新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

政府は無限に国債・貨幣を発行できるか

財政政策の話をする上で避けて通れないもののは財源です。それが確保できなければ実行不可能な政策です。と同時に政府の仕事の大多数は財政政策であると言っても過言ではありません。国民から財を預かり、民意に沿う形でさまざまな分野へ再分配するのが国の主業務です。

といいつつも国家財政は企業経営に近く、まずは負債を起こして事業を行い、それによって収益を得て債務を償還するという形になります。国の場合企業の収益にあたるものが税だといっていいでしょう。財務省が公表する国家財政のフロー表を見ても歳入の1/3が国債となっており、歳出の1/4が国債償還(実態は借り換え)ですので普通の人が見たらびっくりするかと思うのですが、これを除いた収支バランス=プライマリーバランス(PB)が均衡に近く、多少赤字が出ていてもどんどん膨張し続けない限り不安がる必要はありません

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国家財政危機は財政赤字がGDPの伸びを超えて、膨張し続ける(発散)する状態で、風船玉にどんどん空気を圧しこんでいるのと一緒です。圧しこむ空気の量が多くなければ風船が割れる心配はあまりありません。
いまの日本国政府のPBは赤字を出してはいますが、じわじわ減少しています。

       歳入    歳出     PB
2014年 62.6兆円  76.6兆円 △14 兆円
2015年 63.6兆円  75.7兆円 △12.1兆円
2016年 62.3兆円  73.7兆円 △11.6兆円
2017年 63.7兆円  74 兆円 △10.3兆円  

フロー面についていえばは財政破綻リスクは小さくなっています。ストック側の方は別記事を読んでください。

ということで自分は日本の国家財政はフロー・ストック双方で見ても破綻の心配はほとんどしていないのですが、最近「プライマリーバランス黒字化を目指すな。財政赤字を出した方が国民は豊かになれる」とか「国がどんどん国債を発行してそれを日銀が買受(もしくは引受)して現金化して財政出動をやればいい」という声が高まっていて気になっています。ここでもアベノミクス量的緩和政策のために日銀が市中の国債を買い取って現金化を進め、それを日銀内に設けさせた市中銀行用の当座預金口座に預金準備金として振り込んでいる話をしました。


量的緩和で年間80兆円(実際には60兆円程度だとも云われているが)のペースで銀行が融資に遣うための準備預金=マネタリーベースを増やしてきました。政府が国債を発行しても「瞬殺間違いなし」と言わんばりに売り切れる状況で、金融機関はどこも喉から手が出るほど国債に飢えています。そのためにベースマネーをつくるために政府が新たに国債を発行しないといけないぐらいでした。こうした状況ですので政府は財政ファイナンスという手を使って大型の財政出動をやることが可能ですし、デフレから脱し切れていない今(2018年2月現在)ならばやるべきでしょう。デフレはモノ・サービス財>マネーとなった状態です。貨幣の発行や供給量をもっと増やさないといけないぐらいです。

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日銀国債買受など財政ファイナンスの話を耳にするとある疑問を抱く方が少なからず出てくるかも知れません。
「国はいくらでも借金して、お金(通貨発行益)を増やすことができちゃうじゃないですか?無税国家ができるということですよね。」

国が無制限に負債=貨幣を増やすことは果たして可能なのか?
単刀直入に答えを言ってしまえば「できちゃいます」。

ただし財政ファイナンスは度を過ぎると過大インフレを引き起こしますし、お金の量が増えても供給側が伸びなければ物価が上がって手に入るモノやサービスの量は変わりません

我々が注意すべきことは財政ファイナンスは永久かつ無制限に使える手ではないということです。デフレ完全脱却まで量的緩和政策を続けている間だけの限定です。まだそれを言うタイミングではありませんが、デフレ脱却で雇用拡大・賃金上昇による所得分配が再加速して物価も再上昇しはじめたとき、リフレーション政策は出口戦略に転じます。つまりはマネタリーベースの拡大を停めていくことになり、国債発行ペースも落としていくことになります。財政出動の規模も小さくしていくことになるでしょう。

しかしながら昨年2017年あたりからこの財政ファイナンスや通貨発行益を使って土木公共事業をもっとやれとか、年金・介護やベーシックインカムなどの財源に遣えと発言する人が増えてきました。土木公共事業は不況で多くの建設会社やその関係会社が苦境にあえいでおり、一時的な緊急支援策として支出するだけという話ならいいのですが、際限なくそれをやれということであれば反対せざる得ません。社会保障や介護福祉予算の補填あるいはベーシックインカムの場合は半永久的かつ継続的に国が歳出を続けていかねばならないものです。これに一時的な緊急手段に過ぎない緩和マネーを社会保障ベーシックインカムなどの財源にすることはできません。恒久的な制度には恒久財源を使わないといけないのです。(財務官僚は消費税以外に恒久財源がないなどと言い出すでしょうけど・・・・。)

政府貨幣も同様です。政府貨幣は負債から生んだマネーではなく資産なのだから国家財政を傷めない。これでどんどん財政出動をやればいいということは認められないことです。これについては改めて述べますが、モノやサービスという財の貸し借りという観点でみたとき、政府貨幣であったとしても国は国民に対しモノやサービスを提供するという借り(約束)をつくることになります。国は基本的にモノやサービスといった財を生産しません。貨幣の量に見合った生産財が存在しないとその約束は遂行できないということになります。国が生産・供給側を無視して勝手に負債や貨幣だけをどんどん増やしてしまえばどういうことになるかすぐにわかることでしょう。戦争中の日本軍部がやらかしたことと同じです。

負債やカネをどんどん増せば需要や供給が勝手に増えて国民が豊かになれるというのであればジンバブエとかベネズエラは今頃モノやサービスに満ち溢れた裕福な国になっているでしょうね。

この世に「フリーランチ(ただ飯)はどこにもない」なのです。

*「政府支出乗数を考慮していないじゃないか!」と思われる方がいるかも知れません。
 今回の記事は財と貨幣のバランスについてが主題の話です。
 こちらの記事「財政政策と乗数理論について」で乗数効果のことを書いておきました。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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