新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

ひとりの人間の凶行が引き金となりかねない「悪夢の3年間」「亡国の8年間」

安倍晋三元総理が銃撃を受け殺害されるという痛ましい事件から三日経ちました。事件当日の晩に安倍さんが遺した外交・安全保障戦略や経済政策の政治的資産を賞すると共に、安倍氏の死によってこの国の安全や経済・雇用が非常に不安定なものになる危険性について述べました。さらに今回述べますが、自民党内の派閥抗争激化や党分裂、あるいは1990年代に見られたように政党が合流したり分裂、解党を繰り返す政情不安定化と議会政治不信の発生も危惧されます。

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ですのでこの事件は戦前に起きた2・26事件に匹敵するものです。日本という国の根幹をひっくり返してしまうほど深刻かつ大きな影響を及ぼす事件でしょう。筆者が犯人の山上徹也を「売国奴」「国賊」「亡国の奸」として罵っているのはそのためです。山上の母親はカルト教団として悪名高い統一教会の信者であり、多額の寄付で家庭崩壊していたと報じられていますが、筆者はそうした生い立ちは一切無視するつもりでいますし、憐憫をかけるべきではないと考えます。自分が不幸だったからといって他の大勢の国民を危機に晒し、それ以上の不幸に引きずりこむことが許されるわけはありません安倍氏(と祖父の岸信介氏)が統一教会に関わっているという話は筆者も高校時代から承知していることではありますが、山上徹也が起こした凶行は彼が負ってきた何十倍、何百倍もの苦しみを数多くの罪なき国民に被せることになりかねません。この国は今後多くの人々が所得を失ったり、さらには中国やロシア・北朝鮮などの軍事独裁国家による侵攻で生命や財産を破壊される危険に晒されていますが、山上はそれに加担するも同然の行いをしました。このことを今回話していきたいと思います。項目をつけながら今後起きうることを列挙しました。

 

1 経済秩序の混乱と国民生活の窮乏化

前回の記事でも紹介しましたように安倍氏は総理就任中にインフレターゲットつきの異次元金融緩和の導入で企業の積極的な事業のための投資を促し、それが人への投資というべき雇用の拡大を進めております。2020年あたりで消費税率10%増税とその直後の新型コロナウィルス感染拡大という大きなネックがあったものの、そのダメージを最低限に食い止めてはいます。

 

しかしながら岸田文雄政権になってから、金融緩和政策や積極的財政政策を嫌ってきた財務省や日銀官僚たちの顔色を伺うような政策態度をとるようになってきています。金融政策を担う日銀の政策委員人事でも債券ムラといわれる金融機関関係者やその御用エコノミトといわれるような人物を岸田政権は指名しており、安倍時代の金融政策を否定するような姿勢をみせていました。安倍氏殺害事件まで急速な円安とエネルギー・食糧品価格の高騰が続いていましたが、これに乗じて金融緩和をやめさそうという動きが活発化しています。安倍氏の死去によって金融緩和を打ち止めさせようという動きが今後ますます強まるでしょう。市場関係者は安倍氏襲撃の一報が入ると即座に円買いに動きだし、円安から円高に振れていきます。

 

金融緩和の解除=金利引き上げの予想が出てくると、多くの民間企業は投資の抑制と事業の縮小に動き出します。最近「物価が上がった」と言われますが、消費者の購買欲が高まってのことではなく、原油天然ガス、食料品等などの品目の価格上昇であり、生産者の利幅は厚くなっていません。利幅がないと従業員への賃金分配を手厚くできないでしょう。そういう状況を何も考えず「物価が上がったんだから金利を上げるのは当然ダー」と政策金利を上げてしまうと、生産者には原材料などの仕入れ価格上昇だけではなく金利負担まで圧し掛かってきます。ひどい場合は資金繰り悪化で倒産・廃業に追い込まれる中小企業が出てくるかも知れません。多くの生産者は相当の利益が得られると期待される事業しか投資できなくなり、事業規模の縮小を計らないといけなくなります。それは当然、雇用縮小や賃下げ圧力につながります。金融緩和をやめて円高に戻しても資源価格が下がるわけではありません。となってくると石油関連製品や電気・ガス代がたいして下がらないのに、賃金だけが下がるスタグフレーションとなってしまうのではないでしょうか。生前中安倍さんも同様のことを注意されていました。

 

今日の参議院選挙で自民・公明が大きく議席をとれば自民党にとって「黄金の3年間」となるといわれていますが、それに岸田政権が胡坐をかいて増税や歳出削減を推し進め、さらに金融緩和の解除をはじめることで雇用の悪化と国民生活負担の増加していくといったことになれば、国民にとって「悪夢の3年間」となります。

 

2 政界の混迷と議会制民主主義政治の不信増加の懸念

岸田政権の経済政策失敗が国民生活をいっそう苦しくさせてしまう可能性を述べましたが、それと同時に自民党内の派閥抗争激化と党分裂が起きる可能性も指摘しておきましょう。安倍氏自民党最大派閥の清和会会長を務めており、積極財政でコロナ禍で苦しむ事業者への支援や消費税などの一時減税(軽減税率も利用)の他に、金融緩和政策継続の必要性や、露骨な覇権主義を剥き出しにする中国・ロシア・北朝鮮などの軍事独裁国家による武力侵攻に備え、台湾・アメリカなどと核シェアリングする考えや防衛費の引き上げなどを進言されていました。安倍氏に近いとされる高市早苗政調会長も積極財政や防衛強化を主張されていますが、安倍氏の死により、そうした声が低くなってしまうことでしょう。清和会がバラバラに分裂する可能性があります。金融緩和解除で金利を引き上げて民間の生産活動を抑圧してしまったり、税負担の増加による家計圧迫が岸田政権下で進行していくことになるのではないでしょうか。

 

となってくると国民の自民党政治への不満や不信がじわじわと高まっていきます。しかし今回の参議院選挙で自民・公明が安定多数の議席を獲得すると、景気や雇用が深刻に悪化したり、国防上の不安が高まってきても、簡単に選挙という方法で政治家の政策行動を改めさせることがしばらくできないでしょう。「悪夢の民主党政権」といわれた3年間と同じように相当国民を苛立たせることになりそうです。暴力による政治への圧力をかけたいという誘惑を生み出します。国民の不満が高まっていくのをみて自民党内外で政局を仕掛ける勢力も出てくるでしょう。複雑極まりない派閥抗争の激化と岸田下ろしの勃発に収まらず、自民党議員の一部が党を割って抜け出し、維新の会や国民民主党、あるいは立憲民主党と合流するといったアクロバティックな状況となり、有権者がついていけなくなるかも知れません。マスコミは国民不在の理念なき権力闘争といった調子で記事を書くことだと思います。そうなると国民の政治家不信が決定的なものになっていきます。1990年代に党が分裂したりくっついたりと”野合政治”といわれる状況がありましたが、それとよく似た状況です。自民党宏池会系の議員が政権の座につくと下野するというジンクスがありますが、今回の岸田政権もそうなるのでしょうか。

 

第2次安倍政権前のように総理大臣が短い間に何度も交代したり、あるいは政党が割れたり、くっついたりの繰り返しをしたり、民主党政権のように政権運営にまったく慣れていない政党が内政・外交をグチャグチャにしてしまうようなことをすれば、中国やロシア、北朝鮮に蹂躙される隙を与えてしまうことでしょう。

 

3 外交・防衛の混乱

現在の岸田政権は宏池会主体の政権で、穏健ハト派外交だと云われていますが、清和会に比べ中国・韓国寄りの姿勢です。外務大臣林芳正議員は大臣就任直前まで日中友好議員連合の会長に就いていました。

アメリカだけではなく他の西側諸国も中国政府の覇権主義的な態度に対し警戒心を持つようになってきています。アメリカのバイデン大統領たちも媚中的な態度が目立つ岸田総理や林外相に疑いの目を持っていても不思議ではありません。

安倍さんは地球儀外交アメリカ政府をはじめ、各国の首脳から厚い信望を得ると共に、トランプ前アメリカ大統領と組んで中国共産党政府の軍拡の動きを牽制していく策を打ってきました。総理退任後も外交・防衛・経済政策に対し有益な進言を続けてきました。安倍さんの死によって金融引き締め・緊縮財政や空気が読めない岸田政権の外交姿勢に釘をさせる人がいなくなってしまったのです。安倍さんいなくなった後の清和会は恐らくバラバラになり、党内での発言力が大きく低下していくことになるでしょうが、このパワーバランスの崩れが自民党内の派閥抗争を激化させ、筋が通った外交や防衛戦略を党が打ち出せなくなる恐れがあります。党内のガバナンスが緩んだ自民党政権はみるみると弱体化し、政情不安定化の間隙を中国やロシアなどに突かれてしまう危険性を孕むことになります。

 

前回も記事の最後にリンクを添付させていただきましたが、経済学者の浜田宏一さんは「500万人もの雇用を生み出した安倍氏は日本の救世主だといえる。ただ、日本経済を十分に効率的にするところまで行かなかったのは残念だ。」と仰っていました。

参考

「今でいう新しい資本主義を狙っていた」 経済ブレーンの浜田氏、安倍氏悼む - 産経ニュース (sankei.com)

 

逆をいえば安倍さんの死によって、今後数百万人もの人々の将来が失われてしまうかも知れません。誤った経済政策によって数多くの日本国民が困窮するようなことになれば、最悪血盟団事件のようなテロを誘発したり、とんでもない極右・極左政党が登場して議会制民主主義を崩壊させるようなことも想像されるでしょう。日本の政情不安定化と他国からの武力侵略によって現在のウクライナのように圧倒的多数の日本人が血を流さねばならぬ状況になることもありうるのです。

 

筆者はツイッター上で山上容疑者について「万死の値する」「殺処分すべきである」と断じました。これについて「過剰反応はよくない」だの「統一教会に加担しなければ安倍さんは殺されなかった」などといったレスがつきました。彼らは今後この事件が想像を超えるような災厄に日本国民全体を巻き込む可能性があることに気が付いていないのです。筆者は山上徹也は安倍晋三氏というひとりの人を殺しただけではなく、日本を殺した男として後世までその悪名を残すのではないかと想像しています。

 

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