ込みが巧くいっている例のひとつとして台湾が挙げられます。台湾は昨年12月に中国武漢で正体不明の肺炎が流行しているという情報を掴んでから以降、武漢からの航空機の検査を義務づけや中国人の入国規制→禁止措置をとるなど手際のよい水際作戦を行ってコロナ感染者の流入を防ぎます。それから学校の休校や、素早いマスクや防護服の生産・供給の増強を行いました。

それによって見事台湾では感染拡大や死者の発生を抑え込み、現在では休校していた学校も再開し通常登校となっています。

感染拡大がひどいアメリカやヨーロッパに比べると台湾の対策は市民に対する外出などの行動制限が緩く、民間事業者の商工業活動に対する阻害が小さく見えますが、その一方で感染者や濃厚接触者、海外から帰国した人に対する14日間の隔離義務の徹底を行ったり、隔離された人に1日あたり約3600円の補償金を支給するが、違反者には最高約360万円の罰金を科すといった厳しい規制も敷いています。授業を再開した学校でも、マスク、アルコール、非接触式体温計が配布され、教室の換気も徹底します。緩和と規制のメリハリがかなりしっかりつけられています。

 

もうひとつの例としてスウェーデン方式をみていきましょう。

スウェーデンは4月19日時点で同国の新型コロナ関連の死者数は1540人と、前日から29人増えていました。この数字は北欧諸国の中ではかなり多いものの、イタリアやスペイン、英国と比べると大幅に少ない方です。

スウェーデン政府は他の欧米諸国のように都市封鎖(ロックダウン)といった厳しい行動制限を市民にかけずに、学校やジム、カフェやレストランの営業も認めています。

そのかわり政府が国民に対し、他の人と一定の距離を保ち社会的間隔(ソーシャルディスタンス)をとる指針に従うよう求めています。国民ひとりひとりが自主的にかつ責任を持って感染防止のための行動していくという姿勢です。

 緩和的なスウェーデンの新型コロナ対策を指揮するアンダース・テグネル氏は「最新の感染率や死亡率からは、状況が安定化し始めたことが見て取れる」と答えています。

 

台湾やスウェーデンの場合は早めに対策段階をフェーズ1からフェーズ2へと移行させ、経済的打撃の軽減も最小に抑えていくという考え方でしょう。

 

さらに言いますとコロナウィルスに感染し、さらに死亡に至るのは高齢者層が中心です。「3密」になりやすい施設収容されていた方が多くを占めます。

もうひとつ重要な視点で前回の記事で触れた「接触率8割削減」というのは街中などでの人出を8割削減せよということではありません。社会的間隔をとって濃厚接触を避けるよう心掛けることによって接触率を下げることができます。経済学者の安田洋祐さんは北大の西浦博教授が感染拡大防止のために示した接触率8割削減の話を「人の流れ=人出を8割減らす」と多くの人が誤解しているが、大事なことは「人と人との接触を8割減らす」ことで、

「人出×接触率」を8割削減させればいいという指摘をされています。

となってくると濃厚接触を避ければ極端な都市閉鎖みたいな方法を採らなくても十分接触率8割削減が可能で、経済的活動の抑制も最小限にすることができます。 

 

今回のコロナウィルス感染が完全に収束するには相当長い時間を要しますが、かといって経済活動を完全に停止させるわけにはいきません。私たち市民の自由な行動や生産・販売活動を抑制し続けることもできないのです。緊急事態宣言のテーパリング(出口戦略)を考えることは非常に難しいのですが、フェーズ2への対応移行を視野に入れるべき時期となっています。

(2020/5/4 上の記述を打ち消し)

 

次回もコロナ感染対策と経済対策の折り合いについての記事を書くつもりですが、単純に行動制限解除さえすればいいというものではないという話をしたいです。

 

お知らせ

 

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

 
イメージ 1