新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

菅総理退任と自民党新総裁選挙

今月9月3日、菅義偉総理は月末で任期が終わる自民党総裁選挙に出馬しない意向を示しました。この方は新型コロナワクチンの調達をはじめ、クワッド(日米豪印戦略同盟)強化など防衛や外交戦略の他、経済対策などでも地道に仕事をこなされてきましたが、国民受けが良くなく内閣の支持率がどんどん下がっていました。自民党支持者内でも「菅では選挙に勝てない」という声が高まっていたようです。

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多くの人の見方と異なりますが、経済政策を学ぶ立場から菅総理を評しますと、経済政策とくに金融政策の理解については先代の安倍晋三氏に比肩していました。多くの人にあまり気づかれなかったと思われますが、菅氏が前回自民総裁選に立候補したときの記者会見で、ある記者から「金融緩和の副作用によって地方銀行の経営を圧迫していると言われていますが、菅さんはどうお考えですか。」と質問されたのですが、菅氏はそこで「地方銀行の再編が必要となると思う。」という答弁をしました。記者のような質問は民間事業者の経営状況を無視して金融機関の利益しか考えず、金融緩和政策を妨害したい人間がするものですが、菅氏はそれを一蹴したのです。私はこの菅氏の発言を聞いて氏の金融政策の理解は本物だと直感したのです。

菅総理はその期待にたがわず日銀の政策委員に野口旭専修大学教授を推すなどしています。

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財政政策面でも昨年大型の補正予算を組み、コロナ禍で苦境に陥っている企業等への支援に尽力されています。

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ただ昨年末に組んだ第3次予算は潜在GDPに対し不足する需要の穴埋めに必要な規模を確保したのですが、世間での菅政権の評価はいまひとつでした。しかも今年度に入り政権末期になってきますと、財務省にがんじがらめにされてしまったのか、菅政権は積極的な財政政策を打ちにくくなっていきます。積極財政を主張していた内閣官房参与参与だった高橋洋一氏が辞任し、その後で岸博幸氏に入れ替わりました。菅総理の周囲は積極財政を推進する論客ではなく、緊縮色が強い財務省寄りの人間や岸氏ならびにデービット・アトキンソン氏のように構造改革重視の人間ばかりとなっていきます。菅政権に対する世間の不満はコロナ感染拡大を食い止められなかったようにみられたことが大きいとされていますが、政権末期になるにつれ、だんだんと財政政策の態度が硬直的になってきたことも不人気の理由のひとつだったかも知れません。

菅総理はもともと権力への執着心があまりなく、もともと体調不良で辞任せざる得なかった安倍前総理の引継ぎのためだけに総理を務めたと見られます。最初から長期政権を目指していたわけではなく、次を任せられる人がいたら席を譲るつもりでいたように私は思います。とはいえど9月から菅総理肝入りのデジタル庁が本格的に起動し、コロナワクチンの接種が進んで感染が落ち着く目前で辞任となってしまうのはあまりに惜しいです。これから述べるように現在出馬を表明した自民党新総裁候補はいずれも経済政策観が著しく貧しいか未知数な人ばかりです。安倍前総理や菅総理のように経済政策とくに金融政策に対する理解がしっかりできているとは言い難いです。後先を考えずに菅政権を窮地に追い込んだマスコミや左派系野党の無責任ぶりに怒りを覚えます。

愚痴を言っていても仕方がないので、現在自民党総裁選に出馬している人の経済観について確認していきましょう。いま名前が挙がっている中で最も有力だと思われる高市早苗氏と河野太郎氏、岸田文雄氏に的を絞ってみたいと思います。

政治家の能力というのは経済ばかりではなく、外交や防衛、社会保障制度、災害など有事に対する対処能力などを総合的にみていかないといけませんが、それでも経済政策がダメだと他の政策も成り立たなくなってしまいます。景気が低迷し雇用が悪化すると、着実に政権の不安定化を招きます。

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上で述べたようにいずれの新総裁候補も経済政策に関しては心許ないところですが、いまの時点で比較的期待できそうに見えるのは高市早苗氏です。菅総理が辞任表明する前に氏は総裁選に出馬する意向を示したのですが、正直突如意外に現れたという印象です。しかし私は諸々の理由で氏の立候補を歓迎しています。これによって小池百合子東京現都知事の野心を砕くことになります。国民不在の抗争を繰り広げる自民党内派閥と霞が関官僚、小池百合子 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)

つい先日氏が金融所得増税、キャピタルゲイン増税のことを口にしてしまい、物議となってしまいましたが、それでも金融緩和政策の継続と、物価目標2%達成までプライマリーバランスにとらわれず積極的財政政策を打つ姿勢をはっきり示した点は高く評価したいです。氏は安倍政権時代の経済政策アベノミクスを発展的継承していくとし、3本目の矢を「成長戦略」から「大胆な危機管理投資、成長投資」に変えています。

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上の飯田泰之さんとの対談動画において、高市氏は次のような経済政策案を打ち出しています。

・既存の事業者の経営を守ることがV回復の条件
・コロナ前後の法人課税所得差の8割を給付
・持続化給付金の再支給
補正予算を急がなければいけない
マイナンバーと給付専用口座の紐づけ
・生活困窮者への再度の給付金
・プライマリバランス黒字化目標を一時停止せよ
・サナエノミクスは金融緩和/財政出動/危機管理投資/成長投資
・(金融政策に加え)財政政策にインフレターゲット

SSL Forum 高市早苗氏インタビューのまとめ|飯田泰之|note より引用)

多少危なっかしさはあるといえど、高市氏の提案はかなり良い筋です。細かい点については随時批判して修正を促していけばいいかと思われます。

マスコミで大きく取り上げているのは河野太郎氏と岸田文雄氏ですが、二人とも経済政策だけについては決して明るくありません。金融政策に関する理解がほとんどなく、金融緩和政策を引き締めたがっている様子が伺えました。岸田氏も高市氏同様にコロナ対策として国債を財源にした積極財政政策を行う考えを示しています。氏の場合は比較的左派層も喜びそうな低所得者向けの再分配政策に力点をおいているのが特徴です。しかしながら金融緩和政策などのアベノミクスはトリクルダウンを起こさなかったなどという発言をしています。私は正直岸田氏の経済政策は信用できません。河野太郎氏については経済政策についての具体案をはっきり打ち出していません。

高市氏の経済政策案がもっともいいと言っても、この先思わぬ形でボロを出すかも知れませんし、岸田氏や河野氏の発言もどんどん変わっていく可能性があります。最終的には彼ら彼女らが実際に政権を執ってからでしか評価しようがないことです。今月中はいろいろ落ち着かない状況ですが、総裁選候補者の論戦が国民益につながるものになることを祈ります。


更新が滞りがちになりますが、今後ともよろしくお願いいたします。

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