新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

無からマネーを生み出す信用創造(2019/6/28 改題・改訂)

前回は普段わたしたちが使っているお金が誰かが銀行から借金をして生まれたものだということをお話しました。
このような話を聞いて「えっ!ホント?」と思われる方がほとんどかと思います。しかしながら経済学者のジェームス・トービンがしっかりと銀行の書記のペンから預金が産まれると述べております。今はペンではなくコンピューターのキーボードで金額を打ち込む格好ですが。
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信用貨幣制度下でのお金の発生と供給の仕組み

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今回のお話は民間銀行の信用創造がどういう経緯で生まれたのかをお話していきます。借金からお金が生まれる仕組みができてしまったのかということです。まず最初に前回記事で書いた貨幣の発生についてのおさらいです。

人類の経済活動の原点はモノとモノ同士の交換である物々交換であり、その媒体として貨幣が登場したと多くの人は想像します。これを貨幣商品説といいます。それは互いに交換したいモノや交換したい時期などの希望が一致しないと交換関係が成り立たず不便でしたので、貝殻や石など誰もが同じ価値だと認められ持ち運びや保存がしやすいものを貨幣と見立てるようになったという説です。


しかし考古学者や文化人類学者らが貨幣の起源について調べていくと、貨幣は物々交換から生まれたというより、負債の証文や約束手形のようなかたちで生まれたらしいということがわかったそうです。貨幣は負債や義務、約束、信用の証として生まれたという説です。言い換えれば”ツケ払い”みたいなものでしょう。その場で交換するモノは存在しないが、後日ちゃんと等価交換すべきモノを渡しますという約束手形として貨幣が生まれたということになります。こうした取引は農耕社会となった新石器時代より存在していたと云われています。
その理由ですが、農産物の場合種まきから収穫までの間に数ヵ月以上もかかり、取引の約束から現物を渡すまでの間に大きな時間差が生じるために、貨幣という約束手形を生み出したのだと考えられています。

お金は太古の時代より借金の証文や約束手形みたいな形で生まれていたとみていいでしょう。

時代をうんと下り、話の舞台を産業革命大航海時代を迎える中世ヨーロッパへと移ってみましょう。金属加工職人であるゴールドスミスたちが貸金庫業や金貸し業をはじめたことが、近代銀行の発生へとつながったという話です。


金や銀などの細工職人・ゴールドスミスは金貨や銀貨の鋳造を担っていました。彼らは鋳造した金貨・銀貨を護るためにしっかりとした金庫を持ち、護衛もつけます。人々は自分が持つ貴重な金銀・宝飾品等をゴールドスミスの金庫で預かってほしいとお願いするようになりました。ゴールドスミスは人々の資財を預かり、その預かり証を渡します。さらにゴールドスミスは金庫業だけではなく、金貸し業も始めだし借り手から利子をとって多くの財を築きあげました。

さらに人々は金貨や銀貨をいちいち預けたり下ろしたりせずに、スミスが発行した預かり証を紙幣がわりに遣うようになってきます。

さてここからがすごい話です。
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スミスは「どうせ金庫の中身を知っているのは自分しかいない。預かっている金銀以上の紙幣を発行してやってもいいだろう」という悪知恵を思いつきます。それからスミスは実際に金庫の中に存在する金銀を超える架空の紙幣をどんどん発行したり金貸しを行って、財をどんどん殖やし続けます。これが銀行が行っている信用創造のはじまりとなります。

当然この銀行家となったゴールドスミスのペテンがバレたら大変なことになります。預金者は自分が預かっていた財産が戻ってこなくなったり、紙幣が金銀と交換できなくなり紙屑同然になったりします。これが取り付け騒ぎでいわゆる預金封鎖という事態であります。
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このような非常に危なっかしい信用貨幣制度ですが、重工業が萌芽した産業革命大航海時代において資本家たちは膨大な資金を必要としていました。さらに国家も大きな戦争をする場合に租税だけでは戦費が賄えずに銀行から借金をしないといけなかったのです。つまりは実際に準備できる金を超える融資が必要であり、銀行は信用創造という架空のマネーでそれを行ったわけです。
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信用創造は近代銀行が生み出したペテンであり詐欺的行為ですが、急速な工業の発展や近代文明の進歩を支えてきた黒子のようなものでもあります。資本の拡大・膨張はどんどん進み、それと共にマネーも肥大化の一途を辿りました。信用創造に必要な負債もどんどん膨れ上がっていきます。
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信用貨幣制度は資本主義経済システムにとって切っても切れない存在となりました。
しかしながらこれはどんどん資本家が銀行から融資を受けて投資を行っていかないと、新しいお金が発生せず市中へ供給されないという宿命を持っています。資本家や個人が次から次へと借金をし続けないと回っていかないのが資本主義経済です。それができなくなってしまうと恐慌という事態を招き、経済活動が瀕死状態に陥ります。

このような問題を抱えた信用貨幣制度と我々はつきあいながら経済生活を営んでいるのです。


「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

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