新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

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現場無視の小林慶一郎が開陳する全国民PCR検査実施提言の愚

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前回記事に続き、政府のコロナ対策諮問委員会の委員のひとりとして加わった東京財団政策研究所研究主幹である小林慶一郎氏についての猛批判を行います。氏は同じく委員に加えられた竹森俊平・慶大教授や阪大の大竹文雄教授と共にかなり増税・緊縮財政派色が強い経済学者だと評されています。財政政策だけではなく(量的)金融緩和政策についても「ハイパーインフレの懸念がある」とか「国債暴落を招く」などと言って否定的でした。

 

ちなみに3月に書いた「コロナショックで隠れた消費税増税の悪影響を無視するな 」という記事で東京財団政策研究所が発表した緊急提言について非難しましたが、この賛同人に小林氏や大竹氏の名が連なっています。

www.tkfd.or.jp

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前回の私の記事では小林氏が中央銀行が通貨を発行して国債などの債券買受を行う財政ファイナンスを行ったら悪性インフレを引き起こすという短絡的な危機妄想をバラ撒いたり、東日本大震災後の需給バランスを読み間違えて緊縮財政・金融引き締めを主張してしまうといった前科について述べてきましたが、今回のコロナ対策諮問委員会で専門外の感染症対策について首を突っ込み、現実にそれを実行したら医療現場や社会が大混乱するような珍提言をしはじめたようです。

 

小林氏は「一日500万件の大量のPCR検査を行い、濃厚接触者を追跡し、陽性者を確実に隔離すること」などという提言を委員会の場で口にしました。

PCR検査については韓国が行ったように一斉に大勢の人に実施して、感染者を把握し隔離してしまえば感染拡大の早期収束ができて、人々が感染を恐れなくても済むようになって安心できると思っている人が多くいたりしますが、盲点がいくつもあります。

それを話す前に感染症対策の目的は何かをしっかり念押ししておかねばなりません。いちばん重要な目的は言うまでもありません。感染による死者や重症患者をなるべく抑えることです。そして感染患者が急増して医療機関が対応できなくなってしまう医療崩壊を回避することです。ここで考えなくてはならないのはPCR検査を何のためにするの?何をしたいの?ということです。それとコロナウィルスに感染したかどうかの診断はPCR検査だけでしかできないのかということや、PCR検査そのものが完全なものなのかという問題もあります。

 

PCR検査とは何かという概説や検査の難しさと偽陽性偽陰性の問題について手短にまとめられている神奈川県医師会が作成したパンフレットを紹介しておきましょう。

 PCR検査の特性と限界 | 公益社団法人神奈川県医師会

 PCR検査は検査技師の高い熟度が求めれ、繊細な操作を非常に根気強く続ける必要があります。そのために100%完璧な判定ができるものではなく、本当はウィルスに感染していないにも関わらず陽性(クロ)の判定がなされたり、逆にウィルス感染しているにも関わらず陰性(シロ)の判定が下されてしまうことが無視できないほど発生します。誤判定の確率は3割にも上ります。

ほんとうはシロなのにクロと判定され、無駄に会社を休まされ病院やホテルに隔離収容されてしまって余計な経済損失を生み出したり、医療資源を空費して他の病気や交通事故などの外傷治療に支障を来すといったことが起きたりします。

逆に本当は感染していてクロなのに「オレは感染していないんだ」といって街に出て安易に他人と濃厚接触するようなことがあれば感染拡大を許してしまうようなことになります。上のパンフレットでは次のように釘をさしています。

引用

希望すれば全員が検査を受けられるという検査体制にしてもよいのですが、偽陽性偽陽性の問題が常に付いてまわるということになります。検査件数をいたずらに増やせば偽陽性の人は確実に増え、入院してのベッドの確保も医療現場はその無駄な対応に追われるばかりでなく、偽陰性の人は自覚なく動き回り感染を拡大して、医療現場はその対応に追われ、従来維持してきた交通事故や脳卒中心筋梗塞などの救急患者に対する医療体制が崩壊してしまうのです。心配なので安心したいからと安易に検査を求める人が多ければ多いほど、本当に検査が必要な人が受けることができなくなり、治療への速度が落ちてしまいます。感染疑いのある人を速やかに検査して、治療に結び付けたいのです

 もうひとつの参考記事として東洋経済の大崎明子さんがまとめた国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長の西村秀一医師へのインタビュー記事を添付しておきましょう。

西村医師は

「インフルエンザのように効く薬があってすぐに処方してくれるということなら、やる意味はあるでしょう。「陽性」という結果は役に立つことになる。そうではない現状ではやみくもな検査は意味がない。いつまでもやってくれないという話が出ているが、症状が悪化したらCTを撮ったり呼吸を見たりして肺炎の治療をきちんとやっているわけです。特効薬がない中では命をつなぐ治療が重要だ。」だと述べます。

さらにPCR検査ができる専門性の高い熟練した検査技師を今日・明日で養成して一気に検査体制を増強するなどということはできないということも指摘します。下手をすれば検査崩壊を招き、次の冬にコロナ感染拡大が再度進んでしまったときに検査が追い付かないという状況が考えられます。

 

検査技師や検査キットの養成・確保や感染者の治療という臨床体制の整備とその資源の適正配分という問題は非常に経済学的です。経済学というのは需要と供給、そしてモノやサービスといった財の分配をテーマにした学問だからです。上の西村医師は医療や検査資源の供給や配分に対する配慮をしないと逆に大きな社会的混乱を招きかねないという重要な指摘をされています。

 

しかしながら小林慶一郎氏は無神経にも検疫や医療現場の供給制約を無視して、十数兆円もの予算をかけさえすれば国民全員にPCR検査を行ってはやく国民を安心させることができるし、経済活動の本格再開もできるのだなどと言い出しているのです。

ネットでPCR検査について調べてみるとわかりますが、ひとり検査するごとに検査員が着用する防護服や手袋などをそっと脱いで廃棄処分するか、30分~1時間以上をかけて消毒する必要があります。検体の採取だけでも相当な労力や資材コストがかかってしまうことに気が付きます。どうも小林氏らは高精度な検査キットのコストダウンや検査効率の改善を行えば5兆円~9兆円の資材費で、人件費や検査人員養成で3兆円をかけさえすれば一日1000万件の検査が実施できるし、半年で全国民に検査を受けさせることができると捕らぬ狸の皮算用を企んでいるようですが、実際には全国民にPCR検査をしようとなると54兆円もかかると云われています。

 

さらに問題は一回PCR検査をしてシロだったらもう安心では済まないことです。どれだけ検査を繰り返しても、必ず感染者が再び現れます。また一度コロナウィルスに感染して発症し回復して陰性に戻っても、再度陽性に戻る場合もあります。多くの労力や検査資材を投じて毎年毎年何十兆円も検査費用を投じ続けないといけないのでしょうか?かつて藤井聡氏や三橋貴明氏らが唱えていた国土強靭化計画は年間20兆円、10年で200兆円もの防災インフラ整備の公共事業を行うことを提言していましたが、それを超えることになります。

 

 

 もともと小林氏や竹森氏、大竹氏らといった経済学者たちがコロナ対策諮問委員会に呼ばれたのは、医学者など感染症対策の専門家たちが自分の専門外である経済政策についての意見を聞きたいという理由からでした。しかし小林氏は勝手に自分の専門外である感染症対策に首を突っ込み、絵空事といってもいいシロウト意見をまくしたてたようなものです。自身が感染予防の研究者で医師・医学者である政府諮問委員会の会長・尾身茂さんらから見たら足手まといもいいところでしょう。

 

自分がツイッター上で小林氏のことを非難していたら「供給制約ってのを理解していないのかな?」というリプが返ってきました。小林慶一郎という男は需要と供給という概念が理解できていないのです。こんな男が「ハイパーインフレガー」などと騒ぎ立て、国民を不安のどん底に突き落としパニックを煽っているのです。デマゴーグです。

 

もう既に小林慶一郎氏はネット上で非難轟々となっていますが、いっそのこともっとデタラメな発言を繰り返して社会的信用力を失ってくれたらと願っております。 

 

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