新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

財政政策について見つめ直していく

アベノミクスとリフレ政策 」に続き、今回から財政政策のことに触れていきます。
多くの人たちが景気対策といって思い出すのは公共事業や企業への補助金エコカー減税、あるいは給付金やプレミアム付商品券の配布といったものではないでしょうか。

いまの安倍総理が政権復帰するときの目玉公約として掲げたアベノミクスリフレーション政策を中心としたもので、金融緩和政策を前面に打ち出しましたが、これは極めて異例で画期的なことでした。
今まで自民党政権が打ち出していた景気対策財政出動が主役で金融政策はあまり表に出ていません。田中角栄からはじまる経世会景気対策といえば土木公共事業というぐらい目立っていました。高度成長期からバブル経済期を経て、清和会出身の小泉純一郎政権が登場するまでの間、日本全国で鉄道や道路、公共施設が次々と公費で建造され続けております。

そういう背景もあって多くの人たちの持つ景気対策のイメージは財政政策であり、土木系の公共事業となっていきます。

このように財政政策を中心とした景気対策が主軸となった理由は言うまでもなく、経済学者・ケインズの影響があります。
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ケインズ経済学は20世紀初頭にアメリカで発生した世界大恐慌による深刻な不況にセイの法則などといった古典派経済学の理論では太刀打ちできなくなったことで重視されるようになってきます。
古典派の市場原理主義に基づけば不況下で失業が増えても賃金を切り下げれば雇用が回復すると考えられていましたが、世界大恐慌のときは賃下げを繰り返しても失業は全然改善しませんでした。かなり多くの労働者が無一文に近い状態になっていたので必要なモノすら買うことができず、ますます需要が低迷して供給力がダブついたので当然のことです。あとケインズは賃金の下方硬直性も失業率改善を阻んだと考えました。
ケインズは購買力に基づいた需要=有効需要が供給力に対し圧倒的に不足しているのがまずいと考え、金融政策と同時に政府が財政出動を行って不足した有効需要を穴埋めしないといけないと説きます。

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これは大きな誤解がありますが、アメリカで世界大恐慌後にフランクリン・ルーズヴェルト大統領が行ったニューディール政策の一環として行われたTVA(テネシー川流域開発公社)や日本の昭和恐慌後における軍事予算拡大ならびに地方の雇用対策として採り入れられた時局匡救事業がケインズの理論を実践したものとして認識されてしまいました。
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高橋是清財政は基本的に金融政策が主軸で時局匡救事業とかはオマケみたいなものに過ぎません。「恐慌を食い止めよ その4 高橋是清のリフレ政策 」 さらにルーズヴェルトニューディールも当方は「恐慌を食い止めよ その6 ニューディール政策は成功したのか? 」で書いたとおり過大評価され過ぎていたと考察します。)

戦後の日本もかつて自民党内で大きな力を持っていた田中角栄の流れをくむ経世会ケインズ的な公共事業を好みます。建設業界をはじめとする多くの企業や国民は自民党がどんどん公共事業を行っているから経済は活発にまわるのだと思い続けました。

しかしながら経世会流のやり方は政界と特定業界の癒着や収賄汚職の温床となった上、濫開発による環境破壊や公費の濫用が目立ち国民の批判を浴びるようになっていきます。
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バブル景気が崩壊した後小渕政権が大規模な財政出動をやったにも関わらず、大きな景気浮揚効果が見られず、国家財政の悪化がどんどん進行しただけでした。完全に流動性の罠にはまっていくらカネを撒いても投資や消費が回復しない有様です。

以後経世会流の財政出動中心の景気対策に疑問が持たれ、廃れていきます。これに止めを刺したのが小泉純一郎でした。小泉は財政政策より金融政策を重視した景気対策へとシフトします。

このように書きますと、まるで財政政策が非常にネガティヴで時代遅れの経済政策のように思われるかも知れませんが、掛け時計の振り子のように財政出動の必要性が再評価されたり、廃れたりの繰り返しになっています。日本でも深刻な需要ショックを引き起こしたアメリカのサブプライムローンショックの発生以後、財政出動による失業者や中小・零細企業の救済が叫ばれました。ひとくちに財政出動といっても公共事業だけではなく国民への生活支援策や減税も財政政策に入ります。

財政政策といっても非常に幅広く、手法は多岐に及びます。ひとつの言葉で括るべきではありません。
傷病や障碍等によって就業が難しく公費によって生活費を工面してもらえないと生きられない人は大勢おります。また金融政策だけではとても対処しきれないような深刻な不況(恐慌)のときは大型の財政出動をしないといけません。財政出動という政策オプションは政・官・財の癒着や恣意主義の増長を招きやすく、不公正な税配分の問題も起きやすいですが、財政政策が必要不可欠な場面は数多くあります。財源問題などにも触れながらよりよい財政政策のあり方を模索していくつもりです。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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