新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

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恐慌を食い止めよ その7 アメリカ金融危機に立ち向かったバーナンキFRB議長

ずっと戦前の世界大恐慌や日本の昭和恐慌の時代のことを綴ってきましたが、現代の話に戻ります。今回はサブプライム(ノンプライム)ローンショックによって起きたアメリカの金融危機に立ち向かったベン・バーナンキFRB(元)議長の功績について述べます。バーナンキ教授のことについては改めて別の機会にここで触れるつもりですので今回は軽く触れるだけに留めます。

バーナンキ教授は元々経済学者でしたが、2006年にブッシュ政権下でアラン・グリーンスパンの後継としてFRB議長に就任します。それからしばらくしてノンプライムローン(←バーナンキ教授の言い方)ショックを引き金とする金融危機が発生し、その対応に追われることになります。
バーナンキ議長は学者時代に世界大恐慌の研究に没頭し、「大恐慌マニア」と云われたほどの方です。奇しくも自身が恐慌へとつながりかねないほどの深刻な金融危機に立ち向かわねばならないという矢面に立たされることになります。

ノンプライムローン問題についてはここでも既に書きました。金融機関が安易に経済力が低く返済能力が高くない人たちに住宅ローンを組ませて貸付けを行い、負債を膨張させてきたものの焦げ付いてしまい、不良債権が一挙に発生してしまったが故に金融危機へとつながったのです。


バーナンキ議長はニューケインジアンと云われる経済学者でしたが、新古典派ミルトン・フリードマンらが指摘していた「大恐慌は通貨の発生・供給不足によってもたらされたもの」という指摘を支持していました。私もここで恐慌は銀行が経営悪化や破綻等によって企業への融資をしなくなる・できなくなることによって信用創造が萎縮し、マネーの発生や供給が停まってしまうことによって発生するという説明をしております。(その説明) これを信用収縮といいますが、やはりバーナンキ議長がされてきたこともその進行防止です。

バーナンキ議長は金融不安の拡大やそれによるパニック(取り付け騒ぎなど)を阻止するために、経営が不安定化した金融機関等に資金の貸し付けをはじめます。そしてFRBに政府機関債や住宅ローンがらみの証券、長期国債などの債権を大量購入し、マネーを産みだしていきます。この大規模資産購入(Large-Scale Asset Purchases)が俗にいう量的緩和(Quantitative Easing)に近いものです。(ただしバーナンキ議長は「量的緩和」という言葉を一度も使っていない。)「量的緩和」という言葉はアベノミクスの説明でもよく聞かされます。
FRBによる大規模資産買い取りは出口戦略までにQE1~QE3の3発が実施され、FRBの資産は4.5兆ドルにまで達しました。

FRB国債を大量に買うことによって国債価格を上げてその金利を下げることができます。そうすると投資家や金融機関は金利が低い国債ではなく、企業の社債や株・住宅ローン・自動車ローン・学費ローン等への投資・融資へとシフトしていく可能性が出てきます。そうすればそれらの債券もまた需要増で金利が下がり、ますますの投資や融資増につながっていくことが狙えます。このような形で生産活動や雇用の活発化を促していきます。詳しくはまたリフレ政策の解説でお話したいと思います。

バーナンキ議長の手腕により、アメリカ経済は金融危機を脱し恐慌という最悪の事態を回避することができました。危機に陥っていた金融機関や企業へ注入した公的資金も業績回復で返還が進みます。失業率は2009年末をピークに下がりはじめました。

しかしながらバーナンキ議長が認めるように、その後経済回復力は回復基調になったものの、その勢いは決して力強いものではありませんでした。住宅ローンを組めないような低所得者層の問題も解決が進んでいったというわけではありません。FRBができることは金融政策であって、貧困や格差問題などについては他の政策で解決していかないといけないのが実情です。


今回で「バブルと恐慌の発生 」編を締め括りますが、次回からは日本で起きたバブルとその崩壊後についてまとめた「デフレと失われた20年 」編です。

*補足説明 バーナンキ議長が説明する「信用緩和」と「量的緩和」の違い
バーナンキ議長の説明によれば「量的緩和」とは各市中銀行FRBに持つ準備預金(日本だと各市中銀行が日銀内に開設している当座預金口座に振り込まれている預金)の量を増やすことで、FRBのバランスシートの負債側(右側)で起こすものだとのこと。市中銀行が民間企業への融資に遣う資金を増やし、それを強化するのが狙い。
「信用緩和」は逆にFRBのバランスシートの資産側(左側)で起こすもので、買い取った債券・資産の価格や利回りをコントロールする手法である。 


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