新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

緊縮財政目的で緊急事態宣言解除を早めるのはまずい

前回の記事「感染防止優先か、経済優先かの二分法ではいけないコロナ対策 」では今後も引き続き感染拡大防止のために緊急事態宣言を延長し民間の事業者や国民個人の行動制限をかけていかねばならないけれども、経済活動の抑制を長期化させるわけにもいかないという話をしました。コロナ対策を感染膨張期におけるフェーズ1の対策と収束期に転じ社会機能回復を目指すフェーズ2の対策と2段階にわけて打つべきですが、現在フェーズ1からフェーズ2への切り替えをどこのタイミングでするのかということで多くの人の意見が割れています。前回の私の記事でもまだ感染再拡大のリスクが消えていないけれども、経済活動の再開や回復も視野に入れないといけないと結んでいます。

 

しかしながら感染対策のための行動制限を緩和させていくテーパリング(漸減)は慎重にやらないといけません。2020年5月4日現在日本のコロナウィルス感染者数の増加は4月中旬のピークを過ぎてから落ち着いてきました。

 

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(資料)高橋洋一氏が厚生労働省の資料を基に作成したグラフ

 

一見このまま感染拡大が収束していくかに見えるのですが、いきなり緊急事態宣言を解除して、人々の気を緩めてしまうと、再び感染者数が膨張してしまう可能性があります。現在感染がひどかった欧州圏でも都市閉鎖(ロックダウン)といった厳しい行動制限を緩和していく流れになってきていますが、中途半端な時期の行動制限緩和や解除によって感染再拡大となれば元の木阿弥です。

 

今回のコロナウィルス対策で世界各国が採っている対処は各々異なっていますが、巧くいった事例の国は

  1. 国外からの感染者の流入をいち早く食い止める(水際作戦)
  2. 感染拡大を食い止めるために、早めに非常事態宣言や都市封鎖などといった厳しい行動制限をかけて接触機会を削減する。政府が民間事業者や個人に休業補償金や現金給付、支払い猶予(モラトリアム)などといった大規模な財政出動を行うことも厭わない。
  3. 収束期を迎えても、再感染防止のために濃厚接触を避けるなどといった行動をするよう国民に注意を促し続ける

といったことができています。

 

つまりは早期の段階で民間事業者や個人に休業補償や現金給付などを奮発してでも厳しい行動制限をかけて徹底した感染の封じ込みをやった方が、結果的に経済活動の休止を短期間にとどめ、経済への悪影響を軽減できる とることになります。一気に思い切った対策を打って、速くウィルス感染を封じ込めて経済再生を計る方が「はやい・やすい・うまい」となります。

現在経済をこれ以上犠牲にするわけにはいかないから早く緊急事態宣言を解除しろよという声があちこちから出かけていますが、感染防止の不徹底は結局感染再拡大を招き、さらなる巨額の経済損失を生み出しかねません。もしそうなったら民間事業者が営業再開しても、結果的に感染を恐れる人が外出を自粛してしまい、開店休業状態になってしまったり、工場を再閉鎖するようなことになりかねません。

 

今回の緊急事態宣言延長でかなり不安や焦りを募らせている民間事業者の経営者がいらっしゃるかと思われます。経営存続か断念かを決めるタイムリミットが刻一刻と近づいており、そうした立場の人はいち早い行動制限の緩和や解除を求めたいところでしょう。全国一律の行動制限をこれ以上強い続けることは私も望ましいことだとは思いません。人が密集しやすい都市部を除いて行動制限を緩和させていくテーパリングへの移行を行うことを視野に入れるべきでしょうが、それでもまだ当面の間経済活動に大きな制約がかかってしまうことは避けようがないことです。

 

よって政府側は追加の休業補償や持続化給付金、国民への現金給付などといった財政手当を行っていかねばなりません。

 

「コロナウィルス感染で死ぬ人間よりも、経済的理由で死ぬ人間の方が多くなる」という意見が多くあります。この指摘は非常に重要だと私は思います。コロナ感染拡大を食い止めても、その後の経済的苦境によって多くの人が破産や失業に追い込まれ、最悪自殺してしまうようなことになってしまってはいけません。両者の損失をてんびんにかけて比べる必要があります。(それを算出するのが難しいのですが)

しかしながら経済活動の休止期間中の政府の財政支出をケチりたいという緊縮財政的な思惑で早期の緊急事態宣言解除を求めるのは大きな誤りだと自分は考えます。例の国民への現金給付や民間事業者への休業補償などといった財政措置が決まるまでの経緯を見ていると、財政を出し惜しみしたいという財務省の思惑が見え透けてきます。

 

今回日本政府が行った緊急事態宣言についても発令のタイミングが速かったとはお世辞にもいえません。その理由ですが民間の事業者に休業要請するとなると当然のことながら政府は休業補償を行う義務が発生します。そうした財政支出を渋りたい財務省側がそれを簡単に認めず、緊急事態宣言の発令を遅らせ、結果的に感染者だけではなく民間の経済損失まで拡大させてしまうことにつながりかねませんでした

 

今回の財政出動で国家財政が破綻してハイパーインフレになってしまうのはないかと心配する人が多く見えますが、それはかなり的外れだということはこのブログの「大型財政出動の財源は大丈夫?→心配いりません! 」という記事と別ブログの「負債とお金、コロナ対策の財源のお話」という記事で説明しました。むしろ防疫対策と財政政策を中途半端にしてしまうことが余計感染の発散と経済悪化を招き、民間の経済力を弱めてしまうことになるのです。国家財政の悪化も進みます。

 

いまの時点でコロナ感染拡大の動きが落ち着いてきたかのように見えますが、しっかり念を入れて対策を打つべきでしょう。政府は民間への補償や助成を惜しんではなりません。 

 

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