新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

すべては負債から生まれている?~スペンディングファーストとは~ (2019/6/29 記事差し替え)

いまわたしたちが手にする紙幣というものが、負債から生まれてきたものだということを説明してきました。
銀行が資本家もしくは国家に融資を行うことによって、無からお金を生み出しているのです。これを信用創造といい、それによって生まれたマネーを信用貨幣といいます。

わたしたちは負債というとあまりいい印象を持ちません。借金を背負っている人についてもそうです。
しかしながら世の中にある多くの商業や産業はまず創業者が、あちこちから事業を興す資金を出してもらうようにお願いすることからはじまります。資本金の調達です。
もしあなたが小さな飲食店などを開くにしても、700万円~1200万円ほど資金を用意しないといけません、農業なんかもそうです。農地やトラクターなどの農工具、ビニールハウスなどをそろえるのに500万円~1000万円必要だといわれています。これをJA(農協)ローンを使うなどして資金を借りるのです。

ありとあらゆるモノやサービスを生産し、それを売って稼ぐにはまず借金をしないと話にならないのです。世間ではよく勘違いされがちですが、商品を売ってお客さんから頂いたお金を集めて、お店や機械、従業員を雇っているのではありません。実業家が借金をして、商売に必要なものをそろえてから、商品を生産し、それを売って借金を還すという順序です。これをペンディングファーストと言います。

工場を建て、機械を設置するだけで何億円もかかりますし、人を雇うのに年間膨大な固定費の支払いをせねばなりません。それが事業というものです。そんなお金を自分が稼いだお金だけで用意できるわけがありません。銀行から借りるなりしないと調達できない資金です。飲食店ですとお客さんから頂けるお金は数百円程度です。お客から小銭をかき集めて投資をしているのではないのです。
100円均一の生活雑貨も、その商品の開発や生産には開発費や金型などで多額の投資が行われています。

イングランドで起きた産業革命についても、信用創造がなかったら実現しなかったことでしょう。初期の綿織物製造といった軽工業中心だった時代はまだ機械の発明者が仲間から資金を提供してもらっているだけで事業が成り立っていましたが、さらに蒸気機関を利用した紡績機や鉄鋼生産、そして産業を支える運河建設や道路の建設といった大型投資を必要とする事業となってくると、自己資金だけでは間に合いません。ジェントルマンらが営む金融資本に頼らなくてはならなくなります。

1694年にイングランド銀行が設立します。
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この銀行はスコットランド人のウィリアム・パターソンなどといった金持ちの民間人が設立したものですが、当時フランスとの植民地戦争で多額の戦費を要していたイングランドの王であるウィリアム3世に近づき、120万ポンドの資金を出すかわりに、それと同額のイングランド通貨発行権を認めさせます。パターソンらのイングランド銀行はこの特権を王から与えられると共に、預金、貸し付け、商業手形割引、為替などの金融業務を開始し、財政革命といわれます。

 参考 世界史の窓様 「産業革命

しかしながらパターソンは実際に120万ポンドを用意していたわけではなく、その1割にも満たない3万6000ポンドしかありませんでした。彼らは実際に存在しないハッタリのマネーを貸付け、175万ポンドの紙幣を流通させます。そこから利子を稼ぎまくったのです。

ちなみにイギリスの紙幣には”I promise to pay the bearer on demand the sum of xx pounds.(要求に応じて、紙幣の携帯者に、xxポンドを支払う事を約束する)”と印刷されているようです。
 
 参考 MiniPostEngland様 「イングランド紙幣の歴史

こうしてみると実際に私たちが遣っている紙幣が信用創造によって生み出されたものだというのが、よくわかるかと思います。紙幣は債券なのです

信用創造はペテンやハッタリに近いもので、しかもギャンブルというべきものですが、このおかげで従来ではできなかった巨額の資金を要する大型事業ができるようになり、はるかに効率のいい産業機械の導入やインフラ整備に役立ったといえます。いま私たちは高度な技術で生産された優れた品質の商品を非常に安く手に入れることができているのですが、それもこの時代の工業化がもたらした恩恵です。

民間の事業だけではありません。公共事業も同じです。道路や橋といった公共建造物は国民や市民からの税金をかき集めて、事業を発注しているのではありません。建設国債を発行して公共事業を発注します。やはりスペンディングファーストです。

極論をいえばこの世に存在する商品はすべて負債から生まれたものです。誰かが借金をしなかったら何も生まれない世の中になります。上で述べたように私たちが普段食べている農産物も負債から生まれたものです。
投資はinvestですが、それをせずしてharvest(収穫)を得ることはできないのです。

ですので負債を生む・借金をつくるということは私たちが生きていく上で必要なことです

後ほど批判していきますが、バブルが崩壊し、三重野康日銀総裁に就いた1990年代以降の日本は民間企業を中心に負債をつくりにくくなっています。それが新しい技術や商品を生むための研究開発費や設備投資、人への投資である雇用を萎縮させてしまい、日本の産業が衰退していくことになります。民間企業のかわりに国家が負債を膨張させるという不健全で歪な社会主義国家的状況にずっと浸り続けています。

例えばものすごく有能で、優れた商品をつくって売って稼ぐことが巧い人がいたとしましょう。この人にお金を貸せばもっと大きな富を産み出してくれることが期待できます。お金を貸さないことは大きな機会損失です。
日本という国は「失われた20年」でたくさんの機会損失をつくってきたと見ることができます。

不謹慎な言い方になりますが、資本主義・・・・・いや人生はギャンブルだと言えます。ギャンブルとは多少の危険を冒しても、計算し尽くして成功の可能性を高め、大きな成果を狙うことです。人間のありとあらゆる活動や営みがギャンブルです。
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原作:河本ほむら、作画:尚村透 「賭ケグルイ」より

負債をつくらなかったらモノやサービスの生産ができず、国民は豊かになれないのだというのは確かですが、気をつけないといけないのは、明らかに還すことができない負債、生産能力や販売力が伴わない負債をつくって膨張させたら、当然破綻につながって倒産や金融危機、国家財政破綻を招き、大混乱をもたらします

つくることができる負債は将来自分たちが稼ぐことが十分期待できる範囲内にとどめる必要があるということです。

藤子不二雄さんのマンガ「ドラえもん」で「未来小切手帳」という話がありました。
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友達より遅れずに「少年ヨンデー」の最新刊がほしいのび太がママにお小遣いの前借りをせがむものの断られ、ドラえもんに泣き言をいうのですが、折れたドラえもんが未来小切手帳というものを四次元ポケットから出してきます。ドラえもんはこの小切手帳に必要な金額を書き込むと、お金の代わりにつかえるという話をのび太にしますが、同時に「雑誌程度にとどめた方がいいよ」と釘をさします。

ところがのび太は調子にのってマンガ雑誌に止まらず、プラモデルから果てはクルマや家まで未来小切手帳で支払って買おうとします。

それからしばらくして親戚のおじさんからお小遣いをもらうのですが、袋をあけてみると空っぽで異変に気付きます。のび太ママもあまりのお小遣いほしさにのび太がおかしくなってしまったのではないかと心配し、特別にお小遣いを与えるのですが、やはり封筒をあけると中身が空っぽです。

結局この未来小切手帳はのび太が将来得る収入を前借りする仕組みになっていたということでした。今でいうクレジットカードみたいなもので、ツケ払いしていただけだったということです。

私たちが手にしている貨幣もドラえもんの未来小切手帳みたいなものだと思っておいていいでしょう。
無制限にこの小切手帳に数字を書き込んで、次々と切って遣い込むと、あとで大泣きすることになります。

借金をつくることは大事ですが、でも無制限につくることは許されません。
ミルトン・フリードマンが言うように「ノーフリーランチ(ただ飯はない)」です。
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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

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