新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

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緊急事態宣言再発令と経済的影響について

 

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2021年1月7日、政府は新型コロナウィルスの感染拡大の深刻化をうけて、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県を対象とした緊急事態宣言の発令に踏み切りました。期間は1月8日から2月7日までの一か月間を見込んでいます。今回の緊急事態宣言再発令は4月のときと異なり、対象地域を首都圏に止め、飲食店に対し20時までの時短営業を徹底 、テレワーク推進で出勤者数7割減を目標 、20時以降の不要不急の外出自粛、スポーツ観戦などのイベントは5000人までといった制限にしました。

自分は新聞やテレビを読んだり視たりしない方ですが、世間から聞こえてくるのは「菅内閣の決断が遅かった」とか「菅内閣は後手後手だ」、あるいは「小池百合子東京都知事らにせっつかれてやっと政府が重い腰をあげた」という感想の声です。

しかしながら今回の緊急事態宣言に至るまでの経緯を辿ると、それとはどうも違うようです。コロナウィルス感染の再拡大は11月下旬ごろから目立ちはじめ、東京都や大阪府、北海道などでは飲食店等の営業時間短縮を要請し、これに応じた店舗に協力金を各自治体が支払ってきました。その期限は当初12月中旬で切れる予定でそれを延長するかどうかがという話になったのですが、感染拡大が収束する気配がなかったために政府側は自治体に延長を求めていました。ところが東京都の小池百合子都知事は営業時間短縮期間延長を渋っています。政府側と小池都知事は揉めたようですが、結局小池都知事は渋々延長を受け入れる格好になったものの、その期限が1月中旬に切れることになり、それをどうするのかという問題が今回の緊急事態宣言へとつながったのです。

東京都をはじめとする地方自治体が民間の飲食店等に営業時間短縮を要請し続けるには当然のことながら営業損失補填のための協力金を支払い続けないといけませんが、その財源問題が発生します。東京都は地方自治体の中でもかなり裕福で財政基盤がしっかりしているわけですから、政府側は「協力金の財源は東京都の方で負担しなさい」と返されてしまうことが目に見えています。そこで小池都知事がお得意のペテンを利かせて、東京都単独ではなく、財政力が弱い千葉・神奈川・埼玉の3知事を巻き込み、緊急事態宣言をかけろと政府に詰め寄り、国のカネを引き出そうと動いたわけです。政府側は政府側で5兆円余っている予備費を使い切らないといけないという事情があるのですが、小池都知事らの動きや緊急事態宣言再発令は予算消化のよい口実であり、ちょうど都合がよかったといえましょう。ある意味(緑の)たぬきときつねの化かしあいみたいな茶番劇です。

そういった政治的裏事情の話はさておいて、今回の緊急事態宣言の再発令は望ましいものなのかというと決してそうではありません。冒頭で述べたように多くのマスコミが「菅政権は命よりも経済を重視して緊急事態宣言の再発令の決断を躊躇ってきた」という報道を繰り返していたようですが、それはコロナ禍対策の基本的な考え方を理解していないものです。

 

コロナ禍対策で重要なことは

コロナ感染による死者+経済理由死の最小化

を目指すことです。

 

コロナ感染による死者と重い後遺症を遺す重症者を極力抑制し、医療機関側のパンクと疲弊を防ぐことが対策の第一優先順位となることは言うまでもないことですが、それと同時に社会・経済活動の麻痺やそれによる生産活動の破壊と雇用崩壊を防止することも同時にやらないといけないのです。厳格な自粛や行動制限によってコロナ感染による死者や重症者を抑え込んでも、倒産・廃業・失業で生活困窮状態に陥って自殺に追い込まれる人たちがそれを上回ってしまったら話になりません。

 

もし仮に厳格な外出制限や休業命令みたいな形でコロナ感染拡大やそれによる死者数が大幅に抑制できる効果があったならば、春に行っていたときと同じように政府が補助金や休業補償を行って民間の経済的打撃を軽減しながらそれを進めるという考えはありですが、後日の検証結果をみるとこうした感染防止対策はさほど大きくないとされ、それ以上に経済活動の著しい沈滞や倒産・廃業・失業の増大というデメリットが得られた便益よりを上回っているという指摘がなされています。

スペインのコロナ対策・ロックダウンは効果があったのか?|英語ニュースを読もう! (maki3english.com)

 【ケント・ギルバート ニッポンの新常識】緊急事態宣言の効果は“未知数” 米国ではロックダウンした州としない州の感染増加率に大差なし (2/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

上の2記事だけで判断すべきではないかも知れませんが、今回緊急事態宣言を再発令したとしても感染抑止効果がどれだけ期待できるのか未知数です。しかし経済活動抑制による民間産業の壊死や人々の生活破壊が進むリスクが相当高いことを覚悟しないといけないでしょう。菅内閣が緊急事態宣言の再発令に慎重だったのはそのためです。

 しかしながら多くのマスコミは前回の緊急事態宣言や海外で行われたロックダウンの効果について十分検証することなく、昨年末まで雰囲気だけで「早く緊急事態宣言を発令しろ」「GoToキャンペーンを中止しろ」と大合唱していました。実際に緊急事態宣言が再発令されたらされたで、今度は「緊急事態宣言の再発令で飲食店等の経営が」などとちぐはぐな批判をします。

このようなマッチポンプ的なマスコミの場当たり的な政策批判は旅行業界や飲食業界の支援策として導入された「GoToキャンペーン」にも向けられました。竹中平蔵氏が今年年始からはじめられたネット動画配信番組「平ちゃんねる」にて根拠なきマスコミによるGoToキャンペーン叩きについての批判をされています。

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 「GoToキャンペーン」については当方も竹中氏同様に決してポジティブな評価をしていなかったのですが、いざ実施してみると2000億円の財政支出に対し、消費がその25倍の5兆円も増えています。乗数効果が極めて高い大ヒット作でした。

このGoToキャンペーンによってコロナ感染が拡大したならばまずいことですが、竹中氏によるとこのキャンペーンでコロナ患者が急増したという統計的証拠はないとのことです。(その検証をしたのはこのブログでこっぴどく批判したことがある小林慶一郎氏ですが)

竹中氏ではないですが、GoToトラベルによる移動は全国民の移動の1%に達しないものですから感染拡大とはほとんど関係はないとみるべきでしょう。

結局マスコミがやっているのは政権批判そのものが目的化しており、政府側が打ちだしてきた対策を否定して潰し、彼らの言った通りに政府側が対処してもまた別のあら捜しを延々と続けることの繰り返しでしかないのです。

今回の緊急事態宣言によって営業時間短縮に応じる飲食店業者等への協力金はすでに積み増しの準備が進んでいます。持続化給付金の再給付や間もなく期限が切れる家賃支援給付金の延長、資金が枯渇している雇用調整助成金の補填などが必要となっていますが、先ほど述べたように予備費が5兆円ほどまだ余っており、第3次補正予算案でも地方自治体への財政支援策として地方創生臨時交付金が盛り込まれました。補償のためのお金の問題は解決しています。

 

とはいえど今回の緊急事態宣言再発令によって昨年来よりかなり傷んで弱っていた民間の経済活動の壊死がさらに進む恐れがあります。慢性的なデフレ不況再発がすでにはじまっていることを忘れてはなりません。今年度において政府がかなり思い切った財政政策及び金融緩和政策をフル稼働させないといけないのは確かです。今後このブログで回復期の経済対策についての話を展開していくことを考えています。

 
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