新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

リフレ政策で国債暴落やハイパーインフレなどと煽ったオオカミ学者たち

今回からリフレーション政策実施のときから次々と出てきたデタラメな危険・有害・無効論の数々について取り上げていきます。リフレーション政策は第2次安倍政権の経済再生政策アベノミクスのなかに採り入れられました。しかしながら安倍晋三総理に対する好き嫌いの感情が入り込んだり、増税による予算獲得と裁量権の拡大を狙う財務省をはじめとする官僚の思惑とそれに靡く御用学者・政治家・政党・マスコミの他に、国債の運用で収益を獲得する金融機関関係者などの思惑が絡み、的外れな批判にもなっていない批判が今なお飛び交っています。これを整理しながら論駁していかねばなりません。

まずは国債暴落説やハイパーインフレ発生説から参りましょう。アベノミクス始動から5年も経った今はさすがにこうした「ノストラダムスの大予言」的なリフレ危険論は下火になってきましたが、それでも出口戦略を急かせるような経済学者や評論家たちがいます。

アベノミクスの第1の矢となった異次元の金融緩和ですが、その手法のひとつである量的緩和は日銀が市中の金融機関などから出回っている国債をどんどん買い取って貨幣に置き換え、それを市中銀行が融資に使う準備預金(ベースマネー)として日銀内の当座預金に積み上げるものです。

 幣サイト記事

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国債の現金化を財政ファイナンスと言いますが、これをやらかすとある日突然国債が暴落したり、ハイパーインフレが起きるなどという経済学者や評論家が次々と現れました。「斜面にある岩があるとき転がりはじめたら、ゴロゴロと勢いをつけてしまい誰にも止められない」という岩石理論?というものです。

まずは「突然ハイパーインフレガー」の方から詰めていきますが、異常な物価の高騰は供給側と需要側のバランスがかなり歪で、供給側が圧倒的に不足しているか、需要側が極端に膨張しているかのどちらかです。
ハイパーインフレについて は後にこのサイトでも改めて取り上げますが、戦争や大規模な自然災害、社会主義化などでモノやサービスといった財を生産する企業や人が極端に少なくなってしまうとか、それを無視して貨幣だけをどんどん膨張させるようなことがない限りハイパーインフレは起きません。モノやサービスとマネーのバランスにさえ注意すればいいのです。
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日本は「失われた20年 」で異常なほど長いデフレ状態が続いていました。ハイパーインフレとは真逆の状況が進行していたのです。モノやサービスの生産に対し有効需要が不足しまくって、企業の投資や生産設備・雇用の縮小を招き、失業が増大していました。マネーの量を増やし有効需要を拡大してインフレ圧力をかけないといけない状況です。
氷水が数秒で沸騰状態になるような瞬間湯沸かし器みたいなことが起きるとでも言うのでしょうか?同じ経済学者や評論家が「金融緩和(あるいは日銀国債買受・ヘリコプターマネー)をやるとハイパーインフレになる」などと言っておきながら、片方で「リフレーション政策をやっても物価が上がらない。失敗だ。」などというのです。上の図のように小学生でもわかるような需要と供給のバランスの関係すらわかっていないバカ経済学者や評論家がゴロゴロといるのが日本です。

そもそも日銀だけではなく世界中の中央銀行が担う最大責務は「物価と雇用の安定」です。それができないというのであれば日銀なんか要りませんよね。

「不足する有効需要GDPギャップ)がどれだけか算出して、それを埋めなさい」というのがハイパーインフレになるのでしょうか?リフレ派は無制限に金融緩和やら国家財政状況を無視して財政出動をやれなどと一度も言っていません。政策を進めるか縮小するかの線引きを予め設定しておきます。2013年に黒田日銀総裁は「2年を目途に物価上昇2%を目指す」というコミットメントをしましたが、このインフレターゲットは「2%の物価上昇を計るぞ」という意思表示と同時に「2%以上の物価上昇になったら緩和を縮小させる」という意思表示でもあるのです。

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「金融緩和をやるとハイパーインフレガー」などという人たちの方こそ、自制心が欠落しているのかも知れませんね。私は戦前・戦中の日本軍部と金融緩和・ヘリマネ有害説を唱える人たちは同種だとみなしています。

次に国債暴落説についてで政府が発行した国債を日銀が買い占めているうちはいいが、それを出口戦略のときに市中へ吐き出すと国債が暴落してしまうという話です。
これについて反論すると量的緩和のときに日銀が市中から買い取った国債ですが、出口戦略のときに慌てて一気にどかんと再び市中へ売り飛ばす必要はありません。(というかなぜそんなことをしないといけないのか意味不明) 債務性が低い債券は何度も借り換えをすればよいのです。債券の塩漬けとなります。市中の国債がいきなりバラ撒かれて国債価格が暴落なんて事態は十分防げますし、サブプライムローン問題による金融危機量的緩和を実施したアメリカやヨーロッパでもそのような事態は発生していません。

あと日銀のBSにある負債が膨張してしまうという反対論もあり、白川方明日銀総裁もそんな発言をしたことがあったようです。(そのとき白川総裁はローレンス・サマーズ氏に「So What? (それが何だよ?)」とぶっきらぼうに切り返された) これについては反論が少し長くなります。

まずここで思い出すべきは「貨幣は負債から生まれている」ということです。(信用創造) 


誰かがお金を借りないと貨幣は増えませんし市中へ供給されません。これがパタリと停まると恐慌という事態を招き、心不全を起こしたかのように経済活動が停まります。日本は企業が銀行からお金を借りて投資をしたり、銀行が企業にお金をなかなか貸さないために失われた20年となったのです。

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こうした状況になったとき、上で述べたように政府が国債を発行して日銀がそれを買い取るか引き受けるかのかたちで貨幣の発行・供給が行われることがあります。

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現行の日銀法では原則禁止になっていますが、国債日銀直接引受の場合政府と日銀のバランスシートの動きは以下のようになります。
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政府と日銀がそれぞれ負債を発生させて、政府が国債・日銀が日銀券を発行します。国債は日銀の資産に、日銀券は政府の資産になります。これを交換しあいます。両者の資産と負債が一緒なら相殺することになり、債務性は実質存在しません。ただお金の量が増えるだけです。政府が日銀に差し出す資産は政府貨幣(一枚100兆円の硬貨など)やケチャップでもかまいません。過大インフレにさえ注意すれば日銀の国債買受・引受で貨幣を発行していくことは大きな問題とならないのです。ベン・バーナンキFRB議長やスティグリッツ教授などもそう説明しています。

市中銀行を挟む国債日銀買受場合の流れと政府・市中銀行・日銀のバランスシートはこうなります。
買受のときは下の図のとおりです。
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政府が財政出動のために新たな国債を発行をしたとします。そうすると政府側のBSに当然ながら負債が生まれます。この国債を一般の市中銀行が現金を出して買えばそれは市中銀行の資産となります。
さらに市中銀行が買った国債を日銀が買い受けたとします。市中銀行は資産である国債を日銀に渡し、その代金として日銀が発行した日本銀行券と交換します。このときに日銀側のBSは負債が国債買受分増えることになります。

引受・買受のいずれにしても、新しい貨幣が発行されるときは政府もしくは日銀が負債を発生させていることを知らないといけません。
もし仮に政府や日銀、企業などが起債した負債を全部無くしてしまったら、お金も全部消えます
またBSをみるときに重要なポイントは「誰かの資産は誰かの負債によって生まれている」ということです。
日本の経済主体を家計・企業・政府の3部門に分けたとしたら、いずれかが資産を持った場合、別の部門が負債を持つことになります。政府の負債を減らすということは企業か個人の家計のどちらかが負債を転嫁させないといけないのです。

そうした事実を覆い隠して「国家財政が破綻する」とか「国債が暴落する」と騒ぎ立てるのは近視野的な見方でしかありません。そう騒ぎ立てる学者は国債の運用益で収益を稼ぐ金融機関のシンクタンクに属する人や財務省がらみの人が多いです。彼らは日銀が金融機関の食い扶持である国債をどんどん買い占めして品薄にさせてしまうことが看過できず、量的緩和政策に反対しているだけです。そうした事情を知りつつ経済評論記事を読んでいく必要があります。

いろいろ説明が長くなってしまいましたが、財務省の御用学者などは政府や日銀のバランスシートの負債部分だけ見せて「異次元緩和で国債暴落ガー」などと騒ぎ立てます。しかしながら貨幣の発生の仕方を知り、政府・日銀両者のバランスシートの動きを見たら彼らの言っていることがおかしいと気づくことでしょう。

次回はリフレーション政策と国家財政状況の改善についてです。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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