新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

財政政策が前のめりになるとろくなことがない

政府(市民統治)貨幣 」編ですが、政府貨幣制度そのものよりも金融政策や財政政策、貨幣数量説のことが記事の主体となっています。市中銀行が無秩序に貨幣や負債を発生させることを防いで貨幣や物価、投資と消費の統治を直接的にかつ正確に行うというのがシカゴプランの考え方です。シカゴプランは新古典派マネタリストがその理論構築を行ってきており、貨幣の統治以外は政府が民間の経済活動に介入や干渉をすべきではないという考えが裏打ちされています。シカゴプランはどちらかといえば金融政策の枠組みといえましょう。

しかしながらここ最近政府貨幣に注目しはじめている人たちの動機はどちらかといえば財政政策の財源としてそれに期待している感があります。政府貨幣制度の場合、政府は過度な悪性インフレを及ぼさない範囲に限り自由に貨幣を発行できる権限を得ることができます。政府貨幣は負債から発生させるマネーではないので、これを遣って財政支出を行っても財政を傷めることはないということになります。

しかしながら銀行の信用創造停止と政府貨幣化による貨幣改革は財政政策が前のめりになってしまうのであればそれを行う意味はありません信用創造停止と100%マネー化で銀行の信用膨張という暴走は無くなります。金融危機による預金封鎖取り付け騒ぎの発生リスクはぐんと減少しますが、政府貨幣化や100%マネー化を導入しても政府が政府貨幣を濫発し放漫財政に突っ走って悪性インフレを引き起こす危険を排除したわけではありません。これを忘れて政府貨幣で財政出動とか100%マネーでバブルや恐慌がなくなるなどと言うのはあまりに無知で幼稚な発言です。

とはいえ私は政府貨幣の採用そのものに反対しているわけではありません。政府貨幣化や100%マネー化による貨幣改革レジームは適切な金融政策が行われることによって真価を発揮するものであり、財政政策主導で行うべきではないということです。
アベノミクスがはじまる前までの日本のように20年間もずっとひどいデフレ状態を続けたような場合においてはどんどんマネーを発行しても構わないどころか、そのマネーを国民に分配してやらないといけないぐらいです。私はこれまでずっと金融緩和だけではなく財政政策も思い切りやれと訴えてきました。政府貨幣ではありませんが、日銀による国債買受という形での財政ファイナンス国債の現金化)も推奨してきております。


一応日銀国債買受・引受のやり方の図説を載せておきます。

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常々私は国債日銀買受や直接引受は禁じ手では決してなく政府貨幣もまたそれを導入したから悪性インフレに直結するものではないことも強調してきました。


終戦後の悪性インフレは戦前や戦時中の日本軍部が高橋是清大蔵大臣を惨殺して、日銀国債引受の濫用や戦時国債の濫発をし、軍事予算の膨張をさせたことによるものです。そのために終戦後戦時国債軍票が紙屑となり、さらには極度のモノ不足で悪性インフレを引き起こします。そのために日銀国債引受や政府貨幣が戦後禁じ手になってしまいましたが、それは日銀国債引受そのものが悪かったというよりも財政肥大化を止める仕組みがなかったことが問題です。適正なインフレ(リフレーション)状態になったときに静かに金融や財政を縮小する金融・財政政策のセオリーを無視したのが軍部です。

このケースは金融政策よりも財政政策が前のめりになって破綻状況に陥ってしまった典型例となります。
あと1970年代のアメリカ・ヨーロッパも財政政策偏重と経済活動への過剰な公的介入が経済沈滞の中での物価高騰(スタグフレーション)をもたらしました。この問題を解決するためにこれらの国は緊縮財政で肥大化した財政を縮小し、公社の民営化を進めて徹底した市場原理主義を貫かせるといった激しい痛みを伴う構造改革を余儀なくされます。(サプライサイド経済学

経済政策は金融政策ファーストで行うのが原則であり、財政政策はセカンドであるべきです

そのときの景気・雇用・物価・投資・消費の動向に応じ、貨幣の供給量を決定することが最優先となります。それは金融政策です。その決定に従い貨幣の配分方法を決めていくことが財政政策です。金融政策がマスター(master)で財政政策がスレーブ(slave)でなければなりません。これが逆になると政府による貨幣膨張の原因となります。銀行による貨幣膨張を防止できても政府による貨幣膨張を許してしまえば通貨改革の意味がありません。

ここ最近ですが土木建設公共事業の拡大や(再)分配政策の拡充を訴える声が大きくなっています。私自身も元々福祉学科出の人間であるために保守・小さな政府主義に転向した今でも(再)分配政策を望む気持ちは強いですが、そうした予算の拡大にしか関心が持てない人が目立つようになってきました。彼らの主張を聞いていると「財政赤字上等!赤字国債発行で国民の資産が殖える」とか「政府貨幣は負債マネーではないから社会保障費はそれで全部賄える」などといった暴言を吐いてしまっています。

東日本大震災の後にインフラの防災強化を訴える国土強靭化計画が浮上しました。このときは年間20兆円・10年で200兆円規模で土木建設公共事業を行うといった内容です。これを自分が最初に聞いたときに思った疑問は「なぜ年間20兆円とか10年間で200兆円なの?」ということです。予算の算出根拠が不明瞭で不審感を抱きました。新設や更新が必要なインフラの建設・補修費の額がそうなのか、景気雇用対策としてこの額を出したのが目的が見えません。景気雇用対策として行うのであればデフレギャップが~%不足分の有効需要が~兆円であるから乗数効果を見込んで~兆円規模といった算出法を説明した方がいいでしょう。(とはいえ素人は聞いてもチンプンカンかも知れませんが) 最近はどういうわけか年間20兆円から10兆円に、10年で100兆円と半額になってしまっていますが意味がよくわかりません。

あと当方、某経済サイトで消費税の引き上げは不可避だと書いてあった記事を読んだのですが、これに対し年間100兆円以上、しかも急上昇していく社会保障費を赤字国債の大規模発行で賄えばいいと噛みついてきた強者を発見し腰を抜かしそうになりますた。私も消費税引き上げは慎重・反対派なのですが、「赤字国債発行か政府貨幣を刷れば増税なんか必要ない」などという乱暴かつ稚拙な論法で斬りかかっても返り討ちに遭うだけだろと呆れて眺めていました。
あとベーシックインカムを通貨発行益で賄えるなどというのも金融政策の理論やその流れをまったく理解していない人です。小池百合子以下です。結局は「ベーシックインカムなんかできるわけねーだろ。バーカ。」と言われてお終いになります。ベーシックインカムをやりたいなら別の論法があるんですかね。なんで政府貨幣に固執するんでしょう?(希望の党や小池のおかげで逆にBI反対論者を増やしたことでしょう) 

財政赤字上等・政府貨幣は負債じゃないから発行自由というトンデモ財政拡張主義者たちの下手打ちは結果的に財務省の役人たちの言うことが正しいという世論形成となっていきます。
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政府貨幣の導入やら積極財政を唱えるのはいいのですが、予算の粗計算すらできないのかと嘆きたくなりました。需要と供給のバランス、財(モノ・サービス)と貨幣のバランスという経済を語る上で絶対必要な認識ができていない人が山ほどいます。2・26事件を起こした皇道派将校たちから全然進歩していません。

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私から彼らに警告しておきたいのはそのような物理的状況や基本的な経済理論を無視した意見は通らないということです。ほとんどの政治家や経済学者はそのような意見を無視することでしょう。結果的に土木建設系の公共事業や(再)分配政策の縮小を招くことになりかねません。

経済学はモノやサービスの生産と消費、それと貨幣とのバランスを考える学問です。需要と供給という概念すら想像できない人は経済の話なんかしてはいけないのです。

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バブルや恐慌を防ぐことに必要なことは何か?
国民すべてが「フリーランチは存在しない」という鉄則を学ぶことです。

~お知らせ~
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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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