新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

デフレ再発とセーフティネット整備の中途半端さが深めた小泉純一郎・竹中平蔵批判

前回は2006年3月に日銀が量的金融緩和を拙速に解除してしまったことが、デフレの再発を招いたことを書きました。小泉純一郎総理や竹中平蔵総務大臣らは解除に反対していましたが、与謝野馨経済財政担当大臣らに圧される形で解除されてしまったのです。当時の日銀総裁であった福井俊彦氏は就任当初においては量的金融緩和政策に積極的な姿勢を見せていたのですが、任期後半になってくるとだんだんと旧来の日銀組らしき顔を覗かせるようになり、緩和を渋り出しました。多くの緩和解除反対者が危惧したとおり、解除から数か月後に景気が再悪化し、賃金の下落がはじまります。

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一方小泉政権プライマリーバランス黒字化を目標に財政再建を進めてきました。「増税なき財政再建」のために経済成長による税収増加を計ると共に「聖域なき構造改革」と称して公共事業工事削減や国家公務員半減、医療保険制度改訂などで歳出切り詰めを行っています。増税こそなかったもののかなりの緊縮財政だったと言っていいでしょう。
またこの構造改革は労働政策にもメスが入っていきます。竹中平蔵国務大臣は戦後から高度成長期を経て永年続いてきた終身雇用制度や年功序列制度を改め、解雇規制緩和や労働派遣法の改正などを進めてきました。企業側から見たら雇いやすく解雇しやすい・就労者側から見たら就職しやすく辞めやすい雇用慣行へ移行することによって雇用の流動性を促し、結果的に雇用が拡大するという考えに基づくものです。同一労働・同一賃金化によって正規雇用と非正規雇用者間や年功による所得格差を無くすことも含まれていました。

もちろん「聖域なき構造改革」に盛り込まれた参入規制緩和による競争激化や雇用流動化で当然はじき出される人が出てきます。(言葉悪くいえば「勝ち組」「負け組」) そのことは竹中平蔵氏も重々承知しており、改革を進めると同時に「セーフティネット」という言葉を頻繁に唱えていました。
竹中氏が考えていたセーフティネットとは企業のリストラ等で失業した人たちがいち早く就業復帰できるようにするために雇用創出を行ったり、職業訓練を支援するといったものです。このセーフティネット整備は第1次安倍政権にも引き継がれ、「労働ビックバン」や「再チャレンジ政策」と呼ばれました。あとこの当時ではありませんでしたが、竹中氏はベーシックインカムセーフティーネットに採り入れる考えを持っています。


しかしながら現実にあの当時流動化する社会に対応したセーフティネットの整備がきちんとできたかというと出来ず終いになっていました。失業手当などの社会保障制度は終身雇用制度や完全雇用が当たり前であった高度成長期時代そのままの制度設計で、1997年以後の高失業や非正規雇用増大に対応したものではありません。にも関わらず賃金引き下げや非正規雇用化だけが先行し、挙句の果てはリーマンショックで大量の派遣切りが行われ失業者が溢れかえることになったのです。

このようなことを書いて言うのも何ですが、私自身も解雇規制緩和については賛成派で、雇用の流動化を進めること自体は悪くないと考えています。左派政党や労組のように正規雇用にこだわる考えも持っていません。しかしそれと引き換えにきちんと国民の最低限の所得保障を行う制度を用意しておくべきでした。小泉・竹中改革は生煮えの肉や野菜のように中途半端で終わっています。

小泉氏や竹中氏は反対しましたが、日銀の量的金融緩和政策もまた中途半端で解除され、賃上げや正規雇用が拡大しないまま終わりました。このことが「実感なき経済成長」とか「小泉・竹中改革は金持ち・大企業優先で庶民は全然豊かになれなかった」という政権への評価を生みます。

あと小泉・竹中改革についてもうひとつ述べれば、それはアメリカのレーガン大統領が行ったレーガノミクスとその裏付けとなったサプライサイド経済学やUKのサッチャー首相が進めたサッチャリズムに近いものでした。
サプライサイド経済学とは読んで字のごとく供給側の生産力を増強することによって経済成長を計るという考えです。生産性を阻害する要因は高い税率や肥大化した公共事業ならびに社会保障・福祉など大きな政府志向にあると考え、労働意欲や投資意欲を高めることで生産性を回復していこうとする理論です。具体的政策といえば企業減税、家計減税、民間投資を促す規制緩和や政府の事業を民間へと移行させる小さな政府化などになります。需要は企業の投資増加や就労者の賃金所得向上で増加していくと考えられていました。

日本の場合ですと経世会系の小渕恵三政権とかそのずっと前の田中角栄政権や竹下昇政権などが需要側を刺激するオールドケインズ流経済政策を好んでおります。財政出動や公共事業を大規模に行い、これによって景気を上昇させようというのが田中派伝統のスタイルでした。
しかし小渕政権のときには財政出動をいくらやっても効果が出にくく、赤字国債を濫発するだけの状態に陥ります。経世会のやり方を嫌う清和会出身の小泉純一郎はその逆のサプライサイド(供給側)を刺激する手法へ転換させたのです。

この経済政策手法はそれなりの成果を出し、沈滞化した日本経済を再活発化させました。しかしながら就労者の賃金所得低下を食い止められず不安定化したまま放置され、それが需要の萎縮を進めていっております。
小泉・竹中時代の参入規制緩和によって競争が活発化しましたが、デフレ状態から脱出しきれず需要のパイ拡大が十分進まなかったために、値下げ競争ばかりが加速してしまった嫌いもありました。これによって安全面まで無視した極度のコスト切り下げが過熱化したり、労働者の賃下げ・待遇悪化をもたらした例もあります。

慢性的な需要萎縮の問題は今でも十分解消されたとはいえません。アベノミクスで再び採りいれられた金融緩和による雇用改善がさらに進み、やがて賃上げにも結びついて勤労者の所得向上が実現するかと思われますが、今の時点において個人消費は回復しきっていないのが実情です。最後のひと押しとなる個人を中心とする消費需要の刺激についてはサプライサイド重視だけではなくディマインドサイド重視経済政策も積極的に活用していかないといけないのではないでしょうか。
(そのことを少し言うと金融政策・財政出動共々、人々の予想をポジティヴに変える仕掛けを採りいれた政策が必要。)

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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