新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

新政権はコロナ危機から立ち直るための経済ビジョンを示せ

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安倍総理の辞職発表に伴い、早速次期自民党総裁及び総理の選出を巡ってあわただしくなってきました。岸田文雄氏や石破茂氏、河野太郎氏などが次期総裁選に名乗りをあげましたが、最有力候補はこれまで官房長官として安倍総理に最も近い立場で支えてこられた菅義偉氏です。

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マクロ経済政策に関心が高い者にとって、信頼できる総裁選立候補者は菅氏以外に見当たりません。政権の足を引っ張り背後から銃で撃つような背信行為を続けた石破茂氏は論外ですが、「御公家集団」といわれる宏池会に属する岸田文雄氏や河野太郎氏は財務省の影響を強く受けすぎて財政規律偏重主義になっている嫌いがあります。河野氏は外交や防衛、行政改革の面で力を発揮し非常に有能な政治家だと私は思っていますが、経済政策だけはダメです。私がこれまで申し上げてきたように現在コロナ危機で多くの民間事業者が過大な債務負担を背負わざるえなくなっていますが、その負担軽減には補助金など財政政策だけではなく、金融緩和政策も不可欠です。残念ながら岸田・河野・石破の三氏はその理解が極めて薄いです。金融政策の重要性をしっかり理解できているのは菅氏ただ一人です。総裁選出馬表明の記者会見の場でもそうした主旨の発言が出ています。

 

現在アベノミクスは失敗したとかいや成功していたとか言ってマスコミや評論家たちが騒いでいますが、コロナ危機で傷んだ民間経済の再生はまったなしの問題で、そのためのマクロ的(全体的)な経済政策案をいち早く準備しないといけません。

 

コロナ危機下でのマクロ経済政策で思い出していただきたいのは、2020年4月1日にIMF(国際通貨基金)のウェブサイトに掲載されたコラム記事「新型コロナウイルスと戦うための経済政策」です。

www.imf.org

上のコラム記事はこのブログの「コロナウィルスという敵と闘う戦士たちを支えるロジスティクス」「感染防止優先か、経済優先かの二分法ではいけないコロナ対策」という記事でも紹介しました。

 

IMFのコラム記事に戻りますが、そこではコロナ危機に立ち向かう経済政策を2つのフェーズ(段階)を区別する必要があると述べています。

記事を引用しますと

フェーズ 1:戦争中。感染症が猛威を振るっている時期。人命を救うため、感染拡大防止措置によって経済活動は大幅に制約される。これが少なくとも1~2四半期続く可能性がある。

フェーズ 2:戦後の回復期。ワクチンや治療薬、部分的な集団免疫、そしてやや緩やかな感染拡大防止措置を継続することで、感染症は制御されている。制限が解除され、経済は途中で足踏みをするかもしれないが、正常な機能を取り戻す。

 と説明されていました。フェーズ1は医療になぞらえると救急医療や外科手術などの急性期措置で、フェーズ2は機能回復訓練(リハビリテーション)に相当するでしょう。

日本の場合はアメリカやヨーロッパ諸国のように都市封鎖(ロックダウン)や外出・営業制限などといった厳しい抑制を行わず、比較的緩い営業や外出、集会などの自粛(政府や自治体からの要請)だけでフェーズ1を乗り切りましたが、それでも飲食店や旅行関係、興業をはじめ多くの民間事業者が深刻な経営危機に陥っています。感染拡大防止措置は人と人の接触が避けて通れない経済活動を抑制しないといけません。両者は相反しており両立ができないのです。フェーズ1の政策は心臓外科手術でいいますと一時的に心肺停止にし、人工心肺で患者の生命を維持するようなものであり、営業停止や自粛中の事業者とその従業員などに政府が補償金を出すといった内容でした。日本ですと企業への持続化給付金、個人ですと国民1人当たり10万円の定額給付金交付といったものです。とにかく営業や外出、集会などの自粛中に民間の事業者が倒産・廃業したり、そこに勤めていた従業員が失業してしまうような事態を最小限に食い止めることが必要でした。

今年初頭から夏までにかけてコロナ感染拡大の波が二度ありましたが、第2波も2020年9月現在収束傾向にあります。とりあえずもっとも感染症の猛威がひどい状況を脱したとみていいでしょう。安倍総理が辞職を決意し次の政権に交代してもらう決断を下した理由のひとつは感染症拡大がひとまず落ち着き、フェーズ1の政策が一段落したことではないかと思われます。フェーズ2の政策は次の政権に譲るということなのかも知れません。

今後はフェーズ1で抑制していた経済活動を段階的に再開させ、この間弱ってしまった民間経済を再活性化させていく必要があります。残念ながらフェーズ1で日本においても多くの民間事業者が経営存続を断念し廃業を決めたり、倒産に追い込まれました。現在持ち堪えている事業者もまだ不確実性の高い状況の中で、これまで積み上げてきた繰越剰余金(内部留保)を切り崩しながら辛うじて食いつないでいるといったところが少なくありません。

 

フェーズ2の経済政策で必要なことは何でしょうか。2点あります。

いま辛うじて生き残っている民間企業が、この危機を脱すれば再び業績を回復させられるという見込みや期待をつくることです。それには政府と中央銀行が金融緩和政策による資金的支援と積極財政政策による需要喚起をしっかりやるという強いコミットメントとその実行です。金融緩和政策の縮小をちらつかせたり増税を含めた緊縮財政を臭わすようなことはもっての外です。

もう一点はやむを得ずコロナ危機で事業を畳んだり、それが理由で離職してしまった人たちの再起を支援することです。事業を再興させるには事業者が再び大きな投資をしないといけません。あるいは今までになかった新しいビジネスに挑戦しようとする起業家も今後出てくるでしょう。それを手助けするのは金融緩和政策です。

これも投資のひとつとなりますが、転業や転職のための資格や職能を獲得するための就学や職業訓練も欠かせないでしょう。

さらにフェーズ2の対策へ移行するといっても、まだ家計、企業、金融部門を支援するための流動性対策(信用供与、金融債務の繰り延べ)と支払能力対策(実物資源の支給・移転)を継続し続ける必要もまだあります。

 

下 IMF新型コロナウイルスと戦うための経済政策」で添付されていた図表

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 企業や個人が不足する現金の借り入れやその金利負担が重くならないようにする金融政策上の配慮と補助や給付金の交付といった財政政策の配慮を当面しつづけないといけません。

まだ民間企業や個人が深刻な経済危機に置かれているにも関わらず、政府の財政問題や日銀の国債や株式等の資産買い入れ膨張を懸念する人たちが多くげんなりしますが、ここで政府や日銀が金融政策と財政政策を通じた支援の手を抜くと、民間の経済活動は復旧・復興が困難となり、需要不足だけではなく生産・供給力の劣化や腐食が進む恐れが出てきます。IMFコラムでも「会社が倒産すれば、組織的なノウハウが失われ、有意義な長期的プロジェクトに終止符が打たれる。」とサプライサイドの腐食を懸念する文言が記されています。

 

コロナウィルスは心筋肉の炎症を引き起こして心臓の働きを衰えさせるという後遺症を与えてしまうことが多いのですが、このウィルスの蔓延は経済活動の心臓部というべき民間企業や就労者たちの職能まで壊死させようとしています。企業倒産・廃業はまさに心筋の壊死であります。ウィルスの感染に耐え生き残った心筋が必死に頑張って心臓を動かし続けるような状態が、ポストコロナの経済でしょう。

政府や中央銀行は生き残った心筋がこれ以上弱らないようにし、少しでも活発に動くようにしていかないといけません。

 

 今後の日本経済の見通しですが、コロナ感染危機が完全に収束したとしても、この数ヶ月間で傷みや腐食が進行してしまった民間経済が簡単に立ち直れず、L字型の推移を辿る可能性が高いです。IMFに在籍した経済学者のオリビエ・ブランチャード教授は供給側の不足と同時に需要側も低下しデフレ不況に陥るというディスオーガニゼーションを懸念されていました。

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 田中秀臣教授がオリヴィエ・ブランチャード教授の発言を解説するために作成したAD-AS分析図

 

 このような事態を少しでも避けるために民間活力の保全とその再生が望まれます。

 

 現在自民党総裁選挙立候補者の中でこうした経済政策ビジョンを描ける人といえば菅義偉氏以外にいないと申し上げてきましたが、財務省と日銀、金融機関の御用学者やマスコミなどの妨害を巧みにかわしていかねばならず、相当な政治的腕力や胆力が要求されます。本当であれば消費税についても減税を検討すべきですが、菅氏も現在のところそれは否定的な見解を示しています。100点満点とはいかずとも、2013年以来の金融財政政策を引き継ぎ、それを発展させてくれることを期待せずにはいられません。

 
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