新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

経済政策から純粋な社会基盤整備としての公共事業へ

小泉改革までの自民党政権が長年に亘って行ってきた土木公共事業ですが、これは単なる社会基盤整備としてだけではなく半ば経済政策として進められてきました。それはケインズの経済理論を援用してのものです。
土木公共事業は国が支出した事業費が工事を受注した元請け会社だけではなく、その関係会社や従業員、さらにはコンクリートや鉄鋼などの資材メーカー、建機メーカー、ダンプやミキサー車などを製造する大型車メーカーなどにも広く行き渡り、高い乗数効果(2~3程度)や波及効果を持つとされていました。

ところが近年土木公共事業の乗数効果は1を僅かに上回る程度となり、フローの需要拡大効果に疑問が持たれるようになります。巨費の政府支出を投じたとしても効果は短い期間のみに限られてしまっているのであればなおさらです。高度成長期やバブル時代のように日本全国あちこちで土木・建設工事が繰り広げられてしまう状況は環境面から見ても望ましくありません。ひどい事例はバブル期のゴルフ場建設ブームで上空からある山地を見たらゴルフ場の芝地だらけという有様だったという話です。私はその写真を見たとき「こんなことをしないと日本の経済活動は維持できないのか」とショックを受けました。

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さらにこうした形で市中へお金を送りこんで需要喚起や雇用促進があったとしても一時的なもので終わってしまい、それを維持するためにはまたさらに財政出動や公共事業の発注を繰り返さないといけないという点が気がかりでした。上で述べたように不要と思われる公共施設で道路・ダムなどが濫造され続けるだけではなく、財政の膨張もひどくなっていきます。ずっと生命維持装置を動かし続けないといけないような経済は異常です。それは社会主義国家のすることでしょう。とても持続性のある経済モデルだとはいえないものでした。

「土木公共事業をやらなければ日本の経済は死滅する」という神経症的な状態から脱する契機になったのはバブル崩壊だった思います。これによって多くの人たちに「実は公共事業があってもなくても変わらないのではないか」という疑問を抱かせたのではないでしょうか。現実に小渕政権のときなどのように公共事業を拡大させても目立った景気浮揚効果が感じられなかったり、逆に小泉内閣時代のときのように公共事業を削減してもアメリカの好景気が影響したりしてGDPが伸びていたりします。

原田泰教授のレポート「ついに暴かれた公共事業の効果 - iRONNA」に添付してあったグラフを見るとバブル崩壊後公共事業投資の高さとGDPの上昇が一致していないことに気づかされます。

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原田教授以外にも小野善康教授や岩本康志教授、海の外でもジョン・テイラー教授など、山ほど財政政策の乗数効果について疑問視する学者がいます。

巨額の公共事業は
1 財政赤字がマンデル・フレミングの法則により金利上昇を招き、自動車や電機製品など輸出産業の業績を悪化させてしまう可能性がある。
2 金利上昇は民間企業の投資低迷につながる。
3 建設会社の人員不足・資財不足といった供給不足による建設コスト上昇で民間の建設需要を食ってしまう。

といったことで公による民業圧迫となり、結果としてGDPを押し下げてしまうことになりかねません。

さらに納税者視点でいえば公債の膨張が後の増税予想を強めたり、社会保障費削減予想を引き起こして消費低迷や貯蓄増加となってしまうことも懸念されます。
先日書いた自分の記事「国民からお金を遣う自由や裁量を奪っていけない~国家社会主義的思考を撃つ~ 」で述べたように国債という形であったとしても、公共事業は国が造った公共財を国民に半ば強引に買わせるのと一緒だということも忘れてならないことです。

まだ社会・経済基盤が脆弱でどんどんそれを整備していかないといけない高度成長期においては、土木・建設公共事業は国民経済の発展・利便性向上に大きく貢献してきました。しかしながら近年は建造しても有効活用されない公共施設が目立つようになり、大きな経済効果や国民の利便性向上につながっていない事例が目立つようになってきています。公共事業は大きな乗数効果が望めなくなっている今においてマクロ経済政策としての役目を終えたのかも知れません。

とはいえ「これからの土木公共事業の考え方 」で書いたように、老朽化して更新が迫られていたり自然災害で破壊されたインフラの再建などの必要性が今後も高くあります。公共事業はマクロ経済政策としての意味は薄れてきても、建設業界やその技術者の育成をしていくという使命は消えることがありません。

「公共事業をどんどん増やさないとデフレ脱却ができず日本は滅びる」などと煽り立てるよりも、純粋に社会基盤の整備の必要性や利便性の向上を目指すという形でそれを訴えていった方が賢明なのではないでしょうか。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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