新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

平成の辻正信・菅直人政権のデタラメな東日本大震災への対応とショックドクトリンの発生

2回特別記事を挟みましたが「デフレと失われた20年」編 「日本の経済的地位低下が遠因した尖閣諸島問題 」からの続きです。

政権発足直後からマニュフェスト破りの消費税率引き上げ発言や尖閣漁船衝突事件等などで次々とトラブルを引き起こし、国民の不信や怒りを募らせる一方であった菅直人政権ですが、まるで悪魔が見計らったが如く、2011年3月11日東北地方を中心にM9という巨大地震がを襲いかかりました。東日本大震災です。言う必要もないことですが、日本の北半分の沿岸に巨大津波が襲来し、1万6千人の死亡者と2千5百人近くの行方不明者を出しています。さらにこの津波によって東京電力福島第一原子力発電所炉心溶融を引き起こす事故を招きました。この地震の被災域は北海道から関東に至るまで広範囲に及んでいます。
奇しくも1995年の阪神淡路大震災のときも総理大臣は社会党村山富市氏であり、政権不慣れな非自民・左派系政党でした。菅直人の震災対応も迷走を極めます。

東日本大震災の被災規模はかなり広域で、津波の被害に遭った被災者の救護や避難誘導、ライフラインの復旧、福島第一原発停止による電力不足問題等に対して迅速な行動を同時進行で進めないといけません。総理大臣は各大臣や各行政担当者に仕事を割り振り、重要な決定やおおまかな指示を行っていくべきでした。しかし菅直人原発事故を起こした東京電力へ怒鳴り込みに行き、被災者放置でそのままずっと福島第一原発に釘付けとなってしまいます。また彼は場当たり的に次から次へと「~対策本部」を濫立させていき、震災対応は混乱を極めました。ちょっと前にも書いたとおり菅直人をはじめとする民主党議員の多くは「政治主導」をはき違えており、官僚を無視して自分たちで仕事を全部抱え込んでトップダウン式に判断を下すことだと思い込んでいたのです。結局民主党政権中枢部は与党がこなさなければならない膨大な仕事を処理しきれず、行財政が混乱してしまいました。菅直人は癇癪を起こすだけで、震災の被災者救護や復旧・復興はどんどん遅れていく一方です。菅は「平成の辻正信」といっても良いでしょう。

震災当時腹立たしかったのは菅直人だけではありません。震災のドサクサに紛れ、火事場泥棒的な行動をした人間も多く現れました。自民党総裁谷垣禎一氏は震災からまだ数日しか経っていないにも関わらず復興増税の話や「復興ディール」などという発言をします。何でもない震災復興の名を借りて増税を行い、復興公共事業のバラマキをやろうという魂胆でしょう。菅直人政権は参議院選挙で民主党が敗北し、衆参ねじれ状態になってから以降、民主党自民党公明党の三党合意体制で政策決定をしないといけない状態になっており、自民・公明側の復興増税を丸呑みします。

東日本大震災の被害総額は内閣府によると約17兆円に及びましたが、その復旧・復興費は国債発行で賄うのがセオリーです。何千年に一度かの震災です。増税ではなく超長期国債でかかった復旧・復興費を何十年以上かに小分けして負担すればよかったのです。TVの「大岡越前」であった「五貫裁き」の話で越前から五貫(5000文)の罰金を店に支払えという裁きを受けた男が、一日一文づつ早朝・深夜構わず毎日返済を続け、店を困らせるというものがありましたが、それと同じで毎年償還する国債の額を細かくしてやるわけです。あるいは当時ものすごいデフレ状態だったのですからヘリコプターマネーで復興費を調達する手法をつかっても良かったのです。
復興増税で一気に復旧・復興費を払おうとすると納税者の負担が重くなり、経済活動を沈滞させてしまいます。

震災復旧・復興予算ですが、これの配分方法についても様々な問題を引き起こしました。非常時のとき国は現場に近い被災地の自治体に予算の請求権や裁量権を与えて「必要なカネはどんどん請求しろ。要るだけドカンと出してやるから」といいながら復旧・復興予算を出してやらないといけません。復旧・復興が遅れればその地域の衰退を加速させかねないからです。
ところが民主党は中央集権的に「カネの配分は政府が決める。復旧・復興予算の請求は厳密に精査する」といった態度を被災自治体に示します。被災自治体は職員自体が被災者であり、多くの案件を抱えているにも関わらず事務処理能力が大きく棄損しています。復興予算請求の査定があまりに厳しく、その申請書類が煩雑なものですと被災自治体の事務負担を重くします。東京の中央官庁の役人がチンタラ査定をやると被災自治体にカネが配分されるまで相当な月日がかかります。これに宮城県知事の村井嘉浩知事が激怒し、平野達男興大臣(当時)に「復興庁ではなく査定庁だ。交付金なんかやめればいい」と苦情を入れたほどです。

申請の煩雑さで不評だったのは自治体向けの予算だけではなく、被災した中小・零細企業向けのグループ補助金制度もそうでした。この制度は被災した私企業は本来自費で再建すべきものであり、それに公費を投入することは憲法違反であるが、各被災企業がグループを作って地域振興事業を行うという形にするならば補助金を出そうというものです。ところがこの制度も申請がややこしく役所の裁量で受理・却下が決められるために非常に使いにくい制度でした。役所への補助金申請に慣れた大企業ばかりに補助金が出され、肝心の中小・零細企業の申請が簡単に下りないという問題も発生しています。しかもその補助金は建物ばかりに偏重し、操業に必要な機材には適用されなかったようです。申請にもたついている間にどんどん会社の経営が悪化し倒産・廃業してしまう事例も数多くありました。

あと町が津波に呑み込まれ、住民全員が高台移転に同意していたにも関わらず、国がその移転費用を全額国庫負担とせず町にも数百億の負担を求めたために移転工事が始められず、その間に住民対立が起きたり人口流出が進んでしまったところもあります。

このように復興予算・補助金の申請やその査定の厳格化で公正な予算配分が行われたかというとそうではありません。東日本大震災とは無関係の中部や沖縄の企業にまで震災復興補助金が出されていました。復興予算の私物化で最も許せなかったのはNPO法人・大雪りばあねっと。でしょう。このNPO法人の代表である岡田栄悟は山田町の緊急雇用創出事業などの助成金8億円を私物化し、雇用者に軍隊式の訓練を課していました。さらに岡田らは受け取った助成金を濫用し高額なベンツのウニモグや特殊部隊が利用するインフレータブルボート、イタリア製の制服などを購入します。2012年末に資金が底をつき破産し、従業員137人が突如解雇されてしまいました。

震災のドサクサに紛れ、中央官庁の役人たちは権益拡大を推し進め、裁量主義的な復興予算配分を行っております。予算の出し渋りで復旧・復興の遅れや地域経済の沈滞化を引き起こす一方で、復興予算を食い物にするような企業や団体が次々と現れるといった弊害をもたらしました。
民主党はその名と反するかのように中央集権的かつ裁量主義の官僚的政治を肥大化させ、震災によって傷ついた人たちを見捨ててしまうような棄民政治を行ったのです。日本の左派は社会的不遇者の敵であることを我々は思い知らされました。

震災の重い後遺症が与えられたのは被災地域だけではありません。非常時における緊縮財政やデフレに無頓着な白川方明日銀体制は日本経済に震災恐慌というべき沈滞をもたらし、あらゆる産業に深刻な打撃を与え続けていきます。

次回はもう一回だけ震災復興についての話で原田泰先生が提唱されていた直接給付による津波被災者の住宅復旧支援についてです。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

イメージ 1