新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

景気と各部門における投資と貯蓄のバランス

ここ最近ですがネット上でよく見かけるのが、家計・企業・政府・海外の4部門の投資と貯蓄の高さを見ろよという話です。いわゆるISバランスで、各部門の投資(Investment)Iと貯蓄(Saving)の高さを比較します。
家計・企業・政府・海外の4部門の貯蓄超過を合わせたものと投資・消費を合算したものは必ず同じ額になります。それがGDP国内総生産)です。

 国内総生産GDP)=家計+企業+政府+海外となります。(4部門の貯蓄=4部門の投資・消費です)

どこかの部門が資産を抱えているということは、必ず別のどこかの部門が負債を背負っているということです。簿記のバランスシートもそういう構造になっています。

昨年(2017年)頃から盛んになってきたのは国民の資産を増やすためには国家が財政赤字(負債)をつくって財政出動をやらないといけないという声ですね。私はそれが気になって家計・企業・政府・海外の4部門の推移をグラフで確認してみることにしました。日銀が公表している資金循環(フロー)のデータに基づいてグラフを作成します。
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このグラフから家計部門と政府部門が持つ資金の過不足の動きを取り出します。
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2007年のリーマンショックまでは家計部門と政府部門の資金変化は似た動きをしています。家計部門の貯蓄増加と並行するように政府部門もグラフの線が上がっていきます。逆に家計部門の貯蓄が減少すると政府部門も資金不足が進みます。例外は1997年の橋本龍太郎内閣が消費税7%引き上げと緊縮財政を強いたときで、家計部門側の貯蓄が増加したのに対し、政府部門の資金不足が激しく落ち込みます。家計の消費が冷え込んで、政府も税収減とその後の歳出増が進行したからです。
2008年の民主党政権時代も橋本龍太郎政権時代と同じようなグラフの動きで家計部門と政府部門が対称的な動きになっています。

下は景気状況や金融政策の動きも追加した家計部門と政府部門の資金過不足状況のグラフです。
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当たり前のことですが景気上昇期には家計部門と政府部門が共に資金増加となっていきます。

次に企業部門と政府部門の資金過不足状況を見てみましょう。
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企業部門の貯蓄高と政府部門の負債は対称的な動きですね。
同じく企業部門・政府部門のグラフにも景気状況や金融政策の注記を載せてみましょう。
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好景気で企業が積極投資をしているときは貯蓄超過がみるみる減ってバブル期は資金不足状態です。政府部門側は歳入増と歳出減で負債が減っていきます。企業と政府の間で貯蓄と負債のキャッチボールをしているようです。
バブル崩壊後は政府部門の負債がどんどん増えて、企業部門の貯蓄が増えていきます。まず三重野日銀総裁がバブル退治と勇んで金融引き締めをやった後に企業部門と政府部門の貯蓄超過と負債が逆転するという現象が生まれます。高すぎる金利や銀行の貸し渋りで企業が投資したくてもできなくなりました。
さらに橋本龍太郎内閣が1997年に消費税の引き上げと共に緊縮財政を行ったことが、景気悪化と歳入減を招き逆に財政が悪化します。翌年の小渕政権のバラマキ政策によって政府部門の負債・資金不足はどんどん進行し、企業部門の貯蓄高はぐんぐん上がります。流動性の罠です。もちろん家計もここから下落し続けます。

2001年~2006年までに行った日銀の量的緩和政策は効果が出る2003年までの間タイムラグが生じましたが、その後緩和解除まで企業の投資が復活し、貯蓄が減っていきます。政府部門は負債を減らし財政再建一歩手前のところまでいきます。家計も貯蓄が増えていきました。

そして近年のアベノミクス始動後の各部門の投資・貯蓄状況ですが、あいにく2017年のデータがまだ入手できておらず、今後の傾向を判断しきれません。家計部門は2013年~2015年にかけて一度貯蓄が減少していますが、2016年からまた上昇しています。一方企業部門は家計と逆の動きで2013年あたりは貯蓄があまり変化がありませんが、2016年以降は家計と入れ替わるように減少しました。政府部門はどんどん負債が減少していっています。

これまで述べてきたことから気づかされるのは
・経済活動が活発なときは企業が投資を旺盛に行うので貯蓄超過が減少し、むしろ負債が多め・資金不足状態である。
・政府部門の負債が大きくなっていくときは歳入減・歳出増で不景気であることが多い。家計もやはり不景気の場合貯蓄超過が減少しやすい。不景気のときは投資をしない企業部門の貯蓄超過が増える。
・政府部門の負債増加は家計部門の貯蓄超過を増やすとは限らない。

ということです。

政府の財政赤字を増やせば家計の貯蓄超過が増えるなどということはありません。
また政府の負債が減っても緊縮財政でそれを減らしていると見るのではなく、企業の活動が活発になって政府へ所得税法人税を多く支払い歳入増となっていることも理解しないといけないのです。

リフレーション政策は企業の投資を活発にさせることによって、貯蓄超過となっている資金を就労者に分配したり、設備の増強や資材の購入のためにどんどんお金を吐き出させることを狙っています。

ある経済評論家が「企業部門の負債が多めで、政府部門がとんとん、家計の貯蓄超過が多めであるのが望ましい」と述べていたような記憶があります。企業部門が負債を発生させた方がいいのでは新たなモノやサービスなどの財の生産に結びつくからです。その結果GDP向上につながり経済成長となるのです。
政府部門は負債からマネーを生むことはできますが、食料品や衣料品、クルマ、電化製品などといった財の生産は基本的にできません。日本の場合鉄道・バス事業は国鉄が、塩とたばこの製造は専売公社が、電気通信は電電公社という具合に国もモノやサービスの生産活動に参加していました。しかし赤字3公社と呼ばれ民営化されてしまいます。政府部門が負債を多く抱えても財やGDPを増やせませんし、経済成長もないのです。

国や日銀ができることは金融緩和や財政出動で不足している有効需要の穴埋めだけであって、新しい財を生み出しGDPを増やすのは供給側の企業部門の役割となります。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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