新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

お金はイリュージョン(幻想)である ~ずっと変わらぬお金の本質~(2019/7/4 記事差し替え)

お金ってなにものか?それはどうして生まれたのか?よく考えてみるとお金は不思議な存在です。その正体をつきとめようとするのが貨幣論です。

先にお金というものは約束手形や借金の証文みたいなものとして生まれたという話をしました。今もその性質は変わらず、新しく発行されるお金もまた銀行が融資先にお金を貸し出したり、政府が国債を発行して、それを中央銀行が買い取って中央銀行券というかたちで新しいお金が産み出されます。前者を信用創造、後者を財政ファイナンスと言います。イギリスの紙幣であるイングランド銀行券をみますと”I promise to pay the bearer on demand the sum of xx pounds.(要求に応じて、紙幣の携帯者に、xxポンドを支払う事を約束する)”と印刷されています。
 
 参考 MiniPostEngland様 「イングランド紙幣の歴史

信用創造の話を知ると結局マネーというものはまったく何もない無の状態から産み出されていることに気がつきます。イングランド銀行券に銘記されているようにお金は「この券を持ってきたら必ず支払いをします」という信用や約束の証です。人々はその紙切れを、そこに記されている額に相当する価値の財と交換してくれると信じているからお金として機能するのです。

お金は人々の間でそれがお金であるという共通了解や信用を持たれているからお金です
これを貨幣の循環論法と言います。ある金属のコインや紙きれ、貝殻、そして現代では電子情報、ベネズエラでは卵だったりするのですが、それらをお金だと皆が認めるからお金になります。またそれが将来に渡ってお金であり続けるという予想や期待があるからお金であり続けます。

「貨幣とは何ぞや?」を徹底して研究し尽くされた方といえば岩井克人教授ですが、著された「貨幣論」の中で”貨幣が貨幣として成り立つのは、すべての人が、ほかの人がそれを貨幣として受け取ってくれると信じているからにすぎない””貨幣というのはモノ自身に価値があるのではなく、貨幣として使われているから価値がある”と喝破します。さらに電子マネーが登場したときに岩井教授は”貨幣は実体性を失った情報になることでより純粋化しただけなのです”と言いました。
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 引用 経済学者・岩井克人、「23年後の貨幣論」を語る|WIRED.jp | wired.jp

お金は人間がつかう”ことば”と同じで信用や価値をあらわす象徴や偶像だといっていいでしょう。養老孟司さんは「唯脳論」とか「脳化社会」ということをよく仰っていましたが、お金は非常に脳的な存在だと自分は思っています。”からだ”がモノやサービスといった実物財だとしたら、お金は人間の”あたま”がつくりあげた偶像であり幻想です。電子マネーや仮想通貨の登場はまさに貨幣の脳化が究極にすすんだ状態だといえましょう。

ラテン語で偶像や幻影のことをidolum、複数形になるとidolaとなります。これは”アイドル”の語源になっている言葉でもあります。男子諸君はアイドルが可愛らしく、にっこり微笑んだりする姿をみて、「こんな彼女がいたら」とか「すごくいい子だなあ」と甘い幻想に浸るわけです。
アイドルを愛し、アイドルを知る経済学者である田中秀臣教授は、以前貨幣とアイドルについて記事を書かれていました。ちょっと引用してみましょう。

参考 田中秀臣教授

~上の記事より引用~
”通常の政府通貨は、それが「貨幣ゆえに貨幣である」という形で信頼性を得ている。利用する人たちがこの紙切れは「円やドルという貨幣である」と信頼することが、そもそも貨幣が貨幣たるゆえんなのである。各国政府や各国の中央銀行(貨幣を唯一つ発行できる機関)はいわば単なる“きっかけ”程度の役割しか実は持っていない。貨幣を使う人たちがそれは貨幣であると信頼することができれば、実は貨幣は誕生する。”

”いまのアイドルも「アイドルゆえにアイドル」だからである。アイドル自身とそのファンが「アイドルである」と信認するだけでアイドルが誕生する。アイドルとは何か、筆者も一時期一生懸命定義しようとしたが諦めた。アイドルは多様性をもち、いや持ちすぎていて、単純な定義としては「アイドルゆえにアイドルである」という「アイドルの自己循環論法」しか成り立たない。まさに貨幣もアイドルも「偶像」なのだ。”

アイドルの場合、上で述べたように多くのファンが彼女ら・彼らに幻想を抱くことによって陶酔するのですが、何かの大きなスキャンダルでその幻想がぶち砕かれると、ファンは一気に彼女ら・彼らから心が離れます。2019年に秋元康がプロデュースするAKSの一グループで新潟を拠点に活動してきたNGT48でかなりひどいグループや運営の体質が明るみになってしまいましたが、これが元で多くのファンが怒り、仕事が激減して地元のスポンサーが降りたりしました。一気にアイドルグループとしての人気やファンからの支持が剥がれてしまうことになったのです。
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お金の場合もそうです。何らかの理由で国民が持っているお金を信用できなくなってしまったら、一気に価値が暴落します。
その例がハイパーインフレという現象です。たとえば国が戦争に敗れたり、国家の統治能力を失ってしまうとか、モノやサービスなどの実物財の生産が著しく停滞し、その結果税収不足や外貨準備不足によって外債の償還が危ぶまれてしまい、市場がその国を見放してしまうとしましょう。そうするとその国のお金が信用力を大きく落とします。お金がお金としての価値を持ち続けるという予想や期待が大きく崩れてしまい、それがハイパーインフレにつながります。

駒澤大学の矢野浩一さんが書かれたコラムですが、合理的期待仮説を打ち出したトーマス・サージェント教授は初期においてハイパーインフレと人々の予想や期待との関係を研究しています。


ハイパーインフレはお金がお金であり続けるという予想や期待が毀損することによって発生し、またその回復も政策レジームの転換により、お金がお金であり続けるというう予想や期待を取り戻すことで回復すると説明します。

あと銀行などが経営危機に陥って、預金者が自分が預けたお金が返ってこなくなるのではないかと恐れ、多くの人が預金の払い戻しを求めだす行動をとることがあります。「取り付け騒ぎ」です。これもまた信用の崩壊が原因で起きることです。金融危機が発生したときに高橋是清が大急ぎで片面だけ刷った紙幣を用意して「貸したり預けたお金が取り戻せなくなる」という人々の不安を収めたというエピソードがありました。

このようにお金がお金であり続けるという期待や予想はちょっとしたことで簡単に崩れてしまう脆さを持っている存在です。アイドルのようにファンに幻想をずっと抱かせ続け、アイドルとして活動を続けていくのですが、やはりお金も人々にお金だと信じてもらい続けてお金であり続けるのです。
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中島みゆき 「孤独の肖像」

 みんなひとりぽっち ひとり海の底にいるみたい
 だから誰かどうぞ 上手な嘘をついて
 いつも僕が側にいると 夢のように囁いて
 それで私たぶん少しだけ眠れる

・・・・・・お金も中島みゆきさんの歌みたいなものです。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

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