新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

アイスランド通貨改革案における貨幣供給のしくみ

前回より「通貨改革 アイスランドのためのより優れた通貨制度」を参考に統治貨幣による通貨制度の考察をはじめております。2008年アイスランドで起きた金融危機の状況をみてきましたが、今回はその処方箋というべき銀行の信用創造停止と統治貨幣(政府貨幣)の発行・供給システムについて取り上げていきます。

まずは銀行による信用創造停止の意味についてからです。アイスランドの通貨改革案は「通貨の近代化」(ダイソン&ジャクソン著、2013年)をベースに練られたもののようです。世界大恐慌後の反省で生まれたシカゴプランやアーヴィング・フィッシャーならびにミルトン・フリードマンの考えも踏襲されています。
ここのサイトで何度も貨幣は銀行が融資を行うことによって殖えていくことを書いています。無からお金を生む行為すなわち信用創造です。シカゴプランやフリードマンの100%マネーの提案はこれをやめさせるという意味です。
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フリードマンも「銀行の書記のペンから預金が産まれる」と述べていました。銀行がAさんに貸したお金の一部をBさんが受け取って別の銀行にそれを預け、その銀行がその預金でCさんに融資して・・・・の繰り返しで元のお金以上にお金が殖えていくという説明もありますが、どちらにしても銀行がどんどんお金を殖やすことができてしまうことには違いありません。われわれ普段遣っている紙幣はみな負債から生まれたものです。

アイスランドハンガリーなどが行っている政府貨幣・統治貨幣は負債からマネーを生むのではなく、政府自身が通貨発行を行うものです。現在日本の国では国が国債を発行して日本銀行にそれを買い取ってもらい現金を生むなんてことが行われていますが、政府自身がお金を発行してしまえばわざわざ国債という借金をつくる必要は無くなります。アイスランドはそれをやり出したのです。政府と中央銀行を合わせた統合政府という形になるでしょう。貨幣の発行が非常にシンプルなかたちとなります。

次に発生させたマネーの供給量の決定とその分配にいきます。
統治貨幣は目標の経済成長を見込んだ額を発行し、政府の財政政策を通じ供給されていくことになります。新しく生まれたお金の流れは銀行から企業そして個人へという流れではなく、個人から企業というボトムアップ型となります。
上で政府と中央銀行を合わせた統合政府と申しましたが、貨幣の供給量決定=金融政策と貨幣の分配=財政政策は独立した組織で行う必要があります。「通貨改革 アイスランドのためのより優れた通貨制度」のレジュメにおいても「政府が政策資金を捻出する目的で通貨を発行してしまう可能性」(p84)」が指摘してあり、貨幣の供給量決定は政府ではなく通貨発行委員会が行うものとし、財政の裁量権を持つ政府と分権すべきであることを強調してあります。これは私の書き加えになりますが、金融ファースト・財政セカンドで貨幣供給を行わなくてはなりません。
通貨発行委員が的確な貨幣供給量の判断を下せるのかどうかについても、レジュメでその確証はできないと述べてあるのですが、日本の状況にあてはめるとここはかなりしっかりと議論すべきことでしょう。三重野や白川、速水といったろくでもない日銀総裁の愚策によって日本は異常なデフレに苦しめられてきました。(「デフレと失われた20年 」編参照のこと) アイスランドのように通貨改革を行っても過去の日銀レベル並みにひどい金融政策を行えば「仏作って魂を入れず」ということになります。統治貨幣制度でこれをやったら超緊縮シバキ財政でしょう。レジュメにおいてこのようながあれば中央銀行が実業家・個人に代替融資(信用創造)を行って不足する貨幣供給を行う案も示していますが・・・・。
この問題と政府が財政政策による公正な貨幣の分配ができるのかという点についてはかなり慎重な議論が導入時に求められます。

次に銀行システムの転換について見ていきましょう。
銀行は信用創造で貨幣を殖やす権限を失いますが、人々から預金を集めたり、保有している自己資金を遣って融資活動を行うことができます。信用貨幣制度では銀行が実業家に融資することによりマネーの量が殖えると共にモノやサービスといった財も創造されます。さらにその財は新しい付加価値を創造することになるでしょう。つまりは新しいマネーの発生が必要となります。
新しいマネーは通貨発行委員が目標とする経済成長を遂げるのに必要なマネーの量を算出して銀行に送り込むことになるでしょう。

銀行預金は2種類となり、普段の買い物や給与の振り込み、代金や公共料金の支払いなどで遣う預金を扱う取引口座(普通預金当座預金に相当)と資金運用のための預金を取り扱う投資口座(定期預金に相当)になります。取引口座の預金は現状のように負債から生まれた債券貨幣ではないために預金は完全保護となります。リスクフリーで取り付け騒ぎ預金封鎖に遭う危険は無くなります預金保険も必要ありません。
一方投資口座の預金は預金者から預かったマネーを銀行の投資プール口座に貯め込まれ、それを実業家などに融資することになります。投資口座の場合は銀行と預金者との間でリスクの認識を共有し契約します。こちらは取引口座と違いそれを承知の上の自己責任で預け入れることとなります。

どちらにしてもフリードマンが提唱した100%マネーであり、多くの人が想像しているように銀行は人々から集めたお金を実業家などに貸すという姿になります。銀行の経営破綻の危険性がまったく無くなることはないですが、預金封鎖の可能性がぐんと減り安全性が向上します。

アイスランドの統治貨幣制度の仕組みで最も基本的な部分の概説だけさせていただきましたが、詳細を知りたい方は冒頭で紹介しましたレジュメをお読みください。

次回はアイスランドの政治や国民性と日本との比較について述べています。

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今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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