新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

金融政策の意味を理解できない日本人 ~アベノミクス批判はどれも的外れ~

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 (今回の記事は基礎知識編ブログで安倍総理が辞任を決意される前の2020年8月26日に公開したものを転載しました。)

 

以下本文

今月8月24日に安倍総理の連続在職日数が大叔父だった佐藤栄作政権を抜き、2799日を超えました。

私は心よりそのことを祝福すると共に、これまでの数えきれない功績を賞賛したいと思います。これだけの長期政権を実現できたのは私が最も大きな関心を持っている経済政策をはじめ、外交や防衛、在職中何度となく襲った災害などの危機対応の場面において、非常にそつなく対処できたことが理由として大きかったでしょう。バランス感覚の良さは佐藤栄作氏に通ずるものがあります。ここ最近はコロナ禍対策で休む間もなく激務に追われ、満身創痍といった感じに見えていましたが、現時点において安倍総理に代わるだけの逸材が与野党共々見当たらず、まだ当面現政権にこの国の舵取りを委ね続けねばなりません。先日慶応大学附属病院で健康検診を受けられたとのことで体調が気がかりですが、総理の健康を願わずにはいられません。

 

この件に付随して各マスコミが安倍政権の経済政策について相変わらず「アベノミクスは不発に終った」だの「デフレ脱却にはならずインフレ目標が達成できなかった」だのといった論評を出していたりします。アベノミクスの土台となったリフレーション政策とその主軸のひとつである異次元金融緩和政策は効果がなかっただの、副作用を起こすなどといった有害論についてはこのブログで間違いを指摘してきました。特定の経済動画に対する批判記事ですが、日本のガラパゴス化した財務省・日銀・金融機関系御用学者(自分は金融社会主義トロイカ体制と名付けている)やマスコミなどに向けたものでもあります。

 

 「頓珍漢すぎる金融緩和政策批判 その1 ~ほんとうの金融緩和政策の目的~

 「頓珍漢すぎる金融緩和政策批判 その2 ~流動性の罠に陥ると金融緩和は効かない?~

 「頓珍漢すぎる金融緩和政策批判 その3 ~雇用回復は金融緩和の効果ではないだと?~

 「頓珍漢すぎる金融緩和政策批判 その4 ~出口戦略の失敗による危険はあるのか?~

 「頓珍漢すぎる金融緩和政策批判 その5 ~産業構造改革だけでは民間企業は育たない~

 

もう何度か申し上げてきたことですが

金融緩和政策の目的は民間企業の投資や事業の拡大を促し、それに伴って雇用を最大化させることです。

 

あるいは

企業や個人に積極的にお金を遣わせ、お金の循環をよくする政策

といってもいいでしょう。

よく企業の内部留保がやり玉にあげられますが、金融緩和政策は企業が貯め込んでいるお金を事業拡大のために遣わせ吐き出させることでもあるのです。

異次元金融緩和の目的は物価を上げることだとか、株価を吊り上げることではありません。それは目的ではなく手段のひとつです。

 

金融緩和政策の効果があったのかなかったのかは一枚のグラフを見ればわかります。企業投資です。

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リーマンショックで企業投資がどん底にまで下がります。そこから民主党政権時代はずっと横ばいでした。安倍政権が発足した2013年にグラフの線が上がっていきます。

 

投資が伸びる→人への投資である雇用も伸びる

 

でしたね。

 

2013年から2018年までの間は民間投資と雇用が堅調に伸び続けていました。「アベノミクスは空振りだった」とか「不発だった」などという人はまともに統計を読んでおらず、金融政策の基本のきの字すら知らないのです。

 

何かことあるごとに金融緩和政策無効論とか有害論が出てきますが、その度ごとに日本人の金融政策に対する理解度の低さに絶望感を抱かざるえません。

 

銀行から融資を受けて会社を興したり、新しい設備や店舗、人材確保のために多額の資金を投じている経営者の方ならば金利が気になりませんか?日銀が金融緩和をやめて政策金利を上げていったとしましょう。金利の支払い負担が当然増えますよね?これで新たに店舗を増やすとか人材を獲得するとかできますか?

高い金利支払いの負担に耐えるためには利益率を高くしないといけません。自社が販売する商品の付加価値を高めて利潤を増やすことができれば御の字ですが、消費者の低価格志向が強いままの状態ですと高付加価値型のビジネスモデルを構築するのは難しいです。デフレ指向が強い日本の消費者ではなく海外の富裕層をあてにしたビジネスを拡大しようという動きがありましたが、コロナ危機でそれが吹っ飛びました。

薄い利益の中から高くなった金利を支払い続けるのはかなり重い経営負担です。結局投資抑制や人件費などのコストカットを推し進めないと会社の経営維持が不可能になってきます。

 

立憲民主党枝野幸男氏とかはこういうことをまったく理解していないので、平気で「金利を上げると経済成長する」などと発言してしまったりするのです。この人は金利引き上げで労働者の賃金が下げられたり、リストラが進められてもいいというのでしょうか?旧民主党系の議員のほとんどは基本的な経済学の知識がプアです。(金子洋一さんや馬淵澄夫さん、最近の細野豪志さん、長島昭久さんなどを除く)

日本の左翼政党は金融緩和政策の意味がわからないので、企業に内部留保税を課すとか所得税法人税を重くしてお上が企業からカネをまきあげ、国民にバラ撒けばいいということしか言えないのです。左派系野党だけではありません。三橋貴明とかもそうです。こういう国家社会主義発想は北風理論です。逆に金融緩和政策は太陽理論です。

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基本的な金融政策の意味を理解させないのは日本の経済教育の大きな欠陥です。日本でいう主流派経済学者は金融政策を軽視しています。ですので政治家の主張とかネット上での議論なんか読んでも金融政策の話をする人なんかあまり見かけません。「もっと財政支出を増やせー」あるいは「財政規律を守れー」とか規制緩和やら構造改革の話ばかりです。日本には財政偏重主義者か構造改革主義者しかいないのです。

 

ケインズ主義を単なる財政のバラ撒きとか公共事業拡大みたいな文脈で日本に伝わってしまったのはマルキスト都留重人の影響が大きいと云われています。彼らが書いた中学や高校の公民教科書を読んで多くの日本人は育ってきています。

 

 

 

 

 

 

ネット上でリフレ派を名乗るアカウントなんかも金融政策をきちんと自分の口で説明できる人は僅かです。ただカネをたくさん刷ってバラ撒くのが金融政策だと勘違いしている人間が多いです。そうした人間の多くはMMT(現代貨幣理論)に被れて「カネ刷れ~カネばら撒け~」ばかりを言っています。

 

「金融緩和政策は効果がないのダー」という人は「もう日本の民間企業経営者は積極投資で事業拡大をしようとしない」「もう日本の民間企業はこれ以上伸びないのだ」と言っているも同然です。企業は経営を存続し続けるかぎり、呼吸をするかのように投資をし続けます。民間企業が投資しなくなるといことはその会社が事業を畳むか経営破綻をしたときです。企業が投資しなければわたしたちのお給料も支払ってもらえなくなります。企業が投資をし続ける限りにおいて金融緩和政策が完全に無効になることはないです。

 

もし仮にほんとうに日本の民間企業が投資や事業拡大の意欲を完全に失い、金融緩和政策の効果がなくなったのであれば残された道はただひとつです。

日本を社会主義化するしかありません!

 

もしくは井上智洋さんが提案しているように銀行の信用創造停止とか公共貨幣(政府貨幣)化を計り、会社勤めして給料をもらうのではなくベーシックインカムで国民全員にお金を配って経済活動を維持するしかありませんね。AI・BI・CIとか言ってwww

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冗談はさておき、日本が金融政策をひどく軽視してきたことが1990年代以降の日本企業や産業の停滞を招いています。

三重野康日銀総裁がバブル退治だといって公定歩合(いまの政策金利)を一気にあげてしまい、民間企業は事業にお金を注ぎこめなくなりました。それ以上に資金繰り悪化や銀行による貸し剥がし貸し渋りによって倒産に追い込まれた企業がたくさんあります。

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バブル期は新しい商品の開発に研究費をたくさん注ぎこむことが許されていましたが、三重野日銀による金利急騰によってそれができなくなっていきます。1997年以降は本格的なデフレ不況がはじまって名目金利をゼロに下げても民間投資が伸びなくなるという状況に陥ります。あとから金融緩和をしても民間企業がたくさん潰れて資金需要も小さくなってしまったのです。

 

1990年代に日銀が犯した金融政策のミスによって、1980年代までは世界的にもトップクラスの国際競争力を誇った日本の民間企業や産業がみるみると衰弱していきます。2010年代に日本は中国に国内総生産世界第2位の座を明け渡すことになりました。2013年からアベノミクスが始まるのですが、もしこれがなければ日本の主力企業が中華資本に買収され、経済的占領をされていた可能性があったかも知れません。(事実アベノミクスが始まった前後に中国が難色を示していました)

 

日本が金融政策に冷淡なのは、この国が社会主義的であるというような気がしてなりません。民間のボトムアップで経済を強くするという発想が弱いのです。金融緩和に反対し続けた勢力は民間の経済力を削ぐようなことばかりをしようとします。日本の民間企業を根絶やしにするのは簡単なことです。日銀が金利を爆上げするだけです。そうなった後は公営企業がモノやサービスの生産をし、雇用はJGP(雇用保障制度)で維持するしかないでしょう。

 

私から見たら金融緩和を妨害し続けてきた人間こそ、日本の社会主義化を目指しているんじゃないかと思えてなりません。

 

と、今回は金融緩和・リフレ無効論に対する批判をしてきましたが、2018年あたりからアベノミクスが崩れ出してきたことは否定できません。次回は正しい?アベノミクス批判を試みてみます。

 


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