新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

政府貨幣や国債は打ち出の小槌ではない

政府貨幣(市民統治貨幣)の話は先にするつもりでしたが、ここ数ヵ月間ネット上で政府貨幣や国債発行、日銀の国債買受や直接引受(俗にいうヘリコプターマネー)で財源を確保して大規模な財政出動をという声が高まりつつあります。現行の安倍政権がやや歳出を控え気味で財政出動を望む人たちがしびれを切らしはじめたということがあるのでしょう。私もこれまで伸びが鈍い一般消費を喚起させるために国民ひとりひとりに給付金を支給すべきだと訴えてきました。物価上昇がなかなか起きない現状においてはヘリマネや政府貨幣発行という手段を用いることは有効ですし、これらに反対する人たちが危惧するようにハイパーインフレやそれに準ずる過大インフレ・急性インフレが発生する心配もありません

このブログで昭和大恐慌の混乱を治めるための高橋是清財政で国債日銀直接引受を導入したことを書きました。

上の記事で第一に述べたことは極度の資金不足に置かれた恐慌時に国債日銀直接引受を行ったことは非常に正しい決断であり、そのおかげで世界で最も早く深刻な恐慌から脱出することに成功したことです。
第二に述べたことは当時はなかったもののインフレターゲット(物価目標)という線引きをきちんと引いて、それを上回る物価水準になったら緩和を解除し出口戦略を計れば過度なインフレをきちんと防止できるということでした。
高橋財政のときは皇道派青年将校たちが是清を惨殺し、馬場えい(金へんに英)一大蔵大臣らが軍部の言いなりになって軍事予算を膨張させ続けたことによって戦後かなりひどいインフレを見舞われることになります。これによって戦後日銀は国債の直接引受を禁止するようになってしまいましたが、負債や貨幣を打ち出の小槌のごとく振るって膨らませ、放漫財政に陥ることを防止する仕組みがあれば過大インフレを防止できました。私は日銀国債直接引受や政府貨幣を禁じ手だなどとは思っていません

しかしながら財政出動推進派の一部で「国の負債は国民の資産であるから、それがどんどん増えても構わないし、その方が国民が豊かになれる」「財政再建を進めると日本経済が潰れる」「大規模国債発行や日銀の直受け、政府紙幣発行などで社会保障財源を賄えば増税や保険料引き上げといった国民負担率を上げなくても済む」などという極端な暴論を言い出す人が増えてきています。
こうした発言に「財務省のポチ」と云われている極端な財政規律一辺倒主義でない経済学者でさえ「これはまずいですよ」「逆に財務省から足元をすくわれますよ」と注意しはじめています。

モノやサービスの生産・供給能力をはるかに超える需要や消費及びマネーが膨張した場合、過大なインフレーションを引き起こす危険性があります。物価上昇数百パーセントなどというハイパーインフレでなくても、急性インフレや過大インフレは私たちの生活を破壊します。それは信用貨幣制度であるからとか政府貨幣制度だからという区別はありません。モノやサービスの裏付けがなくマネーを膨張させることを防ぐことが大事です。

このような異常な貨幣膨張を防ぐために銀行の融資でマネーを発生させる信用貨幣制度では、準備預金制度という歯止めがかけられています。法律や中央銀行が定めた以上の比率の信用創造を行わせないようにしてあるのです。政府が貨幣を発行する政府貨幣の場合についてですが、こちらも異常な貨幣膨張を防ぐための歯止めをかけるのは当然のことです。おかしな為政者がいて政府貨幣をどんどん刷ってしまうようなことを防がないといけません。それは今のリフレーション政策にも活用されているインフレターゲットフリードマンが提唱した「k%ルール」といったものです。人間の判断ですとどうしても恣意が入ってしまうというのであればコンピューター、AI(人工知能)を活用して通貨発行・供給量を決めればいいのです。このように線引きをはっきりさせておけば「ハイパーインフレガー」といった心配をする必要はないのです。

しかしながらここ最近において増えてきた「国債大量発行で公共土木工事を大量発注し財政出動を」とか「政府貨幣でベーシックインカムを実現」「日銀に買受・引受してもらった国債は償還しなくてもいい(←これは明らかにデフォルトです)」などという人は歯止めや線引きの話をあまりしていません。もちろんそれをきちんとやっている人もいますが、そうした念押しやクギ刺しを読み飛ばして「財政出動!カネばら撒けー!」ばかり唱えている人たちが目立つのです。

私はここで信用貨幣制度とバブルの発生と崩壊について説明し、そのときにこれを防止する根本策は政府貨幣制度への以降であると述べ、アイスランドの通貨改革についても紹介しました。

参考資料 フロスティ・シガーヨンスソン著 早川健治訳

しかしこの統治貨幣制度を正確に機能させるには通貨管理業務から徹底的に恣意主義や裁量主義を排除する必要があります。アイスランドは国民の知的水準が高く、自主や自立・自律を重んずるDIY精神(自分のことは自分ですべきだ)を持っています。貨幣の秩序や規律は一部の銀行家ではなく、市民自身が護るという姿勢です。多くのヨーロッパ圏がそうであるように戒律主義や合理主義が徹底しており、厳しい自己責任意識と線引き文化が貫かれています。
日本をはじめとするアジア圏ですが、良くも悪くも曖昧さやゆるさがある国民性で、政治や行政の場面で法よりも裁量や恣意が優先されてしまうことが未だ遺されています。土木公共事業だけに偏った財政出動ばかりを唱え、そのためにはいくらでも国債を発行しても構わないといった論調を展開する経済評論家がいて、彼らを妄信してしまうようなグループがかなりの数いるということは決して無視できることではありません。

このようなことは言いたくないですが、アイスランドで行ったような通貨改革は日本でやらない方がいいのかも知れません。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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