新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

緊急事態宣言再延長がもたらすサプライサイドの壊死の進行

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今年1月から新型コロナ感染数増加によって政府から再発令された緊急事態宣言ですが、先月1ヶ月間今日3月7日まで延長されることになっていました。 もうすぐそれが解除され、休業や営業時間の短縮などで営業活動を自粛し続けてきた事業者が、その再開に向けて奮起しようとしていたことでしょう。その矢先に、東京都がコロナ病床数を過少報告していたために都内の病床使用率が100%前後と満床状態が続いているという誤情報が流れてきまいました。結局政府側は信憑性の高いデータがない中で緊急事態宣言解除の判断をしなくてはならなくなり、もう2週間延期という決断を下さざる得なくなったのです。それから都が国基準のコロナ病床数を大幅に上方修正し、病床使用率が86%から33%に急減しました。

小池都知事はどうも政府に緊急事態宣言を延長してもらいたがっているようで、そのための下らない小細工に見えます。かなりあざといです。このようなことは今回だけではなく昨年の緊急事態宣言中もやっていたことで、入院患者を過大に発表する一方、確保病床を過少に報告していました。延長が決まった直後に大幅な修正を行い、100%超と報じられていた病床使用率が、実は5割未満だったのです。

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小池都知事の身勝手な行動によってゴールポストが動かされ、それに政府も振り回された格好になります。政策判断がおかしなかたちで歪められてしまいました。これによって大きな損害を被るのは民間事業者や国民個人です。これまで2か月ほどの辛抱だと思って耐えてきた人たちに失望感を与え、厭戦気分を広めてしまいます。これ以上の自粛期間延長によって事業継続を断念して廃業を選択する事業者が出てくる可能性もあるでしょう。多くの国民の間にも「もうコロナ感染の収束はないのではないか」というあきらめの気持ちがひろがってしまい、このままずっと陰鬱な状態で過ごすしかないという思い込みを深めます。延々と何時間も重い荷物を背負って歩かされてきて、もうすぐ終点だと思っていたところで「まだ終点ではなかったです。もう~km歩いてください」などと言われたら一気に疲れが襲ってくることでしょう。完全に心が折れて挫けてしまいます。それと同じです。

今回のコロナ禍は不確実性がものすごく高く、先の状況がまったく見えないところに始末の悪さがあります。いまの鬱屈した不安定な状況が永久に続くのではないかという不安と絶望感が人々を襲います。コロナ禍がはじまってから人と人の接触機会が減ってしまい、孤立感や疎外感を覚える人が少なくないでしょう。女性しかも若い方の自殺が増えているといわれます。今回の緊急事態宣言の再延長がもたらす禍根は解除後にも大きく深く遺される危険性が高いと私は思います。

 

私はこことは別の経済ブログである基礎知識編の中で「サプライサイドの壊死」をテーマに3本の記事を書きました。「サプライサイドの壊死」とはモノやサービスといった実物財を生産したり供給する活動が萎縮し、産業が衰退していくことです。雇用の不安定化やデフレによる賃金低下などによる労働者の就業意欲の衰弱や職能の腐食も進みます。これは経済活動の死、資本主義経済・自由主義経済の死に結び付くものです。

民間企業がどんどん弱っていき、優れたモノやサービスの生産活動ができなくなっていくことはやがてかつての社会主義国家と同じようにモノやサービス不足状態に陥り、最終的には悪性インフレを招くような状況を生みだしかねません。

日本に限らずアメリカやヨーロッパなどではコロナ禍で民間産業が死滅することを回避すべく、政府や中央銀行空前絶後財政出動や金融緩和政策を実行し、事業者や国民個人を護ってきました。この緊急措置は心臓外科手術に例えると一時的に心肺を停止させて、人工心肺で術中の患者の生命を維持してきたようなものです。ただしこのようなことを2年、3年も続けるわけにはいきません。国家財政規律の問題よりも、長い期間人々が生産活動から遠ざかることでサプライサイドの壊死が進むことの方が深刻です。先の見通しが立たないことで事業継続を断念して廃業したり、失業を機に就労意欲を失って生産活動に人々が戻らなくなることが本当の危機です。

日本の政府は世界的にみてもかなりの規模の財政出動を行って、民間事業者を必死に支え温存させることに力を尽くしました。しかし自粛期間があまりに長期化してしまうと民間事業者の生産基盤や労働者の職能がどんどん壊死していきます。そうなるとお金で解決ができない問題になってきます。一度潰した会社や店はコロナ危機が収束しても元に戻りません。凍傷で壊死した指や鼻先、あるいは心筋梗塞で壊死した心筋と同じことになります。小池百合子という人間はそのことをわかっていないのです。

国会で新年度予算案の審議が進みましたが、今回の緊急事態宣言再延長で有効需要不足がさらに拡大し、失業増加の危険性が高まっています。当然それを埋めるための新たな財政負担が求められるでしょうが、やむを得ないことです。腹立たしいことですが、打つべき手を着実に売っていくしかありません。

 

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