新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

貨幣改革ですべての問題が解決できるのか?

政府(市民統治)貨幣 」編では銀行が勝手に信用創造で負債と貨幣を増やしてしまうことを停止させ、貨幣を政府が発行するものにし、貨幣量や物価、投資、雇用、消費活動を統治していく制度にしていく貨幣改革(CI-Currency Innovation)について問い直してきました。貨幣改革の始祖となる構想が世界大恐慌後のアメリカで生まれたシカゴプランです。このプランの考え方は新古典派マネタリストといわれるアーヴィング・フィッシャーらをはじめとする経済学者たちによって築かれてきました。貨幣の発行や流通量で物価や景気などが統治できるという考えです。

シカゴプランを練っていた経済学者たちは銀行が株屋や投機家たちに乱脈融資を行い、モノやサービスという財の裏付けがない泡銭をどんどん膨らませてしまう信用膨張と資産バブルを防ぎ、金融危機や恐慌を起きないようにしていく仕組みをつくろうとしました。信用創造の停止は政府の統治が及ばないところでマネーが勝手に増えてしまい、政府・中央銀行による貨幣供給量の調整が計算どおりにできなくなることを防ぐという意味があります。

新古典派ミルトン・フリードマンは政府が決めたk%という割合のみの貨幣発行・供給しか行わないとするk%ルールを提唱しました。ここで銀行に保有している現金以上の融資を認めさせない100%マネー制も導入して精度や確実性の高い金融政策の実現を目指そうとしました。そしてk%ルールで貨幣の供給量の決定に恣意や裁量を入れることを徹底的に排除することもフリードマンは主張します。私もバブルや恐慌の原因を突き詰めると人間の恣意や裁量の過ちに行きつくと思います。「裁量からルールへ」です。

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このように金融政策の不確実性を生む原因となる因子を極力取り除けば、バブルや恐慌の発生を防止でき、安定的な経済活動を保障できるというのがマネタリストの考えでした。しかしことはフリードマンが考えたとおりに動きませんでした。

その原因はフリードマン自身が推し進めた変動相場制にあります。海外と取引のある実業家たちは為替相場の変動によって収益が極端に上がったり下がったりします。日本で白川日銀時代のひどい円高で自動車や電機産業の収益がひどく悪化していましたが、為替相場があまりに不安定ですと海外との商取引が安心してできません。そうしたリスクを回避するために先物取引スワップ取引といった金融商品を活用するしかありません。

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実物取引で遣うお金の数倍にも及ぶマネーを用意してそうした取引を行い、為替変動による損失を相殺しているのです。これもモノやサービスといった財の裏付けがない泡銭に見えますが、変動相場制における必要悪といえましょう。
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マネーストックのうち通貨や預金であるM1と準貨幣というべき資産(定期預金・海外預金・債券やデリバティブ商品など)を含めたM2・M3がありますが、上のグラフを見てわかるとおりM2・M3はM1の倍売以上もあります。

となってくるともうフリードマンらが考えたようにマネーの量だけで物価や景気の動向が決まるといった図式が成り立ちにくくなります。政府や中央銀行金利や貨幣供給を調整しても市場が思うように動かないという状況が生まれてきました。前回・前々回紹介した井上智洋先生の論文の中にアメリカの元FRB議長であるアラン・グリーンスパン教授が住宅バブルを食い止めようと2004 年に政策金利を引き上げたものの、それでも長期金利は上昇せず、住宅価格の上昇を抑えることができなかったことが記されています。その原因はゼロ金利政策が続く日本で資金調達し、アメリカの国債を購入する円キャリートレードにあったのです。アメリカ国債購入が増えたままのためにその価格が高止まりして長期金利が下がらないままでした。抜け穴があったわけです。

井上先生はこのようなことが起きるから実物取引に使われないマネーを無くすべきだという主張をされていますが、こちらが先に述べたように為替変動のリスクヘッジ上、キャリートレードで使われるマネーを無くすことは現実的ではありません。

固定相場という「古き良き時代?」wには単純に金利を下げたりマネタリーベースを高く積むといった金融政策や財政政策は打てば響くかのごとく効力が出やすかったのです。しかし経済グローバル化が進み、資金調達方法や金融商品が多様化したことによって、経済全体の動きが複雑化が進むとそうはいかなくなってきます。金融政策は日本という国で自己完結しているわけではありません。

フィッシャーやフリードマンはクルマでいうとMT車のように気持ちよくエンジンの出力を引っ張り出せるような金融政策システムを構築しようとしたのですが、思い通りにいきませんでした。アクセルを踏み込んでももっさりとした加速感しかないAT車みたいな金融政策になってしまっております。リフレーション政策でもベースマネーをかなりじゃぶじゃぶに積まないとマネーサプライに影響しません。アベノミクスがはじまる前はMBとMSの比率は1:10もありました。財政政策でMSを増やそうとしたらもっと大変だということがわかるでしょう。
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このようなことを書き続けると通貨改革に意味はないのかと思われるかも知れませんが違います。
この制度を安定的に機能させるにはフィッシャーやフリードマンよりもさらに緻密かつ柔軟な金融政策の理論を追求していかないといけないということです。

いま自分はアイスランドで行われた通貨改革について再研究を行っていますが、いま現在の金融政策がどのように進められているのか知りたい気持ちがいっぱいです。

現在日本において政府貨幣への転換という通貨改革を唱えている人たちの議論は残念ながら深まっているとは思えません。貨幣改革の議論で不可欠な金融政策についての基礎的な知識を身に着けている人が皆無だといっていいのです。とくにここ最近かなりひどくなってきているのはフィッシャーやフリードマンとは全く真逆の国家社会主義的思考を持った人の声が強くなっています。

次回お話しますが、国家社会主義的思考で政府貨幣導入議論を進めると、シカゴプランやアイスランドの通貨改革とは全く逆の方向の制度になりかねません。それは日本のさらなる経済力衰退や悪性インフレ、そうでなくても1970年代のアメリカ・ヨーロッパで起きたスタグフレーションと同じ災厄を招く可能性があります。

通貨改革の議論はフィッシャーやフリードマンのように非干渉主義・原理主義に則って進めるべきです。それができないのであれば通貨改革などやるべきではありません。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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