新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

ベーシックインカムと政府貨幣制度を組み合わせられるか?~「BIからCIへ」のこと~

ベーシックインカムと政府貨幣導入の話は切り離して論ずるべき 」という記事で私は基本的に通貨発行益をベーシックインカムの財源に遣うのは不適当だと指摘しました。ベーシックインカムは実現可能ですし私もその実現を望みますが、財源は所得税もしくは資産課税が中心であると考えます。そう考える理由は次回述べます。

ただしベーシックインカム(BI)と信用貨幣制度から政府貨幣(統治貨幣)への転換という通貨改革(CI-Currency Innovation)を組み合わせる案を示しておられる方もいます。井上智洋准教授です。
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自分も昨年井上氏が2013年名古屋大学で発表された


という論文を拝読させていただいたことがあります。これを読んだ当時かなり強く興味を持ち、広く多くの人に知ってもらいたいとまで思いました。

私が最近書いている記事を読まれた方は「お前は通貨発行益をベーシックインカムの財源に遣うことはできないと言っているが、井上氏の論文の中に貨幣発行益をベーシックインカムの財源に遣うというアイデアが書かれているじゃないか。どっちが正しいと言いたいんだ?」と受け止められることでしょう。

しかし井上氏の論文で書かれているベーシックインカム案を丁寧に読んでいけば、この当時の井上氏の考え方はベーシックインカムを恒久的な固定BIと経済変化に呼応する変化BIの2階建て構造とし、

固定BIは税金を財源
変化BIに通貨発行益

を財源として適用するモデルになっています。こういう話であれば私も納得はできますし、制度破綻も起きないでしょう。あと原田泰教授や山崎元氏などが提案されたベーシックインカム案と同様に井上氏の案もBI給付額と徴税額を相殺する制度設計になっています。

私の解釈では井上案の変化BIはヘリコプターマネー給付金に相当します。一般的なベーシックインカムの認識は固定BIが多いかと思われますが、ネット上のベーシックインカム論者の発言を読むと固定BIと変化BIの区別ができておらず、混同した形で「ベーシックインカムの財源は税金ではなく通貨発行益」と言いふらしてしまっています。そういう発言を読んでしまったほとんどのまともな経済学者や政治家・官僚は「はぁ?」となってしまうでしょう。今の日本の国家財政の歳出で国債償還費を除いた額は70兆円以上になるのですが、それと同額のBI財源を通貨発行益で賄えばいいなんて話をしたら、速攻で「アホか」となってしまいます。上念司氏あたりから「通貨をどんどん増やしてもインフレが起きないなんて永久機関発明か?」とか「(イグ)ノーベル賞候補者」などと冷やかされることになります。どっかの国土強靭系経済評論家と同列に扱われるでしょう。

基礎的な経済学の知識を身に着けず、井上氏の言うことを断片喰いして「通貨発行益でBI実現」なんて言うのはやめてもらいたいものです。希望の党小池百合子みたいに安倍総理からコテンパンに論破され終了です。

井上氏の案を私が少しアレンジするとしたら、ベーシックインカムという域に留まらず一般会計全体を含め、所得税と通貨発行益をハイブリッド財源化させるやり方が思いつきます。
所得税は景気がいいときは税収が大きく伸びる傾向があります。逆に景気が悪化すると税収が落ち込みます。ですので財務省の官僚らは所得税を安定財源と見なしておらず、歳入変動が少ない消費税に依存する傾向が強いです。一方通貨発行については景気が悪くデフレ状態のときは通貨発行量を増やし、景気が回復したらそれを減らさないといけません

景気活況期=所得税
景気減退期=通貨発行益増大

という形で財源を切り替える仕組みです。

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ハイブリッドカー(THS)と同じで加速時は電気モーター(財政出動)、巡行時はエンジン(民間からの税収)というモードチェンジを行います。所得税と通貨発行益を合わせることで歳入の平準化を計るという考えです。

政府貨幣とか信用創造停止、100%マネー化といった通貨改革(カレンシーイノベーション)を唱えるならば、貨幣数量説やそれに対する批判、金融政策の考え方をしっかり勉強してからやるべきです。

2013年に出された井上智洋氏の構想に一時賛同していた私ですが、ここ最近の井上氏の金融政策や財政ファイナンス、マネーサプライに対する見方で「えっ?」と思うようなことを述べていました。リフレ派と思われていた森永卓郎氏についてもそうです。それは次回の話で。

~お知らせ~
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