新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

お金が貯蓄として死蔵されてしまう流動性の罠 その2


前回は不景気でどんどん金利が下がってゼロ付近で底打ちし、金利を下げたりマネーの供給量(MS)を単純に増やそうとするだけの通常の金融緩和が失効してしまう流動性の罠と呼ばれる現象が1990年代の日本で発生してしまったことを書きました。それについて投資と貯蓄の均衡が決まる財市場とお金の流動性(需要)と準備されているお金の量(供給)の均衡が決まる貨幣市場のグラフを合わせたIS-LMモデルを使って説明しております。
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今回はそれが起きた原因を探っていきますが、まずは多くの経済学者が行っている解説をもとにそれを記していきます。

バブル景気が崩壊するまでの日本は銀行の定期預金が今では考えられないほど高い利子率がついて、10年ほど預けておけば何万円・何十万円も利子がついて却ってきたものです。多くの人はそれを貯金だと思うかも知れませんが、銀行に資金運用を任せた企業への間接的投資行動と見なせます。
しかし定期預金だと一度預け入れると5年・10年と長い間それを卸して遣うことができません。一方普通預金当座預金利子がつかないか僅かなのですが、いつでも好きなときにお金を卸して遣えます。それは現金をタンス貯金しているようなもので、ケインズ的には貯蓄という行動にあたります。

ケインズ流にいえば
利子率が高いときには余っているお金を企業等への投資運用に回した方が得になります。
利子率が低いときにはいつでも自由にお金が遣いやすい現金貯蓄の方が便利です。

不景気のときに投資なんかやってもリターンが望めないどころか損失を被る恐れがあります。利子や配当が望めないのであるならば投資よりも現金貯蓄をした方が無難です。中央銀行がたくさんお金を市中に供給しても、企業への投資にまわらず現金貯蓄として死蔵されてしまう現象が流動性の罠です。

中央銀行は景気をよくしようと思ったときは民間銀行を通じてそのお金が企業の投資に回るよう金利の引き下げを行います。ところが1990年代における日本の企業はゼロ金利に近づいても投資意欲を見せませんでした。ゼロより以下に金利が下がることはないと皆思うわけですから低金利政策は詰んでしまいます。
さらに低金利で人々は持っているお金を投資ではなく、現金保有のまま蓄えこんでいきますので、ますますお金が世の中全体に循環していかなくなります。一般消費も冷え込んでモノやサービスを購入しなくなりますから、ますますマネーの需要が低くなります

企業がゼロ金利になってもなぜ投資(雇用)を活発化させなかったのでしょうか?
経済学的な説明ですと慢性化したデフレで物価がどんどん下落し、実質金利が高くなってしまったからだということになります。実質金利名目金利から物価を差し引いたものです。

 実質金利名目金利-物価

デフレで物価が下がり続けると
 実質金利名目金利-(-物価)

ゼロ金利になっても実質高金利などという状況が生まれます。これですとイメージができにくいかと思われますので少し具体的な例を出してみますと

同じ金利でも
インフレで100円のものが110円、120円で売れていくことが予想されるときと
デフレで100円のものが90円、80円でしか売れなくなっていくことが予想されるときで
金利の負担感が違います。

自分の会社が売る製品の価格がどんどん昇っていく状態ならば儲けがしっかり出るので、多少高い金利で資金を調達しても楽に負債償還や利息払いができます。
しかし製品の価格がどんどん切り下げられ、儲けが薄くなる一方ですと、負債償還や利息払いの負担が重く感じられるようになります。ゼロ金利でもお金を借りてまで事業拡大をすることが恐ろしくなってくるわけです。

下の図は金利と企業の投資決定の関係を示したものです。
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ある会社がAからEまでの事業計画を立てているとします。グラフ横軸は投資額の多少で左側に行くほど低投資で右側へ行くほど投資額がかかっていきます。
グラフ縦軸は収益見込みと利子率です。収益率の見込みが利子率より低いと不採算事業になります。プロジェクトEは投資額が嵩む上に収益率の見込みも低いハイリスク・ローリターンで投資されないでしょう。
逆にプロジェクトAは少ない投資で収益見込みも高く優良事業扱いされます。利子率が多少高くても投資されるでしょう。
そして金利の上下によってできるプロジェクトと切られるプロジェクトが変わってきます。金利が2.5%ならプロジェクトDは進められるかも知れませんが、金利が5.0%になり収益率がそれを下回るとプロジェクトDは中止になります。
金利によって企業の投資行動が変わるというのはこういう意味です。

ついでに言うと雇用も同じことがいえます。物価が下落すると実質賃金=名目賃金-(-物価)実質賃金が高騰し、ものすごく企業の人件費負担が重くなります。デフレになると企業はどんどん従業員のクビを切りたくて仕方がなくなります。ブラック企業にしないと生き残れません。(ひどいこと言うなあ・・・・・)

そしてデフレによる物価下落はマネーの価値をどんどん高くしてしまいます。モノやサービスなどの財の価値よりもマネーの価値の方が重くなります。これから先どんどん物価が下がると予想した場合、今持っているお金を今すぐ遣わず、あとでモノやサービスを安く買った方が得です。通貨のバブルと言っていいでしょう。
そうなると現金貯蓄がどんどん増える一方で、ますますお金が動かなくなります。

流動性の罠という現象は1990年代に日本が慢性的なデフレ状態に陥り、物価がどんどん下落していったことと結びつきます。物価下落は投資や雇用を落とし込む元凶です。

次回も流動性の罠についての3回目の記事です。1997年を境に進んだ賃下げや非正規雇用化との関係も触れたいです。

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今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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