新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

国が無制限に負債や貨幣を増やせない理由

前回の記事「政府は無限に国債・貨幣を発行できるか 」の続きです。
国は通貨発行権を持っており、必要な量のマネーを発行することが可能です。貨幣とは何かと言いますといつでも好きな時に好きなモノやサービスといった財と交換ができますよという約束手形であり、小切手や借用証書のようなものです。お金は貸し借りの関係から生まれています。信用創造の話でしたように我々が持っている紙幣は誰かが負債をつくることによって発生します。

信用創造は事業を興してモノやサービスの生産をしようとする人に対し、銀行がお金を融資することではじまります。融資を受けた事業主さんはそれを元手にモノやサービスといった新しい財を創造し、別の人にそれを売ってお金という財を得ます。事業主が得た財を銀行に渡すことで負債の償還ができるという流れです。結果として新しいモノやサービスといった財が増えたことになります。信用創造によって生まれたマネーは最初実体のないマネーでしかないのですが、資本家の手によって新しいモノやサービスという財やその付加価値が創造されると共に貨幣の価値の裏付けができます。モノやサービス=マネーとなるのです。

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*ただし株式や不動産などへの投機行為のようにカネからカネを生むようなかたちになってしまうとモノやサービスの裏付けが薄いバブルマネーになります(=信用膨張)
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新しいモノやサービスの創造は基本的に民間企業しかできません。国や公共団体が公営事業としてモノやサービスの生産を行うこともありますが、非効率さを招くとして民営化される動きが世界的潮流です。

なぜこのような話をしたのかと言いますと、同じ負債でも民間企業が起こしたときと国が起こしたときでは違いがあるからです。民間企業が負債を起こしたときは新しいモノやサービスといった財が増えると共に、負債の償還は生産した財を売って得た利益から行うことになります。公共部門が負債を起こしても自前で新しい財を増やすことはできません。そのために公的部門の負債は国民や企業が生産した財=税金を徴収して償還することになります

「いや、日銀が市中の国債を買い取って現金化する財政ファイナンスという手法があるじゃないか?」と仰る方もいるでしょう。私もその手法について解説し、リーマンショッククラスの大不況が来たときはこれで思い切った財政出動をやった方がいいと述べています。もちろんまだデフレから完全に脱し切れていない今においても積極的に行ってほしい政策です。

財政ファイナンスの記事 2件
 「リフレーション政策と国家財政状況改善効果

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ただこれも忘れてほしくないことがあります。この政策は深刻なデフレで圧倒的なカネ不足。かつモノやサービスの供給過剰という状況を改善するためのものだということです。
モノやサービスなどの財市場と貨幣市場そして資産市場の需要超過もしくは不足の和はゼロというワルラスの法則に基づいてマネーの供給を増やすか減らすか判断します。

財市場ならびに資産市場の超過供給と貨幣市場の超過需要の不均衡が是正されるまでヘリマネでマネーを供給し、均衡になってきた時点でそれをやめていきます。
「ヘリマネやリフレ政策をやったらハイパーインフレガー」という人や逆に「財政赤字そんなの関係ねえ!」という人たちはこのバランス感覚がゼロです。戦前・戦中の日本軍部と同じです。
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デフレを脱却した後も際限なく政府部門が負債を膨張させていったとき、今までとは逆に財市場ならびに資産市場が超過需要となり、貨幣市場の方が超過供給になって過大インフレを引き起こします。お金がいっぱいあってもモノやサービスの方が足らなくなってします。

交換できるだけのモノやサービスといった財の裏付けがないまま、負債や貨幣をどんどん増やしていくことはできません。企業が負債を増やしても生産したモノやサービスという財を同時に増やしますので、モノ・サービスと負債・貨幣の均衡がとれます。政府部門が負債を増やした場合はモノやサービスの生産を同時に行なえないためにモノ・サービス<負債・貨幣という不均衡になり、徴税というかたちで調整しないとその不均衡がどんどん拡がってしまいます。そうなると貨幣は好きなモノやサービスと交換できるという効力をどんどん低下させ、単なる紙切れや金属片、電子信号に成り下がっていくことになります。

政府貨幣のことについても触れておきますと、信用貨幣と異なり企業が投資してモノやサービスといった財を生産する・しないに関係なく発行されます。政府貨幣を発行したその時点でモノ・サービスが増えるわけではないのです。政府貨幣は負債というかたちによるマネーの発生ではないのですが、財ベースで考えると政府は国民に対し「好きなモノやサービスを差し上げます」という借りをつくり約束手形を渡すようなものです。そういう意味でやはり政府貨幣も負債であると見なさざる得ません。政府貨幣は政府が行うモノやサービスのツケ払いです。

そのため政府貨幣を発行・供給するときはツケ払いできるだけの財の生産・供給側の能力(潜在GDPとその伸びしろ)があるか見計らいながら行う必要があります。緻密かつ正確な金融政策を行わないと政府貨幣制度は機能不全に陥ります。戦前・戦中の日本軍部や経世会全盛でバラマキに突っ走っていた時代の自民党みたいなことにならないよう恣意・裁量主義を排除しないといけません。金融政策を恣意・裁量が入らないAI(人工知能)にやらせるといったことをすべきでしょう。

どっちにしても政府部門は民間企業と違い、国民が財を預けても基本的にそれ以上の財が殖えて戻ってくるわけではありません。あまりに政・官が肥大化してしまうと国民は自由に遣えるお金を減らすだけになり、その裁量権を政・官に奪われるだけです。公的部門の負債膨張は結果的に国民から好きなものやサービスを買う自由を失ったり、労働力を収奪されるだけの結果になるということを忘れてはなりません。インフレ税というのもそれに入ります。

ここで例え話です。
キツネさんがある果物屋さんでお手伝いをしたために、キツネさんはお店から御礼として「ウチにある果物の中でいつでも好きなものをあげるよ」という約束をしてもらいました。
ある日キツネさんは大工仕事が得意なタヌキくんに家の修繕をお願いしました。タヌキさんはキツネさんのおウチを直したので、キツネさんはタヌキさんに御礼だといって「タヌキさんに好きな果物をわけてあげてください」と書いた紙をタヌキさんに渡しました。タヌキさんは果物屋さんへ行ってキツネさんの書いた紙を渡すと、果物屋さんはキツネさんとの約束を思い出してタヌキさんに果物をあげました。
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これなら平和なお話です。三者平等交換です。
しかしキツネさんが果物屋さんから好きな果物を分けてあげるという約束がないまま、勝手に紙へ「果物がもらえる」と書いてタヌキさんに渡したとしたらどうなるでしょうか?

キツネさんから何も聞かされていないお店の人はタヌキさんが持ってきた紙を見ても何のことやらさっぱりわかりません。当然お店の人はタヌキさんに果物をあげることはしません。タヌキさんはキツネさんに騙されたまま泣き寝入りです。
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キツネが政府でタヌキとお店が民間だとしましょう。お店にある果物の数以上のくだもの券をキツネが勝手に発行してしまえば券を持っていってもくだものがもらえない人がたくさんでます。これを現実世界でやってしまうとハイパーインフレとなります。

お金は財の裏付けがないまま無制限に発行できるものではありません。国債も同様です。

*「政府支出乗数を考慮していないじゃないか!」と思われる方がいるかも知れません。
 今回の記事は財と貨幣のバランスについてが主題の話です。
 こちらの記事「財政政策と乗数理論について」で乗数効果のことを書いておきました。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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