新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

マネーサプライはどのようにして増えるのか?

様々な変動要因が絡んできれいに理論どおり動くとは限らないとはいえ、貨幣数量説で説明されているマネーの量と物価の因果関係は存在するでしょう。「お金の量を増やしても全然物価が上がらないじゃないか」という批判をする人たちが大勢いますが、それは貨幣の流動速度の低さが影響しているものではないかと思われます。

あと現在アベノミクスで進められている異次元金融緩和政策に対する批判のひとつに「マネタリーベースをたくさん積み上げているのにも関わらず、マネーサプライが増えないじゃないか」というものがあります。そのことについては「マネタリーベースとマネーサプライの関係 」という記事で回答しておきました。今回書く内容も主旨は同じです。政府貨幣(公共貨幣・統治貨幣)を論ずる上でマネーサプライに対する誤解について解いておかねばなりません。

自分が頻繁に使う信用創造とマネーの供給に関する説明図です。

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信用貨幣制度では銀行が無から創造したマネーを民間企業や個人に融資する形でマネーを市中へ供給していると常日頃述べております。日銀が刷った日本銀行券は日銀内に設けさせた民間銀行用の当座預金口座に準備預金として振り込み、民間銀行はこの準備預金を引き出して民間企業や個人に融資する形をとっています。この準備預金をマネタリーベースもしくはベースマネーといいます。

このマネタリーベースは異次元緩和でかなりの額を積み上げており、だぶだぶにしてあります。これをブタ積みという人もいます。ブタ積みになっているベースマネーの量に対しマネーサプライが増えないからリフレは失敗だ~という論法ですね。

しかしながらここで注意しないといけないのはマネーサプライの意味です。「貨幣供給」という言葉どおり、政府や中央銀行が市中へお金を押しこんでいるかのような感覚でそれを捉えている人がほとんどかと思われます。
ですがマネーサプライ増減は市中における投資や消費活動あるいは貯蓄といった取引で必要な貨幣の需要によって決定します。お上がお金を押しこむからマネーサプライが増えるのではありません。

岩田規久男教授の本で書かれた説明です。
 「多くの人が誤解しているが、マネタリー・ベースの持続的な拡大によるデフレ脱却は、中央銀行がばら撒いた貨幣を民間がモノやサービスに使うことから始まるのではなく、自分が持っている貨幣を使って株式を買ったり、外貨預金をしたりすることから始まるのである。」

「貨幣供給が増えても雇用や設備の稼働率に依存するため、ただちには物価が上がるとは限らず、"「単純な貨幣数量説」は成り立たない」

「単純な貨幣数量説」が成り立つのであれば、貨幣供給を増やしても、物価が上がるだけで、生産も雇用も増えない」


経済活動のなかでお金は血液にあたりますが、それを体中に送り出す心臓の役目を持っているのは民間企業です。投資という形で人や機械・資材の購入にお金を注ぎこんでモノやサービスという財を生産し、それで得た収益を分配して市中全体に財や貨幣を流通させます。経済政策は心臓にあたる民間企業にカンフル剤を与えて拍動を活発にさせることにあります。
マネーサプライは政府や中央銀行がお金を市中へ送り込むのではなく、民間企業や個人というポンプが銀行からお金を吸い上げるかたちでそれを増えます。マネーサプライを増やすポンプは政府や中央銀行ではありません。

「マネタリーベースを積み上げても、マネーサプライが増えない。だから財政政策でお金をばら撒くしかないのだ」という人はマネーサプライについての理解がおかしいのです。投資や消費が活発でないと貨幣需要が伸びず、政府や中央銀行が強引にお金を市中へ押しこんで弾き返されるだけです。

人々は増えた所得を全部消費に遣いきるとは限りません。お金をそのまま貯蓄として保持したいという欲=流動性選好が強すぎるとその人が得たお金は投資や消費に遣われません。ケインズの理論のひとつである財政支出乗数ですが、限界消費性向が低いと政府が多額の財政支出を行ってもそのお金が世の中全体に広く波及していかなくなります。これはケインズ財政支出乗数の説明図ですが、限界消費性向が低いと波及効果が落ちてしまうことを示します。

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ついでに言いますと近年土木建設業者は人手不足で仕事があっても受注できないほどの状態だと云われています。役所が公共事業の予算をとってきても建設業者が需要過多で応じられず、どこも入札に応じないという現象が起きたりしています。そうなると財政出動でお金を市中へ送り込みたくてもできなくなります。逆の意味ですがこの場合もマネーサプライが増えません。

マネタリーベースが増えるということは結局民間の経済活動が活発にならないと起きないということです。
無論ケインズケインジアンが主張したような財政政策が無意味だということではないのですが、それについても投資や消費を再活発化させるための呼び水として行っていくという考えです。(スペンディング理論) ですのでケインズは実業家の投資意欲向上につながりやすく、乗数効果が高い財政支出をすべきだと薦めます。それがワイズスペンディング(賢明な支出)です。

政府(市民統治)貨幣 」編でこんな話を繰り返すのは、単純な貨幣数量説の考え方だけでは上手く貨幣や生産活動(投資)・消費・物価の統治ができにくくなっているという再認識しないといけないからです。フリードマンのk%ルールのように機械的に決められた割合だけマネーの量を増やせばいいというかたちで現実の経済活動を統治できるものではありません。実業家の投資や一般個人の消費性向の他に為替相場などの変動要因がいくつも絡み合います。政府貨幣(公共貨幣・統治貨幣)制度や100%マネー化にさえすれば経済活動は安定化が約束されるほど単純な話ではないのです。

こちらの記事も参考にしてください。

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