新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

マスコミはほんとうに国民の立場で経済政策を語っているのか?

コロナ感染拡大による生産活動の停滞とロックダウンなどで抑えつけられていた需要の反動増によって原油や食糧、半導体などの価格が高騰し、さらにロシアのプーチン大統領ウクライナに対して仕掛けた侵略戦争によって、さらにそれらの供給不足が深刻化しています。また今年3月あたりから円安の動きが急速に進んでいます。このことが円換算した輸入品の価格をさらに高騰させていると人々に思わせ、現在マスコミなどが日銀が進めてきた金融緩和を解除して金利を引き上げ、円安是正を計るべきだと言い出しています。

しかしながら筆者はこうしたマスコミの論調に異議を唱え、金利引き上げを行って円高にしても石油製品や食料品などの価格はさほど下がらないどころか、雇用の悪化を招いてますます国民生活を苦しくしてしまう危険性があると警鐘しました。リンクは今年1月に書いた記事です。

金融緩和打ち止め誘導の「悪い円安」論 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

今年に入ってから自分のツイッター上などを通して何度も上の記事で書いたような注意を促してきましたが、その主旨を簡単にまとめておきます。

  • 金融政策(金利操作)は、基本的に民間企業の事業投資意欲を活発化させたり、抑制させるもので、それによって雇用という形での所得分配、消費意欲、最後に物価というかたちで政策効果を波及させる。
  • 戦争やコロナ禍によるロックダウンなど海外の事情や天候に左右されるエネルギーや食糧などの資源価格は自国の金融政策で統治することはできない。そのためにその品目を除外した消費者物価指数コアコアCPIの方をみて金融政策の判断をすべきである。
  • 仮に日銀が金融引き締めをして円高に誘導しても、石油製品や食料品などの価格抑制効果はさほど大きくない。
  • 金融政策の判断は物価だけではなく雇用状況や企業の投資態度(生産活動にお金を遣う意欲)を見なければならない。
  • 為替相場の操縦を金融政策の目的にするのは禁じ手である。
  • 家計負担の軽減については特別減税や給付金、補助金等で対処した方がいい。

というものです。

多くの人たちは物価安を求めることが国民目線とか、庶民感覚だという捉えていますし、マスコミや政党・政治家たちもそれをスローガンにしたりします。筆者自身も自分の食事の材料を自分でスーパーやドラッグストアに行って買い出しに行きますが、やはり小麦製品や食用油などの価格上昇がキツいと感じているところです。

しかしながら国民の多くは消費者であると同時に生産者・勤労者でもあります。このブログは「暮らしの経済手帖」と名付けていますが、その「暮らし」は消費者としての「暮らし」だけではなく生産者や勤労者としての「暮らし」も含まれます。懸命に自分が働いてつくったものが、ひどく安く買い叩かれたり、賃金が下落したり、職そのものを失ってしまうようなことがあったら、ものの値段が下がってもそれを買うことができません。価格上昇は消費者目線でみたとき大きな不満となるのですが、それが下がったとしても所得がそれ以上に下がったら生活は苦しくなります。経済は消費者目線と生産者目線の両方を見ないといけません

今月6月6日に日銀の黒田東彦総裁が講演中に行った発言の中で「日本の計の値上げ許容度も高まってきている」という部分だけがマスコミに切り取られ、「誰も商品の値上げなんか受け入れていない」という反発の声が出ました。本来黒田総裁の発言の意味はコロナ禍でお金を遣いたくてもできなかったためにできた「強制貯蓄」があったために、何とか多くの家計は商品の値上げがあってもどうにかやりくりできたかも知れないが、今後良好なマクロ経済環境を維持して本格的な賃上げにつないでいかないといけないというものでした。しかし「日本の計の値上げ許容度も高まってきている」の部分だけが独り歩きし、報道をみた人たちが「黒田総裁は庶民感覚がない」などといって騒ぎ立てているわけです。

黒田総裁の話だけに限らず、岸田総理についてもネット上で「岸田やめろ」のハッシュタグが流れてきたり、これまで高支持率だった岸田政権の支持率が下がったと報じられています。筆者は岸田政権の経済政策や外交政策についての評価は低いのですが、マスコミの論調は円安や商品価格上昇を野放しにしているから岸田政権はダメだというもので、その背後にあるのは金融引き締めの催促です。筆者はこうした論調に賛同できません。今回の場合は金融引き締めが商品価格引き下げにさほど貢献しないばかりか、後の雇用縮小や金利上昇による中小企業などの資金調達コスト上昇という弊害をもたらすだけではないかと予想しているからです。円安で製造業などが輸入原材料や原油などの資源高でコストが上昇し、経営を圧迫しているといわれていますが、金融緩和解除で金利引き上げをやると資金の借り入れコストの方が上昇してしまい、結果として企業の経営を圧迫します。そのことは雇用にも影響してくるでしょう。そうした視野がマスコミにないのです。アメリカの場合は景気が過熱気味で、雇用の方も人手不足がかなり逼迫しています。そのために金利の引き上げで企業の事業投資を抑制するということには一理あります。日本についてはそこまで景気が過熱しているとはいえないでしょう。うっかり金利を引き上げると景気だけを悪化させ、ものの価格だけは下がらないというスタグフレーションを招く恐れがあります。円高にしても原油や食糧の資源価格そのものが高騰してしまっており、その分の価格抑制はできません。ウクライナ戦争終結までその期待はもてないでしょう。

商品価格上昇の対策については商品価格自体を下げることは無理だと思わねばなりません。戦争などの影響で生産供給が滞っている商品についての入手難は為替相場を弄ろうが解消されないのです。対処療法的ですが、資源高や円安で経営が苦しくなっている事業者への補助や減税・給付金などを通じた家計支援でやり過ごすしかありません。輸出を行っている大手企業などを中心に円安で業績が大きく伸びている事業者が多くあります。そうした事業者から所得税法人税を多く徴収できるはずです。それによって得た税収を逆に円安で損をしている事業者や個人の家計に補助金や減税、給付金などで補填するという方法があります。そういった提言ができないのが今のマスコミです。

「物価が低い方が庶民は助かるはずだ」とか「円安より円高の方が海外のものを安く買えていい」という発想は買い手の立場だけのものです。多くの勤労世帯は商品や労働力の売り手でもあります。基本的に「買い手」の立場だけでいられる人たちとは、働かなくても生活に困らない資産家、景気に影響されない公務員、年金生活者たちのことです。マスコミは就労や生産活動に参加していない人たちの都合しかみていません。

ものの値段を下げることだけではなく、自分たちの稼ぎをいかに殖やすのかという発想が必要です。よく円安について「日本の経済力が弱くなったために起きたのだ」と勘違いしている人たちが多いですが、そういう因果関係がどこにあるのでしょうか。むしろ円安の状況を活かして自国産業の建て直しやイノベーションを起こすことで、自国経済を立て直していくべきです。借り手の事業者の収益性が改善されていけば高い金利負担ができることでしょう。そうなったときに金利を引き上げればいいことです。

ともあれいまの商品価格上昇について金融引き締めや円高に向けた為替相場操縦しか対処方法がないというのは大きな間違いです。国民ひとりひとりの所得を殖やしインフレ下でも生活が苦しくないようにしていくという考え方を持つべきではないでしょうか。

 

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