新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

財政支出依存で着ぶくれした1980年代までの経済

2回ほど経済学者ジョン・メイナード・ケインズの理論について取り上げましたが、この経済理論が古典派と比べて画期的だったことは需要側(デマンドサイド)を重視したことでした。よくよく考えれば不思議な話ですが、古典派は供給側(サプライサイド)が国の成長力を決め、市場原理主義に任せて価格調整等が行われれば生産・供給されたモノやサービスといった財は全て消費されると考えていたのです。
ケインズアメリカで起きた世界大恐慌の状況をみて、それは違うと反論しました。有効需要の原理や流動性選好仮説に基づき、必ずしも供給=需要とならない。供給>需要となってしまうこともあると異議を唱えました。


将来先が見えないほどひどい不況のときはお金に裏付けられた需要=有効需要が激しく落ち込み、供給側がダブついてしまう。こうなってしまうと市場原理主義だけでは調整できない。だから政府が金融緩和や財政出動を行って経済活動に介入し有効需要を回復させる必要があると主張しました。

この理論の登場はケインズ革命と呼ばれるほど大きな影響を与え、第2次世界大戦後に世界中の国々でケインズ主義による経済政策が採り入れられました。金融政策や財政政策で国の経済活動を統治し、安定的な成長を実現させることができたのです。好不況の浮き沈みが少なく雇用が安定し、アメリカや西側ヨーロッパ、日本などは飛躍的な経済成長と繁栄を実現させています。さらにケインズ主義は所得再分配の拡充にも寄与し福祉国家の発展ももたらしました。かつて「ゆりかごから墓場まで」といわれるような手厚い社会保障制度を整備したUKや北欧型福祉国家がそれにあたります。今にして思えば非常にいい時代だっと思えます。

しかしながらその一方で過度な財政に対する依存が強くなっていき、経済活動に新たな歪みをもたらします。公的部門の肥大化です。
多くのケインジアンたちは国がどんどん財政支出を行って有効需要を拡大すれば経済はもっと発展すると考えました。日本ですと自民党田中角栄やその流れをくむ経世会がつき進めた土木公共事業主導の景気活性化です。「日本列島改造計画」などというかなり巨大な事業も進められました。その陰で政治家・官僚と建設ゼネコンをはじめとする財界との癒着がひどくなっていき、レントシーカーが増殖してしまいます。やがて経済活発化というよりも公共事業を行うこと自体が目的化してしまい、あちこちで濫開発が行われました。財政も肥大化します。日本は建設に向かってしまいましたが、アメリカでは軍産複合体が需要肥大化を突き進めます。そのおかげで戦争を起こしたり、大統領が暗殺されるなどといった物騒な事態まで引き起こしたと言われています。

社会主義的な大きな政府主義と公的部門の肥大化は知らずのうちに供給側の劣化とそれに見合わない需要の水膨れを増長し、恐慌とは逆の需給の不均衡を生み出します。

ヨーロッパ圏では社会民主主義福祉国家化が進展し、労働者階級の生活水準が向上し安定したのですが、その一方強すぎる労働組合が度重なる賃上げ要求したり山猫ストなどといったサボタージュの頻発させることによって供給側を衰弱させるところまで追い込んでしまいます。UKをはじめとする欧州圏では人件費コストの高騰が物価上昇圧力となり、同時に自国製品の国際競争力を失っていくことになりました。また欧州圏は多くの企業が公営化されてしまっていた事例が多く、西ドイツのVWやフランスの自動車メーカーのルノー、イタリアのアルファロメオまでもが公社されていた時代もありました。公営企業はどうしても経営が甘くなりがちになり、赤字になっても国庫補填してもらえればいいという甘えが生まれます。

次のサイトで戦後UKが進めたベヴァレッジプランによる福祉国家化と労働党による産業の国営化について述べられています。 

 Vivid forum様 「戦後イギリスの経済政策

UK国内の労組が企業経営や国民利益を無視するほど戦闘的になり過ぎて、資本が海外へと逃げてしまいUK国内の製造業が衰退。輸出減・輸入増加でポンド安を招き、インフレ体質を招く過程を書き綴ってあります。日本ですとかつての国労や鬼の動労が大暴れしていた時代の国鉄を思い出します。
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過剰な賃上げ要求による人件費コスト上昇や不効率化による自国産業の腐食・国際競争力低下
物価上昇
さらなる賃上げ
供給側の劣化と物価上昇

という悪循環にアメリカやヨーロッパは陥りました。それが不景気と物価高騰の同時襲撃というスタグフレーションを招いたのです。

甲南大学 稲田義久教授 「現代アメリカ経済

このしくじりがケインズ経済学の信用を失墜させることになり、1980年代から民間活力・市場原理主義重視で小さな政府指向の経済政策が強まってきます。アメリカでは需要(デマンドサイド)重視のケインズ主義とは逆の供給側重視であるサプライサイド経済学が勃興しました。
保守党サッチャー首相のサッチャリズムアメリカのレーガン大統領のレーガノミクス、日本の中曽根康弘政権や小泉純一郎政権が公営企業の民営化や緊縮財政を断行し、供給サイドの強化を推進する構造改革を突き進めます。

このようなことを書き続けてしまうとまるでケインズ主義がもうダメになったと受け止められてしまうかも知れませんが、大きな経済危機や深刻な不況に陥ったときに新古典派の発言力が弱まりケインズ主義が復権します。需要不足型不況のときにはケインズ経済学が強いのです。逆に好況が続き民間の経済活動が安定しているときは新古典派的な市場原理主義や供給側重視の経済モデルが尊重される傾向にあるといえましょう。

平時の新古典派=サプライサイド重視
有事のケインズ主義=デマンドサイド重視

といえましょうか。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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