新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

「サプライサイドの壊死」こそ本当の将来世代へのツケ その2

 

今回の記事ですが2020年6月30日に公開した記事「「国の借金」について考えてみる その4 「将来世代ヘのツケ」って何? | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)」と主旨が同じものです。この記事で紹介した野口旭専修大学教授が日銀審議委員に就任することになりました。それを関連させたかたちで「ほんとうの将来世代への負担増加とは何か」という話をします。

 

野口旭教授の記事

財政負担問題はなぜ誤解され続けるのか | 野口旭 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp) 」

 

 

増税があらゆる世代の負担を拡大させる理由 | 野口旭 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp) ]

 

 

 

社会は新型コロナ対策の負担をどう分かち合うのか 」

 

 

 

まず「将来世代への負担」を考える前に経済学の社会的使命とわたしたちの豊かさとは何かについて再確認する必要があります。経済学の社会的使命はすべての国民が必要とし、また欲するモノやサービスといった実物財を広くまんべんなく供給・分配できる社会システムの構築を提言することにあると私は考えます。人々がほしいもの・必要なものを不自由なく好きなだけ買える社会こそが豊かさであると思います。病気になったときにお金の心配をすることなく良質な医療サービスを受けられることも「豊かさ」です。それができなくなっていった状況が貧しさであるでしょう。

今回私が「サプライサイドの壊死」という問題を取り上げているのは、この国が良質なモノとかサービスを創り出したり生産・供給できる力を失っていくことで、わたしたちが必要な食糧や衣服、住居の確保すらままならない経済状況に追い込まれることを危惧しているからです。今回中国武漢から拡がった新型コロナウィルスの感染は世界各国をサプライサイドの壊死を進める危機の種をばらまきました。このウィルスは心臓や血管など循環器系の器官や組織を痛めつけるのですが、同じように人間の体と似た経済システムも壊していきます。社会主義国家がもたらした災厄が、わたしたちの暮らしを支えてきた資本主義経済や自由主義経済を侵しているといってもいいでしょう。コロナ危機は第二の冷戦であり、ハルマゲドンです。

もし仮にいま政府が財政支援や金融緩和政策を怠って日本国内の民間事業者が次々と倒産・廃業に追い込まれたとしましょう。それを華系資本がどんどん買収して乗っ取っていったとします。そうなるとこの国は中国の経済的植民地と化すことでしょう。これこそ計り知れない「将来世代への負担」ではないでしょうか。

 

いやそうはいっても将来世代の納税負担が重くなってしまうとか、財政再建のための緊縮財政で社会保障給付とかが削減されることになるのではないかと心配する人が多いかも知れません。しかし産業衰退化や慢性的な雇用の不安定化が進むと結局私たちは税を支払うことができなくなりますし、実質負担が重くなります。稼ぐ力があれば税や社会保険料を支払うことが可能です。私はほんとうの将来世代の負担増加とは税を稼ぐ力の衰弱だと思っています。それが前回の記事「国家財政破綻より恐れるべき危機 サプライサイドの壊死 その1 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)」で述べたことです。

 

そもそも国家財政というのはわれわれ民間の経済活動によって支えられているものであり、担ぎ手である民間企業や個人が弱ってしまったら国家財政という神輿を担ぐことができなくなります。国家財政の再建は民間からの税収を増やさないと不可能です。私は債務の大きさよりも債務を償還する能力が衰えてしまうことの方を心配しないといけないと考えています。少子高齢化問題についても同じです。現役世代が高齢者を支える経済力を強くするという発想が大事です。

 

冒頭で述べたように「豊かな社会」とは良質なモノやサービスがすべての人々に不足なく供給・分配されていることです。日本という国が優れたモノやサービスを生産する力さえ失わなければ、円が暴落して紙くずになりハイパーインフレを起こすなどということを心配する必要はありません。お金というものは「あなたがほしいモノとかサービスを譲ります」という約束手形みたいなもので債券なのですが、わたしたちに必要なモノとかサービスが不足なく生産され供給されているならば、その約束が反故されることはないとみていいでしょう。ハイパーインフレとはその約束を果たしてくれる予想や期待が崩れることではじまります。 

シノドス 矢野浩一 「リフレ政策とは何か? ―― 合理的期待革命と政策レジームの変化 」

 

 

次の記事で書く予定ですが、ハイパーインフレや1970年代のアメリカ・ヨーロッパなどで起きた不況と過大インフレが同時に進んだスタグフレーション国債や貨幣の濫発だけではなく、モノやサービスなどの生産や供給力の低下が原因しています。どちらも社会主義化と大きな関わりがあるのですが、そうした国家は民間の産業を衰弱させてきています。

 

労働者の貧困を救えなかった社会主義国家 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

国家社会主義と官製統制経済の愚かさ | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

「将来世代の負担押し付け」問題を語る人たちですが、彼らの多くは経済主体の一部門に過ぎない政府部門の財政状況だけしか目を向けず、民間の産業や個人の家計についてはお構いなしで話をします。つまりかなり視野狭窄国家主義的であるということです。もし仮に国家財政破綻とか自国通貨の暴落といった事態が発生するならば国家財政破綻が先にきて、我々の生活が苦境に陥るというかたちではなく、先に民間の産業が没落して国民生活がどん底になる方が先でしょう。通貨価値の下落についても自国でモノやサービスの生産ができなくなって、輸出で外貨を稼ぐことができなくなり、円の価値が失われていくという流れです。

 

もうひとつ「将来世代への負担」論で誤解されがちなのは、いまを生きる現世代が将来世代が生産する財を前借りして食い潰しているわけではないということです。上の野口旭教授の記事でも経済学者ポール・サミュエルソン「経済学」を援用し、次のような説明をします。

野口旭教授「社会は新型コロナ対策の負担をどう分かち合うのか 」から引用。

 

サミュエルソンは、戦時費用のすべてが増税ではなく赤字国債の発行によって賄われるという極端なケースにおいてさえ、その負担は基本的に将来世代ではなく現世代が負うしかないことを指摘する。というのは、戦争のためには大砲や弾薬が必要であるが、それを将来世代に生産させてタイムマシーンで現在に持ってくることはできないからである。その大砲や弾薬を得るためには、現世代が消費を削減し、消費財の生産に用いられていた資源を大砲や弾薬の生産に転用する以外にはない。将来世代への負担転嫁が可能なのは、大砲や弾薬の生産が消費の削減によってではなく「資本ストックの食い潰し」によって可能な場合に限られるのである。

いま起きているコロナ禍によって観光業界や飲食業界などの民間産業が経営的打撃を被り、その補償は政府が発行した国債で財源が賄われています。そしてコロナ患者の治療を行う医療機関の医師や看護師らは不眠不休で勤務を続けています。休業補償や持続化給付金などは「将来世代から前借りして」と云われますが、実際に彼らを支えるのはいまを生きている別の国民です。コロナ患者の受け入れは医療者にとって大きな労働負担ですが、これについても将来世代の医師や看護師が手助けしてくれているかというとそうではありません。(看護学校の学生からの応援はあるようですが) 

 

いまを生きる私たちが考えるべきことは将来世代に優れたモノやサービス創りという資産を遺しておくことです。それができれば将来世代が困ることはありません。これまで多くの先人築き上げた技術的資産をつまらぬ緊縮財政や誤った金融政策で潰してしまい、多くの若者の職能を腐食させ、さらには出生率低下に滑車をかけるといったことこそ、真の将来世代の負担となるでしょう。

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