新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

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令和セーフティネット構想の提言 ~菅義偉新自民党総裁選出~

令和2年 9月14日、安倍晋三氏に代わる新しい自民党総裁に菅義偉氏が選出されました。16日の臨時国会で菅氏は内閣総理大臣に任命される見通しです。今回は菅新政権がどのような政策を打ち出すのか占いつつ、この政権に期待したいことを書いていきます。

 私はこのブログでかねてから申し上げてきましたとおり、コロナウィルス感染拡大によって傷んだ民間経済活動の再生には安倍政権時代以上に大胆な金融緩和政策と積極財政政策が望まれています。今回の新総裁選挙でそれについて熟知している候補は菅氏ひとりでした。その意味で氏が新総裁・新総理に選出されたことは何より歓迎すべきことです。ロイターの英文記事ですが菅氏は十分な経済成長(雇用や事業の確保)こそが財政再建を可能にし、また新型コロナ危機には政府は国債を発行し雇用を守り、政府には国債発行で制限はないと明言しました。コロナ危機で苦境に陥っている民間事業者や個人を救うためには今後も大型の財政出動を惜しまないと宣言したようなものです。

Reuters "Japan's Suga says no limit to bonds goverment can issue"

www.reuters.com

これは何度も説明し続けたことですが、政府が一時的に大量の国債を発行して大型の財政出動をしたとしても、その国債を日銀が買い受けることで国債暴落や金利暴騰を回避させることができます。おまけに政府と日銀を合わせて統合政府と見做した場合の累積債務(ネット)を減少させることも可能です。→詳しい説明はこちら

ameblo.jp

 

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高橋洋一氏のツイートより引用

 

コロナ危機で苦しむ企業や個人を救済するための財政出動を躊躇なく行うには、このこのロジックが理解できていないといけません。これがわかっていない政治家は結局緊縮財政をせざるえないのです。「増税しなきゃ」「社会保障費を削減しなきゃ」ということになります。(ネットスラングでいう”シバキ主義”)

 

中央銀行による国債買受の話はさておき、菅氏は総裁選前にもいろいろ興味深い政策構想の話をしています。まず第一に出てきたのはデジタル庁創設構想です。

www.jiji.com

日刊サイゾー 

もう一つの財務省? 菅新総理「デジタル庁」創設に迷走する霞ヶ関の悲喜交々

www.cyzo.com

現在は各省に分散しているデジタル分野を扱う組織を一元化し、各国と比べ遅れが指摘されている官民のデジタル化を一気に推進するとのことですが、この話を聞いたとき「もしかしたら?」と思ったのが歳入庁創設へも結び付けられないかということです。いまは各種税金や社会保険料(税)の払い込み窓口がバラバラで、当然そのデータも各省庁・機関・自治体が別々に管理しています。菅氏が強く問題意識を持たれている縦割り行政そのものでしょう。税の公正な徴収と給付を行うためには歳入庁を創設すべきだという声が以前よりあったのですが、なかなか実現しませんでした。もしかしたらデジタル庁がその尖兵となるのではという期待が出てきます。このような想像は私だけではなくひがくぼきみおさんも抱かれたようです。

そしてもうひとつ菅氏は厚生労働省の組織再編にも意欲を示しています。

www.yomiuri.co.jp

 これは私の妄想になりますが、デジタル庁の創設と厚生労働省の組織再編は突き進めていくと「社会保障と税の一体改革」「社会保障制度ビックバン」へつなげていくことができるのではないかと考えています。今回出ている厚労省再編はあくまで組織機構の改編ですが、現行社会保障制度も見直し改革していくということも視野に入ってくるでしょう。

いまの社会保障制度の骨格は日本が戦後復興と高度経済成長期を迎えている最中に築き上げられたものです。安倍元総理の祖父である岸信介氏が政権を担っていた時代のことでした。これらの社会保険制度は日本の民間企業が右肩上がりの成長を続け、終身雇用や完全雇用が当たり前であることを前提に制度が組まれています。しかしながら1990年代から終身雇用や完全雇用が崩れ、就職氷河期世代や非正規雇用者が増大してしまった中で現行の社会保障制度の維持に無理が生じてきています。生活保護を含めた縦割り型である既存の社会保障制度の隙間から漏れてしまう生活困難者が少なからず存在します。すべての国民の生活を保障するベーシックインカムや給付付き税額控除といったセーフティネットの創設も検討すべきでしょう。

 

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歳入庁の創設や社会保障制度と税の一体改革、ベーシックインカムの導入はいずれもかなり大掛かりな話で相当の政治的腕力がないと実現できません。しかしながらこれまで見てきた菅氏の強かさや剛腕ぶりをみていると、「もしかしたらやってくれるかも知れない」という微かな期待を持ちます。

 菅氏は所信表明として「自助・共助・公助」の三助と絆を強調されていました。

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この言葉を聞いて私は第1次安倍政権時代の「再チャレンジ政策」を思い出したのです。この政策は1990年代以降の就職氷河期世代やリストラ対象となったことで職を失ってしまった人たちの自立支援を目指したものです。職能育成を目的としたジョブ・カード制度の導入などの他に、竹中平蔵氏が正社員と非正規雇用の所得・待遇格差是正のために年功序列制度の見直しや同一労働・同一賃金の徹底、解雇規制緩和などを盛り込んだ「労働ビックバン」を提唱しています。

 

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竹中平蔵氏はいろいろ誤解や偏見の対象となり「新自由主義者ネオリベ)」だとか「競争至上主義者」などといわれてきた人でありますが、セーフティネットの整備を主張し続けています。ただし竹中氏の考えるセーフティネットは職能向上の機会提供といった自助努力型というもので「魚を上げるのではなく魚の釣り方を教える」という考え方です。ここまで話するとピンとくるかも知れませんが、菅氏の「自助・共助・公助」という言葉の裏には竹中式セーフティネットが存在するのではないかと思えてくるのです。

 第1次安倍政権時代の再チャレンジ政策は政権自体が1年ほどと短命であったこともあり、非常に中途半端な形で立ち消えとなりました。ただの構造改革主義的な政策という印象だけを遺し、格差を拡大しただの、非正規雇用を増やしただのといった誤解を招いています。人材派遣会社パソナの取締役になった竹中平蔵氏は「政商(レントシーカー)」などと云われました。

それと再チャレンジ政策についてさらに残念だったのが、金融緩和政策と先に述べたベーシックインカムと組み合わせるアイデアを採り入れるまでには至らなかったことです。金融緩和政策は企業の事業拡大意欲を引き出し雇用の最大化を計ります。つまり広義の労働福祉政策であり、自助型セーフティネットだといえます。そして金融緩和政策や労働政策、職能訓練をもってしても簡単に就労機会を得られない人たちのために公助としてベーシックインカムや給付付き税額控除の導入をすべきでした。しかしながら当時金融緩和政策については小泉政権末期の2006年3月に解除されてしまっています。ベーシックインカムについては竹中平蔵氏も何度か導入の提案を続けていますが、実現しないままに終わっています。

news.goo.ne.jp

 

 実は菅義偉氏はかなり竹中平蔵氏を意識していると云われているのですが、もしそうだとしたら”令和再チャレンジ政策”、”令和セーフティネット構想”といった政策を腹案として考えているかも知れないと期待されるのです。

 

もう既に菅氏の「自助 共助 公助」という発言にざわついている人たちが出てきていますが、そうした人たちがロスジェネ世代やリストラ世代を救済するためのセーフティネットを真剣に考えてきたようには思えません。日本の左派や労働組合は学校を卒業したら誰でも正社員として就職できたのが当たり前、定年退職の日まで会社が社員を守ってくれるのが当たり前だった時代から考え方が全然変わっていないのです。化石です。

「公助」のあり方も変えていかねばならない時代になりました。経済や雇用情勢の不安定化や今回のコロナ危機や災害などによる所得急減といった事態に対し、シームレスな対応ができるセーフティネットが必要です。菅新政権にはその実現・・・・いや任期中にできなければその布石だけでもできたらと期待しています。 

 

 

 

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