新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

コロナ危機後の経済政策を考える

 

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上のお姉さんは相変わらずノースリーブドレスのままですが、11月下旬となり冷え込みが増してきています。もう冬です。

寒さが増すと同時に気になるのはコロナウィルスの感染再拡大です。アメリカ・ヨーロッパでは既に感染拡大の第3波が訪れており、日本においても欧米ほどではないにしても感染者の増加が目立ちかけています。今月11月25日にも西村康稔経済再生担当相が今後3週間で感染増加を抑えられなければ「緊急事態宣言が視野に入ってくる」という発言をしたというニュースが飛び込んできたばかりです。

感染抑制できなければ緊急事態宣言も視野 | 共同通信 (kiji.is)

春の緊急事態宣言と自粛要請で人々の行動が抑制され、経済活動もそれに比例して停滞させられたのですが、既にご承知のとおり観光・宿泊・旅客輸送業・飲食・興業そして医療機関は大きな打撃を被りました。政府による持続化給付金や雇用調整助成金の支給を受けたり、劣後債という形で金融機関から資金投入をしてもらうかたちで辛うじて息をつなげている企業は少なくありません。再び緊急事態宣言や自粛となりますと耐えきれず事業を畳む企業が出てくるでしょう。そんな状況を無視するかのように政府の財政制度等審議会が持続化給付金や家賃支給給付金を来年2021年1月の申請期限をもって予定どおり終了させるべきだなどという提言書を提出するといった無神経な行動をとっています。

www.nhk.or.jp

 記事引用

国の財政制度等審議会は、来年度予算案の編成に向けた提言を取りまとめました。新型コロナウイルスへの対応で、財政状況が一段と悪化していることを踏まえ、非常時の給付金による支援から、生産性の向上に取り組む企業などへの支援に、軸足を移すべきだとしています。

財政制度等審議会は25日、国の来年度予算案の編成に向けた提言を財務省に提出しました。

新型コロナウイルスへの対応で、今年度の一般会計の歳出規模は、過去最大の160兆円余りに膨らみ、歳入の56.3%を国債に頼る過去最悪の状況です。

こうした状況を踏まえ、提言では「新型コロナなど事前には予測できなかった出来事が、数年に1度のペースで発生している。大きなリスクにも耐えうる回復力を兼ね備えた、財政を作っていくことが求められている」と指摘しています。

そして、非常時の支援を常態化することは、政府の支援への依存を招くと弊害を指摘したうえで「財政支出を増やせば持続的な経済成長が起きるといった単純な話ではない。単なる給付金といった支援からウィズコロナ・ポストコロナを見据えた経済の構造変化への対応や、生産性の向上に取り組む主体の支援へと軸足を移すべきだ」と提言しています。

具体的には、中小企業に対して最大200万円を支給する「持続化給付金」や、賃料の負担を軽減する「家賃支援給付金」を、来年1月の申請期限をもって予定どおり終了させ、業態転換などを行う企業を支援する必要があるなどとしています。

財務省は提言の内容を踏まえて、予算編成の詰めの作業を急ぐことにしています。

この財政制度審議会の提言書ですが「生産性の向上に取り組む企業」とか「単なる給付金といった支援からウィズコロナ・ポストコロナを見据えた経済の構造変化への対応や、生産性の向上に取り組む主体の支援へと軸足を移すべきだ」などという文言が気になります。政府の成長戦略会議メンバーに就任したデービット・アトキンソン氏らのような構造改革万能主義者や清算主義者が唱えている主張を連想させる文言が連なりますが、財務省の役人らがそれに便乗している感じがします。

構造改革万能主義と清算主義の問題について書いた記事です。

ameblo.jp

財務省の役人らは企業を潰しまくっても、後から草が生えて伸びるがごとく勝手に新興企業や産業が興されると思っているのでしょうか。「国の財政は限られているのだからほんとうに必要なところだけ支給するべきだ」という役人たちの論理は一見正しそうに思えますが、それを役人たちが選別・判断できるのかということです。

まず忘れてはならないのはいまのコロナ禍は良い意味でも悪い意味でも不確実性が極めて高く、わずか数か月先のことでさえ先行きが読めません。いまだもって感染拡大状況や経済活動の動向がひどく流動的です。現在倒産や廃業目前の苦境に立たされている業界や企業ですが、それらは昨年まで何事もなく健全経営であったところが多く含まれています。逆にコロナ禍以前には彼らから日本において斜陽産業だとかいわれた製造業の方がコロナ禍からの業績回復が早かったりします。先日新型コロナウィルス用のワクチンが開発されたと報じられましたが、それによってウィルス封じ込みに成功すれば今苦境に置かれている業界がV字回復する可能性が見えてきます。役人らの勝手な判断で本来十分経営存続ができる民間企業まで見殺しにしてしまえば経済回復をしないままL字状態で推移してしまう恐れがあります。恐ろしいのは完全に弱った日本企業を中華系資本がどんどん買収して居抜きすることでしょう。スターリン砕氷船理論を想起させます。

コロナ感染が収束した後に日本のみならず世界全体で産業や経済構造の変化が訪れることは間違いないでしょう。リモートワークの普及などによりIT産業や宅配ビジネスなどが伸びることが予想されますし、その分野への労働移動が発生するはずです。とはいってもそれらが現在日本で30兆円~40兆円も失った有効需要の穴埋めができるほどの規模になるのかわかりません。有効需要が元通りに回復しなければ当然企業倒産や廃業、失業が大量に発生することでしょう。

感染拡大が完全に収束し人々が以前どおりの自由な行動ができるようになって、さらにこれまで倒産や廃業をした民間企業や衰退した業種に代わる新たな産業が育成されるまでの間、相当の時間が必要になることが予想されます。この間多くの人が失業者のままでいたり、無収入のままでいいはずがありません。これを放置すれば完全にデフレ不況の再発となり、国民生活・経済・国家財政全部がダメになることでしょう。日本国内の生産活動が萎縮したままの状態となる危険性があります。慢性的な需要減少は供給側の縮小へとつながります。倒産・廃業によって企業が持ち合わせていた技術の途絶や失業したままの労働者の職能腐食が進行していくことでしょう。「サプライサイドの壊死」を少しでも食い止める必要があります。

政府による財政支援を積極的に行ったとしても、企業倒産や廃業、失業増加を防ぎきれないかも知れませんが、その場合は継続的な定額給付金の支給などを行う必要が出てきます。以前から申し上げてきたように、かなりそれが長期化するならば臨時の定額給付金というかたちではなく、恒久的な給付付き税額控除制度に切り替えたほうがいいかも知れません。

新たな成長産業が勃興する状況を生みだすには、それを志す起業家への積極融資と消費者の購買欲を高めるための家計支援策の両方が必要です。前者は金融緩和で後者は給付金や減税などで支援します。

財務官僚や日銀職員は民間の苦境を知ろうとせず、お上の財政状況と自己の権益(天下りなど)のことしか関心を持たない人種です。彼らに民間が振り回され、ときには破産や自殺にまで追い込まれるようなことがあってはなりません。国家財政を再建するにも民間が税を支払うことができないと無理なのですから、まずは民間救済が先決です。

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