新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

サプライサイドを破壊する社会主義と悪性インフレ

 

 

コロナ感染拡大と”サプライサイドの壊死”についての話を書き続けていますが、今回で3回目です。

国家財政破綻より恐れるべき危機 サプライサイドの壊死 その1 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

「サプライサイドの壊死」こそ本当の将来世代へのツケ その2 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

われわれの暮らしに不可欠なモノやサービスといった実物財の生産や供給を行う民間の産業や就労者の職能ならびに意欲が失われていく現象を私は”サプライサイドの壊死”と名付けています。日本においては1990年のバブル景気の崩壊とその当時の日銀総裁だった三重野康時代からはじまった日銀の金融政策の迷走から民間の事業投資(原材料費の購入や生産設備の増強、雇用、研究開発費など)意欲が大きく削がれ、かつては世界中を席捲した日本の産業競争力がみるみると低下していきました。新しい商品の開発や技術投資をしたくても、銀行などの融資態度が硬化して資金の借り入れがしにくくなったり、1997年ごろからはじまった本格的なデフレ(連続的な物価下落)と消費意欲の低迷から企業は高い利潤を望めなくなってしまうことで、それが難しくなりました。そうこうしているうちに日本の技術競争力や優位性が失われ、運悪く就職氷河期

に出くわし、長年非正規雇用や単純労働に甘んじざるえなかったロスジェネ世代を中心に就労者の職能や就労意欲も腐食していきます。リーマンショックを過ぎた2010年あたりからこれまで日本が守り続けたGDP世界第2位の座を中国に奪われ、いまやこの国のGDPは日本の3倍になっています。2012年末に自民党第2次安倍晋三政権発足によって異次元金融緩和を主軸とするリフレーション政策の考えを採り入れたアベノミクスによって民間の投資ならびに事業拡大とそれに伴う雇用の改善でサプライサイドの壊死の進行を食い止めることができましたが、昨年2020年1月からはじまった中国・武漢を感染源とする新型コロナウィルスの拡散によって、再び日本はサプライサイドの壊死の危険が高まっています。

 

前回の記事では日本の国家財政破綻を心配するよりも、日本の産業力の衰弱を憂うべきであると私は主張しました。モノやサービスの生産活動やその能力が壊死してしまうことこそ、最終的に悪性インフレを招いたり、自国通貨の信用下落やさらなる政府の国家財政悪化を招く恐れがあるからです。日本の主流派経済学者(世界的にみたらガラパゴス経済学)たちや財務省がらみの評論家、マスコミは国家財政悪化によるハイパーインフレ発生の不安を煽りますが、ひどいインフレが起きる原因は国家財政状況よりも、実物財の生産・供給能力の不足にある場合が多いです。日銀の審議委員を務められていた原田泰・名古屋商科大学ビジネススクール教授もそうした主旨の記事を書かれています。

敗戦直前の債務残高でもインフレが起きない理由  WEDGE Infinity(ウェッジ) (ismedia.jp)

 

 

私は経済をとらえる上で大事だと思っているのはお金のことよりも、モノやサービスといった実物財や人を中心に見ないとダメだということです。「国家財政ガー」「ハイパーインフレガー」とオオカミ少年のように不安を煽る人たちだけではなく、その真逆で「財源は税でないのダー」とか「(インフレになるまで)国債財政赤字をどんどん増やすべきダー」などといっているMMT(現代貨幣理論)の信奉者も実はモノやサービスの生産・供給という観念が薄いのです。(まったくないとは言いません)

物価というものは結局モノやサービスとお金の量のバランス、それを活用する頻度といった需給関係によって決まるととらえるのが基本です。

 

ここから今回の本題に入っていきますが、社会主義国家の多くはモノ不足状態に陥りやすく、ハイパーインフレを招いた国がたくさんあります。このブログで社会主義の欠陥とハイパーインフレ、貧困の発生について取り上げました。

 

 

 

社会主義国家ではないですが、1970年代に資本主義経済圏でも左派政権や山猫ストなどを起こし過激化した労働組合の暴走で民間企業の活動が阻害され、供給不足型不況を招いています。その結果不況で雇用が悪化しているにも関わらず物価が高騰するスタグフレーションという奇怪な状況となりました。

 

 

歴史上において社会主義国家・社会主義者が行ってきたことは「奪う・壊す・殺す」の3つしかありません。基本的にモノを創造し生産するということにことごとく失敗し続けてきました。社会主義国家の元首はソ連スターリンや中国の毛沢東のような独裁的支配者となり、共産党幹部は「赤い貴族」といわれる特権階級となっていきます。彼らは商工業活動を行っていた資本家・企業家だけではなく高い生産性を持っていた富農を「粛清」と称して収容所に押し込んだり、惨殺してきました。医者や学者といったインテリ層も粛清の対象となります。このことでモノやサービスの生産力や技術力がガタ落ちになります。モノやサービスづくりの現場を知らない官僚たちが国営企業や農場の管理者となるのですが、デタラメな指示や「ノルマ」と称する無茶苦茶な生産目標を現場に押し付け、労働者の生産や労働意欲を失わせていきます。官僚たちは実際には実現できていなかった生産量を中央政府に水増し報告するようなことまでします。このような腐敗によって社会主義国家はみるみるとモノ不足状態に陥っていきます。屑鉄ばかりを産み出し農村を疲弊させた毛沢東大躍進政策とその失敗を誤魔化すための文化大革命はその典型例です。

社会主義国家や社会主義者たちは私たちが必要とするモノやサービスを生産・供給する活動を担っているのが民間の企業や実業家であることを忘れ、彼らを攻撃したり富を収奪することしか考えていないのです。そうやってモノづくりやサービスづくりを潰してしまうことばかりやってきたので、その帰結としてひどいインフレや国家財政破綻、自国通貨の信用価値棄損を起こして当然です。

 

中国・武漢から感染拡大がはじまった新型コロナウィルスによる世界規模の混乱も、社会主義国家の邪悪性がもたらした災厄だといっていいでしょう。社会主義は人々の健康だけではなく人類文明社会を支える経済システムまで破壊しています。かつて安倍政権時代のときに内閣参謀関与を務められてきた本田悦朗氏はコロナ禍について旧ソ連時代に起きたチェルノブイリ原発事故と同じだと仰いました。コロナ危機は資本主義経済と自由主義社会に対する挑戦です。

 

世界各国の政府や中央銀行は前例のない大規模な財政出動や金融緩和政策を行って、この危機に防戦しています。政府が民間の事業者や個人を休業補償金や給付金の支給などによって事業存続や生計維持を計っており、一見すると社会主義的だと思えるかも知れません。しかしそれはごく短期間の緊急対応にすぎず、むしろ資本主義経済システムと自由主義を護るために必要な措置だと見なすべきでしょう。罪や過失なき民間事業者や個人を救済せず、その結果として彼らの経済的自立を失うことになればサプライサイドの壊死となります。

 

保守や自由主義を自称する者は政府が民間に財政支援をすることを「政治的介入」だの「社会主義的」だといったりします。しかしそれはお金のことしか見ていない浅薄な見方でしかありません。本来の自由主義的経済思想とは平時において政府が民間の事業者や個人の自由な経営活動や経済活動を邪魔しないようにすることであります。民間の事業者や個人を野球やサッカーなどのプレイヤーだとするならば、彼らが最高のプレイができるようにグランドを整備をするといったことが自由主義経済における政府の役割となります。

 

コロナ禍が収束した後に民間という経済活動のプレイヤーたちが存分に力を発揮できるように手助けすることが、いま世界各国の政府に望まれていることであります。

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