新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

数十年前に停まったままの政府貨幣(公共貨幣・統治貨幣)制度の理論

1929年にアメリカで発生した世界大恐慌とその原因となった株式投機バブルによる銀行の信用膨張の反省からシカゴ大学の経済学者数名が集まってシカゴプランが練られました。それを新古典派の経済学者アーヴィング・フィッシャーが引き継ぎ、ミルトン・フリードマンもその計画に携わっています。


上の2つの記事でシカゴプランの立案とそれが流されてしまった経緯について述べました。このシカゴプランは民間の銀行が勝手に無からマネーを創造して株の投機家たちに融資して泡銭を殖やしてしまう行為を禁止することが盛り込まれています。当然のことながら多くの銀行家たちは自分たちの権益を奪うこのプランに猛反対し、潰すことに躍起になります。銀行家たちの魔の手を恐れたフランクリン・ルーヴェルト大統領やグラス議員とスティーガル議員らによってシカゴプランは骨抜きにされ、葬り去られることになります。

以後シカゴプランの研究や政府貨幣発行はタブー視され、口に出すことすら憚れるようになりました。スティグリッツ教授は「政府貨幣に手を出すなら経済学界を追放されることを覚悟しないといけない」などと言ったようです。

そういう事情があり、シカゴプランや政府貨幣(公共貨幣・統治貨幣)の導入研究は数十年前で停まったままとなっています。シカゴプランは新古典派マネタリストといわれる経済学者が唱える貨幣数量説の理論を基本に構築されたのですが、固定相場制から変動相場制への移行や資金調達方法(金融商品)の多様化によって自国のマネタリーベースもしくはマネタリーサプライを調整するだけで物価統制ができなくなってきています。変動相場制ですと為替変動によるリスクを回避するために先物取引スワップ取引といったデリバディブ金融商品を使わざる得ません。

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円→ドルとか逆のドル→円、円→ユーロもしくはユーロ→円、円→ウォンもしくはウォン→円、
さらにはドル→ユーロもしくはユーロ→ドルとか、ユーロ→ウォン、元→ユーロ
というように様々な金融取引を行っておくことによって、為替変動による損益を相殺し実物取引の損失リスクを軽減しています。こうした金融取引で使われるマネーの量が実物取引の何倍もあります。

そのためにマネタリーベースとマネーサプライの相関関係が希薄化し、単純な貨幣数量説の数式(貨幣供給量×流動速度=物価×財の取引量)が成立しにくい状況が生まれてしまいました。フリードマンはマネーサプライでインフレ率の予想をしては外すを繰り返すようになってしまいます。無論金融政策や財政政策の効きが悪くなることもここから理解できます。

フィッシャーらが提唱したシカゴプランは銀行の信用創造の停止や100%マネー化で政府や中央銀行が直接的に貨幣や物価の統治ができることにより、金融政策の正確性や精度を向上させようという狙いで考案されたのですが、変動相場制や資金調達・金融商品多様化といった状況変化まで想定したものではありません。このままでは使えないプランです。

シカゴプランの復活は例えるならば何十年前に製造された”幻の名車”といわれるようなヒストリックカーを復刻させたり、レストアするようなものです。こうしたクルマは現在の法規制に合わないために車検を通せず公道を走らせられないなどといった問題がつきまといがちですが、シカゴプランも現在の複雑かつ多様化した経済にそのままで対応できるものだとは思いません。

現実の経済はさまざまな変動要因が絡み合って動きます。無論各学派の経済モデルもそれに合わせて緻密化や柔軟化が計られてきました。新古典派ケインズ理論共々ここ数十年の間に行き詰ってモデルの見直しと再構築が行われています。両学派の経済学者は互いに激しい論戦を交わす一方で、他学派の美点を自論に採り入れたり、両学派の融合が計られてきたりしています。

現在日本において現代版シカゴプランの構想を練っているごく少数の経済学者やネット上の経済マニアがいますが、以前の私同然に現在行われている経済議論に追いついていない状況が見受けられます。ここ数回書いている記事はそのブランクを埋めるために書いております。

シカゴプランや政府貨幣・100%マネーのことを論ずる前にケインズの原典や現在行われているリフレーション政策についての勉強をやり直すべきでしょう。流動性の罠発生などによって金融政策や財政政策は数十年前と同じ考え方が通用しなくなっています。また乗数効果などの係数が昔と違い一定ではありません。近年はそれらが極めて低い値になっていることが多いです。

素人に理論や論理の不備を突かれてしまうようではブードゥー経済学扱いされることになるでしょう。「主流派経済学者ガー」などといっても勝てませんよ。

こちらの記事も参考にしてください。

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